2024.05.21
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伝統野菜(大根)を通した交流学習(後編) 【食と地域・食とICT】[小学5年生・社会・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第206回目の単元は「伝統野菜(大根)を通した交流学習」(後編)です。

授業情報

テーマ:食と地域・食とICT

教科:社会科・家庭科

学年:小学5年生

自分たちにもできることがないのか考える

3時間目の板書

聖護院大根、桜島大根、守口大根、大蔵大根の主な特徴を押さえたうえで、それらの「伝統野菜を守る良さは何」という発問をめあてに置き、授業を進めました。
1時間目で使用したベン図をもう一度用い、消費者、生産者(農家)・小売店、産地(亀岡市・京都府)の目線から各々が意見を書き出します。話し合いながら時間いっぱいまで考え、意見を出していきます。担任の「聖護院大根以外の他の3つの大根の特徴も思い出しながら考えてみよう」という声掛けが、児童の考えの幅を広げていたように見受けられました。

児童からの意見

消費者の目線:「普通のものと違う味を楽しめる」
生産者(農家)・小売店の目線:「ブランド野菜なので高く売れる」「高くても買ってくれる」「買ってくれるからお店が儲かる」
産地(亀岡市・京都府)の目線:「地域の自慢になる」「儲けた分納税され、その地域のお金になる」

それぞれの立場からの意見がでました。
次に、伝統野菜を守るために自分自身ができることを考えます。児童の考えは「知ってもらう」ことが一番の方法となりました。例として、POPを作成し伝統野菜の売り上げを伸ばす案が出ました。活動を通して児童の中で伝統野菜が大切だということを十分に理解していました。振り返りシートから、「他のものと違う味を楽しめる」「地域の活性化」「価値が高い」などの守り続けていくべき理由を述べていました。だが、「伝統野菜を守り続けると良いことがいっぱいあることが分かった」「伝統野菜が大切だということが分かった」など、なぜ大切なのかという理由を述べることができていない児童もいました。

本時の内容が1、2時間目と異なり実物がなかったため、担任は手ごたえが感じられなかったと語っています。本時は実際に実物に触れ感想を述べるのではなく、1つ上の思考を求められ、伝統大根の共通点や生産販売の課題を見つけたうえで、伝統野菜を守るアイディアを話し合う授業だったため、少し難易度が高かったのかもしれません。また、気付かせたかったことの一つである「地域を活性化させる」ことに既に気付いている児童が、本時は欠席だったことも影響が大きかったと推察しています。

全体の結果を通して本研究の目的であった、伝統野菜について特徴や歴史を学習する中で伝統野菜をより身近に感じ、地域への愛着を持たせることが実現できました。

本物の価値

届いた桜島大根を開封

「本物」の野菜を教室に持ち込み、実際に触れながら意見を交わす機会を設けることで児童の学びが深まり、さらに当事者意識が増したと考えます。1時間目には京都府農林水産技術センターの竹本哲行さんが聖護院大根について話し、2時間目には東京から伝統大蔵大根が実際に教室に用意されました。また、本時には間に合いませんでしたが、守口大根も担任が収穫に行き、提示しました。実際に全員が本物に触れることができており、特徴的な形だけでなく、リアルな質感やにおいなどを感じ取っている様子が見られました。

竹本さんや栄養教諭のように、大根に関わる「本物」の人から話を聞くことによって児童が学びを深めることができたといえます。伝統野菜を守るための取り組みをしている人、あるいは広めようとしている人と関わる機会を設けることで、児童の興味関心を引き付け、授業に対して意欲的に取り組むことにもつながりました。また、大根に関わる「本物」の人がおこなっている取組について知ることで、児童は人を通して伝統野菜の価値やその良さに目を向けることができました。このことは、伝統野菜を守る意味について考えることができていたことにもつながっていると考えます。

聖護院大根は比較的手に入れやすく、道の駅などでも手に入る品物です。煮物にすると煮崩れしにくく、甘いという特徴があります。しかしながら、食卓に並ぶ調理されたものは普通の大根との違いが分かりづらいです。そのため聖護院大根を食べたことがあるのか分からない、そもそも気付いていない児童が多くいました。聖護院大根を給食で実際に食べることにより、当事者意識を持たせることが重要だと考えます。

また、担任も自分自身が体験して知らないことを知り、教材化する面白さを再発見することができたと授業者として振り返りました。児童に対して生身の人と関わる機会を設けることができたことは良かったです。そしてさらに、指導者も児童と同じ学ぶ立場に立って学ぶ姿を児童に提示することが今回の実践で実現できました。また、今回の授業では、1つの授業に対して3名の実践者で討議、考察したことから様々な視点から考えることができました。さらにそこで生まれた反省や新たな手立てを次の授業で実践することでより良い授業へつなげていくということができました。このことは教員として働く際のチーム学校に通ずるものがあると感じます。

本物の価値を味わうための延長戦(第4・5時)

自分たちにもできることがないのか考える

第1~3時は、11月に実施したため、桜島大根だけが唯一時期ではありませんでした。栄養教諭の協力のもと、1月下旬に桜島大根(約9㎏)を送っていただき、こちらも子どもたちと実際に触れ、本物の大きさを肌で感じることができました。なかなか手に入れることのできない代物なので、「桜島大根をおいしくいただこう」と家庭科として調理実習を計画しました。

出汁で炊くだけのシンプルなものにし、大きかった桜島大根もみんなで調理実習に使うとあっという間に無くなってしまいました。特に子どもたちにとっては、大根の葉を食べるという経験が珍しかったようで、葉っぱは一瞬にして無くなってしまいました。

いざいただくと、「出汁がしっかりしみていておいしい」「あまい、とろける」「調理してしまうと、味は普通の大根とあまり変わらないから、桜島大根って言われないとわからない」など、思い思いに感想を口にしていました。本物を自分たちの手で調理をしたという体験は、子どもたちにとってもかけがえのないもので、3学期のふりかえりをした際に、一番の思い出に挙げた児童もいました。

授業の展開例

・これからの食料生産とわたしたち【5年社会科】
・他の地域から伝統野菜を守る取組を学ぼう【5年社会科】
・説得力のある文章を書こう【国語】
・表やグラフを使って、自分の考えを伝えよう【国語】
・それぞれの地域の○○ナスを紹介しよう【国語】

日車 光佑(ひぐるま こうすけ)

京都府亀岡市立大井小学校 教諭
ロイロノート認定ティーチャーとして、ICTを利活用した教育に積極的に取り組みつつ、児童が学びたいという意欲を引き出すため、本物や体験を大切にした授業を展開する。
得意教科は社会.

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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