教育トレンド

教育インタビュー

2017.12.27
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影戸 誠 ICTを使った国際連携を語る。

体験的な学びを通して、世界とどう向き合い、国際的な課題に取り組むのかを考える。

影戸誠氏は1999年から継続して、ICTを活用した国際連携プロジェクト"World Youth Meeting"や、"Asian Student Exchange Program"を通して、日本の学生のコミュニケーション能力の向上に取り組んでいます。

2016年からは文部科学省「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Port ニッポン)」に参画し、現在2017年度EDU-Port 公認プロジェクト「カンボジア教員研修センターと日本をつなぐ、日本開発デジタル教材を活用した小学校英語研修と遠隔サポート」を手掛けています。

そんな影戸氏に、これまでの経験から得た知見と、カンボジアでの活動を中心とした"EDU-Port ニッポン"について語っていただきました。

コミュニケーションのための英語教育に取り組む

学びの場.com多くの情報や国際的な活動に携わっていますが、最初に取り組まれたことは何ですか?

影戸誠私は小学校と高校で10年ずつ、大学で15年ほどの教員生活を送ってきました。最初に携わった事業は、1995年から始まった“100校プロジェクト”(ネットワーク利用環境提供事業)です。インターネットを活用してコミュニケーションの形を大きく変えるもので、なんとか教育に導入したいという想いで参加しました。

学びの場.com1995年というと、パソコンが出始めた頃ですね。

影戸誠当時はWindows95が発売されて、パソコンは3億ページもある図書館だといわれたこともありました。しかし、コミュニケーションに関しては英語が壁となって、実際には外国との交流はほとんどなされていませんでした。当時は受験のための英語教育というものが色濃く残っていたので、コミュニケーションをするための教育ではなかったのです。

この現状を、学校という場で変えたいと考えました。教師が集まり、学びの中で連携することこそが大切だと思い、そこからインターネットによって学校の壁をぶち破って、海外とつないでいくことを目指したのです。そのためには何が必要なのだろうとモデルを探した結果、“英語プレゼンテーション”に行き着きました。

多様性が生みだす学び

学びの場.com当時、英語プレゼンテーションへの取り組みはあったのですか?

影戸誠教科書の中にはありませんでした。英語プレゼンテーションでは、もちろん自分で考えてしゃべるのですが、順番や加重もクオリティも考える必要があります。そのため、学習成果は非常に大きいものになります。
そして、プレゼンテーションは自分のことを話しますが、考えや想いを相手にぶつけると、その反応が聞く側によって違うことがあります。発言者が日本人で聞き手が日本人だとホモジーニアス(homogeneous=同質)な返答ですが、多様性を持った別の文化に住む人だとヘテロジーニアス(heterogeneous=異種・異質)でまったく違うものです。これが本当に学びになると感じました。

学びの場.comICTを活用した教育実践も特徴的ですね。

影戸誠2003年から高校教育に必修科目として情報科が導入されました。しかし、当初は、情報教育といえば、Word、Excel、PowerPointだという理解があったように思われます。ですが、本当の意味での情報教育は、ICTを使ったコミュニケーションなのです。次第に日本の授業でも日本国内を、そして世界をつなぐという教育が行われ始めました。この最初の間違いは、実はすごく大切なことで、後に述べる海外への教育展開には、後発国ならではの優位性を発揮できるものにもなっています。

地図上の知識としての「国」から、友達が住む「国」へ

学びの場.com その後、英語プレゼンテーションの場ともなる“World Youth Meeting”や、“Asian Student Exchange Program”などの国際的な教育活動に携わっています。

影戸誠日本は島国ですから、情報も考え方も閉鎖的です。そこを変えないと、グローバルな人材は育たないのです。そのためにはICTの活用と、人的ネットワークが必要だと考えました。教育を変えたい、もっと子どもにフィットするような工夫をしたいという人たちが集まり、現在では50校くらいの連携になっています。
子どもたちは、授業やカリキュラムを変えられないのです。ラーナーセンタードという生徒主体の教育を行うには、先生が工夫して変えるしかありません。特に高校生や大学生といった時期は多感な時期ですから、ものの見方や世界観に大きな影響を与えます。本当に達成感のある学びをさせてあげたいと思いました。

学びの場.com具体的には、どのように見方が変わるのですか?

