2014.06.24
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19th New Education Expo 2014 in 東京 現地ルポ(vol.1)

「New Education Expo 2014 in 東京」が6月5~7日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。梅雨入りの大雨で関東各地に大雨警報が発令される悪天候にもかかわらず、今年も全国各地から大勢の教員や教育関係者が来訪した。今年で19回目を迎える本イベントの目玉の一つが、今や定番となった筑波大学附属小学校の公開授業だ。今年も、児童1人1台のタブレット端末を活用した国語と算数の授業を披露。最先端のICTと、熟練の教育技術が融合した姿を一目見ようと、参加者は熱い視線を注いでいた。第1回目はその模様と、デジタル教科書の展示についてお届けしよう。

デジタルが、わかる授業・深まる授業を実現する

[公開授業]筑波大学附属小学校 公開授業 ~ICTを活用した国語・算数の授業~

【国語】筑波大学附属小学校……青山 由紀 氏
【算数】筑波大学附属小学校……中田 寿幸 氏

国語授業

学年・教科:5年生 国語科
単元:天気を予想する(光村図書・全10時間)
本時の目標(第3時):(1) 文章と図表やグラフ、写真等の資料を照らし合わせながら読み取り、それを用いた筆者の意図を考える。(2) 文章構成や論の展開、資料の使い方を含め、読み手を説得する説明の仕方を理解する。(3) 表やグラフを使って、読み手を説得する提案文を書く。
指導者:青山 由紀 教諭
使用教材・教具:タブレット端末(1人1台)、電子黒板、学習者用デジタル教科書、デジタルスクールノート、授業支援システム(ActiveSchool)、プロジェクター

説明文をマーカーで色分けし、問いや答えの箇所を探す

タブレット端末を導入する自治体や学校が急速に増えつつある。しかし、張り切って導入したものの、タブレット端末を子どもにどう使わせるか、どんな授業をデザインすればよいか、と悩む声も聞く。

今回、1人1台のタブレット端末を導入して久しい筑波大学附属小学校が、その答えを披露してくれた。キーワードは、ICTの“C”。意見を交わし、考えを深めるツールとして、タブレット端末が威力を発揮している。

公開授業は2本立てで、まずは5年生国語の単元「天気を予想する」の授業が行われた。天気予報の進化や天気を予想する難しさについて述べた説明文で、グラフや表、地図、写真等多彩な資料も載っており、文と資料の両方を読み解くことが求められる。本時は全10時間の3時間目。前時までに全体を通読し、「大事だと思う資料ベスト3」を各自に選ばせ、その理由を考えさせた。

筑波大学附属小学校 青山 由紀 教諭

この段階で、最も多くの子どもが「この資料が大事」と答えたのは、1ページに載っている予報精度の変遷表。年々予想の精度が上がっていることを数値で示しており、「作者が伝えたいことは、天気予報の的中率が高くなったことだから」というのが、この資料を選んだ子どもたちの理由だったことを、青山由紀教諭は板書で振り返った。ここが、今日のスタート地点。ここから子どもを学ばせ、授業が終わる頃には考えを改めて正しい答えにたどりつかせるのが、本時のねらいだ。

「でも、そう考えない人もいたよね」
と青山教諭は言い、ある子どものデジタル教科書の画面を、プロジェクターで映し出した。1段落目の文が、緑・赤・青にマーカーできれいに塗り分けられている。
「どういう基準で塗り分けたのか」
と、塗った子ども本人にはわざと聞かず、青山教諭は全員に考えさせた。
「赤色は事実を書いている部分だと思う」
「緑色は、筆者の意見や考えかな」
と子どもたち。そして、
「青色は……問いかけだと思います」
この発見が出てくるのを、青山教諭は待っていた。他にも問いがないか。そして、その問いへの答えはどこに書いてあるか。デジタル教科書で探し、マーカーを引くように指示。本時の活動が動き出した。

1時間の授業で、子どもの考えは深化

子どもたちはタブレット端末を操作してデジタル教科書を開き、マーカーツールを使って、問いと思われる部分と、その答えとなる事実を書いてある箇所を塗り分けていった。デジタル教科書ならスピーディ且つきれいに塗れるので、見やすく何度でもやり直しができる。何より、塗る作業を短時間で行えるので、考える時間と発表する時間が増える。

この文には問いが三つあることに子どもたちはすぐ気づいた。続けて、その答えが書いてある箇所も発見。次々と壇上に上がり、電子黒板に大きく映し出されたデジタル教科書にマーカーを引いて、自分の考えを発表していく。「問い」と「答え」が対になっている説明文の構造を、習得しているのがわかる。

