2024.10.14
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意外と知らない"大学入試"(第2回) 個別学力検査でのCBT活用

第1回では、大学入試の制度や近年進められてきた改革の動向について紹介しました。第2回では、個別大学入試の英語のスピーキング力調査、総合型選抜や学校推薦型選抜の基礎学力検査などで進むCBT(Computer Based Testing)活用について、実施事例や、実施パターンとメリット、普及に向けた課題解決の動きを見ていきたいと思います。

1 CBT化で解決できる課題

大学入試センター「大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性について(報告)」では、現行のPBT(Paper Based Testing)方式の共通テストの課題をCBTで解決できる可能性が示されました。

  • 出題・解答形式に制約がある
    →パソコン上で出題・解答することで、マルチメディア(動画、音声)の利用、解答に至るまでの過程等の情報(操作ログ)の取得・活用が可能になる。
  • 50万人分の問題冊子・解答用紙の印刷、輸送・保管、配付・回収が必要
    →試験問題・解答を電子データにより配信・回収できる。
  • 試験問題は1バージョンのみで同一時刻一斉実施が必須
    →IRT(項目反応理論*)も活用することで、試験問題を複数バージョン用意して複数回実施ができる。

同様のメリットは、大学入学共通テストだけでなく、個別大学入試においても期待されるとし、大学入試センターは各大学でのCBT活用普及に向けた取組を進めています。

*IRTについては、2023年に掲載した「意外と知らない"テスト理論"(第2回)」で解説していますので是非ご参照ください。

2 CBT入試実践事例

大学入試センターの事例集から

大学入試センター「個別大学の入学者選抜における CBT の活用事例集」第1章では、令和3(2021)年度入学者選抜にCBTを活用した以下の7大学(国立4、公立1、私立2)の事例が紹介されています。CBT試験の結果だけではなく、書類審査・面接等と合わせて多面的な評価を行い、合否判定が行われる総合型選抜、学校推薦型選抜での活用が多いようです。

CBT方式を採用した理由として「問いたい力を問うためには、PBTよりCBTの方が有効である」「試験を実施する上でPBTよりCBTの方がメリットが大きい」の2つが挙げられています。2001(令和3)年度入学者選抜はコロナ禍での実施となったという事情も相まって、感染拡大防止の観点からCBTを採用し、自宅や在籍している高校、全国各地のテストセンターで受験できるようにした大学も見られたと報告されています。

    
大学名 選抜区分 対象教科・科目等 受験者数 試験会場 ネットワーク方式
東京外国語大学(国立) 一般選抜 英語(スピーキング) 57 名(令和4年度は1,445 名が受験) 大学の普通教室 スタンドアローン方式
京都工芸繊維大学(国立) 総合型選抜 英語(スピーキング) 24 名 大学の情報教育施設 LAN方式
九州工業大学(国立) 総合型選抜 適性検査(数学、理科、英語)、レポート、 課題解決型記述問題 196 名 自宅等の任意の場所WAN方式
佐賀大学(国立) 総合型選抜、学校推薦型選抜 基礎学力・学習力テスト、 動画を用いて思考力・判断力等を問うテスト、 英語(スピーキング・リスニング) 73 名 大学の普通教室 スタンドアローン方式
叡啓大学(公立) 一般選抜 国語、数学、選択科目(地理歴史、理科から 1 科目選択) 52 名 テストセンター(10都道府県12会場) LAN方式
函館大学(私立) 学校推薦型選抜、一般選抜 英語(スピーキング) 71 名 大学の情報教育施設 WAN方式
神田外語大学(私立) 総合型選抜、学校推薦型選抜、特別選抜 英語(リスニング、文法) 面接、口頭試問・プレゼンテーション等 898 名 自宅等の任意の場所 WAN方式

