2013.12.17
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食育と授業:おはし名人になろう!(vol.2) 【食とマナー】[小2・生活科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第八十八回目の単元は「おはし名人になろう![2]」です。

私たちが日常、食事の際によく使用する道具は、もちろん「お箸」です。「この2本の“棒”を自在に操ることができたら!」と子どもたちは憧れます。子どもたちが意欲的にお箸とかかわりを持ち、この憧れを実現させていくための生活科での取り組みの第2回目を紹介します。

お箸の2本の棒のうち上側に持つ棒と、下側に持つ棒の機能をしっかり理解し、うまく扱うことができるよう、『おはし名人カード』を使って特訓します。そして、子どもたちはお箸の扱い方を実証すため、段階別に構成されたゲームを体験し、「できた!」「やった!」という達成感を味わいます。

『おはし名人カード』を使って特訓

おはし名人カード

おはし名人カード

本授業は、「お箸を上手に持ちたい!」という子どもたちの、意欲的な体験活動です。子どもたち皆がお箸名人になれるよう、『おはし名人カード』、『スポンジ君』、『豆つかみ』の三つの仕掛けを使います。

まず、子どもたちに正しいお箸の持ち方を確認します。確認ができたところで、右のカードを使って、穴の開いたAの部分にお箸の上側に持つ棒を入れ、Bの部分には下側に持つ棒を入れ、上下に動かす練習をします。下側のBの部分は、棒が固定されて動かないことを体験していきます。

『おはし名人カード』でお箸の持ち方を猛練習

『おはし名人カード』でお箸の持ち方を猛練習

子どもたちの様子をみていると、正しいお箸の持ち方を頭の中で納得できても、指の動きは思うようにいかないようでした。カードを使って意欲的に猛練習が始まりました。ある子どもは、
「上の棒が“鉛筆の持ち方”で3本の指を使って動くお箸。下の棒が動かないお箸で……」
 と声に出しながら、カードにお箸を差し込んだり抜いたりと何度も繰り返し練習する姿が見られました。

『にこにこスポンジゲーム』を体験

小さくカットした『スポンジ君』(2cm角程度のスポンジに“にこにこマーク”の顔を描いたもの)を、お箸でつまんだり離したりする活動をします。しっかりグッと“つまむ”ことができれば、スポンジ君の顔が変化します。お箸の先端部への力加減が自然と身に付きます。

『豆つかみゲーム』を体験

お箸を正しく持ち、豆をつまみ、運ぶ

お箸を正しく持ち、豆をつまみ、運ぶ

これは、子どもたちにとってとても楽しいゲームです。しかし、ゲームに夢中になり、間違った持ち方で豆を運んでしまうことがあります。 「たくさん豆を運ぶゲームではありません。正しい持ち方で豆を“つまむ”、そして“運ぶ”ことができるかな?」
 と、あくまでお箸名人になるためのゲームだということをはっきりと説明します。

このような体験活動の中、子どもたちからは「やった!」「できた!」「わかった!」「間違いだった!」といった声が上がりました。練習やゲームを通して自己を振り返りながら、新たなる自分へと更新させることができたようです。

子どもたちの感想です。
「お箸は、スプーンやフォークよりも色々使えることがわかったよ。お箸は、なぜ2本で1セットかわかったよ。それは、つかみやすくするためだよ。お箸は、スプーンやフォークの使い方もできるのがわかったよ。お箸は、スプーンやフォークよりも役立っていることがわかった」。

「スプーンの良い所とフォークの良い所、ナイフの良い所が知れて良かったです。お箸の使い方が間違っていて気づいて良かったです。このままでいたら、大変だからカードで練習できて良かったです。お箸に詳しくなったかなと思っています」。

子どもたちの主体的な活動となるように

子どもたちは、体験活動が大好きです。でも、気をつけないと単なる楽しい体験だけで終わってしまいます。体験活動を有効なものとして活かすことができるように仕掛けることが大切です。ここでは、段階的に構成されたゲームを通して一人ひとりの葛藤が生まれてきます。またゲームの難易度を高くすることで意欲的に向上心を持って取り組むことができるでしょう。ゲームが難しいと感じたら、再度、カードに戻り自主的に練習を始めます。このように、繰り返して練習することが課題解決につながっていきます。

子どもたちに食事の道具(お箸・スプーン・フォーク・ナイフ)の機能を確認していくと、自ずとそれぞれの道具の機能を比較するようになります。そして、お箸が他の食事道具の機能性を持ち合わせていることを理解します。子どもたちは、多機能であるお箸の素晴らしさに感心し、お箸を上手に扱いたいという思いが生まれます。そこで、子どもたちに魅力のある体験的な活動に出会わせることで、より意欲的な取り組みとなっていきます。そして、“上手にお箸を扱う”という目的が、躾の押し付けではなく、子どもたちの主体的な活動となります。

この『おはし名人になろう!』の学習は、1・2年生の交流学習・交流給食へと発展する土台づくりになります。

授業の展開例
  • 手の大きさ合った“私のお箸”を作ってみましょう。自分の手の大きさとお箸の長さについて考えましょう。
  • 世界の食事する方法や食べられている食事内容などを調べてみましょう(手食・箸食・ナイフフォーク・スプーン食など)。
関連情報

おはしカードの作り方

① 紙は、厚紙を用意します。
② 縦 7.5 センチと横 5.5 センチの長方形にカットします。
③ ②のカードの中心部にビックリマークのような切り込みを入れます。
※切り込みの大きさは、お箸の太さによって異なります。お箸の大きさによって、中の切り込みの大きさを変えてください。
子供用(小学生低学年)のおはしの場合は、上のお箸が入る切り込みの大きさは、 2.5 センチ×5ミリ程度、下のお箸が入る切り込みの大きさ5ミリ×5ミリ程度、上と下の切り込みの間隔は5ミリほどです。

神山 求実(かみやま くみ)

和歌山大学教育学部附属小学校 栄養教諭

本校の先生方は食育に関心を持った方々が多く、協力的に取り組んでくれています。やはり、日頃からの先生方とのコミュニケーションが大切だと感じています。
また、現在、“人とのかかわりの中で意欲的に取り組む食育”をテーマとして日々奮闘中です。子どもたちが主体的になり、課題解決していくような“食の学びの場”となることを願って授業づくりをしています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:神山求実/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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