冬休みを楽しみにできない子ども・・・
冬休みの時期は多くの子どもにとって嬉しい時期です。
クリスマス、お正月などが続きます。
クリスマスプレゼントをもらったり、お年玉をもらったりと子どもにとっては嬉しいことばかりです。
本来は、嬉しいであろうこの時期に情緒不安定になる子どもがいます。
今回は、そういったことに関連して、「子どもの貧困」、「愛着障害の子どもへの対応」、「社会としてできること」などについて書いていきたいと思います。
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明
「終業式が近くなると情緒不安定になる子ども」
12月の下旬、二学期の終業式を控え子どもにとって楽しいはずの日々を控えた頃、情緒不安定になる子どもがいます。
普段ならば揉め事にならないようなことで、友達と揉め事になってしまいます。
私は当初、通知表の成績を気にしてのことだと思っていました。
悪い成績だと家に帰ってから親に怒られるということもあるでしょう。
しかし、「子どもの貧困」に関する本をいくつも読む中で、そうではないのではないかという思いが生じてきました。
子どもが長期休業を前にして情緒不安定になるのは、「これから迎える長期休業が不安なのではないか?」ということです。
学校という場所は、一般的に、常識的で、楽しく、安全な場所です。
食事は確保されています。
一緒の楽しむ仲間もいます。
あまりに理不尽なことも起こりません。
居場所もあります。
家庭でトラブルがある場合、家庭は学校よりも安心のできる場所ではないという場合があります。
食事を作ってはもらえない。
楽しみもない。
暴力などの理不尽なことが度々起こる。
自分の居場所はない。
そういった子どもにとっては、家庭に長くいることになる長期休業は、楽しみではないのです。
学校がある日々の方が、楽しく、満足でき、安心できるものなのでしょう。
長期休業が近づくと情緒不安定になる子どもは、そういったことが不安だったのかもしれません。
本人が自覚しているか、していないかは別として、心の中にある不安が行動に表れてきていたと考えられます。
「貧困の連鎖を防ぐために」
一年程前から「愛着障害」という言葉が聞かれるようになりました。
「愛着障害」とは、親から虐待など不適切な養育を受けることによって、その後の人生において問題が生じることを指します。
先天的な脳の機能障害である「発達障害(ADHD、LDなど)」との区別が難しいものです。
その「愛着障害」と関連して、親から子どもへ虐待も連鎖されているとことが話題になりました。
詳しくは「虐待の連鎖を防ぎたい」に書いてあるので、そちらをお読みください。
ところで、貧困などを抱えた家庭には、子どもが学ぶことから逸れていくきっかけがいくつもあります。
親の無関心、経済的な問題、離婚、引っ越し、ひとり親家庭による親の多忙などです。
いくつもの要素が絡み合っています。
順調に学びが継続されていかないケースを具体的に説明します。
きっかけは、小2で学ぶ、「九九の習得」です。
小学校の学習は、昔と比べると、格段に学ぶ時間が少なくなっています。
そういった状況では、家庭での親の関わりが重要になってきます。
家庭で親による十分な関わりができていない場合、九九の習得が十分にできない場合があります。
そうなると、その後の算数の学習で大きく躓きます。
小3で学ぶ掛け算の筆算などは、九九が正確にできるということが前提になっています。
掛け算の筆算のやり方をきちんと理解できたとしても、九九が正確にできないとテストなどでは正解にはなりません。
そういったことを繰り返しているうちに、小3位で「算数嫌い」、その後「勉強嫌い」へとつながっていってしまいます。
成功体験の少なさなどから、自己肯定感も低くなります。
小学校中学年で学習への意欲が非常に低いものになってしまった子どもは、その後の学校生活を有意義なものにしていくのは難しいでしょう。
そういった状況から抜け出すには、「教育」が最も重要な要素となります。
学校は、家庭的に難しい状況を抱えた子どもがその状況を変えていく可能性を秘めています。
幼稚園・保育園、小学校、中学校、高校、大学とそれぞれの段階で、きちんと学力を付けていくことが、貧困から抜け出す道です。
現在、奨学金についてよく話題になっています。
今後、給付型の奨学金が増えていくことが予想されます。
そういったものを上手に利用し、様々なスキルを身に付け、厳しい状況から抜け出る子どもが多くなって欲しいと願います。
「厳しい指導の問題点」
