2017.06.20
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留学生が見た日本のちょっと嫌なところ

前号では、留学生が見た日本の驚き! や素晴らしいところをお伝えしました。
今回は、がっかりした、嫌だったという部分をお話ししたいと思います。

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

静かな車内、ゴミが落ちていない道路、サーカスのような
自転車など、私たちには当たり前なことも
留学生にはびっくり! というお話をしました。

では、嫌なところはどんなところなんでしょうか。

▪️「じゃあ、また今度飲みに行こう」

日本人と仲良くなって、携帯電話番号やLINEを交換した留学生。
嬉しくて、「もっと喋りたいなあ」、「ご飯も一緒に食べられるといいなあ」と
希望に胸を膨らませますが、、、、なかなかそんな機会がありません。
そんな時、おしゃべりした後、日本人にこう言われました。
「じゃあ、今度また飲みにいこうな」
「やったー!!」と喜んだのはいいけどいつまでたってもお誘いがない。
不安になった留学生が「先生、いつまで待っても連絡がありません」と
相談に来ます。
そうです、日本人ならよく言うはずの「今度飲みに行こう(今度またご飯でも)」は
具体的なお誘いではないのです。
強いて言えば、「バイバイ」の代わりでしょうか。
こう説明してわかってくれる留学生はなかなかいません。
「じゃあ、本当に誘ってくれるときはなんと言うんですか」
さあ、皆さんならなんと答えますか。


▪️ 一人だけ食べるガム

「私、ゼミで嫌われているかもしれません」
とやって来た留学生。詳しく事情を聞くと

〜8人のゼミで討論をしていたところ、自分の隣の人が
カバンからガムを出して、こそっと口に入れて食べた。
残りのガムはカバンにしまい、留学生に勧めてくれなかった〜

と言うことでした。
これを聞いて「その大学生はゆるせない! みんなにガムを勧めるべきだ」と
言う日本人は少ないのではないでしょうか。
ベトナムの学生も、韓国の学生も、台湾の学生も、中国の学生も
マレーシアの学生も、香港の学生も、タイの学生も
「私だったら、絶対隣の人に勧めます」と声を大にして訴えます。
なぜ日本人は、勧めないのでしょうか。
まず、授業中。これは大きいですね。
それから、もし、相手がガムを欲していなかったら、相手は断らなければなりません。
断るとき、かなり心苦しく感じるので、その心苦しさを相手に与えないために
勧めない。つまり一種の思いやりとも言えます。

もちろん、年代差や地域差などもあり、一般化はできませんが。

この説明では、「信じられない」「理解できない」と言いますが、
「それでわかった」、「なーるほど」と納得する学生も多いです。
日常でこんな不思議な体験をいっぱいしているのでしょう。
当たり前にやっていることが、文化や考え方の違いとは言え、相手を
傷つけてしまっていると思うと、残念ですね。

▪️ ワールド ジャパニーズィズ

World Englishesという言葉があります。
世界の人が話す色々な英語を認めようと言う意味です。
例えば、シンガポールの人が話す英語は

 think think (同じ言葉を2度繰り返す)
 I go to school yesterday(時制がない)

など文法や語彙、発音などにいくつもの特徴があり、
「シングリッシュ」と言われています。
マレー語や中国語の影響を
受けているそうですが、自分たちにあった話しやすい言語になっています。

インドしかり、韓国しかり、それぞれの国の言語が持つ
発音や文法の規則に影響された英語が各地にあるのです。
それを全て認め、コミュニケーションをして行こうというのが
World Englishesです。

これを日本語に置き換えれば、ワールド・ジャパニーズィズですね。
ところが、残念なことに、なかなかこの考え方が受け入れられず
正しくて、間違いのない日本語を外国人に求めてしまっています。

インド人の女子学生がハンバーガー店でアルバイトをしています。
「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いいたします」
教科書で何度勉強しても、尊敬語や謙譲語は定着しにくいのですが
社会の中で使用すると、あっという間に習得しました。
実践の力は強いです。

ところが彼女の日本語は、インド訛りが強く、時々聞き取りにくいことが
あります。でもいつも笑顔を絶やさず、丁寧に接客する姿は
日本人にも負けていません。
「ぃらあしゃいまっ ごちゅううも おぅかあがい(し)まあす」という
ふうに聞こえます。

すると「日本人の店員出してーな」
「あんた、日本語ちゃんと喋りや」
「わかってんのか」など
悲しい暴力的なセリフをはく大人がいるそうです。
ひどい人は「インドに帰り」と言うこともあるとか。
この学生がどんな気持ちになっただろうと思うと胸が痛みます。

日本に憧れてやってきた留学生、まさかこんなことを
言われるとは思っていなかったでしょう。

ほぼ日本語のみで社会が機能している日本において
多言語多文化を自然に受け入れる素地を作るのは
なかなか難しいのかもしれません。
やはり幼稚園や小学校ぐらいからの異文化や多文化を受け入れるための教育や環境作りが
必要だなーといつも考えます。

日々色々なことを不思議に感じながら
それでも留学生は前を向いて頑張っています。
それらの経験から、彼らが学ぶことはきっと大きいはず。
私たちも学ぶことを忘れてはいけませんね。



高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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