2018.02.21
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サツマイモだいさくせん(vol.3) 【食と生命、食と感謝】[小1・生活科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第135回目の単元は「サツマイモだいさくせん(vol.3)」最終回です。

幼児期の「遊び」は環境を通して行われます。子ども達が自分の興味・関心に合わせて主体的に環境に関わっていくことで、連続性を持った活動へと展開していくことができます。しかし、活動を子ども達に任せ、ただ遊ばせているだけでは教育は成り立ちません。教師は一人一人の子どもに、今どのような体験が必要なのだろうかと考え、そのためにどのように環境を構成したらよいか常に工夫をしていくことが求められます。その結果として、子ども達は「もっとこうしてみたい」という願いや思いを持ち続け、達成感や成就感を持って活動を終えることができるのです。この環境への考え方は、小学校の学習にも十分に活かしていくことができると考えます。

Vol.1・2では、「サツマイモの葉っぱが黄色くなる」という問題に直面しながらも、数々の困難を乗り越え、見事に葉っぱを復活させ、たくさんのサツマイモを収穫できた子ども達の姿を紹介してきました。しかし、子ども達の活動は、収穫するだけでは終わりませんでした。最後となるVol.3では、サツマイモをさらに甘くしようとお世話を続けたり、そのサツマイモを皆でおいしく食べようとしたりしながら、大きな達成感を持って活動を終えることができた子ども達の姿を紹介したいと思います。

サツマイモの家を作る

大切に育ててきたサツマイモを無事に収穫することができ、大成功に終わった「サツマイモだいさくせん」ですが、サツマイモは収穫してすぐに食べるよりも、しばらく寝かせておいた方がいいことを子ども達が調べてきていました。そこで、「このまますぐ食べる?」と聞くと、「もっと甘くしてから食べたい!」となったので、子ども達の次なる課題は、「どうやってサツマイモを寝かせ、甘くするか」となりました。

収穫した日の翌日、サツマイモの保存方法をクラスで話し合うことに。お家で調べてきたことを基に情報を交流していく中で、サツマイモを甘くするには、暖めてあげる必要があることがわかりました。そこで、サツマイモ料理をするまでの2週間の作戦は次のように決まりました。

■晴れの日――日なたに置き、暖めてあげる
■雨や曇りの日――ダンボールの家を作って、中で暖めてあげる

作戦が決まると、さっそく家づくりに取りかかります。まずは、グループごとに話し合いながら、家の設計図を作成しました。
「暖めるには新聞紙がいいよ」
「新聞紙を布団みたいに被せるだけじゃ、あんまり暖かくないよ」
「新聞紙をたくさん入れてお風呂みたいにしてあげよう」
「傷つかないように、新聞紙は丸めるよりちぎって入れたほうがいいよ」
「収穫してもまだサツマイモは生きているし、息もしているから穴を開けてあげよう」
など、皆のアイディアが詰まった設計図が完成しました。また、一生懸命サツマイモの気持ちに寄り添いながら話し合う姿やその発言から、サツマイモの生命への気づきも感じることができました。

サツマイモの家の設計図

サツマイモの家の設計図

さらに、クラス全体で話し合いながら、それぞれのグループの良い所を寄せ集めた設計図を完成させ、段ボールと新聞紙を使って製作を開始。大量の新聞紙をちぎるのは大変そうでしたが、皆で力を合わせて完成させ、家の中に手を入れながら、
「あったかーい!」
「これで大丈夫!」
と大満足な様子でした。

  • 頑張って新聞紙をちぎりました

    頑張って新聞紙をちぎりました

  • サツマイモの家の完成!

    サツマイモの家の完成!

