2017.04.19
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たこ焼きがなくなる日 【食と世界】[小6・社会科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第125回目の単元は「たこ焼きがなくなる日」です。

食育と授業:たこ焼きがなくなる日 イラスト

日本の食料自給率(カロリーベース)は、最新値(平成27年度)で39%となっています(出典:農林水産省Webサイト)。先進主要国の中でも最低の水準です。ただ、子どもは39%と言われても実感が湧きません。

そこで、身近な食べ物である「たこ焼き」を取り上げ、たこ焼きに使われている食材の食料自給率を通して、食料自給率の低下によって起こる問題について実感を持たせたいと考えました。たこ焼きの食材やその自給率の現状への理解を通して、私達の食生活と食料自給率との関係について考えることを目指した1時間の授業です。本コーナーの監修者・藤本先生が西宮市内の小学校で飛び込み授業をした様子を紹介します。

たこ焼きの絵を描く

授業の冒頭、黒板に「たこ焼き」と書きます。「たこ焼き!?」と子ども達から驚きの声が広がりました。
「皆、たこ焼き知ってる?」
と聞くと、
「知ってるー!!」
の声。
「たこ焼き作ったことのある人?」
と聞くと、多くの手が挙がります。さすが関西の子です。
「では、たこ焼きの絵を描いてください。A4の紙を横にして、たこ焼1個を描いてね。色までは塗れないよ」
と説明して、各班に1枚の紙を渡します。たこ焼きを作ったり、食べたりしたことがある子ども達です。たこ焼きの絵を描きながら、
「かつお節はどうする?」
「ソースいるよ! かけないと!」
「つまようじは、刺す?」
と、賑やかに皆のイメージするたこ焼きを整理しているようです。

子ども達が描いた6個のたこ焼きの絵を黒板に貼ります。
「船、描いてる!」
と、たこ焼きを入れる容器を描いている絵を指差して喜んでいます。

たこ焼きに使われている食材を考える

「たこ焼きは何の材料を使って作りますか? これだけは必要だという材料を教えて下さい」
と聞くと、子ども達から、マヨネーズ、小麦粉、キャベツ、タコ、卵、ネギの意見が出てきました。子ども達の発表に合わせて、食品の写真を黒板に貼っていきます。
「皆、大事なものを忘れているよ。今言ってくれた材料だけでは、混ざらないよ」
と指摘すると、
「水だ!」
の声。
「今日はたこ焼きを作るのに必要な水・小麦粉・タコ・卵・ネギについて考えていきます」
と確認しました。

「たこ焼き図」で自給率を考える

児童の描いた6個のたこ焼き(黒板左)、藤本先生の描いた「たこ焼き図」黒板右上

児童の描いた6個のたこ焼き(黒板左)、藤本先生の描いた「たこ焼き図」黒板右上

「水・小麦粉・タコ・卵・ネギを使って、先生が作ったら、こんなたこ焼きになりました」
と言いながら「たこ焼き図」を黒板に貼ります。
「ぐちゃぐちゃだよ」
「形が変だ」
と、子ども達からの反応。そこで、
「どうしてこんなぐちゃぐちゃな形のたこ焼きになっちゃったと思う?」
と聞くと、
「ひっくり返し方が下手なんだ」
の答え。
「なるほど。でも、ひっくり返せないんだ」
と返します。
「皆、よくたこ焼き作ってるんだね。先生が作ったたこ焼きも、皆が作るたこ焼きと同じレシピで作りました」
と言いながらレシピを示します。

たこ焼きのレシピ 表

「なぜ、たこ焼き31個分になっていると思う?」
と聞くと、
「クラス全員の分」
の意見。
「そうですね。先生の分も入れると一人1個で31個分。このレシピ通りに作ったのに、なぜかこのように(たこ焼き図を差しながら)なってしまいました。どうしてかな?」
この問いに子ども達は一生懸命考えているようですが、難しかったようです。誰からも意見が出なかったので、
「5年生の社会科の学習で習ったことに関係します」
と説明しました。5年生の社会科の教科書の食料自給率のグラフを示して、
「この自給率を基に作ってみました」
と話します。一部の子は、わかったようですが、まだまだなるほどとは思えないようなので、5年生の学習の復習をします。「自給率」と書かれたカードを黒板に貼り、
「国内で消費した量に対して国内で生産された量を割合で表したもの」
と確認します。続いて、米78%、魚貝類51%、肉類53%、野菜79%と、自給率のグラフを読み取っていきます。
「自給率の高い食べ物は?」
の問いに、子ども達は
「お米」
の答え。また
「自給率の低い食べ物は?」
の問いには、
「大豆、小麦」
と子ども達から答えを引き出しながら、自給率の内容を確認していきました。

