2024.11.11
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意外と知らない"生成AIの教育利用" (第1回) 文部科学省のガイドライン

2022年10月にChatGPTが公開されて以来、生成AIが急速に普及する中、文部科学省は2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下、「ガイドライン」とします)を公表しました。これを踏まえて、文部科学省は、教育活動や校務において生成AIの活用に取り組む「生成AIパイロット校」を2023年度に52校、2024年度に66校指定し、効果的な教育実践の創出に取り組んでいます。この成果を4回にわたって紹介したいと思います。第1回では、文部科学省のガイドラインの内容を紹介します。

生成AIを使っていますか?

総務省は、2024年7月5日に「令和6年版 情報通信白書」で、生成AIを業務で利用している企業は46.8%、利用経験のある個人は9.1%というアンケート結果を発表しました。

私も、業務効率化はもちろん、アイデア出しなどの創造的な業務にも生成AIを活用し、その価値を実感しています。ビジネス用途では、生成AIが確実に浸透してきていると言えるでしょう。

文部科学省が公表したガイドラインを見ると、生成AIの教育利用に対して慎重な印象を受けますが、学研教育総合研究所の小学生白書・中学生白書(2023年10月)によると、小学生の10%、中学生の16%が「ChatGPTなど対話型生成AIを学校で利用したことがある」と回答しています。

働き方改革の一環として

ガイドラインについては、夏休みの宿題の読書感想文などでの留意点が話題になりましたが、教員研修など準備が整った学校で実証研究を進めるとして、次のように校務での活⽤例もたくさん例示されており、業務の効率化や質の向上など、働き方改革の一環としての生成AI活用と、実践例の創出も期待されています。

校務での活用例(ガイドラインより作成)
児童生徒の指導にかかわる業務の支援
  • 教材のたたき台作成
  • 練習問題やテスト問題のたたき台作成
  • 生成AIを模擬授業相手とした授業準備
  • 学校行事・部活動への支援
  • 校外学習等の工程作成のたたき台作成
  • 運動会の競技種目案のたたき台作成
  • 部活動等の大会・遠征にかかる経費の概算
  • 定型的な文書のたたき台作成
  • 学校の運営にかかわる業務の支援
  • 報告書のたたき台作成
  • 授業時数の調整案のたたき台作成
  • 教員研修資料のたたき台作成
  • HP等広報要資料の構成・たたき台作成
  • 挨拶文や式辞等の原稿のたたき台作成
  • 外部対応への支援
  • 保護者向けのお知らせ文書のたたき台作成
  • 外国籍の保護者へのお知らせ文書の翻訳のたたき台作成
  • さまざまなリスク

    教育現場では、子供たちの個人情報やプライバシーに関する情報も多く扱われます。生成AIに入力した情報は生成AI自身の学習にも使われ、他の利用者が入力したプロンプト(指示文)への回答として利用される可能性があります。ガイドラインでは、こうしたリスクを防ぐために、入力した内容が学習に使われないように設定することや、個人情報を入力しないようにすることなど、個人情報をしっかり守るための方法も示されています。

    それでは、子供たちの生成AI活用についてはどうでしょうか。生成AIは便利ですが、「ハルシネーション」と呼ばれる事実と異なる内容や、文脈と無関係な内容が出力されることがあります。このような特性を理解しないと、正しく活用することは難しいでしょう。

    さらに、個人情報の流出、著作権侵害のリスク、偽情報の拡散など、様々な懸念も指摘されています。こういったことを踏まえ、ガイドラインでは、生成AIの教育活用について児童生徒の発達段階を十分に考慮する必要があると示されています。(なお、ChatGPTなど多くの生成AIでは、利用規約の中で年齢制限や保護者同意が求められています。)

    さらに、教育利用にあたっては、事前に生成AIの性質やメリット・デメリットを十分に理解させた上で、子供たちの発達段階や実態を考慮し、学習指導要領に示す資質・能力の育成を阻害しないか、教育活動の目的を達成する観点で効果的か否かを判断すべきとしています。

    このように、ガイドラインは生成AIの教育利用に対して慎重な姿勢を取っています。そのため、公表時点では活用が有効な場面を検証しつつ限定的な利用から始めることが適切として、生成AIを取り巻く懸念やリスクに十分な対策を講じることができる一部の学校において、パイロット的に取り組むことが適当としています。

    全ての学校で「情報活⽤能⼒」の育成強化

    一方で、2022年時点でスマートフォンの所有率は小学生で64%、中学生で91%と広く普及しています。生成AI が組み込まれたWeb検索サービスも登場しており、たとえ学校内で生成AIの利用を禁止したとしても、子供たちは知らず知らずのうちに、生成AIに触れる可能性は十分に考えられます。

    そのため、ガイドラインでは、生成AIの普及を念頭に置き、すべての学校で情報モラルを含む「情報活用能力」の育成を充実させることが重要であると示されています。例えば、生成AIが生成した誤りを含む回答を教材として使用し、その情報の真偽を確かめる(ファクトチェック)ことを意識的に教えるなど、生成AIの性質を学ばせるための活動例も示されています。

    文部科学省では、2023年度からリーディングDXスクール事業を立ち上げました。この事業は、全国の小中高等学校約200校を指定し、GIGAスクール構想で導入された1人1台端末を活用した効果的な教育実践を創出し、ICTを活用した教育活動を推進するものです。(私たち内田洋行教育総合研究所がリーディングDXスクール事業の事務局を務めており、指定校の皆様の支援を行っています。)

    この事業では、ガイドラインに示された「生成AIを取り巻く懸念やリスクに十分な対策を講じることができる学校において、パイロット的に取組を推進」するために「生成AIパイロット校」が設けられました。リーディングDXスクール事業の公式HPには、2024年11月現在、2023年度の指定校が取り組んだ実践事例が266件掲載されています(生成AIの校務利用や生成AIを活用するための事前指導についても事例としてカウント)。

    リーディングDXスクール事業で取り組まれた代表的な実践事例について、次回から紹介していきたいと思います。

    構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 井上 信介

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