影戸誠例えば、教科書で習った韓国という国、カンボジアという国が、地図や数字だけの国ではなく、国際交流を経験すれば友達が住む国へと意識が変わります。ICTを利用して英語を使って、いつでもつながるという意識があれば、国際的な感覚が非常に養われるのです。
“World Youth Meeting”や、“Asian Student Exchange Program”は19年継続した活動になりましたが、世界の情勢に非常に敏感な人が出てきているという実感があります。教員となった人たちは連携し合い、その年の活動が終われば次の課題を見付けてブラッシュアップしていくという流れが続いています。

カンボジアと日本をつなぐ“EDU-Port ニッポン”プロジェクト

学びの場.com昨年から取り組まれている“EDU-Port ニッポン”プロジェクトについて教えてください。

影戸誠これは2017年度文部科学省「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Port ニッポン)」公認プロジェクトとして採択されたもので、正式な事業名は「カンボジア教員研修センターと日本をつなぐ、日本開発デジタル教材を活用した小学校英語研修と遠隔サポート」です。私が所属する日本教育工学会と、内田洋行のICT教育環境整備力という、産学連携体制で取り組むものです。

アンコールワット遺跡があるシェムリアップ州の州都にある、シェムリアップ国立教員研修センターにおいて、日本の教育資源であるデジタル英語教材を活用して、小学校英語の指導法研修を行います。都市に比べて遅れている農村部もネットワークを活用してサポートし、この事業を通じて、見せる、聞かせる、拡大する、比較するなどの情報機器の活用方法を定着させる狙いもあります。

学びの場.comこの事業を行うバックグラウンドには何があったのですか?

影戸 誠カンボジアはポルポトによる破壊を受け、教育は破滅的な打撃を受けていました。その後、急速に教育熱が高まり、世界と連携して復興に取り組んでいます。そして今後カンボジアが成長していくためには、観光収入の増加が必要だと考えられています。国のGDPに対する観光収入の割合は14.9%であり、非常に重要な産業なのです。
しかし観光立国として立ち上がるためには、英語教育を進める必要があります。私も何度かカンボジアの現状視察を行いましたが、都市から少し離れただけで電気の供給が不安定になるような状況で、薄暗い教室で先生がクメール語(カンボジア国民の90%が話す言語)で紙に書いた指導内容を読み上げているだけでした。その文字も小さくて、後の席の子どもには読めないくらいです。
この地に日本式の英語教育を導入すれば、貧しい子どもたちが将来において職を得るための道筋にもなりますし、小学校や中学校の英語教育を担っていく教員研修センターからICTを展開していくことは、非常に有用なことだと考えました。

後発国ならではの優位性を活かす

学びの場.com国立教員研修センターでの事業という意味合いはどういうものですか?

影戸誠カンボジアという国は暗くて貧しくて、教育制度も崩壊しているというイメージを持たれがちですが、“World Youth Meeting”などから得られた知見では、国が非常に若くて熱心で、教育事業に携わる人はしっかりと学習しているのです。
国立教員研修センターの生徒たちは、年齢層は19歳から26歳くらいまでですが、非常に優秀です。食事や宿舎も提供されますので、農村出身で貧しくても勉学に励みたいというような精神を持った人たちが、20倍もの倍率の試験を受けて入ってきています。

学びの場.com実際の教育現場はまだ環境は悪いため、教員の指導から始めるということですか?

