2019.05.29
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意外と知らない"特別支援教育"(3) ~言語障害、自閉症・情緒障害、発達障害~

2014年に日本は障害者の権利に関する条約の140番目の批准国となりました。これを受けて、障害者差別解消法が2016年4月に施行され、役所や公立学校などの公的機関は、障害者が障害を理由に不利益を受けることのないよう「合理的配慮」を行うことが義務付けられました。例えば、テストを受ける際の試験時間の延長、点字・拡大文字・ルビ振り問題用紙の使用、別室の設定などがこれにあたります。しかし、知的発達に遅れの無い障害の場合、周囲の理解不足のために「合理的配慮」が提供されていないことも多く、課題となっています。第3回では、言語障害、自閉症・情緒障害、発達障害について紹介します。

特別支援学級の場合、障害にかかわり個別指導などでより手厚く行う必要がある国語、算数・数学、英語は特別支援学級で行い、その他の教科は交流学級で行うことが考えられます。
通級による指導においては、多くの時間を過ごす通常の学級の子どもたちに対する障害の理解啓発に関する取組みも必要になります。学級担任は、クラスの他の子どもたちに通級のことを説明する際には、「~ができないから」、「病気を治すために~(障害は病気ではありません)」通級しているというような誤解を生む表現を避け、その子どもの状態を具体的に説明します。また、通級の時間の前後に「行ってらっしゃい。」「どうだった。」などさりげない声かけをすると、気楽に通級できる雰囲気をつくることにもつながります。

■言語障害

言語障害とは、発音が不明瞭であったり、話し言葉のリズムがスムーズでなかったりするため、話し言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない状況であること、また、そのため本人が引け目を感じるなど社会生活上不都合な状態であることをいい、大きく3種類あります。

構音障害 話し言葉を使う中で「さかな」を「たかな」、「はなび」を「あなび」などと、一定の音を習慣的に誤って発音する状態をいう。 構音障害は、口唇、舌、歯等の構音器官の構造や機能に異常があって生じる器質的構音障害とこれらの器官に異常が認められない機能的構音障害がある。
吃音 脳、発語器官等に明確な根拠が無いが、連発(「ぼ、ぼ、ぼ、ぼく」のような同じ音の繰り返し。)、伸発(「ぼ---く」のような引き伸ばし。)、難発(「・・・ぼく」のように音がつまって出ない。)等の言語症状が見られ、本人がどもることに不安をもち、悩み、話すことを避けようとする。
言語発達の遅れ 人とのかかわりには課題は見られないが、①思ったことを的確に言葉にできない、質問されたことに的確に答えられないなど、話し言葉の使用や理解に課題が見られる、②読むこと、書くことに課題が見られる、③言葉の使用には一見課題がなさそうに見えるが、相手にわかる話し方や相手の話の聞き方などの会話のルールの課題や、場面に即した言葉遣いや、気持ちを表す言葉の使用など、関係性の理解に課題が見られる場合の3タイプがいる。

言語障害の特別支援学級や通級指導教室(ことばの教室)では、子どもの興味・関心に即した自由な遊びや会話、ゲーム、劇等を通して、教師との好ましい関係をつくり、子どもの気持ちをときほぐしながら、それぞれのペースに合わせて正しい発音や楽に話す方法を指導します。

構音障害の場合、次のような指導が行われます。

舌や口唇など発音発語器官の運動機能の向上をねらいとした指導 食品を噛んで咀嚼し飲み込む動作を通してその機能を向上させる練習、舌先を口角に付ける練習、舌先で食品をなめる練習などをする。
語音の聴覚的認知力の向上をねらいとした指導 目的音について、正しい音と誤っている音を聞き分ける練習をする。(サとタ、ラとダ、チとキなど)
構音操作を導く指導 舌や口の形を見せたり、正しく構音できる音の母音を変えたり(ケとキなど)、正しく構音ができる似た音の操作や位置を確かめたり(ヒとシなど)しながら目的の音を練習する。

吃音の場合、次のような指導が行われます。

楽に話すこと、話すことの楽しさを経験させる指導 自分の話し方で話してもいいと思える経験、楽に話をする経験を積むこと、話し方に注意を向けず、話したいことを話すということを重視し、子どもが、話せた、伝わったという満足感や話すことの楽しさを充分味わえるようにする。
流暢に話せたという自信をもたせる指導 物語などを一緒に読む、リズムをつけて読む等によって、流暢に話せる場合がある。ただし、効果は一時的であることが多いので、「やっぱりダメだ」等、自己否定に陥らないように留意する必要がある。
楽にどもる指導 苦しい話し方(難発)を楽な話し方(連発、伸発)に変える
脱出法の指導 難発の状態を抜け出す方法(最初の音を引き伸ばして発音する方法、口の構えを一度解消してはじめからやり直すという方法、息を少しずつ出すようにして発音する方法など)を指導する。
苦手な語や場面に対する不安・緊張の解消に向けた指導 苦手な語や場面を設定し練習する。

