2016.11.09
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高等学校におけるアクティブ・ラーニング型授業の展開~教育方法学会での発表(ラウンドテーブル)から~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

2016年10月1日(土)~2日(日)、九州大学で教育方法学会が開催されました。
2日目の最後の時間帯にラウンドテーブルの時間があり、
東京大学・大学総合研究センターのメンバーが
「高等学校におけるアクティブ・ラーニング型授業の展開」というタイトルで
企画、発表されました。私も事例報告ということでその一員に加えていただきました。
単に聞くだけではなく、自分も発表させていただいたので、
事前の打ち合わせ含めてかなり深い学びになりました。
今回はこのことについて書きたいと思います。

問題意識、ラウンドテーブルの概要

アクティブラーニング(これ以降ALと略記)という言葉が注目を集めている
一方で、広範かつ客観的なデータに基づく実態調査や調査研究がない。
こうしたことの把握なしに改革を叫んでいいのだろうか。この問題意識から
ラウンドテーブルが企画されました。そして当日は以下のような流れで
進められました。

*趣旨説明(東京大学・山辺先生)

*全国調査で見えてきたALの現状と課題(東京大学・木村先生)

*高校の実践から(日野台高校・佐々木先生、立命館宇治・酒井)

*実践を見て、ALのポイント(河合塾教育研究開発本部・成田先生)

*質疑応答

全国調査からわかった大切なこと

東京大学・マナビラボは、ALを「参加型学習」と換言し、プレゼン・学びあい・
ふりかえり・探究調べ学習・PBLなど、参加型学習の手法を明記したうえで、
年間に一度でも取り組んでいるかどうかを調査されました。
全国62%の高校から回答があったとのことですが、
その結果「取り組んでいる」という答えは56.6%でした。
みなさんはこの数字をどう思われますか。

調査では参加型学習を取り入れたことによって効果があったのかも
聞いています。みなさんはどんな学校が「効果があった」と
答えていると思われますか。
ここでは重要な2つの点を書いておきます。

まず第一に「ねらいに応じた効果がある」ということです。
調査では参加型学習を実施するねらいも同時に聞いています。
その結果、たとえば「課題解決力」をねらって実施した学校では、
教員はその成果として「課題解決力」を感じる(相関係数が大きい。
回帰分析だとより顕著とのことです)ということでした。

以前この場で「筋トレが教えてくれるキャリア教育に大切なこと」という
タイトルで、ねらいを意識するのかが大切と個人的な実感から書きましたが、
それが裏付けられたようで少しうれしかったです。それはさておき、
やはり「ねらいに応じた成果」が出るということです。逆説的ですが
「言われたから、やらなければいけないからやった」では、
「やった」という成果しか残らないのかもしれません。
もちろん「学習活動に応じた効果」があるということも明らかに
なっているので、どんな活動をするのかを考えることも大切なことです。
これらはぜひとも広く伝わってほしい結果だと思いました。

もう一つは「理解進化型の活動を組み合わせることが大切」ということです。
理解進化型の活動とは“思考を整理する”、“ふりかえりをする”などのことを
指しますが、意見発表や意見交換だけでは(理解進化型を組み合わせ
ないと)、活動が多くなると効果の実感が減少するのです。
一方で理解進化型の活動にきっちり取り組んでいると、意見発表や意見交換
が多くなると、効果の実感は増加します。「活動あって学びなし」などと
言われることがありますが、ここでいう理解進化型の活動を授業に
組みこんで、活動したことを学びにつなげることが大切ということかも
しれません。

ほかにも興味深い調査結果はいっぱいあります。
調査について詳しくは次のURLを見てください。

http://manabilab.jp/japan (マナビラボのページ)

これから考えていくべきこと

山辺先生は冒頭で「経験学習モデルに戻っている」という指摘をされました。
「活動の目的」「活動と思考のバランス」「省察で学習者が意味づけすること」
これらはすべて経験学習で言われていることです。
ALを教育学にきっちり位置づけること、このようにこれまでの蓄積に気づくこと、
こうしたこともこれから大切ではないでしょうか。

成田先生は「アクティブラーニングはアンブレラワードである」と指摘
されました。アンブレラワードとは、多くのものを包摂してしまうような
傘のような曖昧な概念のことですが、だからこそいろいろなことが言われ、
いろいろな実践ができ、「これ!」と定義することが難しいのです。
実際実践レベルでも、まずは生徒を授業に参加させるというレベルでの
議論から、生徒がより高次に思考するというレベルまで混在しています。
だからアクティブラーニングだけを議論することは不毛なのです。
成田先生は「どんな人に育てたい」が出発点であり、学校としての
カリキュラムマネジメントが重要であると指摘されました。
聞いていて、生徒が育つ学校になるかどうかの分岐点はここにあると
いうことを感じました。

学力観ということも重要なテーマでしょう。本シンポジウムでは時間の
制約からこのことへの言及はありませんでしたが、田中先生・木村先生は
「能動性や参加や活動を重視する学力観への移行において、むしろそれを
支えるものとしての“思考“や”理解“のとらえなおしが迫られている」
ということを指摘されています。
ALの導入が従来型の学習活動に能動性や参加・活動を盛り込むだけなら、
学力観のパラダイムシフトは片手落ちとなるとも指摘されています。

活動することと思考することの関係、あるいは活動的な思考を
いかにとらえるのかが重要なのです。

このようにこれから取り組むべきことが多いですが、佐々木先生は「楽しむ」
ということを強調されました。先生自身も(今回の学会もそうですが)、
ALという言葉があって、自分の実践を試行錯誤して、その中でいろいろな
方と出会えたり、雑誌などに自分の実践を取り上げてもらえたりして、
うれしいし、何より自分自身成長できていると言われていました。
ALという言葉で教科を越えれるということは自分自身実感しています。
やるべきことはいっぱいあるけど、まずは楽しんで取り組むこと。
もしかしたらこれが何より大切なことかもしれません。

お読みいただきありがとうございました。
今回は少し理論的なことを中心に書きました。次回は実践をと思います。

幸い11月中旬に福井県の若狭高校の公開授業にお邪魔することに
なりました。次回はそのことについて書きたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

参考資料
  • 田中智輝、木村充「学力観のパラダイムシフトはどのように、どこまで進んだのか」(The English Teacher’s Magazine 2016年10月増刊号)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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