2017.09.20
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いただきます ごちそうさま 【食と感謝】[小3・道徳]

いただきます ごちそうさま

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第130回目の単元は「いただきます ごちそうさま」です。

いただきます・ごちそうさまの意味

食育と授業:いただきます ごちそうさま イラスト

本学級の児童は総合的な学習の時間に、明石の漁港について調べたり、地元で採れた、タコや枝豆を調理したり、海苔工場を見学したりして、明石の食の恵みに興味を持つようになりました。一方、児童の多くは給食の時間に、明るく元気な声で「いただきます」「ごちそうさま」を言っていますが、校内で行った「食に関する実態調査」から、「いただきます」「ごちそうさま」を何のために言うのか知らず、機械的に言っている児童が4割近くいることがわかりました。

食材豊かな明石に生まれた児童なのに、毎日、食べ物からいただく自然の恵みや、命の尊さを全く感じないで食事をしていることは非常に残念なことです。また、食を支える仕事をする人々が「安心・安全な食べ物を届けたい」「健康になってほしい」「おいしさや、喜びを感じてほしい」などの願いを込め、工夫や努力を続けていることについても、理解を深める必要を強く感じます。

そこで、佐賀県教育センターのサイトで公開されていた授業実践を基に、明石市立江井島小学校の3年生に道徳の授業を行いました。授業は1次「食べることについて考えよう」(1時間)、2次「『いただきます』『ごちそうさま』について考えよう」(2時間)、3次「学習のまとめをしよう」(1時間)という全4時間扱いで行いました。学習を通して、児童が一生涯、料理でつながる命や心を意識し、感謝しながら毎日の食生活を送れることを願っています。

児童はこれまで、地元・明石の食の恵みについて学んできた
児童はこれまで、地元・明石の食の恵みについて学んできた

食べることについて考えよう(第1次)

第1次の授業の前に児童に好きな食べ物、苦手な食べ物についてアンケート調査を行いました。その結果、好きな食べ物は、から揚げ、ステーキ、ハンバーグ、寿司。苦手な食べ物は、ナス、ピーマン、焼き魚ということがわかりました。このアンケート結果を児童に知らせず、好きな料理と苦手な料理を含む複数の写真を掲示しました。
「おいしそう」
「嫌や~」
などと言いながら、児童は興味を持って料理の写真を見ていました。

続けて、料理を食べる時に、どのような気持ちで「いただきます」を言っているのか、思い出させ、ワークシートに記入し、クラス全体で意見交流を行いました。食べ物がテーマなので普段発言しにくい児童も意欲的になり、様々な発言が出てきました。一番多かったのは機械的に「いただきます」を言う児童でした。他には、
「ごく普通にただ、言うだけです」
「めっちゃ好きな食べ物が出たらお店とかでは言わないけど、家では叫びながら言います」
「好きなメニューならうまそ~。嫌いなメニューの時には最悪~」
「おいしそう。早く食べたいなあ」
などの発言が多かったです。食べ物や作ってくれた人への感謝の気持ちを口にした児童も数人いましたが、これらの児童が料理を通じて感謝する相手は、食事の準備をしてくれた家族や給食室の調理員さんがほとんどであることもわかりました。この意見交流により、児童にとっての食の世界は児童の日常生活の範囲で完結し、食事を通じて多くの命や働く人々と自分がつながっていることを意識するまでには至っていないことがはっきりわかりました。

「いただきます」「ごちそうさま」の意味について考えよう(第2次)

第2次の学習は、絵本『いただきまーす!』(二宮由紀子 文、荒井良二 絵、解放出版社)を資料として用い、児童に読み聞かせすることから、学習を始めました。資料『いただきまーす!』は、主人公の子ども達が大好きなハンバーグを前にした所から始まります。おいしそうな匂いや湯気まで漂ってきそうなハンバーグのイラストを見ながら、続けてページをめくると、ハンバーグは生きた牛に戻り、付け合わせの野菜も畑から掘ったままのニンジンやジャガイモに戻ってしまいます。本資料はここで、「こんなだったらどうする?」と読者に問題を投げかける展開になっています。ここで児童は、ふと我に返り、自分達がこの問題を考えていく主人公なのだという当事者意識を持って続きを読み進めることができるのです。

さらに、資料では、食材が辿ってきた道筋を辿りながら、野菜を育てる人、肉を解体する人、ニワトリを育てて卵を採る人、食品を運ぶ人、食品を販売する人、調理する人など、たくさんの人間が携わっていることがわかりやすくまとめられています。食物連鎖についても、触れられており、児童に一皿の料理に込められた人々の苦労や努力、命のつながりについて考えるきっかけを持たせるのに適した資料だと言えます。