言語発達の遅れの場合、次のような指導が行われます。合わせて読み・書きのつまずきへの支援も行います。

コミュニケーション意欲を高める指導 コミュニケーションが的確に成立しないことに起因する自信のなさがあるので、子どもの興味・関心に応じた教材を活用し、話題を共有したり、言葉でのやりとりを活発にしたりする。
コミュニケーションの基礎を育てる指導 子どもの言葉の理解や使用の際の特徴を把握し、社会的場面での行動の仕方、表情などのコミュニケーションの手がかりの学習、社会的ルールの習得などを行う。
発声発語器官の機能を高める指導 日常生活場面で、意識的に噛むこと・なめること・吸うこと・吹くこと・うがいや歯磨き、鼻をかむことなどに取り組む。
語彙を拡充する指導 身の回りの言葉集めやしりとり、カルタづくりなどで語彙を拡充する。
聞く力を育てる指導 言葉を間違って覚えないように、音や言葉などを注意深く聞きとる力や態度を育てる。
話す力を育てる指導 正しい文で話したり、伝えたいことを正しいことばで順序よく表せるように指導する。

■自閉症・情緒障害

自閉症スペクトラム(ASD)概念図

自閉症・情緒障害の特別支援学級、通級指導教室は、発達障害である自閉症などと、心因性の選択性かん黙などのある子どもを対象としています。
自閉症とは、3歳頃までに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害です。自閉症の主な特性としては、自分から他人にかかわりを求めていくことが少なく、周囲の様子に無関心であるようにみられたり、表情や身ぶりから他人の気持ちを理解できなかったり、他人と関係をもつことが苦手です。また、話し言葉に大きな遅れがみられ、相手の言葉の理解にも困難があります。アクセントや抑揚等が単調であり、言葉の出始めでは、エコラリア(反響言語・他者が話した言語を繰り返して発声する)、あるいは独り言が多いといわれ、言葉の発達が遅れます。さらに、手をひらひらさせて指の間をのぞき込んだり、前後に身体を揺すったりといった常同行動(目的のない行動を繰り返す)や物の置いてある位置が少しでも違うとすぐに気がついて直しに行くといった同一性保持の傾向もみられます。その他の特性として、感覚刺激への特異な反応や食生活の偏り、自傷等があります。軽い程度から極めて重い程度まで見られ、一人一人の状態は多様です。
言語の理解と使用や、対人関係の形成や生活に必要なルールの学習など場に応じた適切な行動などができるようにするための指導が行われます。暗記することやパターン的な学習が得意です。途中で学習方法を変更しないようにします。抽象的・応用的な内容は苦手なので、視覚的な教材を使い、目標や目安を具体的に示し、本人との間でルールを決めることが大切です。急に大声を出したり、泣き出したりしてパニックになった時は、場所を静かな所に替え、落ち着くのを待ちます。教室を飛び出したり、動き回ったり、 耳をおさえていたりする時などは、周りがうるさいと感じているのかもしれません。環境を見直して感覚過敏に対応します。偏食については家庭での様子を聞きとるなど、 保護者と連携した取り組みを進めることが大切です。 初めてのことが苦手な場合が多いので、スモールステップで慣れるようにすることが大切です。
通常学級では、理解できるように具体的でわかりやすい言葉を使うようにします。

理解しにくい言葉の例 わかりやすい言葉の例
電話で「お母さんいますか?」 「お母さんがいたら、替わってください」
勉強中「これ合っているかな?」 「ここは、間違っています。もう一度やってみましょう」
「他の人が困るでしょう」 「○○をすると友だちは嫌だなって思うから△△しよう」
「みんなの様子を見てごらん」 「今は、○ページの漢字の書き取りをしているところだよ。3回ずつノートに書きましょう」

情緒障害とは、情緒の現れ方が偏っていたり、その現れ方が激しかったりする状態を、自分の意志ではコントロールできないことが継続し、学校生活や社会生活に支障となる状態をいいます。選択性かん黙とは、一般に、発声器官等に器質的・機能的な障害はありませんが、心理的な要因により、特定の状況で音声や言葉を出せず、学業等に支障がある状態です。選択性かん黙は、自閉症等とは異なり、言語を習得し、理解することには特別な障害はないことに留意する必要があります。原因は、一般に、集団に対する恐怖、人間関係のあつれきなどが指摘されています。また、その状態が著しい場合には、知的障害や自閉症などと区別しにくいこともあります。多方面からの調査を基にした総合的な判断が必要です。安心できる雰囲気の中で、心理的安定や集団参加に関する学習など情緒の安定のための指導が行われています。子どもの性格、発達の様子などの個人に対する配慮と教師や友だちとの関係等、環境づくりへの配慮が必要です。子どもが不安に感じないように心理的にリラックスできる場面をつくります。話すことを強要しないようにし、場合によっては、身振りやサインを決め、使うようにします。好きなことや得意なことを見つけて、自信がもてるようにかかわり、話し始めても驚いたり、大げさにほめたりしないようにします。

