2019.02.20
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日本型教育の海外展開(第3回) 海外展開のモデル事業

第1回では「日本型教育」とは、第2回では教育における海外協力と「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」についてご紹介しました。
最終回となる第3回は、「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の取り組みの一つとして進められている「パイロット事業」から、海外展開の具体例をみていきたいと思います。

「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の取り組みの一つとして、海外展開のモデル候補となりうる事業が募集され、「日本型教育の官民協働プラットフォーム」の支援(公認プロジェクトは経費支援及び調整支援、応援プロジェクトは調整支援)を受けながら、成果・課題を検証、共有する「パイロット事業」が進められています。

◆パイロット事業

2016年以降、様々なモデル事業の展開が始まっています。対象地域は、2016年度、2017年度とも重点地域として設定されたASEAN、インドが中心となっています。事業内容をみると、初等中等教育から高等教育、職業教育まで、またテーマも防災教育、運動プログラム、音楽の器楽教育、小学校英語、部活動、宇宙教育、キャリア教育、安全衛生教育、大学生ビジネス人材育成、自動車学校での職業訓練と実に多様です。

2016年度パイロット事業マップ

ここでは、このような多様なプロジェクトのほんの一部ではありますが、3つの公認プロジェクトについてご紹介します。

―事例1―

2016年度EDU-Port公認プロジェクト「初等中等義務教育の音楽教科への器楽教育導入及び定着化事業」【ベトナム社会主義共和国】
音楽の授業に楽器を用いた教育を導入するため、日本で一般的なリコーダーを用いた器楽教育を導入、定着させようとする取り組みです。学習指導要領改訂に先立ち、クラブ活動への導入、リコーダーフェスティバルや日本人学校での器楽授業見学が行われました。日本ではリコーダーや鍵盤楽器、打楽器など、さまざまな楽器に触れる機会がありますが、ベトナムでは教育熱心である一方で音楽や体育はあまり重視されていないようです。器楽教育を導入することで、音楽教育の充実だけでなく、自由な感情表現や協調性、責任感等が育めるとされています。クラブ活動を通じたモデルケースの形成から新学習指導要領への展開、そして教科書改訂の支援、現地教員への研修へと展開し、広めていこうとしています。

―事例2―

2017年度EDU-Port公認プロジェクト「カンボジア教員研修センターと日本をつなぐ、日本開発デジタル教材を活用した小学校英語研修と遠隔サポート」【カンボジア王国】
小学校や中学校の英語教育を担っていく教員を育てる国立教員研修センターに、日本で開発されたデジタル英語教材とICTを導入し、その指導法を研修する取り組みです。
以前に学びの場.com教育インタビューでも取り上げられていますが、国民の90%がクメール語を話す一方で、観光が非常に重要な産業となっているカンボジアにおける子どもたちへの英語教育は、子どもたちが将来職を得るためにも、カンボジアが経済的に発展していくためにも重要とされています。デジタル英語教材を活用した音とリズム、動画を使った躍動感ある学びを実現するため、現地でのデモンストレーション授業の実施、英語とクメール語の指導案配布、日本からの学生インターンシップによる授業準備やICT機器の活用定着サポート等が行われました。また現地での活動にとどまらず、ネットワークを介して日本から対話形式で講義を行ったり、日本の小学校との交流を行ったり、日本でのイベントに現地の学生を招聘したりと、このサポートが今後途切れずに持続していくための仕組みも整えつつあります。

