2015.11.20
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むやみにグラフをかかせるな! 算数科6年「資料の調べ方」の実践 前編

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

  

児童の将来に役立つ統計教育を!

 

「資料の整理と読み」は、「D数量関係」領域に属す内容で、数量関係領域は、指導要領の改訂に伴い、低学年から設けられるようになり、その充実が図られています。

それは、言葉や数、式、表、グラフなどを用いた思考力・表現力を重視するためです。

低学年においても簡単な表やグラフを用いて身の回りに起こる事柄や場合を調べたり表したりする内容を経験し、中学年では、資料を分類整理し、表や折れ線グラフを用いて分かりやすく表したり特徴を調べたりする活動をします。さらに、第5学年では、資料を表、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、帯グラフに表したり、読み取ったりすることに取り組みます。

第6学年では、資料の代表値としての平均や度数分布の表、柱状グラフを取り扱うなど、統計的な考察をしたり表現をしたりする能力を伸ばすことをねらいとして、「資料の調べ方」の単元が設定されています。

 

最終学年の第6学年。今までの知識を総動員して、子供達が本気で取り組む統計教育を行いたい!ですよね。

 

でも、心配があります。

それは、第6学年までに、子供達がどれほどの目的意識を持ってグラフや表の学習に取り組んできたかということです。

 

棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ・・・グラフ指導を行う際、教師がグラフをかかせることばかりに、重点を置いていませんか?

本当は、統計的な考え方や方法を指導する中に、グラフという手段を教えるはずです。

もしくは、統計的な考え方や方法を指導していたとしても、子供自身が、グラフや表をかくことに慣れるのが精一杯で、その目的意識が薄れていくという可能性も考えられます。

 

既習事項とは、新鮮な再会を・・・!

だいたいの教科書は、既習事項の復習を行ってから単元の導入を行うページ構成になっています。既習事項を復習したり、プレテストなどで理解度を測ったりすることは大切なことです。しかし子供の「本気で学ぶ心」をゆさぶるでしょうか。

既習事項と新鮮に再会させ、単元への意欲を高めたいものです。

4年生で折れ線グラフを学んだ子供達。1日の気温の変化を取り扱い、折れ線グラフを学びました。そこで、折れ線グラフに新鮮に再会させるために、一日の気温のデータなのに、棒グラフと円グラフにしたものを提示。

すると、子供達は大騒ぎ。

「えー!円グラフは、おかしい!」

その理由をたずねます。すると、

「円グラフは、割合を表している。全体のどれくらいかがわかるようになっている。だから、円グラフは・・・。」「そうそう!おかしい!!」

「棒グラフは、量として見える。温度は量じゃないし、変化としてわかりにくいよ。」「あ、なるほど。」

「やっぱり、一日の温度の変化をみるんだから、折れ線グラフがわかりやすいな!」

 

練習問題で個々に復習をさせることが有効な場合もありますが、新鮮に既習事項と再会させることにより、かくことが目的だったグラフ指導を覆し、グラフは、資料ごとに適したグラフを選択するものという概念に変化させるのです。

既習事項とは、新鮮な再会を演出しましょう。

 

むやみにグラフをかかせるな!

教科書で「資料の調べ方」の単元は、以下のような流れになっていることが多いです。

あるデータが提示され(今回は、ある2つのクラスのソフトボール投げの記録)平均値で比較、分析。その後、散らばりを数直線にかく。そしてまた、分析する。それを、柱状グラフのかき方を学び、かく。そして、さらに分析

つまり

分析→かく→分析→かく→分析

この単元構成、柱状グラフをかくことはできるようになるかもしれません。でも、これで子供の心は動くでしょうか。本気でグラフの傾向を読み取り、集団の特徴を考えようとするでしょうか。

そもそも、初めて柱状グラフをかくと、子供は、グラフを仕上げることに集中したくなって当たり前。かきたいとも思っていない中で、急に先生から「柱状グラフという便利なものがあって、棒グラフとは少しちがっているよ。ほら、柱状グラフにすると見やすくてとっても便利でしょ、使いなさい。」と、押しつけられ、その上、やっと柱状グラフがかけたと満足するのも束の間。「グラフを分析しましょう。」と言われる。

これで子供達は、本気でグラフを読み取ろうとするでしょうか。答えは、いわずもがなNO!でしょう。

 

そこで、全8時間のうち、始めの4時間(半分)は、グラフの分析のみ行いました!

柱状グラフについても取り上げ、分析を行いました。子供達は、「棒グラフ2世くん」と名付け、その良さを味わい、「早くかいてみたい。」と感想を漏らす子も登場。いえいえ、まだまだ、柱状グラフは、かかせませんよ。

 

文科省のホームページから、全国のスポーツテストの平均を取り上げ、比較しました。昭和60年度の11歳と平成25年度の11歳(まさしく自分たちもその一人!)のスポーツテストの各種目を分析するのです。

大きなデータを取り扱う時、平均はたいへん便利です。その便利さを味わいながら、分析を行いました。何せ、自分達も25年度に11歳でしたから、切実です。

「平均が下がってきているのは、遊びが変化しているからだと思う。だから、下がってきている種目を体育で取り入れたらいいと思う。」

「ソフトボール投げや50m走は平均が下がってきているけど、反復横跳びは、平均が伸びでいる。全部の体力が落ちていると思ったけど、よく見ると、全てのスポーツが落ちてきているのではないんだなと思いました。」

 

データをよく見ことが大切であることを実感。

何より、資料(データ)は、分析して、これからに生かすという姿勢を獲得したのです。

 

大切なのは、できるか、できないかじゃない!

動くか、動かないかだ!

舞台は整いました。

データを分析するために、適したグラフや表を取り扱うこと。

平均は、集団の特徴を考えるのに非常に便利な代表値であるということ

を味わった子供達。

資料を表すのに、散らばりや「棒グラフ2世くん(柱状グラフ)」なども知り、これらの新しいアイテムを用いて、分析も行うことができるようになっています。

さあ、1組と2組のソフトボール投げの記録を分析しましょう。

さてさて、どのようにすれば、できるようにするだけの授業ではなく、子供が自ら「動く授業」となるのでしょうか。

どんな課題に?

どのような活動に?

続きは、次回の後編でお話致します。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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