2013.03.19
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【先生たちの復興支援】さいたま市立東宮下小学校 教諭 菊池健一さん(第2回) 「新聞スクラップで東日本大震災の現状に迫る」

今回は、埼玉県のさいたま市立東宮下小学校 教諭 菊池健一さんの授業実践です。

3月11日で東日本大震災から2年を迎えます。この大地震でさいたま市の子どもたちも被害に見舞われました。ある小学校では校舎にひびが入り、他校の校舎を借りて授業を行わなければならなくなりました。また、大きな被害は受けなくても、スーパーに商品が少なくなり、なかなか欲しい物が買えなかったりしたことは全員が経験したと思います。

しかし、震災から2年が過ぎ、私の担任しているクラスの児童の中では、震災がもう過去のものになりつつあることを感じました。そして、そういう私自身もどこかで震災を自分の生活とは切り離されたものとして考えていることに気が付きました。子どもたちにももう一度震災を「自分事」として考えてもらうために、被災地に関する新聞スクラップを行ってみることにしました。

ある新聞社で被災地の現状についてのレポートが連載されていました。記事には大きく印象的な被災地の写真が掲載されていました。そして、記事自体はコンパクトに、そして被災された方に視点を当てた書き方をしているので、児童にとって大変読みやすく、理解しやすい内容になっていました。

最初に読んだ記事は宮城県の南三陸町を取り上げたもので、津波で鉄筋だけになってしまった庁舎の写真が大きく掲載されていました。そして、震災を忘れないためにその鉄筋を壊さないようにするか、悲しみを忘れるために取り壊すかということが議論になっていることが書かれていました。これを読んで、子どもたちは、

「私は東日本大震災は、みんなが人を亡くしてものをなくして、かなしいきもちだから、壊した方がいいとおもいました。人はずっとみつからないのはかわいそうだと思う」。

「わたしはつなみにあったことがないので、ゆくえふめいになった人がほかにもいるのかなと思いました。わたしはつなみのおそろしさをあじわったことがないから、『流されてもどってこられないのかな?』とか思ってたけど、その深さにおどろいてこわく思えてきました」。

「私はこのたてものはこわしたほうがいいと思います。かなしみを思い出すのはつらいので、こわしたほうがいいとおもいます。でも、こわさないのもいいと思います」。

「私はこの記事を読んで取り壊した方がいいと思ったんですけど、やっぱり津波で流された人を忘れないように、鉄筋を残しておいたほうがいいとおもいました」。

「いろいろな問題になっていて、こわすかのこすか、どっちかはすぐに決まらなくて大変だと思いました。わたしは、こわしたほうがいいと思いました。理由はそこでいろいろな人が亡くなったからなくしたほうがいいいと思います」。
(以上、原文ママ)

という、感想を述べていました。子どもたちが自分の言葉で考えを述べられていたのが印象的でした。

次に読んだ記事は、岩手県の大槌町の記事で、壊れてしまったふれあいセンターにたたずむおじいさんの写真が大きく掲載されています。震災当時、センターにいた人を先に避難させて、自分はぎりぎりのところで助かったこのおじいさんが、これからもう一度活気のある町にしたいという決意を述べている記事が書かれていました。児童は、

「このおじいさんは、まわりの人たちを守るという気持ちがとってもあると思います。わたしだったら自分のことを守ることがせいいっぱいだからです」。

「おじいさんは人を守るためにあぶない目にあったのでいい人だとおもいました。あと、一日中やねのところにいるのがすごいと思いました」。

「このおじいさんは、みんなをひなんさせて、自分もひなんできてすごいなあと思いました」。

「この人は、みんなの命を救って、自分もききいっぱつですごいなあと思います。わたしだったら、みんなをにげさせてからつなみがきたら、きょうふで逃げられないと思います」。
(以上、原文ママ)

という感想を述べていました。やはり、自分よりも他の人を先に避難させたこのおじいさんはすごいという感想が多かったです。

最後に読んだ記事は、岩手県釜石市の記事で、お母さんとお兄さんを亡くした5歳の女の子が、二人がなくなった場所に「はやく帰って来てね」と書いたお手紙を添えている写真が大きく掲載されています。子どもたちは、

「風音ちゃんは本当のことを知っているのでしょうか。知らないで待っているのもつらいけれど、本当のことを知っても、つらいと思います。私が風音ちゃんだったらとても悲しくてなみだがとまらないと思います。風音ちゃんとお父さんにこのことを乗り越えてもらいたいです」。

「ぼくは、じいちゃんを亡くしているけれど、いっきに2人は悲しいし、つらいし、たえられないと思う。ぼくとおなじ4人家族だから、もしも、自分がおなじじょうきょうだったらかなしくてたえられない」。

「かえらぬ人なのに風音チャンは、生きていると思っていて、(お母さんとお兄ちゃんが亡くなったことが)分からないまま育つのがかわいそう。お兄ちゃんの涼斗くんをうしなった風音ちゃんはさみしいと思います。僕が弟をなくしたら大なきすると思います」。

「風音ちゃんはまだ小さいから死ぬっていうことが分からないから、『お母さん、お兄ちゃん、はやくかえってきてね』と待ち続けているなんてかわいそうだなと思いました。私はもう死ぬということが分かるので家族などが死んでしまうととても悲しいです」。

「私が風音ちゃんだとしたら、同じようになってしまうと思います。お母さんとお兄ちゃんがいきていたら、私だったら早く会わせてあげたいと思います。風音ちゃんに本当のことを言ったら、すごくかわいそうだと思いました」。
(以上、原文ママ)

と、感想を述べていました。自分の妹ぐらいの歳の女の子が、大好きなお母さんとお兄さんの二人を亡くしてしまったことを自分事として捉え、自分だったらどうだったかという気持ちで感想を書くことができました。

今回のスクラップを通して、児童は被災地の現状に目を向けることができました。この活動が呼び水となって、これからも被災地の現状を示した情報を積極的に得ていくようにしてほしいと思います。そして、もう少し成長したら、自分にできることを考えられる人になってもらいたいと願っています。

文・写真:菊池健一

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