2016.12.13
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わたしの教材研究 ―視点と方法―

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

先日の授業研究会で、1年生の算数授業を公開いたしました。

ほぼ、毎年、1本以上の授業公開をしておりますが、校外の先生方にも公開する研究授業の時は、授業に提案性を持たせます。普段の授業の時より、時間をかけて指導案を作り上げます。

もちろん、普段の授業や学級作りと研究発表会の授業はつながっています。公開する本時だけをうまくみせる授業はよろしくありません。研究授業を通して、子ども達の力をさらに育てる意識が最重要です。まずは、そこをお忘れ無く。

とはいえ、研究授業をする際には、それなりの準備と意識がこめられるわけで、今回は、研究授業をつくるときの私の方法と視点を記事にし、先生方の助けになればと思います。

まずは、学習指導要領の書き起こし

教材研究をするとき、若い先生方は教科書会社作成の指導書を取り出し、目標や授業の流れを参考にすることが多いように思います。

また、今は、ネットを開いてもたくさんの指導案を見ることができます。

しかし、それは、その先生のクラスの子に見合っているであろう授業です。指導書も、指導書を作成したブレイン達の解釈を経た授業です。

私たち教師が学習を指導する根本は、学習指導要領です。算数ならば、小学校学習指導要領解説算数編を必ず読みましょう。

私は、授業公開する単元の学習指導要領のページを隈無く読み込むために、大切だと思うところを書き出して自分なりにまとめていきます。まとめながら、目標とすべき児童像を確立させていきます。

学習指導要領解説は、すばらしい書物です。ぎゅっとつまったあの文章には、読めば読むほど感心します。あれが、100円~200円ほどで買えるなんて、すごい!

ちがう教科書会社の教科書を比較研究

本校の職員室には、算数の教科書が、使用教科書の教科書会社のものだけでなく、他会社の教科書もほとんど全て取りそろえています。

教科書を比較研究することで、共通して大切にしようとしている点が読み取れたり、ちがう進め方をしていることからもとめる児童像がちがったりすることが読み取れたりします。

例えば、5年面積の進め方。平行四辺形から導入する教科書と直角三角形から入る教科書があります。これをみるだけでも、子どもの思考の進め方がちがうのです。そこから、自分の学級の子ども達には、どちらの思考が合っているのかと、考えるのです。

これについても、全て私は、ノートに書き起こします。単元の最初から最後まで書き起こしていくと、「あれ、これでうちの学級の子は、自分ごととして主体的に学習するかな。」「こんな子を目指したいな。」「この課題は、子どもにとって遠いな。こっちの課題は子どもが思わず話したくなるような課題だな。」

常に自分の学級の子どもの顔を思い浮かべること、それが一番大切ですね。

さあ、自分の単元構想、授業構想をかきおこそう!

学習指導要領を書き起こし、他会社の教科書も比較したら、そろそろ、ゴールの子どもの姿が浮かんでいるはずです。この単元を通じて、こんな子になってほしいな、という思いを持てているはず。というか、持っていないといけません!

その姿は、知識や技能ができるというだけではいけません。

知識技能を習得する姿が、子ども自らがつかみ取っていく姿として想像できないと!それこそが生き方であり、生きる力となるのです。

では、具体的に本時の授業をかんがえていこう! ―1年ひきざんかーどのならびかたをしらべようの実践からー

今回、1年算数ひきざん2の実践で、具体的な授業の作り方を紹介します。

今回の私の提案は、1年生が主体的に学習し、自ずから話す児童をいかに育てるかというものです。

①何のために言語活動をさせるのか、何を言語化させるのかを考える。

くりさがりのひきざんの単元の最後には、どの教科書にも引き算カードが規則的に並べられていて、その規則性を見つけるという学習が入っています。

カードの並びのたてを見たりよこを見たりする中からきまりを見つける経験をさせ、関数の素地や数理的な処理のよさを味わわせたい。そうすることで、数の感覚を豊かにすることにつながることを期待するのが本時です。本時の言語活動の場としては、級友の説明を聞き、その内容を解釈し、自分一人では気がつかなかったきまりを、説明を通して、大勢で発見する喜びを味わうことのできる場にしたいと思いました。

私の思いはただ一つ。「1年生が集団で意欲を持続させながら、学習をつかみ取っていく姿にする。」

②そのために、どんな課題をあたえるか。

夏休みの指導案では、わたしは、子ども達に与える課題を

「カードのならびかたを かんがえよう」にしていました。

しかし、11月30日の授業本番には

「カードのならびかたを しらべよう」にしました。

かんがえよう を しらべよう にかえただけです。

でも大きな意味があります。「考えよう」であると、勝手に子ども一人ひとりが考えてOKのイメージを子どもがもち、集団で解決しようとする課題ではなくなると思ったのです。授業のイメージをより具体的に煮詰めていく中で、「しらべよう」にする方が、一つの考えに集団で迫るという授業像を子どもにあたえられると思いました。

一言一句にこだわる。その一文字で、子どもの思考の動きがかわるのです。

一言一句にこだわることのできる授業作りを目指してほしいです。

③有意義に動く授業にするために、教材はどうするか。

課題は決まりました。ではそのための、教材をどうする?活動は?与えるワークシートなどは???