※実施パターン

事例集の第2章では、以下6つの項目で実施方法が整理され、各大学が採用した方法やそのメリット、課題も記載されています。

  1. 試験会場
    ①大学普通教室、②大学の情報教育施設、③自宅等の任意の場所、④テストセンター
  2. 試験時のネットワークの活用方法
    ①スタンドアローン方式、②LAN方式(試験会場に設置されている中間サーバにある試験問題にアクセスして解答)、③WAN方式
  3. 試験実施の機器・設備(パソコンやネットワーク等)の整備
    ①大学で購入・保有、②民間事業者からリース、③受験者が用意(BYOD)
  4. ソフトウェアの開発
    ①既存システムを活用またはカスタマイズ、②独自開発
  5. 試験問題の作成、CBTシステムへの登録
    ①作成は大学が担当、登録は民間事業者が担当、②作成・登録ともに大学が担当
  6. 当日の試験実施に関わる業務
    ①大学と民間事業者が連携して業務を担当、②主に大学が業務を担当、③主に民間事業者が業務を担当

事例1)佐賀大学

2018年度入試から「再チャレンジ」できるCBTを導入

「佐賀大学版CBT」として、CBTシステムを独自開発し、3つのタイプのテストを実施しています。

  • 対象入試種別(2025年度入試)
    理工学部 総合型選抜および学校推薦型選抜
    農学部 学校推薦型選抜(※2024年度入試までは、総合型選抜でも実施)
    教育学部(英語分野) 総合型選抜
    経済学部 学校推薦型選抜
    芸術地域デザイン学部 編入学試験
  • CBT調査
    Type1.基礎学力・学習力テスト
    Type2.思考力・判断力・表現力等を問うテスト
    Type3.英語技能テスト

Type1は、教科書の基本レベルの内容を問う択一式のテストで、推薦入試による入学者の基礎学力担保のために、2018年度入試より口頭試問に加えて始めたそうです。数学・物理・化学・生物・英語の5科目から1~2科目が課されます。全ての問題(10~15問程度)を解き終わったら、受験者の任意のタイミングで自動採点を行います。ここで点数が悪かったら不合格ではなく、間違った問題については、正答と解説文が提示され、解き方を学習することができます。メモを取ってもいいそうです。その後、類題である「再チャレンジ問題」に1回で正答すれば、一定の「学習力」があると評価する仕組みです。

一部の学部では、即時採点のメリットを活かし、午前中に実施したCBTの結果を見ながら、午後に面接試験を実施しているそうです。「合格したら、入学までに教科書を中心にしっかりと基礎固めをしておくように」というメッセージを伝えています。

Type2、3では、化学の実験動画を見て解答する問題で「観察にもとづく科学的な思考力・判断力・表現力」(高校で実験にしっかり取り組んできたか)を評価する、英語の映像の視聴や資料の読み取りをもとにプレゼンテーションを行わせて、英語4技能に留まらない「コミュニケーション能力」を評価するなど、当該分野の適性を見ているそうです。

事例2)京都工芸繊維大学

2018年度入試からCBT英語スピーキングテストを実施

KIT(Kyoto Institute of Technology)英語スピーキングテストプロジェクトでは、2012年に入試改革の一環として、英語スピーキングテスト導入に向けた学際的な研究グループを立ち上げ、「リンガフランカ(国際語)としての英語」運用能力を測定するための CBT英語スピーキングテストを独自開発し、学生の英語発信力向上のため、連携大学・連携研究者とともに、事業の横展開の取組を行っています。

英語発信力に長けた志願者向けの募集区分で、学術的・社会的に重要なトピックに関して、自身の考えや意見を英語で効果的に発信する力を測っており、大学HP上で、5分で考えて、3分話すサンプル問題(「AIは10年後の社会をどう変えると思うか」「AI時代にはどのような能力が重要だと考えるか」)の動画も公開されています。

  • 対象入試種別
    ダビンチ入試(総合型選抜)一般プログラム【グローバル】
  • CBT調査
    英語スピーキングテスト

事例3)電気通信大学

2025年度入試から日本で初めて「情報Ⅰ」をCBTで出題

「CBTシステム」体験会の様子

情報Ⅰでは「①実際のプログラミング環境でプログラムを編集・実行しながら解答を求める問題、②データ解析ツールを用いて実際のデータを分析しながら解答を求める問題など、従来の紙による試験や口頭試験だけでは測定ができなかった力を評価する問題を出題する」とのことです。