ここで青山教諭は、本時のねらいである発問をした。
「筆者が一番伝えたいことは何だろう?」
板書された三つの問いと答えを比較し、一番伝えたいことは最終段落に書かれているという説明文の法則に、子どもたちは気づいた。そして、最終段落を熟読しながら「事実」と「意見」で色を塗り分ける作業を通し、子どもたちは本当に筆者が伝えたい箇所を発見した。――天気予報の的中率が上がっても、その場で天気の変化を予想してどう行動するかを判断するのは、一人ひとりなのだと。

本時の最後に、青山教諭は最初の発問を再び投げかけた。
「大事だと思う資料は?」
子どもの意見は変化した。1段落目のページにある表ではなく、最終段落のページにある写真、筆者自身が撮影した台風が接近するときに見られる雲の写真こそ、筆者が一番伝えたいことにつながる最重要資料だと気づいたのだ。本時の学びの成果が、形となって現れた瞬間だ。

算数授業

学年・教科:5年生 算数科
単元:図形の角(全9時間)
本時の目標(第9時):(1) 正多角形を隙間なく敷き詰める活動を通して、「敷き詰められる図形は頂点をあつめて360度になるとき」であることがわかる。(2)「四角形は内角の和が360度だから敷き詰められた」「三角形は内角の和が180度だから敷き詰められた」ことを理解する。
指導者:中田 寿幸 教諭
使用教材・教具:タブレット端末(1人1台)、電子黒板、スクールプレゼンターEX、デジタルスクールノート、授業支援システム(ActiveSchool)、プロジェクター

図形の学習は、ICTの特長を発揮しやすい

続いて、5年生の算数の単元「図形の角」の公開授業が行われた。図形の学習は、ICTの特長を発揮しやすい学習活動の一つである。デジタルなら様々な図形を正確に、素早く描け、複製や回転等の操作も容易だ。今日の授業でも、タブレット端末用教材作成ツール「スクールプレゼンターEX」が活躍していた。

全9時間のこの単元では、図形の角の特徴を学ぶ。前時までに、三角形と四角形を隙間なく敷き詰める活動を通して、三角形の内角の和が180度になること、四角形の内角の和は360度であることを学んできた。今日の授業は、その最後の時間。正多角形も同様に敷き詰められるかを予測し、試し、理由を考えて証明し、他の正多角形に応用して考えるまでに到達させるのが目標だ。

筑波大学附属小学校 中田 寿幸 教諭

まずは、正五角形を隙間なく敷き詰められるかに挑戦。子どもたちはタブレット端末に向かい、「スクールプレゼンターEX」で作成された教材に取り組み始めた。この手作りデジタル教材の良さは、正確に描かれた正多角形を、容易に移動・複製・回転させられる点にある。図形どうしを近づけると辺どうしが自動で吸着する機能もあり、今日のような図形を隙間なく敷き詰める活動にはうってつけだ。

試行錯誤と「なぜ?」の問いかけが、子どもの考えを深める

試行錯誤した子どもたちだが、正五角形を隙間なく敷き詰めるのは無理だと言う。
「なぜ無理なのだろう?」
中田寿幸教諭が尋ねると、ある子どもが鋭い発見をした。
「正五角形の一つの内角は、108度。隙間なく敷き詰めるには、角をいくつか合わせて360度にしなければいけないけど、360を108で割ると余りが出てしまう。正五角形の角を集めても、ぴったり360度にならないから、隙間なく敷き詰められない」
と、指摘したのだ。

中田教諭はこの気づきを見逃さず、この子の考えについて各班で話し合うよう指示。すると、この考えは瞬く間に全員に浸透していった。子どもたちが手を挙げて次々と壇上に立ち、数式や図形を使って、その正しさを説明し始めた。
「正五角形の一つの内角は、108度。三つの正五角形を隙間なく敷き詰めようとしても、108×3=324となって360度には足りず、36度分の隙間が空いてしまう」
といった考え方を、ほとんどの子どもたちは説明した。

こうして、複数の正五角形を隙間なく敷き詰めることは無理だと確認された。では、正六角形ならどうだろうか。タブレット端末で各自取り組んでみると、簡単に隙間なくくっつけられた。
「なぜ正六角形ならできるのだろう?」
と、再び問う中田教諭。
「辺の長さが同じだから?」
という意見には、
「正五角形も同じだったよ」
という発見が出た。
「左右対称だから?」
との意見も出されたが、
「正五角形も左右対象なのにできなかった」
という反対意見が出された。そして、ある子どもが発表した。
「正六角形の一つの内角は120度で、三つ集めるとぴったり360度になる。だから隙間なく敷き詰められる」
と、先程の考え方を使って説明したのだ。

