2022.05.23
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道徳科と国語科の指導の違いを生かした授業展開(前編) 東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校 道徳教育研究会「語ルシス」セミナーリポート

「語ルシス」は、主体的・対話的で深い学びを実現する道徳授業づくりを検討する道徳教育研究会。今回は、同研究会が開催するオンラインセミナーの第6回目、2022年3月29日に行われた「『ポスト・コロナ時代に対応した道徳授業づくりー道徳授業の普遍と変革ー』道徳科×教科横断的資質・能力×国語科」の模様をリポートする。
従前の「道徳の時間」における指導課題の1つに「読み取り道徳」が挙げられる。また、国語科の授業のあとに「今日の授業は道徳っぽいよね。」と言われることがある。どちらの⾔葉にも「教科の特質を蔑ろにしている授業」という意味合いを含んでいる。国語科と道徳科は近しい関係にありながら、⼀体何が違うのか。前編では、道徳教材として活⽤される「およげないりすさん」を使った国語と道徳のアプローチを紹介し、⼦どもの学びから教科の特質を考察する「実践提案」をリポートする。

<前編>
実践提案 教材:「およげないりすさん」
1【道徳科】指導者:東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭 幸阪 創平
2【国語科】学級担任・指導者:東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭 曽根 朋之

<後編>
実践発表 教材:「泣いた赤おに」
1【道徳科】発表者:愛知県あま市⽴七宝⼩学校教諭 鈴⽊ 賢⼀
2【道徳科】発表者:東京都調布市⽴⼋雲台⼩学校教諭 久我 隆⼀
3【道徳科】発表者:埼⽟県和光市⽴第五⼩学校教諭 古⾒ 豪基
講話
1【国語科の視点から】講師:山梨大学大学院総合研究部教育学域教育実践創成講座准教授 茅野 政徳
2【道徳科の視点から】講師:東京学芸⼤学特任教授 永⽥ 繁雄

道徳科教材「およげないりすさん」の実践提案

道徳科教材「およげないりすさん」を道徳科・国語科それぞれの視点から実践する授業提案。教育出版・光村図書出版の教科書掲載の教材を改作して使用し、授業は東京学芸大学附属竹早小学校2年生の同学級で道徳科、国語科の順に行われた。子どもには1時間目が道徳科で2、3時間目が国語科であるとは伝えず、「およげないりすさん」という教材を通して子ども達の問題意識を引き出し「活動テーマ」に沿った授業を展開する教科横断的カリキュラムデザインで行われた。

この教材は、①池のほとりで、りすさんが泳げないことを理由にみんな(あひるさん、かめさん、はくちょうさん)から一緒に池の中にある島へ行って遊ぶことを断られる、②島で遊んでいるみんながりすさん抜きではつまらないと感じる、③次の日、池のほとりでりすさんと仲直りしたみんなが、かめさんの背中に乗ったりすさんを囲んで一緒に島へ遊びに行く、という3つの場面から構成されている。

実践提案1:道徳科(1/3時間目)

東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭 幸阪創平氏

まず、東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭の幸阪創平氏が登壇。「およげないりすさん」の道徳科での実践紹介に先立って、道徳という教科の特質を整理した。

道徳科では、学習の中で道徳的価値の理解と自己の生き方についての思考を往還し、道徳性という資質・能力を育んでいく。幸坂氏は、これを共通認識として示した上で、こう指摘した。

「道徳科が明らかに他教科と違うのは、評価の仕方です。他教科のように知識・技能ではなく、自己をみつめているか、多面的・多角的に思考できているか、という点を評価します。『読み取り道徳』と呼ばれる所以は、この道徳科の特質を考慮せず、登場人物の心情を追うことに終始している点にあるのではないでしょうか」

これを踏まえて幸坂氏が提案した授業の主題は「好き嫌いにとらわれず」。内容項目は公正、公平、社会正義(関連項目として個性の伸長、親切、思いやり)、「4匹で遊ぶことのよさを考えることを通して、自分の好き嫌いにとらわれないで接していこうとする心情を育てる」ことをねらいとしている。

導入では、道徳的価値に関連した日常場面を想起し、多角的視点から問題意識をもたせるために、「2年生だからできる遊びをお友達と一緒にしている時、1年生の子が『入れて』と言ってきたら、入れる? 入れない?」と発問。子ども達に自分はどちらの立場かを明らかにさせ、その理由を板書した。