実施に向けて、オープンキャンパス時に受験希望者や高校の教員対象の説明・CBTシステム体験会も行われていました。志願者に対しては、出願受理後から基礎学力検査までの一定期間の間に、オンラインによるCBTシステムの操作体験の機会も提供されています。

  • 対象入試種別
    情報理工学域Ⅰ類(情報系)総合型選抜(昼)および学校推薦型選抜
  • CBT調査
    基礎学力調査(情報、数学)
    非認知能力調査

電気通信大学でも総合型選抜、学校推薦型選抜で入学した学生の1年次での成績が振るわない(プログラミング能力は高いが、数学の単位を落としてしまうなど)ことが課題となっていました。2023年度より入学式前に、CBTで数学・物理・情報(化学・英語も検討中)の基礎学力テストと、非認知能力調査(主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度等の測定)を行い、授業についていけるように補講へ誘導したり、個別指導を行っており、その仕組みを活用しています。

なお、本入試プロジェクトについては、New Education Expo 2024において、プロジェクト責任者を務める植野 真臣教授によりセミナー発表が行われていますので、こちらのリポート記事も是非お読みください。

3 個別大学入試でのCBT活用普及に向けて

連携協力協定

「学生の修学状況(中退者・休学者)等に関する調査【令和3年度末時点】」によると、毎年2%の学生が中途退学しています。入学後のミスマッチを防ぎ、「アドミッション・ポリシー」に合う学生を選抜する方法としてもCBTは期待されています。

今年(2024年)6月、大学入学者選抜におけるCBT活用の推進・CBTという新しい試験の在り方に対する社会全体の理解の促進を目的とし、CBT入試を既に導入している神田外語大学・佐賀大学・電気通信大学と大学入試センターが「大学入学者選抜におけるCBTの活用の推進に向けた連携協力に関する協定」を結びました。

2026年度末まで、受験環境の確保、トラブルへの対応体制の構築など、紙のテストとは異なる細やかな検討事項の知見を共有し、CBTを導入しようとする各大学の共通課題・負担を軽減していくための活動が行われていく予定です。個別のCBT選抜の実施基盤を安定させることで、CBT活用に魅力を感じる大学関係者が増え、社会全体にメリットの理解が広がっていくと見込まれています。

CBT受験環境に関する研究報告

ここまで見てきたように、CBTと言ってもさまざまなパターンがあることが分かります。大学を試験会場とする場合は、問題作成、試験運営方法の検討だけでなく、途切れないネットワーク環境の準備や、必要な台数分のパソコンの調達・キッティングも必要です。入試での利用においては、スペックがバラバラでは不公平になりますし、受験生が試験中にカンニングにつながるような操作ができないようにする必要もあり、通常利用しているパソコンをそのまま使うという訳にはいきません。自宅等で受験する際には試験時間中15秒に1回、受験者の様子を写真撮影し、AIで顔認証する不正防止システムなどが利用されています。

大学入試センターは「特別な設備をもたない講義室でのCBTの実施方法の選択肢を拡大し、少ない準備コストで効果的にCBT を実施できるパッケージを増やすこと」を目的とした研究の報告書「モバイル端末管理の機能を活用したCBT環境の簡易設定に関する研究報告書」で、試験専用のアプリケーションをインストールしたり、汎用ブラウザを試験専用のロックダウンブラウザとして使用するためのWindows OS、Chrome OS端末での詳細な設定手順から、タイマー付き電源タップによる大量端末の輪番充電の方法、かかった費用、試験監督要領の例まで紹介しています。

さいごに

第1回・第2回を通して、大学入試の改革・変化について見てきました。1990年から2020年まで30年続いてきた”センター試験”に代わり「大学入学共通テスト」が2021年度入試より開始されたこと、2025年度入試から新学習指導要領に対応した科目構成になること、AO入試は総合型選抜へ変更となり、現在は一般入試よりも総合型選抜・学校推薦型選抜での入学者が多いこと、CBT入試も行われていることなど、従来の大学入試を経験した皆さんにとっては、驚きもあったのではないかと思います。

1点刻みの学力偏重の評価から多面的な評価へと変わることで、大学・志願者のマッチ度も上がり、大学での教育・研究にもよりよい影響を与えることが期待されます。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 大山 恵夢

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