★1年生ですので、ストーリーを持たせ、課題にひきこむ。

本学級のキャラクターぐうすけくんが、ひきざんかーどを並べていたけど、くしゃみをしてジュースをこぼしてしまった。ぐうすけくんは、すぐ寝てしまう子。そして忘れてしまった。みんなで解決してほしい、というもの。

★どの数をかくすか、どんな活動させるかを意図を持って考える。

ひかれる数とひく数をかくし、そこを手がかりにたてとよこをみたらよいという思考にもっていきました。

くしゃみでばらばらになっている列を全員で解決し、たてよこのきまりを使ってカードをならべることを経験させました。

そして、10まい分だけ、カードを並べる活動をペアでさせました。集団の話し合いばかりでは、一人ひとりの考えに深化ができにくいと考えたからです。時間的にも、子どもの力としても、10枚分だけ焦点をあてて考えることが有効であると考え、ジュースをこぼしてしまった部分を半分にしました。

★与える教材を吟味する。

こぼされた下部のジュース以外の部分(上部の半分だけ)の並べられたひきざんカードを印刷して、ホワイトボードにはり、ペアに1つわたしました。そして、並べるひきざんカードにマグネットをはって、子ども達が考えるときに、ピタッとはれるようにしました。落ちてしまうなどの無駄な労力をけずるためです。

そして、ホワイトボードにはった用紙も、枠線のないものにしました。ジュースの下の部分に枠線があるかないかも考えたのですが、枠線がない方が、子どもが迷いよく考えるはずです。難易度をあげて、より考えようという姿勢につなげました。

全体で話し合う必然性を仕組む。「先生!1枚たりないよ!」

子ども達は、張り切ってペアでひきざんカードを並べます。

ところが、封筒の中のカードを全て並べても、規則性を元にすると、1枚たりないのです。

「先生、1枚足りないよ!」「うんうん!16-7のカードがない!」

「え?そうなの?どうして、そう思うの??大丈夫って言っている子もいるよ。どっちだろう。みんなで話し合ってみようか。」

問題解決学習では、グループで話し合った後、集団解決の時間を取ることが多いです。しかし、ともすると、ただの発表会、言い放しでだらだらとグループ発表が続くということもなきにしもあらずです。

意味のある集団討議にするために、教材に仕掛けをしました。

迷うから集団で解決しようとする、わからないからみんなで話し合う、その姿があれば、熱量の高い集団解決になります。

教師の技を成熟させるには、実践あるのみ。

ここには紹介仕切れませんでしたが、細かいところの教師の技も、授業に大きく関係してきます。実践あるのみです。
研究授業の前には、放課後、教室で、一人で、もしくは同じ学年の先生方に子ども役になってもらって、空授業を行います。すると、また、もっとこうした方が、子どもにわかりやすいとか、板書はここにこれをかいた方がよいとかが見えてきます。
このひきざんカードの実践では、たてとよこのきまりばかりに子どもが着目してうらの答えに意識がいかないことが気がかりでした。ひきざんの授業である以上、計算をして答えに着目する場面が必要と思いました。
前日の放課後、一人で空授業をして授業を煮詰めていき、ふっと思いつきました。ジュースのシミのついたカードを全体で考えたあと、黒板に書くのではなくて、新しく白いカードにその式をかいて、「ひきざんカードだからうらに答えがあるよね。答えはなにかな」と投げかけ、カードをつくろう。そうすれば、裏に書かれている答えに踏み込んで考える子がでてくるであろう・・・

ドンぴしゃでした。「ここのカードの裏は、答えが9のだん、ここは答えが8のだんというふうにもなってる。」という発表がでました。その考えが、最後の1枚カードが足りない時の話し合いでも、「そのカードは答えが8だから、答えが9の列に並べるのはおかしい。」という意見がでました。

常に、「この発問なら、○○くんがこう言うな。○○ちゃんは、どうかな。」と、子どもの顔を浮かべながら授業をつくっていきます。
それができるようになるには、実践あるのみ。

100%満足のいく授業は、なかなかありません。だからこそ、授業はおもしろい。
今回も反省点があります。その反省を、明日にいかし、子どもと共に授業を、日々をつくっていこうと思うのです。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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