2021.08.02
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意外と知らない"環境作り"~特別支援教育の視点から~(第1回) 合理的配慮と基礎的環境整備

みなさんは「環境作り」と聞いて、何を思い浮かべますか。街中でよく見かける点字ブロックやスロープ付きの階段などはその一例と言えるでしょう。しかし、実際に自分の教室や学校でどのようなことをすればよいのか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は特別支援教育の視点からの環境作りについて3回にわたって紹介します。第1回は、学校に求められる「合理的配慮」の視点から「環境作り」について確認します。

合理的配慮とは

まず、2014年1月に批准された「障害者の権利に関する条約」の定義を見てみましょう。

「障害者の権利に関する条約(抄)」第二条より

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

障害のある人の人権が、障害のない人と同等に保障され、教育や就業等の社会生活において、それぞれの特性による困りごとを解消するための配慮だということが分かります。

2016年4月に施行された「障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」により、役所や事業者には下記のように、差別解消のための対応が求められています。障害のある人に「合理的配慮」を提供することによって、その人らしさを認め合いながらお互いを理解しあうことが目指されています。

  1. 「差別的取扱い」の禁止
    国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して不当な理由なく、障害を理由として差別することの禁止
  2. 合理的配慮不提供の禁止
    役所や事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)

学校における合理的配慮

学校における合理的配慮はどのように定められているのでしょうか。文部科学省は「合理的配慮」を「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と整理しています。

中央教育審議会は2012年に、「合理的配慮」を提供するに当たっての観点を①教育内容・方法、②支援体制、③施設・設備の3つの観点に分けて以下の11の項目を示しています。

① 教育内容・方法
①-1 教育内容
①-1-1 学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮 障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するため、また、個性や障害の特性に応じて、その持てる力を高めるため、必要な知識、技能、態度、習慣を身に付けられるよう支援する。
①-1-2 学習内容の変更・調整 認知の特性、身体の動き等に応じて、具体の学習活動の内容や量、評価の方法等を工夫する。障害の状態、発達の段階、年齢等を考慮しつつ、卒業後の生活や進路を見据えた学習内容を考慮するとともに、学習過程において人間関係を広げることや自己選択・自己判断の機会を増やすこと等に留意する。
①-2 教育方法
①-2-1 情報・コミュニケーション及び教材の配慮 障害の状態等に応じた情報保障やコミュニケーションの方法について配慮するとともに、教材(ICT及び補助用具を含む)の活用について配慮する。
①-2-2 学習機会や体験の確保 治療のため学習空白が生じることや障害の状態により経験が不足することに対し、学習機会や体験を確保する方法を工夫する。また、感覚と体験を総合的に活用できる学習活動を通じて概念形成を促進する。さらに、入学試験やその他の試験において配慮する。
①-2-3 心理面・健康面の配慮 適切な人間関係を構築するため、集団におけるコミュニケーションについて配慮するとともに、他の幼児児童生徒が障害について理解を深めることができるようにする。学習に見通しが持てるようにしたり、周囲の状況を判断できるようにしたりして心理的不安を取り除く。また、健康状態により、学習内容・方法を柔軟に調整し、障害に起因した不安感や孤独感を解消し自己肯定感を高める。
学習の予定や進め方を分かりやすい方法で知らせておくことや、それを確認できるようにすることで、心理的不安を取り除くとともに、周囲の状況を判断できるようにする。
② 支援体制
②-1 専門性のある指導体制の整備 校長がリーダーシップを発揮し、学校全体として専門性のある指導体制を確保することに努める。そのため、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成するなどにより、学校内外の関係者の共通理解を図るとともに、役割分担を行う。また、学習の場面等を考慮した校内の役割分担を行う。
必要に応じ、適切な人的配置(支援員等)を行うほか、学校内外の教育資源(通級による指導や特別支援学級、特別支援学校のセンター的機能、専門家チーム等による助言等)の活用や医療、福祉、労働等関係機関との連携を行う。
②-2 子ども、教職員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮 障害のある幼児児童生徒に関して、障害によって日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて周囲の幼児児童生徒の理解啓発を図る。共生の理念を涵養するため、障害のある幼児児童生徒の集団参加の方法について、障害のない幼児児童生徒が考え実践する機会や障害のある幼児児童生徒自身が障害について周囲の人に理解を広げる方法等を考え実践する機会を設定する。また、保護者、地域に対しても理解啓発を図るための活動を行う。
②-3 災害時等の支援体制の整備 災害時等の対応について、障害のある幼児児童生徒の状態を考慮し、危機の予測、避難方法、災害時の人的体制等、災害時体制マニュアルを整備する。また、災害時等における対応が十分にできるよう、避難訓練等の取組に当たっては、一人一人の障害の状態等を考慮する。
③ 施設・設備
③-1 校内環境のバリアフリー化 障害のある幼児児童生徒が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるよう、障害の状態等に応じた環境にするために、スロープや手すり、便所、出入口、エレベーター等について施設の整備を計画する際に配慮する。また、既存の学校施設のバリアフリー化についても、障害のある幼児児童生徒の在籍状況等を踏まえ、学校施設に関する合理的な整備計画を策定し、計画的にバリアフリー化を推進できるよう配慮する。
③-2 発達、障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮 幼児児童生徒一人一人が障害の状態等に応じ、十分に学習に取り組めるよう、必要に応じて様々な教育機器等の導入や施設の整備を行う。また、一人一人の障害の状態、障害の特性、認知特性、体の動き、感覚等に応じて、その持てる能力を最大限活用して自主的、自発的に学習や生活ができるよう、各教室等の施設・設備について、分かりやすさ等に配慮を行うとともに、日照、室温、音の影響等に配慮する。さらに、心のケアを必要とする幼児児童生徒への配慮を行う。
③-3 災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮 災害時等への対応のため、障害の状態等に応じた施設・設備を整備する。

基礎的環境整備

基礎的環境整備と合理的配慮の関係

合理的配慮の基礎となるものとして「基礎的環境整備」があります。「基礎的環境整備」とは障害のある児童生徒に対する支援について、法令や財政措置等により、国・都道府県・市町村ごとにそれぞれ行われる教育環境整備のことで、以下の8つの観点があります。

  1. ネットワークの形成・連続性のある多様な学びの場の活用
  2. 専門性のある指導体制の確保
  3. 個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成等による指導
  4. 教材の確保
  5. 施設・設備の整備
  6. 専門性のある教員、支援員等の人的配置
  7. 個に応じた指導や学びの場の設定等による特別な指導
  8. 交流及び共同学習の推進
基礎的環境整備と合理的配慮の具体例

「基礎的環境整備」をもとに学校全体の環境整備を行い、障害のある児童生徒に対しては個別のニーズに応じた合理的配慮を行うことで、平等な教育機会を提供していきます。このように「合理的配慮」と「基礎的環境整備」を組み合わせることで支援が成立すると考えられています。

第1回は環境作りに欠かせない「合理的配慮」とその基礎となる環境整備について紹介しました。次回は環境づくりの方法のひとつである「構造化」について解説します。

構成・文・図:内田洋行教育総合研究所 研究員 大澤 柚子

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