2017.05.17
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外国を知ることは自分の国を知ること

留学生のクラスは多国籍。その中で異文化を知ることによって
はじめて自国の文化に気づきます。

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

留学生の日本語クラスは多国籍です。
クラスの中では、毎日さまざまな驚きや発見、葛藤があります。
そんなエピソードを挙げてみましょう。

■ お金がなかったら、取りに帰ったら?

少し前の話です。
あるアメリカ人の学生が、だんだん痩せて元気がなくなってきました。
心配した台湾人の男子学生が
「どうしたの?最近、元気がないね!」と声をかけると、
「うーん、実は、どうがんばっても学費が工面できないんだ。
どうしよう」と浮かない顔で答えました。
驚いた台湾人は「えっ、お金ないの?じゃあ、国に取りに帰ったら?お父さんに
もらってきたらいいよ」と言いました。
もっと驚いたのはアメリカ人です。
「えっ?!?!?! そんなこと考えたこともない。
もう大学生なのに親にお金をもらうなんて。
それは自立してない」とボソッと言いました。
そこから、台湾組VS.アメリカ組で、「大学生は親に学費を負担してもらうべきか」で
討論が始まったのです。
学費は絶対親が出すべきという台湾人。
学費は絶対自分で払うべきというアメリカ人。
どちらが正しいとか、どちらが悪いではありません。
お互いの国の文化や考え方の違いを学ぶことも学習です。

ちなみにこのアメリカ人は、もうどうにもならなくなって退学しようと
思い、最後のアルバイトに行きました。
英会話学校で英語を教えていたのです。
マンツーマンの生徒さん(ややご年配のご婦人だったそうです)に
事情を話して最後のレッスンだというと
「あんたみたいないい学生、勉強を続けるべきよ。あたしが出してあげます!
就職したら返してくれたらいいわよ」と言って
助けてもらって勉学を続けることができたという
夢のような話。しかし、太っ腹な方もいらっしゃいますね!


■ 歳をとった親と同居するかどうか

ある中国の学生が、「結婚したら、自分の両親と同居するんだー」と
何気なく発言したところ、、、、、
ロシア人の学生が「えーっ!!信じられない。大人になってから
親と同居するなんて。しかも結婚したのに?」と驚いていました。
すると教室にいた台湾人や韓国人、ベトナム人も
「当然でしょう」
「親孝行しなくちゃ」
「育ててもらったんだから、面倒を見るのは当たり前」と声を揃えます。

親孝行という以外にも
ー食事を作らなくても良い(これは台湾人が声を大にして言っていました)
ー子どもの面倒を見てくれる
ー親が病気になってもすぐに世話ができる
ー貯金ができる
ー自分が遊びに行ける

などなど、メリットが次から次へと出てきます。

ロシア人は「いや、絶対同居はダメだ。子どもがいつまでも
子どもでいることはできない。独立するべき」と譲りません。
国によって、家族観や人生観、生活様式などが少しずつ異なっています。
さて、ここに日本人の学生がいたら
なんと言って参戦するでしょうか。

外国を知ることは改めて自分の国を知ること
当たり前だと思っていたことが、実は世界から見ると
そうでもないと知って驚くことが多いです。
異文化と触れることの大切さを実感する毎日です。

今、「海外に出る」ことがとても奨励されているようですが
「語学力」をつけることだけが目的ではないと思います。
違う文化や考え方に触れて、びっくりしたり、感心したりすること
初めて自分や自分の国と他の人、他の国との「異」に気づいて
それを受け入れること
それを「多文化共生力」と呼ぶのではないでしょうか。

これからの世界を生きていくのにとても大切な力だと思います。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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