意外と知らない"生成AIの教育利用"(第2回) アイデア出しや文書作成の事例
第1回で紹介した通り、リーディングDXスクール事業の公式サイトには、2024年11月現在、2023年度に指定された学校による実践事例が266件掲載されています。内田洋行教育総合研究所では、これらの事例を生成AIの役割で分類し、その傾向を分析しました。この結果は、2024年10月に開催された第50回全日本教育工学研究協議会全国大会でも発表しました。第2回では「創造・発想」「文書・ドキュメント作成」のカテゴリに分類された8つの事例を紹介します。
生成AI活用実践を5カテゴリ・20項目に整理
各事例を詳細に読み込み、生成AIの役割について共通点や傾向を整理した結果、最終的に5つのカテゴリと20の具体的な項目に分類することができました。これから、項目ごとに、どのように生成AIが活用されているのか、主に授業の中で活用された具体的な事例を紹介していきます。
なお、児童生徒自身が生成AIを活用した事例もあれば、教師が授業の中で生成AIを活用した事例もあります。
カテゴリ | 項目 |
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創造・発想 | ①アイデアを出させる ②生成AIと相談しながら思考を洗練・深堀する ③計画や案を作成させる ④絵や音楽、物語等を作成させる |
文書・ドキュメント作成 | ⑤文書のたたき台を作成させる ⑥文章を校正・添削させる ⑦要約させる ⑧翻訳させる |
データ処理・分析 | ⑨データを整理・分析させる ⑩画像や動画から情報を読み取らせる |
学習・問題解決支援 | ⑪チェック・評価させる ⑫物事を説明・解説させる ⑬問題を生成させる ⑭プログラム・コードを作成させる ⑮問題を解かせる/計算させる ⑯発音をチェックさせる ⑰文章を読み上げさせる |
対話・コミュニケーション | ⑱ディベート相手をさせる ⑲ペルソナを演じさせる ⑳英会話の相手をさせる |
創造・発想
①生成AIにアイデアを出させる~小学校3年・道徳~
かるた遊びの際にできるだけ多くの人が仲良く遊べるようにするための「約束ごと」を考える問題について、生成AIを活用してそのアイデアを求めました。すでに子供たちから出たアイデアもあれば、少し分かりにくいアイデアも出てきたようですが、子供たちが物事を考えるきっかけとなり、思考を広げる効果がありました。
②生成AIと相談しながら思考を洗練・深堀する~小学校6年、中学校1年・体育科~
ハンドボールの授業において、子供たちが技術的な課題を発見し、次の時間のめあてを作るため、生成AIを活用して振り返りを行いました。
子供たちが「今日の授業で学んだこと」を入力すると、生成AIはその内容を深堀りするような質問を投げかけてきます。質問に答えていく中で、子供たちの振り返りは深まり、洗練されていきます。
また、学んだこととして「協力の大事さ」と入力すると、ハンドボールの技能に対して答えるよう促してくれるなど、教師が対応しないと難しいような振り返り活動も、生成AIを活用しながら行うことができました。
③生成AIに計画や案を作成させる~中学校・特別活動~
修学旅行の班別自主研修では、限られた時間内でどこを訪問するかについて、生成AIに条件を提示し、計画案を作成させました。その計画を基に最終的なプランを立てましたが、生成AIが時折誤った情報を出力すること(ハルシネーション)があるため、生徒たちは自分たちでファクトチェックを行ったようです。
また、教師の校務においても、生成AIを活用して学習計画や指導案、ルーブリックの作成を行った事例が多く報告されていました。
④生成AIに絵や音楽、物語等を作成させる~小学校6年・総合的な学習の時間~
小学校6年、総合的な学習の時間での活用事例です。子供たちが考えたシナリオの素案を基に、生成AIを使って話のあらすじや登場人物のセリフを作成し、劇の台本を完成させました。また、劇で使用する画像も生成AIに生成させました。
生成AIを活用して絵や音楽、物語を作成することで、子供たちが持つイメージを簡単に視覚化することができました。
文書・ドキュメント作成
⑤生成AIに文書のたたき台を作成させる~中学校2年・英語、校務~
生成AIとの対話を通じて、修学旅行の企画書を作成しました。生成AIに企画書の書き方を学びつつ、子供たちが伝えたい内容に合わせて、発表資料や企画書の形式に適した文章を生成AIに手助けしてもらいながら仕上げました。この活用は、生成AIを使って絵や音楽、物語を作る活動に似ていますが、情報伝達を目的とした連絡文書作成に焦点を当てているため、別の分類にしています。
また、校務においては、保護者に送るお知らせなどの作成に生成AIを活用する事例が多く報告されています。
⑥生成AIに文章を校正・添削させる~高等学校・英語~
高等学校の英語の授業での活用事例です。生徒が書いた英作文を生成AIに添削してもらうことで、より良い文章に仕上げたり、表現の幅を広げたりすることができます。授業での活用事例としては、この項目に該当するものが19件あり、そのうち12件が英文の添削でした。
⑦生成AIに要約させる~小学校6年・社会科
生成AIに長い文章を、分かりやすく短く要約してもらいます。これにより、重要なポイントをより把握しやすくなる利点があります。「1年生にも分かるように分かりやすくまとめてください」といった具体的な指示を出すことで、子供たちにとってより理解しやすい内容に仕上げることもできます。
⑧生成AIに翻訳させる~高等学校・部活動~
海外の論文を生成AIに翻訳してもらいました。生成AIを活用することで、子供たちの英文理解を助け、海外文献からの情報収集も容易になります。ただし、教育利用としての事例は2件のみで、まだ多くはありませんでした。
次回第3回では「データ処理・分析」「学習・問題解決支援」のカテゴリの事例を紹介予定です。
参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 井上 信介
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