2023.08.09
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新刊『インクルーシブ教育ハンドブック』

国際的に高く評価されている特別支援教育の大著、ついに邦訳!
多様化する教育的ニーズ、教育における権利と平等など理論的な問題から、授業実践や機関間連携など実践的な課題まで、日本の教育のあり方を考えるうえで参考になるトピックを厳選し抄訳。
社会文化的背景を踏まえた学際的な視座からインクルーシブ教育を捉え直します。

「特別(special)」でありながら、排除しない、少なくとも排除に強く抗い続ける

伊藤先生より(はしがき、第4章、第35章、監訳者あとがきを担当)

本書は、2014年に出版された「The SAGE Handbook of Special Education 2nd Edition」の一部の章を除き翻訳したものです。翻訳出版のきっかけは、2015年にまで遡ります。同年に私はスコットランドを訪れ、Lani Florian(ラニ・フロリアン)氏にお会いし、インクルーシブ教育の必携書として本書をご紹介いただきました。様々なトピックが取り上げられている本書をはじめて見た時の興味深さを今でも覚えています。そして、2020年に本書の出版企画を立ち上げ、およそ3年かけて翻訳、執筆活動に取り組んできました。

原著のタイトルSpecial Educationは原則的には特別教育、もしくは特殊教育と訳されます。しかし、我々はあえて本書のタイトルを『インクルーシブ教育ハンドブック』と名付けました。そのねらいは本書の「監訳者まえがき」および「監訳者解題」に記載していますが、ここではまえがきの一部を引用したいと思います。

”本書は寄稿者各々が、実践と理論とを往還しながら重ねてきた思索の結晶物である。かれらの思索の中軸となる理念こそ、インクルーシブだとわたしたちは確信している。「特別(special)」でありながら、排除しない、少なくとも排除に強く抗い続けること――この難題に挑む思索をささえる言葉がインクルーシブなのである。”

ここに示されている通り、インクルーシブ(教育)とは障害をはじめとする子どもたちを通常の教育システムに統合することを必ずしも意味しません。本書に含まれる様々なトピックからインクルージョンの多様性と複雑性、そして可能性を探究していただければと思います。

目次

第I部 特別な教育的ニーズを理解する

第1章 特別教育を再構想する:なぜ新しいアプローチが必要なのか
第2章 差異に立ち向かう:特別教育小史
第3章 サービス提供の諸モデルと手立ての諸形態
第4章 特別な教育的ニーズのカテゴリー
第5章 特別教育におけるエスニック・マイノリティの不均衡な配置
第6章 特別教育に対する社会学的観点
第7章 障害のある児童生徒の教育における社会正義

第Ⅱ部 インクルージョンという挑戦

第8章 教育における障害者の権利
第9章 インクルーシブ教育:グループや学校を対象とする教育から、万人のための教育(EFA)の核となる質の高い教育の実現へ
第10章 特別教育からみんなのための効果のある学校へ:アジェンダを拡張する
第11章 インクルーシブな学校教育は民主主義における前提条件なのか
第12章 インクルーシブ教育における公正:比較文化史の視点

第III部 知識を生み出す

第13章 認識論(エピステモロジー)と特別教育
第14章 行動理論とその実践に残された課題
第15章 社会文化理論からみた学習
第16章 特別教育の比較と国際的な視点
第17章 特別教育の研究アプローチに向けた障害学の概念的枠組み
第18章 特別教育の応用科学:定量的アプローチが取り組む問いと実践への示唆
第19章 インクルーシブな教室実践を研究する:参加のためのフレームワーク
第20章 研究することと子どもの声を聴くこと
第21章 〈障害〉のある成人学習者の善き生(ウェル・ビーイング)を評価するケイパビリティ・アプローチの応用

IV部 教えることと学ぶこと

第22章 限界なき学び:能力に関する決定論的信念から解放された教授学の構築
第23章 重度知的障害を持つ学習者の教育的ニーズに対応したカリキュラムの検討
第24章 カテゴリーとラベルを超えて:「障害」の学習のためのアセスメントを支援する知識―問題は明確に設定されているか?
第25章 学習と評価のための「インサイダー」レンズとしての自己評価
第26章 インクルーシブな教室におけるティーチャーアシスタント
第27章 学習困難や障害のある子ども・若者と、ない子ども・若者の間の友情と仲間関係
第28章 機関間連携と特別教育:パートナーシップという「善き」理念を超えて子どもとの協働のための新たな枠組みへ

第V部 研究と実践の未来に向けて

第29章 見下しのない教育:哲学・人格性・認知的な障害
第30章 特別教育における正統的信念への挑戦:長年の議論と哲学的分裂をめぐって
第31章 特別な教育的ニーズに対応するために、学級担任は何を知る必要があるのか
第32章 探究とコミュニティ:インクルージョンに向けた専門性育成の稀有な機会
第33章 スタンダード主導の改革が進行する米国とイングランドにおける特別教育の見方の変化
第34章 学校における医療化
第35章 特別教育と広範な教育議論への貢献

新刊『インクルーシブ教育ハンドブック』

著:ラニ・フロリアン
監訳:倉石一郎、伊藤 駿、濱元伸彦、渋谷 亮、佐藤貴宣
発行:北大路書房
定価:13,200円(税込)
判型・ページ数:A5・864ページ

文・画像提供:北大路書房

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