たこ焼きに使われている食材の自給率を話し合う

今度は、たこ焼きに使われている食材の自給率は、どれくらいか話し合います。水は100%、小麦粉は7%と説明した後、子ども達からは、
「タコは魚介類なので50%くらい、でも明石のタコって聞いたことがあるからもう少し高くて70%くらい」
といった意見が出てきます。また、
「ネギは野菜なので80%くらい、卵は外国産のものってスーパーで見たことがないので90%くらい」
といった意見も出てきました。

ここで、たこ焼きに使われている食材の食料自給率のグラフを発表します。なお、タコの自給率については、「財務省貿易統計(輸入) 平成26年 水産物 たこ(活・生・蔵・凍)」(出典:農林水産省Webサイト)と、「平成26年漁業・養殖業生産統計(概数値)Ⅰ海面漁業 2.大海区都道府県振興局別魚種別漁獲量(平成26年概数値)」(出典:農林水産省Webサイト)を基に算出しました。


子ども達が驚いたのは卵の自給率が、9%ということです。鶏自体は国内で生産されていますが、エサは輸入に頼っているため自給率は低いのです(出典:農林水産省Webサイト )。もしもエサの輸入が止まったら、卵が作れなくなってしまいます。こうして、子ども達はたこ焼きに使われている食材は多くが輸入されているものだと気づきました。

自給率からたこ焼きに使える食材量を計算する

自給率から食材量を計算

自給率から食材量を計算

自給率を具体的にイメージさせるため、たこ焼きを作るデモンストレーションを行います。
「水は、自給率100%なので600cc使えます。ネギは、2本のうち91%の自給率なので、2本×0.9で1.8本使えるね。卵は、9%の自給率なので0.27個」
と黒板に計算していきます。

班ごとに小麦粉とタコの量を計算

班ごとに小麦粉とタコの量を計算

残りの小麦粉とタコについては、ミニホワイトボードを使って各班で計算します。自給率を反映した食材量の計算は、算数の割合の学習を活用した内容となりました。子ども達は、
「小麦粉200gなので自給率7%で14g使える」
「タコは160gなので自給率46%で73.6g使える」
と発表しました。

たこ焼きの食料自給率から考えたことを話し合う

自給率たこ焼きのレシピ 表

「日本でとれる食材だけでたこ焼きを作ると、つまり自給率の割合だけで作ると、こんなたこ焼きになってしまうのです」
と話しながら、「自給率たこ焼きのレシピ」を黒板に貼ります。

それから、ペットボトルに600ccの水を入れ、そこに14gの小麦粉を入れます。白い絵の具を溶かしたような状態でとても固まりそうにありません。子ども達はびっくりしています。

次に、授業の冒頭、黒板に書いた「たこ焼き」の文字の後ろに「が    日」と書かれたカードを貼ります。
「先生は、いつかこんな日が来ると思います。どんな言葉を皆は入れますか?」
と聞きました。子ども達は、
「作れない日」
「おいしくなくなる日」
「大阪名物がなくなる日」
「まずくなる日」
という意見を発表しました。

食育と授業:たこ焼きがなくなる日 板書

そこで、「○○○る日」と書かれたカードを示すと、
「あ、なくなる日」
と子ども達がつぶやきました。

最後に、次のような話をして終わりました。
「日本の食料自給率が低い理由には、戦後、食の洋風化が進んだことが挙げられます。ごはん中心の食生活から副菜の割合が増え、肉や乳製品、卵といった畜産物の消費が増えました。お米は、自給可能な作物ですが、畜産物の生産に必要な飼料作物は海外から輸入されています。ご飯を中心にバランスの良い食事を心がけることが自給率の向上につながります」。

授業の展開例
  • うどんやカレーなど普段食べている料理の自給率を調べてみましょう。
  • 自給率を高めるためには、食品ロスをなくすことも大切です。他にはどんなことができるか調べてみましょう。

松井 香奈(まつい かな)

武庫川女子大学大学院在籍中。教育学の研究の傍ら、ワークショップを取り入れた楽しみながら学ぶ食育の授業プラン作成にも取り組んでいる。現在、「宇宙食」をテーマにした食育プランを開発中。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・松井香奈/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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