あとは、この考え方を他の図形にも適用して考えられるかどうかだ。
「正七角形、正八角形、正九角形、正十角形はどうだろう?」
と中田教諭が問うと、
「角が偶数ならできると思う」
と推理した子どもが多数いた。惜しい。

実際にタブレット端末でやってみると、どれも無理だと判明。なぜだろう? ここである子どもが、先ほどの考え方を応用して、明快に説明してみせた。
「角が増えるに従い、正多角形の一つの内角の角度は大きくなる。正六角形の一つの内角は120度だったが、360度を余りなく割り切れて120度より大きいのは180度か360度しかない。でも、180度と360度は角にはならない。従って、正六角形以上の正多角形を隙間なく敷き詰めることは不可能である」
と。

理路整然とした説明に、授業を見守っていた先生方からもどよめきが起きた。結果を予想し、教材で試し、理由を考えて法則性を導き出し、他のケースに当てはめて考える。見事な授業の流れだった。

授業にICTを取り入れる意義

この二つの公開授業を見て、「これならタブレット端末を使わずとも、紙の教科書や教材だけでもできるじゃないか」と感じた教員もいたようだ。

確かに、授業の活動内容を一つひとつ見ると、紙でも行える気がする。しかし、教科書の一文一文をマーカーで何度も塗ったり消したりする活動を、紙でできるだろうか? クラス全員分の正多角形を何種類も何百枚も紙で用意して、敷き詰めてみる作業が現実的に可能だろうか? 1人1台のタブレット端末だからこそ、容易にできる活動だろう。

そして、タブレット端末を使うことで、教材配布や作業時間が短縮され、子どもの考える時間・発表する時間が増加したことも明記しておきたい。マーカーツールで何度も塗り直しながら、同じ図形をスピーディにコピー&ペーストしながら、子どもは考えに集中し深めていた。もちろん、教員の教材準備時間が大幅に削減できることも、特筆しておきたい。

紙だけでもできる授業に、ICTを取り入れることでより効率的・効果的に。そんな哲学が、筑波大学附属小学校の授業デザインから伝わってきた。

展示ゾーン

[デジタル教科書]来年度の教科書改訂に伴い、 タブレット端末で使えるデジタル教科書に注目集まる!

教科書会社各社が出展した「デジタル教科書コーナー」は、例年以上のにぎわいを見せていた。
「来年度に小学校の教科書が改訂されることもあり、先生方の関心の高さを感じます」
と、東京書籍の担当者。同社では、指導者用デジタル教科書に学習者用デジタル教科書を添付予定で、電子書籍の規格EPUB3にも対応させ、タブレット端末での使いやすさを高めているという。

辞書引き機能が搭載された、教育出版のデジタル教科書。語句をタッチすると辞書ページが表示される

より操作しやすく、デジタルならではの特長を活かした機能が盛り込まれ始めているのが、近年の 傾向。教育出版では、7教科のデジタル教科書でツールバーを共通化し、使い勝手を向上させた。また、異なるページに掲載されている資料や絵を並べて表示で きる機能を搭載し、学習者が比較しながら観察しやすくなっている。

デジタル教科書のプラットフォームを共通化しようという取り組みも始 まった。出展中の日本文教出版、数研出版、啓林館、帝国書院、光村図書出版、三省堂、大日本図書は、2013年9月に発足したコンソーシアム CoNETS(コネッツ)に参画。指導者用、学習者用、いずれのデジタル教科書も共通化したプラットフォーム上で、統一した操作性を実現させる予定だ。来 年度の教科書改訂に合わせて小学校版がリリースされ、以降、中学校、高等学校の改訂時にも共通のプラットフォームが採用されると見られる。

デジタル教科書をはじめとするデジタル教材の導入を進める上で、やはり気になるのはコストの問題。内田洋行の教育コンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」なら、初期導入費を低く抑えられ、予算を効率的に利用できる。

EduMallの体育動画教材。体育館にいながら、お手本となる動作をタブレット端末で確認できる

同サービスはデジタル教科書やドリル、地図帳等、24社約900タイトルを配信。従来の買い取りではなく、1年毎の契約というモデルが取られている。例えば、算数のドリル教材を全学年分パッケージで購入すると21万円かかるが、EduMallでは1年間の契約で8万6,400円だ。また、年間契約なので1年毎に必要なコンテンツを選び直せる。パッケージソフトだと、教科書改訂や学習指導要領改訂までの期間しか使えず、再度購?する必要があるが、配信型のEduMallなら定額料?で更新できるので予算の計画と執行を効率的に行うことができる。

これらの点が高く評価され、現在、約200自治体3,500校超に導入されている。今年からEduMallのサイトがタブレット端末にも対応し、より見やすく使いやすくなった。もちろんタブレット端末向けの教材も人気を集めている。

写真:言美 歩/取材・文:長井 寛

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