2022.07.20
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カンボジアで、一人一台環境によるFuture Classroomが始動

日本教育工学会、株式会社内田洋行は2017年より、カンボジアでICTを活用した教育改善プロジェクトを行っている。連携開始6年目の2022年2月、ついにシェムリアップ小学校教員養成校(Provincial Teacher Training College)に一人一台環境によるFuture Classroomが完成した。

一人一台の学習環境と活用促進

  • Future Classroomの設置

  • ネットワークにつながった端末

  • 向きを自在に変えられる机

  • 挨拶する大久保 昇氏(株式会社内田洋行 社長)、左隣が筆者(2019年11月撮影)

日本と同様にコロナ禍にあったカンボジアに向け、在カンボジア日本大使館、カンボジア青年教育スポーツ省のご配慮のもと、内田洋行は、アクティブラーニング用の椅子と机40セット、ラップトップPC30台、プリンター、プロジェクター等を輸送し、2022年2月にシェムリアップ小学校教員養成校(Provincial Teacher Training College)に一人一台環境によるFuture Classroomを設置するにいたった。

同年5月に、筆者を含む日本の関係者が現地を訪問し、「先生中心のICT教育」や「隣の学習者とグループでICTを使いながら、個の思考を深めていく」といったGIGAスクール型/Learner Centeredの教育を開始した。学習者が互いのPC画面を見ることや、インターネット経由で教材を共有してグループワークを開始できる授業の軽快さは、従来の学びを劇的に変えるものであった。内田洋行が行っているSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」にかかわるプロジェクトの一つである。

音声動画が導く躍動感ある小学校英語の授業の実現

2017~2021年度“EDU-Port ニッポン”プロジェクト

教師主導の授業形態から、児童・生徒中心の楽しい授業へ変えていくという目標のもと、本プロジェクトは今年で6年目を迎える。カンボジアにおいて、小学校を卒業するこども達は、2019年で82パーセント、高校では22パーセントしかない。この状況を改善するにあたりICTを活用し、児童・生徒が中心となり「学ぶことは楽しい」と感じる体験となるよう授業改善を図るとともに、就学率の向上をもねらうものである。

2017年から昨年度まで続いたプロジェクトでは、教師がパソコンやプロジェクターの扱いを身に付けた後、音声や動画像で構成されたコンテンツが活用された。日本の高校生、大学生がSDGsの活動の一環として作品を提供した。この活動は現在も続いている。また、実績ある日本のコンテンツとして「小学校英語 SWITCH ON!」(※)も現場で活用された。ただ説明を聞く「小学校英語」から児童・生徒が中心となって発話し、児童・生徒自身が「何ができるようになったか」を確認できる授業へと変わりつつある。

シェムリアップ小学校教員養成校では2年間の教員養成のトレーニングを実施しており、毎年約150名の先生を送り出している。現在、本プロジェクトの指導法研修を受けた800名近い先生たちが子どもたちを地域で教えている。

※大阪府教育委員会(現 大阪府教育庁)と株式会社mpi松香フォニックスが共同開発したプログラム。

教師主導から、学習者中心へ

  • 教員セミナーの様子(2022年7月撮影)

  • 教育実習で実践

  • まず先生が使い、実感する

30年近く、現場のICT教育を支えてきた内田洋行は、ICT活用実践事例の宝庫である。特にGIGAスクールにおける展開は、カンボジアにとっても大変貴重な事例となる。

日本国内で積極的に使われるInstructional Design(ID/最適な教育効果をあげる方法の設計)の手法や、動機づけのモデルとされるジョン・ケラー博士のARCSモデル、またRobert Mager博士、鈴木克明氏(元教育工学会会長)の授業改善の考え方が「授業プラン」として提供されている。

カンボジアの先生は海外研修にも行っているが、具体的に「どう授業に落とし込んで」「ICTを介在させていいのか」悩んでいる。日本の学習指導要領の基本的な考え方といっていいIDの実践例をこの教室で実践できるよう、今回、設置されたFuture Classroomと、4年制の教員養成大学(JICAの支援を受けて2018年12月に開校)や日本福祉大学の先生、学生たちをつないで、週に一回程度、計10回のICTをID 理論で展開する研究会が開催されている。

LESSON PLAN (How to make the plan)

Basic Procedure for English lesson with Media

Objective: Write down what students will be able to do at the end of the class.
Preparation: Write down the materials (text or media) needed for the class.
Outcomes: Write down the imagined results of an evaluation test at the end of the class.

学校支援、コンテンツ開発の拠点に

  • 交流授業の様子

  • JICAプロジェクトでクメール語化した算数のコンテンツ

  • 算数の授業の様子

このFuture Classroomは地域の学校支援の拠点となりつつある。現職教員の研修会場として使われ、先生たちはインターネットの使い方や、共有ファイルの設定なども学習する。

JICAは日本福祉大学と連携して、プロジェクト「地方教員養成校が導く地域ICTモデル校の実現-音声・動画でモバイルラーニング-」を開始している。このモデル校の教師は全員この養成校の卒業生であるため、このFuture Classroomに集まり、英語や算数のコンテンツ開発も始まった。日本の高校生、大学生たちがコンテンツを作成し、カンボジアの学生、モデル校の先生たちがそれに音声を入れてビデオクリップを作成している。

また日本の高校生、大学生たちは、オンライン交流授業を企画、展開している。これまでの経験で、モバイルルーターが1台あれば、Zoomでの訪問が可能である。何よりも、日本のお兄さん、お姉さんたちが「みまもり、願ってくれている」ことは大きな支えとなるに違いない。

2022年度“EDU-Port ニッポン”プロジェクト

日本福祉大学、立命館大学、京都産業大学は一人一台のFuture Classroomの環境を生かし、2022年度“EDU-Port ニッポン”に取り組む。

文部科学省 EDU-Portニッポン「コロナで発見! 日本-カンボジアICT授業の連携開発」

代表機関:株式会社内田洋行(代表取締役社長:大久保 昇)
概要:コロナ禍において、カンボジアの教員がオンライン授業に取り組む中で得た知見を新しい日本型教育(GIGAスクール、対話的な学び)と統合し、ラーニングプラットフォームへ共有、協働的な日常授業へと発展させる。

カンボジアでは日本同様に、英語は第二外国語すなわちEFL(English as a Foreign Language)として学ばれている。本プロジェクトは、お互いの授業を連動させて展開することで回数を増やし、日本語、クメール語など相手の母語を話さない学生同士が1分間の英語プレゼンテーションとディスカッションにより日常的に意見交換を行う。学習アウトカムとして作成した英語プレゼンテーション、ディスカッションのメモが自らの学びをサポートするコンテンツとして手元に残る。本試みは一人一台環境下での実践であり、学習履歴の活用も視野に入れている。Future Classroomは、国を超えた横の広がり、質を深める縦の深まりを提供する学びの場として活用される。

カンボジアには26の教員養成拠点校(4年制は2校)がある。今後は学習プラットフォームの共有、コンテンツの相互提供などが進んでいくだろう。

ICTを活用した授業展開により、「学びは楽しい」「成長はうれしい」「連携は暖かい」という、学習者が主体となった授業体験は、就学率の改善につながっていくこと必定である。

一般社団法人(非営利)ワールドユースミーティング理事、日本福祉大学客員教授 影戸 誠

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