  • サツマイモを家の中に入れてあげます

    サツマイモを家の中に入れてあげます

  • 家づくりの振り返りノート

    家づくりの振り返りノート

もちろん家を作って終わりではなく、毎日のお世話も続けました。それと、同時に子ども達と始めたのが、サツマイモの「あまさメーター」です(どれくらい甘くなったかを自分達で予想しながら、メーターを上げていきます)。サツマイモを料理するまでの間、晴れの日はお日さまの下に、雨の日はサツマイモの家に入れて、頑張ってあまさメーターを上げていきました。振り返りノートからも、「もっと甘くしたい」という子ども達の意欲や日々甘くなっていることへの素直な喜びも感じることができました。

  • お日さまに暖めてもらいます

    お日さまに暖めてもらいます

  • 子ども達と考えた「あまさメーター」

    子ども達と考えた「あまさメーター」

  • あまささメーターもどんどんと上がります

    あまささメーターもどんどんと上がります

  • あまさメーターの振り返りノート

    あまさメーターの振り返りノート

サツマイモ料理計画を立てる

サツマイモを甘くする作戦を続けるのと同時に、サツマイモの料理計画も進めていきました。1年生の子ども達の発達や調理経験を考慮し、教師が料理を決めてしまう場合もありますが、せっかくここまでお世話をしてきたサツマイモなので、自分で作りたいものを決めて食べてほしいと考え、食べたい料理のレシピを家で調べてきてもらいました(1年生でも作れる簡単なレシピになるように、お家の人にも依頼をしました)。

ご家庭の協力もあり、一人2~3点ずつのレシピを調べてくることができ(実際に作った写真つきで紹介されたレシピもありました)、たくさんレシピが集まりました。
料理計画は、
1.お互いのレシピの見せ合いをする
2.作りたいものを1点決める
3.作りたいものが同じ子同士でグループを作る
4.料理計画を立てる
という順で進めました。たくさんレシピがあったので、
「どれもおいしそうで決められない……」
と、子ども達も随分と悩んでいましたが、最終的に、「スイートポテト」「サツマイモマフィン」「シュガーバターやき」「だいがくいも」の4グループに決まりました。

グループが決まれば、あとはグループごとにレシピを書き直し、調理の役割を決めながら計画を進めていきました。また、初めての家庭科室ということで、一度下見に行き、調理の流れなども練習しました。真剣に計画を立て準備をする姿から、ずっと楽しみにしていたサツマイモ料理へのワクワクやドキドキがたくさん伝わってきました。

  • 調べてきたレシピの見せ合いっこ

    調べてきたレシピの見せ合いっこ

  • グループごとに料理計画を立てます

    グループごとに料理計画を立てます

  • 出来上がったサツマイモ料理計画

    出来上がったサツマイモ料理計画

  • グループごとに料理の流れを確認

    グループごとに料理の流れを確認

サツマイモを料理して食べる

あまさメーターもいっぱいになり、待ちに待ったサツマイモ料理の日。この日を迎えるにあたり、サツマイモの甘さやおいしさをより実感してほしいという考えから、朝ごはんをいつもより少なめに食べてくるようにお家の人に依頼していました。そのこともあり、子ども達は朝からサツマイモのことで頭がいっぱいで、期待に胸を膨らませながらサツマイモ料理を行いました。

包丁や火を扱うのでSAさんや用務員さんにお願いをし、各グループに必ず1人の大人が付くようにしました。しかし、自分達で計画を立てたので、
「次は砂糖を入れるんだよ」
と、大人に教えてあげるほど料理の手順もばっちりでした。また、力が必要な所や1年生では危ない所は大人が行いましたが、「自分でやってみたい」という子ども達の思いを大切にし、できるだけ子ども達だけで料理をできるようにしました。サツマイモをつぶしたり、細かく切ったり、苦戦した所もありましたが、どのグループもとってもおいしそうなサツマイモ料理を完成させることができました。

  • 初めての家庭科室で火も使います

    初めての家庭科室で火も使います

  • 出来る限り子ども達だけで調理しました

    出来る限り子ども達だけで調理しました

  • 気になるオーブンの中、待ち遠しい…

    気になるオーブンの中、待ち遠しい…

  • サツマイモ料理の完成!