授業の始めに、機械的に「いただきます」を言っている人が多いことに触れ、今日は『いただきまーす!』という絵本を使って「いただきます」の意味を学習することを知らせ、学習の見通しを持たせました。読み聞かせは、絵本の挿絵が見やすいように大型テレビに映しながら行いました。

読み聞かせの後、
「絵本ではハンバーグが牛やジャガイモに戻ってしまいました。誰が、どんな仕事をしたら、おいしいハンバーグが食べられるのでしょうか?」
という問いを投げかけました。ここで自由に発表をさせながら児童の発言をつなぎ、ハンバーグができるまでの過程を振り返ることを狙っていました。予想通り、児童は料理を作る仕事には、すぐ気がつきました。先にも述べたように、児童が普段から家族や給食の調理員さんが料理をしている姿を目にする機会が多いからだと思います。しかし、野菜や家畜を育てる人、肉を解体する人、食べ物を運ぶ人、食べ物を売る人など、目にする機会の少ない仕事には、なかなか気がつかず、
「野菜や肉はどこからやってくるのですか」
と補助発問を投げかけると、考えやすくなったのか、
「農家の人が野菜を育てて畑から掘ってくれている」
「工場の人が牛を肉に解体している」
「ニワトリを育てて卵を集める人がいる」
「野菜をトラックで運ぶ人がいる」
「卸売市場に運んでせりをする人がいる」
など社会科で学んだことにも言及し、意欲的な発言が続きました。黒板に一皿のハンバーグに関わる人々のカードが増えていくにつれ、
「あ~」
「ほんまや~」
「へえ~」
と言いながら、一皿のハンバーグに、こんなに多くの人々が関わっていることにびっくりしていました。

この後、
「食べ物を作っている人はどうして一生懸命に仕事をしているのでしょうか」
という問いを投げかけました。児童からは
「安全な食べ物を作ろう」
「食べて元気になってほしい」
「おいしい野菜だから新鮮なうちに届けよう」
「おいしいと喜んでほしい」
などの発言が出たので、食べ物に携わる人々の願いを想像することができたと思います。ある児童からは、
「ミート工場の人が『牛さん、命をもらってごめんね。肉を食べる人は大切に食べてほしいな』と思っている」
という意見が出され、人間が生きるために死んでくれた動植物の存在や尊い命に感謝することの大切さを児童が感じてくれたことをうれしく思いました。

学習のまとめをしよう(第3次)

この後、学習のまとめとして「いただきます」は、料理を作ることに携わった、たくさんの人々の思いや、動植物の命をいただくことであり、「ごちそうさま」は漢字で「御馳走様」と書き、料理を作るために走り回ってくれた人々への感謝の気持ちであることも押さえました。全4時間の授業を終えた後の子どもたちの感想には、
「これまで何も考えず、『いただきます』や、『ごちそうさま』を言っていたけれど、これからは感謝の気持ちを込めて言いたいです」
「作ってくれた人や、命をくれた動物に感謝したいです」
「料理を作るお母さんには感謝していたけれど、野菜を育ててくれた農家の人や野菜を運んでくれたトラックの運転手さんにも感謝したいです」
など、授業の狙いを捉えてくれていました。

挨拶の言葉の変化

今回の学習の成果として、給食の挨拶の仕方が目に見えて変わりました。これまで、機械的に「いただきます」「ごちそうさま」を言うだけだった給食係の児童が
「今日はアサリの命が入っているチャウダーです。残さず食べましょう」
とか、
「今日の回鍋肉は農家の人が一生懸命育てた明石のキャベツ入りです」
などと一言添えて献立の紹介をするようになり、他の児童も食べる前に感謝する相手を頭に浮かべながら「いただきます」「ごちそうさま」を言えるようになりました。子ども達の心に湧き上がった感謝の気持ちをこれからも大切にし、授業実践を積み重ねていきたいです。


※本事例は「佐賀県教育センター平成18年度プロジェクト研究:『食べる力』をはぐくむ食育授業の研究」の「いただきます・ごちそうさま」を参考にしました。

学習成果は、給食の挨拶の変化や、空っぽになったバット・食缶・パン箱に表れた

学習成果は、給食の挨拶の変化や、空っぽになったバット・食缶・パン箱に表れた

青木 あかね(あおき あかね)

兵庫県明石市立江井島小学校 教諭
兵庫県食育推進研究指定校で、「ちょこっと食育」を取り入れた、様々な教科での食育を実践中である。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学文学部教育学科 専任講師 小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・青木 あかね/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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