2017.10.18
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オリジナルおせち料理を考えよう 【和食の良さを伝えよう】[小5・学級活動]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第131回目の単元は「オリジナルおせち料理を考えよう」です。

食育と授業:オリジナルおせち料理を考えよう イラスト

11月24日は「和食の日」です。日本人の伝統的な食文化について見直し、和食文化の保護・継承の大切さについて考える日として制定されました。和食文化には、旬の食材を生かす知恵や工夫、節句などの年中行事との関わり、食べ物に感謝する気持ちも含まれています。食の多様化が進んだり、大家族で食卓を囲む機会が減ったりして、和食の存在感は薄くなってきています。そこで、日本の食文化の良さを実感させ、食文化やその知恵を伝えていくことの必要性に気づかせたいと考えた1時間の授業を報告します。

おせち料理を食べる訳

授業の導入では、おせち料理を食べる訳や、込められた思いなどを調べ、全員で話し合いました。子ども達は、おせち料理には家族と共に新年を祝う意味があり、「家族が幸せに過ごせるように」「皆が元気に暮らせるように」「長生きできるように」という願いが込められていることがわかったようです。

こうして本授業は、食育の視点から「おせち料理に込められた願いを考えながら、オリジナルおせち料理で家族と新年を祝おうとする意欲を持つ」という目標で学習を進めました。ここで言う「オリジナルおせち料理」とは、新たな創作料理という意味ではなく、既存のおせち料理の中から各児童が料理の意味や願いを考えながら、独自の組み合わせを選ぶことを指します。

おせち料理の材料や意味

おせち料理の写真を見ながら、込められた意味や願いを知る

次に、おせち料理とその材料に込められた意味について考えました。おせち料理の写真を見て、子ども達はそれらに込められた願いや意味を話し合い、ずっと昔からそれが受け継がれていることに気づきました。そして、
「日本人は昔から“縁起”を大切にしています」
と、子ども達に伝えました。

・海老――腰が曲がるまで長生きできるように。
・数の子――たくさんの卵が入っていることから、子孫繁栄するように。
・田作り――すべての作物が豊かに実るように。
・きんとん――「金団」と書き、お金がたまるように。

など、名前の語呂合わせ、色や形などによって、新年を祝おうとする願いがあることを説明しました。

オリジナルおせち料理を考える

おせち料理の意味を知った所で、今度は自分や家族への願いを込めたオリジナルおせち料理を完成させるため、何を基準に料理を選んだらよいか、家庭科教諭に次の四つの観点からアドバイスをもらいました。

1.自分や家族の好み
2.栄養バランス・色合い
3.食品に込められた思い
4.地産地消

子ども達はこれら4点を基に、料理の写真カードを見て、4種類の料理を選びました。
卒業生が製作したフェルトで作ったおせち料理

卒業生が製作したフェルトで作ったおせち料理

ある児童は「黒豆・海老・きんとん・伊達巻」を選び、ワークシートにそれぞれの絵をバランスよく描きました。それによると、
■きんとん――家族揃ってお金に困らず、
■黒豆・海老――元気で長生きし、
■伊達巻――自分自身も勉強ができるように
という願いを込めたオリジナルおせち料理とのことです。選ぶ際、フェルトで作ったおせち料理(卒業生が家庭科の授業で製作したもの)も参考にしながら、見た目にもバランスよいものにしました。

自分の考えた「オリジナルおせち料理」を発表する

オリジナルおせち料理を発表する

オリジナルおせち料理を発表する

一年の始めに家族とどんなおせち料理を食べたいか、自分の考えたオリジナルおせち料理を説明したり、他の児童が考えたことを聞いたりしました。その中で子ども達は、おせち料理とは、家族と一緒に食べることで「健康で、幸せに、長生きしたい」という祈りを込めた縁起物の料理であり、日本人に受け継がれてきた知恵であることに気づきました。そして、学習のまとめとして、おせち料理の素晴らしさ、わかったこと、思ったこと、また自分にもできることは何かをまとめました。

ある児童の感想です。
「おせち料理は一年の始めに食べる料理として、様々な願いが込められていて、昔の人達の知恵が今に受け継がれています。私にできることは食べ物を大切にするということです。そして、感謝して食べることです。おばあちゃんと毎年おせち料理をこれからも作り続けたいです」。

和食の良さを伝える

学習したことを振り返り、和食の良さを色々な人に伝えるために、国語の時間に「和食新聞」を書きました。新聞には和食が体によいと言われる点、おせち料理の素晴らしさ、我が家のおせち料理をなど、自分なりに絵や写真も取り入れながら工夫してまとめるように声かけをしました。

児童の書いた「和食新聞」

児童の書いた「和食新聞」

授業を終えて、子ども達は「和食の日」があることを知り、それに合わせて学習を始めたことで、和食に興味・関心を持つことができました。そして、おせち料理についても家の人に聞いたり、本やインターネットで調べたりして、おせち料理には無病息災や子孫繫栄の願いが込められていることを知りました。さらに関心を持った子ども達は、家の人と一緒に初めておせち料理に挑戦したようです。また、自分が学んだことを絵や写真も取り入れながら「和食新聞」にまとめたことで、友達や家の人とも交流することができました。

本時学習は、オリジナルおせち料理を絵に描く作業を取り入れたので、時間がかかってしまい、おせち料理の素晴らしさや受け継がれた知恵まで十分には話し合う時間が取れなかったことが課題として残りました。これからも子ども達が和食に関心を持ち、自分達の食生活について考える機会を増やせていけたらと思います。

授業の展開例
  • 「和食の良さを伝えよう」というテーマで総合的な学習の時間や家庭科の時間を使って簡単な調理実習を取り入れることで、学習内容もより深まります。
  • 自分の地域のおせち料理の内容を調べてみましょう。

武本 るみ子(たけもと るみこ)

兵庫県明石市立江井島小学校 教諭
食育研究発表会を本校で開くことをきっかけに食育について学びました。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・武本 るみ子/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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