ところで、家庭に問題を抱え、愛着障害などの子ども達は、様々な形で学校においてトラブルを起こします。
授業中教室から出て行くなどの学習に関するものや物隠し・暴力などの友達関係に関するものもあります。
教師は何らかの指導をする必要が生じます。
その際、「大声で叱る」「威圧する」などの指導をしてしまうと、そういった子ども達はその時点で心に壁を作ってしまうはずです。
家庭で、暴力などの厳しい指導を受けている可能性のある子ども達は、自己防衛の為に心を閉ざします。
一度、子どもが心を閉ざしてしまったら、それ以降の指導は無意味になります。
教師が何を言っても伝わらないでしょう。
一見、話を聞いているような態度を示しながら、心の中では「早く終わらないかなあ」「うるさいなあ、何度同じこと言ってるんだ」などと思っているのでしょう。
デリケートな状況に置かれた子どもへの指導のあり方について考える必要があります。
指導をしなければならないような状況になった場合、どの教師でも適切な指導ができるということではありません。
家庭の状況を踏まえた上での指導が必要になります。
学校の全職員で子どもを見守り、関わっていくというのは、基本的には正しいやり方です。
望ましいやり方は、家庭状況など、デリケートな問題を抱えている子どもの情報を共有し、そういった子どもへの指導は、状況を把握した学級担任が行うというものです。
子どもの指導において、子どもの中に触れない方が良い点を持っている場合があります。
愛着障害などの子どもは、特にそうです。
まるで「地雷」のようなもので、不用意にそこに触れてしまうと、場合によっては「大爆発」が起こります。
子どもが感情を乱し、暴れ出したりするような状況です。
教師が子どもを「指導する」ということは、「より良くしたい」という思いからのはずです。
しかし、やり方によっては、却って、子どもの状態が悪くなるような場合があります。
十分な配慮が必要でしょう。
以前、「子どもの貧困」に関して書いた文章があります。
興味のある方はご覧ください。
「社会としてできること」
この所「子どもの貧困」に関する本をいくつも読んでいます。
教師をしていることもあり「子どもの貧困」についてある程度は知っているつもりでしたが新たに知ることも多かったです。
特に驚いたのが、予算についてです。
日本においては、大まかに言うと、子ども関係予算は、高齢者関係者予算の約1/10なのだそうです。
確かに日本は世界でも稀に見る高齢化社会であり、その部分に税金を掛けるのは仕方がないことでもあります。
しかし、バランスを考えると、もう少し子ども関係予算の割合を増やしていっても良いのではないかと思います。
理由は2つあります。
1つ目は、国際的に見た日本の教育に関する予算の少なさです。
OECD各国の中では、公教育に税金を掛けている比率が最も低い国になります。
PISAなどの結果と合わせて見ると、少ない予算ながら、その中で何とか成果を出しているという状況でしょう。
相当に無理がある状況だと思われます。
こういった状況と、教師の精神疾患や不祥事の増加とも関連があるように思えます。
2つ目には、子ども関係予算を「投資」と捉える考え方です。
アメリカの研究では、数十年という長いスパンにおいて、幼児期に掛けたお金の16倍もの効果があったというものがあります。
子どもに税金を使って、教育、福祉を充実させることにより、将来必要になるであろう社会保障費などが少なく済むというものです。
日本には、「米百俵」の逸話もあります。
幕末に長岡藩が財政の厳しい中、他藩から送られた米百俵を教育のために使ったというものです。
今の日本の社会状況においては、米百俵の精神で取り組んでいくことが大事なのではと思います。
「おわりに」
冬休み(クリスマス・お正月)を幸せに過ごすことのできない子どもがいます。
そういった子どもの人生は学校での教師の関わりによって大きく変わる可能性があります。
また、子どもの貧困は、当事者だけの問題ではありません。
社会保障費という形で、全ての国民に関わってくる問題です。
多くの人が関心を持って欲しいテーマです。
平成28年の私のコラムの執筆は今回で最後となります。
毎回、拙い文を読んで頂き、ありがとうございました。
良い年末、そして新年をお迎えください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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