―事例3―

2017年度EDU-Port公認プロジェクト「「福井型教育の日本から世界への展開」アジア・アフリカ・日本の教師教育コラボレーション事業」【ASEAN、アフリカ諸国(特にフィリピン共和国、マラウイ共和国)】
これまでの海外への教育支援は、知識やスキルの伝達が中心であり、継続的な支援やフォローアップが困難であることが課題とされています。これに対し「学校拠点による授業開発」「教師の協働による授業研究」「教師の協働を支えるコーディネーター」「学校と地域の連携」という日本型教育の特徴を活かし、現地の学校・生徒の実情に即した形の学校づくり、授業づくりを現地の教員や教育関係者とともに行うことで、専門職学習コミュニティ・ネットワークを創造しようとする取り組みです。
具体的には、福井大学連合教職大学院で行われている「ラウンドテーブル」という教員同士が互いに実践を語り・聞き合う研究会を、フィリピン、マラウイそれぞれで開催しており、今後も日本と相手国の両方で引き続き開催するとともに、相手国での教職開発拠点校の形成が目指されています。さらにはこの事業で得られた知見を活かして、日本の学校教育を支える授業づくり・学校づくりの実践交流の場として国際教職開発センターを設置しようとしています。

注目される「授業研究」

授業研究(Lesson Study)は、教員同士が授業を観察し合い、授業計画とその結果について話し合い、よりよい授業のあり方について研究する、日本独自の教員研修の仕組みです。1999年にThe Teaching Gap(邦題:日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu)という本の中で、日本の授業の質の高さの理由として授業研究が紹介されたことから注目を集めたとされており、アメリカをはじめヨーロッパ、東南アジア、アフリカ地域においても試行され、世界的に高い関心を集め評価されています。
パイロット事業においても、他に「在外教育施設(日本人学校)を拠点とする日本型教師教育の国際展開モデルプロジェクト(2016年度・公認)」、「知・徳・体 日本型教育の連携 フィリピン三大学をキーステーションとする教員研修計画(2016年度・応援)」、「ミャンマーの大学基礎実験教育の教員研修システム構築Phase1.物理学実験による広い知識と深い洞察力の提供(2017年度・応援)」等、授業研究を取り入れた取り組みが多くみられます。

◆2018年度のパイロット事業

3年目となる2018年度は重視する地域として中東・中南米・アフリカ地域が加えられ、以下のように対象地域が拡大していることがわかります。また、3以上の機関が協業する「コンソーシアム枠」というタイプが新たに設けられました。これにより各地域からのニーズへのさらなる対応と、モデル事業が持続性・自立性をもつことや、相手国において形成されつつあるコンソーシアムとの連携が目指されています。

またパイロット事業への申請数、採択数をみると2018年度はそれまでの2年間にくらべおよそ2倍となっており、国内の注目度の高まりとともに、国としても今後力を入れて進めようとしている事業であることがうかがえます。

申請数採択数
2016年度 26機関 14機関
(公認5機関、応援9機関)
2017年度 21機関 11機関
(公認2機関、応援9機関)
2018年度 59機関 22機関
(公認12機関、応援10機関)

パイロット事業における多様性、幅の広さは、そのモデル化を模索するという目的のために採択されてきた事業であるということだけによるのではなく、「日本型教育」、日本の教育の良さ、といえるものに、これだけの多様性があるともとらえることができるのではないでしょうか。それぞれの地域の社会・文化を理解しつつ、現状やニーズに対応させることや、それを地域に根付かせようとすることは簡単なことではないでしょう。パイロット事業を経て、輸出産業の一つとして自立的に、持続的に成り立たせていくためには、より重点をおいてアピールする分野や事業を戦略的に絞り込むことが必要かもしれません。でも、これだけ多様な可能性があり、多くの組織が自分たちの得意分野や実績、経験を活かして種をまき始め、日本をあげて大きく育てようとしているのです。

さまざまな教育改革が叫ばれるなかで、従来の日本の教育の在り方が否定的に捉えられることも少なくありません。実際に、乗り越えていかなければならない課題は多くありますが、その一方で、これまでに積み上げられてきた日本の教育制度や授業のあり方、確かな学力・健康な体・豊かな心を全体として育てていこうとする「日本型教育」が、海外で評価され、導入されつつあるということも事実です。
現在抱えている課題と進めようとしている改革とともに、「日本型教育」の強みと弱み、どのような部分がどのような国で取り入れられようとしているのかという観点からも、改めて普段の授業や取り組みを振り返ってみてはいかがでしょうか。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上暁代

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