続いて、展開の前半では「3匹からおよげないりすさんが増えると、どんなよいこと、よくないことがあるかな」と問いかけ、みんなで話し合う学習活動を行った。ここで幸坂氏は「りすさんだからできることを3匹で見合える」という「よいこと」についての発言を受けて「りすさんだからできることは何かな?」と問い返し、「すばしっこくて地上でできる遊びが得意だから、おにごっこやかくれんぼができる」という発言を引き出した。

展開の後半では、「みんなも3匹と同じように困った経験はあるかな」と問い、自分の経験と重ねながら考えることを促した。子ども達からなかなか公正、公平の価値に照らした発言が出ないと見るや、幸坂氏は導入の日常場面に立ち返り、「長縄跳びができなくなってもいいの?」と発問。「嫌だけど小さい子だから仕方がないよね」という声を拾って、「じゃあ3、4、5年生のお兄さん、お姉さんが『入れて』と言ってきたらどうする?」と問いかけ、立場を変えて多角的に考えるよう導く。

終末には学習を振り返って自己評価シートを作成。子ども達の自己評点(4段階)を分析すると、自分の経験を振り返ることについては弱い傾向にあるものの、経験のないことでも他者の立場に立って考えられる子どもの多いことがわかった。また、子ども達の記述にも、納得解の追究、自己理解、自分事化、他者理解、価値理解といった道徳科の特質が現れていた。

<参考:自己評価項目>
・登場人物に気持ちや考えを想像する。
・自分の経験を振り返りながら考える。
・自分で考えたことを伝えたり、書いたりする。
・お友達の考えに耳を傾ける。

実践提案2:国語科(2-3/3時間)

東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭 曽根朋之氏

次に、東京学芸⼤学附属⽵早⼩学校教諭の曽根朋之氏が「およげないりすさん」の国語科での実践を提案した。

本実践で曽根教諭が子ども達に身につけさせたい力は、場面の様子に着目して登場人物の行動を具体的に想像すること。2時間目では、誰が何を話しているのか、という話者の確認を行ったり、りすさんを呼ぶと「よいこと」の分類からズレを考えたりして、文章を振り返り、根拠を見つけ、その理由を書くという学習活動を行った。

「道徳科の授業で『りすさんを呼ぶとよいこと』を出していましたが、その中にも人数が多いことをよしとする少し自分本位な考えや、罪悪感から解放されたい気持ちなど、微妙なズレがあることに気づきました」と曽根氏。そこから「なぜ3匹はりすさんを誘ったのだろう?」という課題を立て、「仲良くなりたい!」「とりあえず仲直りしたい!」の二項対立で考えることを考案したという。

3時間目では、再度音読をして内容と自分の考えを確認してから、近くの友達と交流し、全体での交流のあとに振り返りを行った。ここでは「あひるさん、かめさん、はくちょうさんは、それぞれどんな風に考えていたのか」という3者の考えの違いのほか、言葉にも着目し、「『さん』づけにしているのはなぜなのか」について考えた。

この実践提案と併せて、曽根氏は教材内容、教科内容、教育内容の3つの指導内容の関係から、国語科の特質を生かした授業について考察した。教材内容は作者名、作品名、登場人物、話者、場面(時・場所)などの教材固有の内容、教科内容は登場人物の様子を理解する読みの技術や一般的・法則的な内容、教育内容は教科の枠組みを超えた普遍的な価値観や人間観などの価値的な部分をいう。

「教育学者の鶴田清司氏は、国語科である以上、必ず教科内容を指導すること、そして、教育内容の指導は教材内容と教科内容を踏まえた上で行うことを提唱しています。教育内容には道徳と近しい部分があるため、これを国語科で指導する場合、概念の教え込みになってしまったり、教材内容と教科内容を含んでいなかったりして、それが『道徳っぽい授業』という印象を与えているのではないでしょうか」(曽根氏)

今回の実践を見ると、教材内容と教科内容がしっかりと押さえられていることがわかる。さらに振り返りでは、自分も他者を仲間はずれにした経験があることに気づいた、という教育内容に近いことを書く子どもの姿も見受けられた。しかし、曽根氏は「教材内容、教科内容を踏まえて教育内容にまで達したことには価値がある」としながらも、「教師が意図したとたんに道徳的な価値を注入した授業になってしまうので、結果的に教育内容にたどり着ければよいと考えています」と述べ、国語科として読み深めることを重視する姿勢を示した。

<参考:自己評価項目>
・文章を繰り返し読み、登場人物の行動や会話文などから根拠と、その理由を考えられましたか。
・友達の話を聞いて、なるほどと思う考えを見つけようとしましたか。

後編では、教材「泣いた赤おに」を使用した3つの道徳科の実践発表と、国語科・道徳科それぞれの視点からの講話をリポートする。

取材・文:学びの場.com編集部

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