影戸誠国内の英語教育は始まったばかりで、アルファベットの「A」の読み方を紙に書いて示したり、本を見て“This is a book”と復唱したりする程度の教育しかなかったりします。まだまだという感じがあり、ICTを使って改善できるのではないかと考えている部分です。またスタート時点ならではの浸透しやすさというのはありますし、先進国の失敗を見て学ぶ、後発ならではの優位性もあります。

実践の中で磨き上げた教室デザインを活用する

学びの場.comICTを使った英語教育は、具体的にはどのようなものを展開するのですか?

影戸誠英語教育は理解の積み重ねよりも、音と発話が重要であるため、デジタル教材はその特性に合っています。大阪府で活用されているmpi松香フォニックスの“Switch On” (モジュール学習教材)や、NHKの“プレ基礎英語”、“エイゴビート”などをネットワークを通して活用し、音と英語の活動ができる研修を行います。加えて、ネットワークの活用もベースとなっていますから、日本の教育機関との交流学習も実現できればと考えています。

学びの場.com現地で参加された方々の反応はいかがでしたか?

影戸誠以前は個別にプロジェクターを1台とか、中古パソコンを何台か寄付するくらいだったのですが、文部科学省のプロジェクトとして来て、内田洋行が実践の中で磨き上げた教室デザインを見た時には、驚きと共に非常に好意的に受け止められました。
今後、2018年1月から3月にかけては日本から現地への国際ボランティア体験ツアーで教師や学生を派遣、そしてカンボジアから日本へ現地教員や学生を招き、国際連携プロジェクトとして研修旅行を実施するなどの計画も立てています。

自分が変わり、生徒を国際的に変える力を持つことが大事

学びの場.comこれまでの国際的な活動において、教師として最も大事だと感じたことは何ですか?

影戸誠ラーナーセンタード、学習者を中心として、学習者が変わり、成長していくことが大事だと考えています。それも、単独で学ぶのではなく、多くの人と関わるコミュニケーションの中で変化し成長することが重要です。
日本は島国であるという特殊性があるため、残念ながら情報も限られてきます。世界とつながりながら、変化して成長していくことが必要で、そのためには、子どもたちと一緒にいる先生たち自身も変わっていかないといけません。変化イコール成長と捉えて、自分の成長をデザインできれば、国際交流、情報教育やICTを絡めた教室デザイン構築ができるのではないかと思います。

学びの場.com最後に、「学びの場.com」を見た方にメッセージをお願いします!

影戸誠自らを鍛えて、子どもたちと一緒に育っていって欲しいと思います。その心構えで日々過ごしていると、教育の面白さやダイナミックさが分かりますし、国際的な場面でその気持ちが発揮できたら、生活も豊かになり、世界全体の中での自分の役割が見えてくると思います。
そして世界が見えてくると、日本が見えてきます。僕は日本ほど素晴らしい国はないと思っていますし、“self-directed”(自律的な)ラーニングができています。この日本をシェアするために、もっと海外とつながりながら、日本を感じながら世界を感じてもらいたいと思います。

影戸誠(かげと まこと)

日本福祉大学 教授

日本教育工学会 理事 国際交流委員長 日本教育工学協会 理事 日本教育メディア学会 理事(国際担当)

広島県呉市生まれ。和歌山大学経済学部卒業、関西大学大学院総合情報学研究科卒 博士(情報学)。静岡大学、愛知淑徳大学の非常勤講師を経て、2002年4月から日本福祉大学へ。専門は教育工学。1999年からICTを活用した国際連携プロジェクト「ワールドユースミーティング」「Asia Student Exchange Program」、2016年より「Edu-Port ニッポン」の活動に取り組む。主な共著書に「つながり・協働する学習環境デザイン」(2013年・晃洋書房)、「ICT教育のデザイン」(2008年・日本文教出版)、「これからの情報とメディアの教育」(2005年・図書文化)などがある。

インタビュー・文・写真:学びの場.com編集部

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