2013.11.14
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「特別な支援を要する子ども」に接する具体的な方法

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

学校では、クラスが混乱した状態(学級崩壊)になってしまうことがあります。

私自身もそれに似た状況になったことがありますし、周りのクラスでそういった状況になってしまったことを見たこともあります。

経験年数が少ない担任のクラスだけでなく、ベテランの担任のクラスでも起こることがあります。

 

そういった状態になる原因の一つに「ある特定の子どもがクラスをかき乱す」ということがあります。

「配慮を要する子ども」と言われる子どもであることが多いです。

配慮を要する子どもの割合は、いくつかの調査によって示されています。(定義によって少しずつ変わってきます。)

文科省が平成24年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」においては、約6.5パーセント程度の割合で通常の学級に在籍している可能性があるとされています。

これは、1学級を30人で計算すると、特別な教育的支援が必要な子どもが約2人いるという計算になります。

どこのクラスにも数人いることになり、そういった子どもをどのように扱っていくかということが、担任にとってとても大事になります。

「配慮を要する子ども」への接し方次第によってクラスの状況はずいぶんと変わってきます。

 

私が常々意識していることは、「なるべくトラブルを発生させない」ということです。

教育においては、「失敗の中から学ぶ」という考え方があります。

これはある意味では正しいことです。

しかし、今、対象としている「配慮を要する子ども達」は、生活の様々な部分で、失敗し、混乱し、感情を乱し、結果として、暴力や逸脱行動などのトラブル、学力不振などの問題のある状況になってしまっていることが多いのです。

そういったことを考えると、「配慮を要する子ども達」には、まずトラブルなく、日々を過ごさせるということが大事になってきます。

教師の先手の対策がとても大切になってきます。

事前の準備が十分でなかったために、トラブルが発生したとします。

そうなると、その対応のために多くの時間を要するようになってしまいます。

事前に、流れや動きなどをイメージし、できる限りの配慮をしておくことで、トラブルの発生を減らすことができます。

そして、うまくいったことを褒めることで、良い行動が意識の中で強化されていきます。

その子どもの良かった行動を褒めること、叱られるような行動が減ってくるというものです。

この「褒めること」に関しては、以前、詳しく書いています。

興味のある方はご覧ください。

 

 

具体的に「なるべくトラブルを起こさせない」ために大切なことは、その子どものことをよく観察することです。

「どんな時に問題が発生するのか」「何が原因なのか」「問題が発生した後はどうなるのか」などです。

 

以前、私が関わっていたある男児は、朝によくトラブルを起こしていました。

学校に登校し、荷物の整理などをしている時間に、色々なトラブルが発生していました。

そして、そのことで教師に注意され、感情が乱れ、その後、また他のトラブルを起こしてしまうという悪循環に陥っていました。

結局、良い学びのできない日々が多かったようです。

そういった状況だったので、新年度に担任になった私は、朝に子どもが登校する時に必ず教室にいるようにしました。

教室に担任がいるだけで、朝に起こるトラブルを激減させることができます。

子どもが教室に着く時に、担任がいることで、少し調子の悪い(親に叱られた、寝不足など)子どもがいた時に対応することができます。

「どうしたの?」と聞いてあげることで、子どもの精神状態はずい分と落ち着くようです。

 

小学校での様子を見ていると、低学年の担任は、朝に子どもが登校する時に教室にいることが多いのですが、学年が上がるに従って、そうではない担任が多くなります。

そういった状況に少し落ち着かない子どもが居合わせてしまうとトラブルが発生してしまいます。

できる限り担任が朝から教室にいるようにすることで、トラブルを未然に防ぐことにつながります。

一日がスムーズに始まることで、穏やかに過ごすことができるようになります。

 

このように「朝にトラブルを起こすことが多い」子どもには、「担任が教室にいる」という方策により状況を改善することができます。

それぞれの子どもをよく観察すると、トラブルの傾向が見えるはずです。

そうしたら、それを未然に防ぐにはどうしたら良いのかをしっかりと考えます。

意外と簡単なことで、状況が劇的に変化することがあります。

 

 

また、私が以前、関わっていた男児は、頻繁に廊下と階段の間にある非常扉を通ってしまっていました。

勿論、通常、非常扉は使用禁止になっています。

そこを通ると鉄の扉の閉まる音が大きく響き、その階にいる全ての人に聞こえます。

そういった状況ですと、他の子どもも真似をするようになってしまいます。

また、他の教員からは、「またやっている」と悪者のレッテルのようなものを貼られてしまいます。

 

こういった目立つ行動は、できるだけなくさせていきたいものです。

そこで、私が担任してからしばらくの間、彼がその場所を通る時、できるだけ一緒に歩いて行くようにしました。

教室から下駄箱まで歩いて行こうとすると、廊下の先の左側にその扉があります。

私は彼の左少し前を歩きながら、世間話をしていきます。

このようにしていくと、非常扉を通ることなく、普通に歩いていくことが多くなりました。

注意などをすることもありますが、それよりも「トラブルを起こしにくい状況を作る」ことの方がより効果があるように思います。

同じ行動を繰り返していくうちに、それが当たり前になります。

 

この非常扉のように目立つトラブルが減ってくると周りの人の見る目が変わってきます。

「あの子、最近ずいぶん落ち着いたよね」という言葉が職員室で出てくるようになれば、作戦成功です。

周りの評価が変わってくると状況はさらに良くなっていきます。

「悪いレッテル」を貼られていると、誤解などで叱られてしまうことがあります。

「きっと、あの子がやったに違いない」などと言われてしまいます。

だから、目立つトラブルを減らすことに意味があります。

 

子どもによってトラブルを起こす部分は違います。

自然に子どもが行動を変容できるような方策(先ほどの子どもの左少し前を歩くなど)を考えることができるかがポイントになります。

色々と試行錯誤しながらやってみるとよいと思います。

 

 

また、多くの配慮を要する子ども達は、急な予定の変更などを嫌う傾向にあります。

日常のリズムが崩れ、それがきっかけとなって、トラブルが発生してしまうことがあります。

自閉的傾向のある子どもはそれが特に顕著です。

 

そうは言っても、学校では、予定外の行動がよくあります。

そういった際に、できるだけそういった子どもには早目にその事実を伝えていきます。

みんなの前で予定の変更を告げる前に、そういった子どもには、小さな声で「実は・・・」と伝えておきます。

一対一の状況であれば、時間をとって説明することもできます。

 

事前にそういったことを伝えず、皆に伝える場で、そういった子どもが初めて変更の事実を知ると、大騒ぎをすることがあります。

みんなの前では、時間を掛けた対応をすることがしにくいので、対応が十分にできなくなることが多いです。

それ以来、感情が乱れ、トラブルを起こしてしまうようになってしまうこともあります。

特に子ども達が嫌がるような変更、例えば「楽しみにしていた体育の授業が出来なくなった」などの場合は、配慮を要する子どもには、事前に事情を伝えることで、ものごとがスムーズに進みやすくなります。

 

 

今回、配慮を要する子どもへの対応について書きました。

学級経営における何かのヒントになれば嬉しく思います。 

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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