2006.12.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

日本人は何を食べてきたのか(vol.2) 【食と文化】[小6・社会科・総合]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第五回目のテーマは「日本人は何を食べてきたのか」その2。「食」にかかわる体験を通じて日本の歴史を実感しましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

飛鳥時代の貴族のチーズ「蘇」を再現

 「○○の食事」から始まり3回分の教材として食を取り上げた「日本人は何を食べてきたのか」。今回「その2」では残りの2回分を紹介します。

蘇

 実践2回目は、「貴族のチーズ(飛鳥の蘇)」の再現をしました。牛乳を飲むという習慣は、日本では既に飛鳥時代には支配者階級に広まっていたようです。牛乳が庶民的なものとなったのは近代になってからですが、古代から牛乳をもとに各種の珍味が作られていました。中でも有名なのが「蘇(そ)」と呼ばれる、牛乳を長時間煮詰めて作った食品です。飛鳥時代や平安時代の文献などにも度々その名が記されています。貴族や僧は牛乳を飲み、チーズやバター、ヨーグルトなどの乳製品を食べていたのです。シルクロードを通り、飛鳥の都に伝わったといいます。

蘇作る

 まず、蘇を再現して販売している業者から取り寄せ試食してみました。「古代チーズ飛鳥の蘇」として販売されています。その紹介文を読むと、「その昔、飛鳥時代に藤原京がおかれ、日本の中心都市として栄えたこの土地で、日本で初めて酪農がおこなわれた事に由来して命名しました。その後、酪農は日本各地に広がっていきました」と書かれています。食べた子どもたちは「見た目はチーズ、においはキャラメル、味は薄い牛乳、不思議な味、でも牛乳の栄養がたっぷり詰まっている」と表現しました。

 次に、蘇を作ることに挑戦しました。牛乳を弱火でかき混ぜながら練って、どんどん煮詰め塩を加えて形を整え、冷蔵庫に入れて冷やしました。「牛乳をかき混ぜるだけでもけっこう疲れました。こんなに時間がかかる物だからやっぱりえらい人だけが食べていたんだなあと思いました。」と子どもたちは記しています。

縄文時代や戦国時代には何を食べていたか?

実践3回目は、「縄文」「平安」「室町」「戦国」「江戸」の各時代の食事調べをしました。以下に簡単に紹介します。

時代 食事例
縄文時代 ドングリパン、魚の煮物、木の実(クリ・クルミ)のスープ、熊の干し肉
平安時代(貴族) うるち米、焼き鳥、ダイコンの漬け物、糖菓子、ブリとアワビの煮物など
室町時代(足利義政) 湯漬け飯、かまぼこ汁、コンニャクの煮物、焼き魚、みそなど
戦国時代(織田信長) 湯漬け飯、みそ汁、焼き魚、焼きみそ、漬け物、カステラ、ビスケット、ウリ、葡萄酒など
江戸時代(町人) 麦・白米、大根のみそ汁、野菜の煮つけ、たくわんなど

 資料をもとに各時代の食事の盛りつけ方や食品・材料を、1枚の模造紙(新聞)にまとめました。こうした過程は、時代考証の作業となりました。歴史の本から事典、歴史漫画までを参考にしながら、これらの食事がその時代にあったのか、本当にそれらをその人たちは食べられたのかをグループで検討しました。さらにそれぞれの食事について栄養バランス(主に体を作る・主に熱や力のもとになる・主に体の調子を整える)についても検討しました。

新聞

 次に、栄養士から各時代の食事について説明を受けました。たとえば貴族の食事は栄養のバランスが悪く、塩分も取りすぎ、その上運動不足であったことを考慮すると、今なら生活習慣病になるような食生活だったことを教えられました。また、時代とともに交易や外国との貿易の発達により、食品の品数が多くなり材料も豊富になったこと、加工技術も発達したこと、食べることを少しずつ楽しむようになったこと、仏教が広まったことで肉食が消えたことなど食の視点から歴史が見えてきました。

 こうした授業には専門家の応援が不可欠です。栄養士から資料の提供を受けたり、各時代の食事を栄養のバランス面から検討を加えたりと、栄養士からアドバイスをもらいながら授業を作っていきましょう。

(文:藤本勇二 イラスト:みうらし~まる

授業の展開案

それぞれの時代の食事を再現し、実際に食べてみましょう。
 

伝統食の知恵や工夫には日本の文化・習慣の歴史が具体的な姿として見えてきます。身近な地域の伝統食を調べてみましょう。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop