2014.07.22
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

19th New Education Expo 2014 in 東京 現地ルポ(vol.4)

19th New Education Expo 2014 in 東京 現地ルポ(vol.4)

「New Education Expo 2014 in 東京」が6月5~7日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。4回目の現地ルポで紹介するのは、普通教室へのタブレット端末導入をケース別に考察するセミナーと、最先端のICT機器による教室環境が体感できる展示ゾーン「フューチャークラスルーム(R)」だ。同ゾーンは来場者の高い関心を集め、常に黒山の人だかり。セミナーでは参加者たちが熱心に耳を傾け、積極的に質問する姿も見られた。

タブレット端末導入から「未来の教室と学び」を考える

徹底討論:タブレット端末導入
ケース別活用の実際と課題
~学校独自購入、町ぐるみの展開、全校生徒1人1台、個人所有で何がどうちがうのか~

【コーディネータ】放送大学 教育支援センター 教授……中川 一史 氏
厚木市立相川小学校 校長……中川 洋太 氏
松阪市立三雲中学校……楠本 誠 氏
千葉県立袖ヶ浦高等学校……永野 直 氏
熊本県教育庁 教育政策課 指導主事……山本 朋弘 氏

タブレット端末導入で変わる学びのあり方

放送大学 教育支援センター 教授 中川 一史 氏

文部科学省が「教育の情報化ビジョン」を掲げてから、はや3年。国の指定校や一部の私立学校に限られていたタブレット端末の導入は、自治体や公立学校へと広がり、独自の導入ケースも見られるようになった。本セミナーは、タブレット端末導入における典型的な四つのケースの利点や課題を明らかにし、これから導入を図る教育現場への一助にしようというものだ。

登壇者の講演に先立ち、進行役を務める放送大学教育支援センターの中川一史教授から、タブレット端末の導入が授業でのICT活用にもたらしている変化についての報告があった。

中川教授が考えるタブレット端末の活用の特徴は、「個々のペースや学習活動に合わせて使用できる(Personal)」「小型で持ち運びがしやすい(Compact)」「1台で色々なことができる(All in one)」「情報を共有できる(Platform)」の四つ。これらの特徴によってICT機器の使い方が広がり、従来とは全く違った授業が行えるようになっているという。
「主に教師が教材の提示に活用してきたデジタルテレビや電子黒板とは異なり、タブレット端末は児童生徒の考えを深めたり広げたりするためにも活用され、子どもたち自ら操作する機会も増えてきています。これからは“教員がICT機器をどう使うか”ということに加えて、“児童生徒にどう使わせるか”が議論されていくでしょう」(中川教授)。

【学校独自購入】スムーズな導入・運用でICT活用頻度が向上

厚木市立相川小学校 校長 中川 洋太 氏

神奈川県の厚木市立相川小学校は、中川洋太校長が教育論文を書いて得た賞金で2台のタブレット端末(iPad)を購入。併せて導入した大型デジタルテレビとマグネットスクリーンに、既存のプロジェクターや教員個人所有のiPadを組み合わせ、ICTを活用した授業を実践している。

タブレット端末導入の効果はすぐに表れ、わずか1年の間に普通教室でのICT活用頻度は飛躍的に高まったという。その要因を中川校長はこう分析する。
「これまで準備に時間のかかっていた教材の拡大表示等がタブレット端末を使えば一瞬で実現できることを、研修で先生方に示したのは大きかったと思います。さらに、マグネットスクリーンを各クラスに、大型デジタルテレビを体育館に常設し、先生方がすぐに授業に入れる環境を整えたことも重要なポイントです」。

導入から運用までの流れがこれほどまでにスムーズなのは、1学年1クラスの小規模校のこともあるが、大きく影響しているのは、「使いたい機種やアプリをすぐに入手して自分たちで管理できる」という学校独自購入ならではのメリットだ。しかし、行政による整備ではないことで「校内LANへの接続許可が下りない」「機器の更新や修理費用の捻出が困難」といったデメリットもある。中川校長は、「長期的な実証研究には行政の力が必要」だとし、「自校での実証結果をもって行政に提案すること」が今後の展開のカギになるとした。

【町ぐるみの展開】地域・学校・行政の三者一体による取り組みがカギ

熊本県教育庁 教育政策課 指導主事 山本 朋弘 氏

熊本県の高森町は、県が市町村単位で公募している研究推進校に名乗りを上げ、2012年度から町内の小中学校4校共同で普通教室におけるICT活用の実証研究に取り組んでいる。同町が掲げる教育プランのもと、授業改善や学力向上につながるICT活用を目指すもので、「ICTありき」ではない点が大きなポイントだ。

現在、高森町では1人1台のタブレット端末環境がほぼ整い、効果的な活用事例や失敗事例を整理・抽出する段階に入っている。このように順調に進んだ理由として、同町の指導・支援に携わる熊本県教育庁教育政策課の山本朋弘指導主事は、次のように述べている。
「一番のポイントは、校長先生同士がICT活用への共通理解を深める場を設けたことです。また、教員の研修では地域や行政の方々を招いて研究の共有化を図っています。こうした地域・学校・行政が足並みを揃えるための工夫も重要です」。

町ぐるみの展開のメリットは、「ICT活用を地域の教育プランに反映できること」「研修が進めやすく、浸透しやすいこと」「導入から運用までの流れがスムーズであること」の3点。一方、デメリットは「教育委員会にICT管理の負担」があることで、 高森町では教育委員会内に学校のICT活用をサポートするICT補佐官を置き、負担の軽減を図っている。また、異動による教員の入れ替わりにも対応できるよう、「各学校でリーダーを育成すること」も今後の課題だとしている。

【全校生徒1人1台】教員のICT指導力育成が絶対的なベースに

松阪市立三雲中学校 楠本 誠 氏

三重県の松阪市立三雲中学校は、2011年度から2013年度までは国のモデル校として、今年度からは市の助成により、生徒1人1台のタブレット端末(iPad)を活用した授業を実践している。

夢のようなICT環境が整備された同校だが、導入時はタブレット端末を持っている教員はおらず、情報教育に関する研究を行ったこともないという、いわばIT不毛地帯だった。すべての教科でタブレット端末が効果的に取り入れられ、生徒会選挙の電子投票にまで活用されている現状からは想像もできないが、ICTの活用は当時の彼らにとって「ゼロからの挑戦」に等しいものだったという。
「不安を口にする先生も多かったので、導入前に先生方の不安解消に取り組み、運用前には全体や教科別での研修を行いました。ここで十分にタブレット端末に触る時間が取れていなかったら、私たち教員はデジタルネイティブの生徒たちに太刀打ちできなかったでしょう 」
と、同校の楠本誠教諭は振り返る。

国による一斉導入であるため、ここでは活用面での成果と課題が紹介された。主な成果は「個に応じた学びの提供」と「学びの振り返りの促進」で、今年度からはタブレット端末による持ち帰り学習にもトライしているという。課題は多台数PCの一斉起動に耐えうるネット環境の整備やデータの保存先といった「環境・活用面での管理」と「端末の使用ルールの徹底」。持ち帰りの際の充電や端末の修理費の負担など、今後、学校と家庭で話し合うべき課題も見えてきている。

【個人所有】コストをかけずに継続的な導入が可能

千葉県立袖ヶ浦高等学校 永野 直 氏

千葉県立袖ヶ浦高校は、2011年度に情報の専門学科が創設されたのを機に、同科において生徒の個人所有による1人1台タブレット端末(iPad)環境を実現している。個人所有による導入に踏み切ったのは、県の予算での導入がかなわなかったためだというが、今ではその利点を実感することが多いという。「導入前に地域の中学校を回り、専門学科へ入学する際にはiPadを購入する必要があることをしっかりとお伝えした」(同校・永野直教諭)ことで、保護者にも問題なく受け入れられているそうだ。

導入にあたっては、iPad用の無線LAN環境のみ県が整備し、プロバイダ契約や電子黒板などの費用は学校が負担。教員用のiPadは各自が自費で購入した。生徒が用意するのは、最新モデルのiPad(9.7インチ)と本体保護カバー。アプリも生徒の自費購入となるが、現在は無料で使えるものも多く、購入しなければならないケースはほとんどないという。

個人所有による導入の最大のメリットは、学校側のコスト負担が少ないために「継続的な導入が可能」な点だ。「常に最新の機種が使える」「反転学習の可能性が広がる」等、他にも利点は多いが、「基本的なフィルタリング以上の制限・管理がしにくい」「盗難・故障・破損への対応が難しい」といったデメリットもある。また、いずれは生徒の嗜好や家庭の事情への配慮も必要になるとして、永野教諭は「マルチOS対応の環境整備」を将来的な課題に挙げている。

四つのタブレット端末導入ケースを見ると、自分たちに最適な導入形態を見出すことが、ひいては効果的、長期的なICT活用へとつながっていくことがわかる。メリット・デメリットはもちろん、導入にあたって乗り超えたハードルや実践している施策、その先に見据えた目標など、それぞれの現場から届けられた生きた情報は、これから導入を目指す自治体や学校の貴重なヒントになることだろう。

展示ゾーン

ジンベエザメを実寸大で表示した圧巻の3面マルチスクリーン

最先端のICT機器による教室環境を提案する内田洋行の展示ブース「フューチャークラスルーム(R)」には、今年も多くの来場者が詰めかけた。昨年はタブレット端末と電子黒板を連携させる授業支援システムに注目が集まっていたが、今年は壁一面を覆う3面マルチスクリーンにスポットがあてられていた。

教員の意見を反映し、より使いやすく進化した充電保管庫

3面マルチスクリーンは、全面をワイドに使って大きく資料を表示したり、3面それぞれに異なる画像を表示したりすることができ、タッチペンでの書き込みも可能。電子黒板との連携により 実寸大で画像を表示することもできるので、実物大のジンベエザメと児童生徒の身長を比較するといった体感型の学びが実践できる。

算数の模擬授業では、この3面マルチスクリーンと電子黒板、参加者に1人1台ずつ配られたタブレット端末を連携させ、クイズ形式のグループ学習が行われた。参加者全員のタブレット端末の画面をスクリーン全面に一覧表示して作業の進行を確認したり、参加者の解答を各画面に表示して比較したりと、機能が実演されるたびに、参加者は興味津々でタブレット端末の画面とスクリーンを見比べていた。

3面マルチスクリーンとタブレット端末を連携させて行ったグループ学習

3面マルチスクリーンと電子黒板は、その機能もさることながら、操作が簡単な点もポイントだ。 画面のズームアウトや過去の表示画面の提示、タブレット端末画面の表示等、あらゆる操作をタッチ一つで行うことができ、動作が滞ったりすることもない。これなら、ICT を活用した授業での教員のストレスは大きく軽減され、児童生徒の集中を削ぐ事態も避けられることだろう。参加者たちも集中して作業に取り組み、プレゼンターとの双方向のコミュニケーションを楽しんでいた。

写真:赤石 仁/取材・文:吉田秀道、吉田教子

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

pagetop