    サツマイモ料理の完成!

料理が完成したら、それぞれのグループにおすそ分けをし、いよいよ食事タイムです。いつもの給食では、給食調理員さんと給食当番さんに「ありがとう」と言ってから「いただきます」の挨拶をします。そこで、子ども達に
「今日は何に『ありがとう』を言う?」
と聞いてみました。すると、
「作ってくれた友達!」
「それと、手伝ってくれた先生!」
「あと、サツマイモにも『ありがとう』を言う! だって、サツマイモが大きくなったおかげでサツマイモ料理ができたし、サツマイモの命を食べるから!」
と、サツマイモの生命をいただくこと、そして、その生命に感謝して食事をしようとすることが、子ども達の言葉から出てきたことはとても嬉しく感じました。

サツマイモの生命をいただくことを確認したら、皆揃って
「いただきます!」
これまで「サツマイモ大さくせん」を頑張り、この日を心待ちにしていただけに、
「全部おいし~い!」
「甘~い!」
「やっぱり自分達で作ったから、全然味が違う!」
など、パクパクとサツマイモを食べながらとびっきりの笑顔を見せてくれました。

料理後の感想には、
「とっても甘くておいしかったです」
「今まで食べたサツマイモの中で一番おいしかったです」
という味の感想だけでなく、
「皆でお世話を頑張ってきて良かったと思いました」
「お世話を頑張ってなかったら、これだけ甘くなかったと思います」
といった言葉がたくさん見られ、これまでのお世話を振り返りながら、大きな達成感や成就感を得ていることがよくわかりました。

また、
「食べたら元気がいっぱい出てきました」
「食べるとなんだか力が湧いてきました」
「サツマイモは皆を笑顔にしてくれました」
「サツマイモさん、ありがとう」
など、改めてサツマイモの持っている力やサツマイモの生命にも気づくことができているようでした。

  • サツマイモ料理の振り返り「だいがくいも」

    サツマイモ料理の振り返り「だいがくいも」

  • サツマイモ料理の振り返り「スイートポテト」

    サツマイモ料理の振り返り「スイートポテト」

  • サツマイモ料理の振り返り「シュガーバターやき」

    サツマイモ料理の振り返り「シュガーバターやき」

  • サツマイモ料理の振り返り「サツマイモマフィン」

    サツマイモ料理の振り返り「サツマイモマフィン」

単元を終えて

子ども達が自分の興味があることや本当にやりたいと思う活動に夢中になり、没頭していく「遊び」。本単元では、そんな「遊び」のように学ぶ子ども達の姿を目指して、授業づくりを行ってきました。

サツマイモは土の中で生長していくため、変化を感じにくく、子ども達が関心を持ち続けながら関わることが難しい教材ですが、「葉っぱが黄色くなる」「台風が来る」「もっと甘くする」など、様々な課題に出会わせることで、主体的で連続性のある活動へと発展させることができました。課題の解決のために何度も話し合いを繰り返し、試行錯誤をする姿はまさに「遊び」であり、目指していた「遊び」のような学びを子ども達に経験させることができたのではないかと感じています。

また、子ども達はその過程の中で、サツマイモの生長や変化、そして、生命に気づくことができました。さらに、サツマイモへの親しみや愛着心を持ち、サツマイモの生命に感謝をして食事をしようとする心を育むことができたことも大きな成果であったと思います。

「遊び」のように学ぶ子ども達の姿を目指し、今後も子どもの願いや思いを大切にする授業づくりを積み重ねていきたいと思います。

授業の展開例
  • サツマイモは、家庭菜園でも簡単に栽培できます。また、大型のプランターや肥料袋で育てることもできます。栽培に挑戦してみましょう。
  • サツマイモや他の野菜を保存する方法を調べて、実行してみましょう。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員3年目で2年続けての1年生担任。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・藤池 陽太郎/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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