■発達障害

発達障害概念図

2012年文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」より

発達障害は、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されますが、気づかれにくい障害であり、社会的適応能力に弱さがあるにもかかわらず、通常の学級において、他の多くの子どもたちと同等の適応能力を求められるため、精神的ストレスや不安感が高まり、自信や意欲を喪失し、自己評価や自尊感情も低下して、情動面が不安定になってすぐ怒ったり興奮する、同級生等とのトラブルが頻発する、大人や社会へ反抗的な言動を取るようになる、不登校になるなど、さらなる適応困難を招いてしまうことが多くあります。障害特性から引き起こされる学習面、行動面、対人関係における様々なつまずきに対して、適切な支援をし、安心して生活を送れるようにすることが必要です。近年では、早期に発見して、叱責等による二次障害を防いだり、幼稚園・保育園から療育センターに通級できるようにするため、5歳児健診・発達相談を行う自治体も増えてきています。

(1)LD/学習障害

学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものです。視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではありません。LDの場合は、表れる困難は一人一人異なりますので、その子に合った学習方法を習得できるように指導を行います。例えば、何度も書き写す方法では漢字を覚えられないけれども、漢字の成り立ちを音声言語化して覚える方法でなら覚えられるという子には、書くのではなく、唱えることによって覚えるように指導します。

学習障害の種類 特徴
読字障害
(ディスレクシア)
・・・読みの困難
知的能力及び一般的な学習能力に特に異常がないにもかかわらず、書かれた文字を読むことができない、読めてもその意味が分からない(文字と意味両方ともそれぞれ単独には理解できていることに注意)などの症状を指す。読み上げてもらえば理解できる。英語に限って成績不振の場合、この障害の可能性が疑われる。
・漢字の訓読みと音読みを使い分けるのを苦手とするように見受けられる。
・単語の単位をつかむのを苦手とする。一文字ずつ読んでしまい、まとまりのない読み方をすることが多い。
・文字や行を飛ばして読むことが多い。
・特殊音節(拗音・長音・促音)であらわされる文字を発音できない。 など
書字表出障害
(ディスグラフィア)
・・・書きの困難
意図した言葉を正確に文字に表すことができないなどの症状を指す。読むことはできるので、パソコンで正しい漢字を選んで変換することはできる。
・漢字を書く際に、鏡文字を書くことが多い。
・文字を書く際に、余分に線や点を書いてしまうことが多い。
・年相応の漢字を書くことができないことが多い。
・間違った助詞を使ってしまうことが多い。
・文字の大きさや形がバラバラ・マス目からはみ出る。 など
読字・書字障害の合併
(読み書き障害)
上記の読字・書字障害のチェック項目に当てはまるものが多い。
・ひらがなの読み書きを苦手とする。例えば「ね」「れ」「わ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。
・カタカナの読み書きを苦手とする。例えば「ソ」「ン」、「シ」「ツ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。
・特殊音節(拗音・長音・促音)の読み書きを苦手とすることが多い。 など
算数障害
(ディスカリキュリア)
・・・算数、推論の困難
知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、算数用語の理解や、数字や記号の認識・理解に障害が生じることによって、計算力・数字を並べるなどの学習に著しい困難を抱える障害です。 ・数を覚えるのに時間がかかることが多い。
・数の大小の概念を理解できていないように見受けられる。
・九九を習得している年齢なのにも関わらず、九九を覚えられていない。九九を暗記しても計算に応用できない。
・繰り上がり繰り下がりの筆算ができないことが多い。 など
読み間違い、書き間違いの実例

(2)ADHD/注意欠陥多動性障害

ADHDとは、7歳頃までに現れ、①不注意(年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力)、及び/又は②衝動性、③多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもので、その状態が継続します。小集団の中で順番を待ったり最後まで話を聞いたりする指導や、余分な刺激を抑制した状況で課題に集中して取り組むことを繰り返す指導などを行います。
問題行動がどのようなときに起きるのかの調査も大切です。雑然と貼られている掲示物が気になり、整然と貼り直したいという理由で授業中に立ち歩いてしまうといった場合には、周囲の環境を変えるだけで、大きく改善します。(このようにADHDの背景に自閉症の特徴を持った理由が隠れている場合もあります。)

LD、ADHDについては、2006年度から、通常の学級の中で十分な配慮を行った上で、必要であれば、通級による指導を行うことができるようになりました。
LD、ADHDに共通するのは、失敗や叱責を受けるなどの経験が多いために、自分の能力を発揮できず、あらゆる面で意欲を失っている点です。そのため、自力でやり遂げた経験を積み、自信を取り戻していくことが大切です。また、友達との人間関係がうまくつくれないことも見受けられます。LDの場合は(言葉の発達の遅れから)他者の表情や会話に含まれる言外の意味やその場の雰囲気などが分からないために、ADHDの場合は相手の話をさえぎる、友だちに対してかっとなる、などがその理由です。そのため、ソーシャルスキルトレーニングと呼ばれる社会生活上の基本的な技能を身につけるための学習やストレスマネジメントと呼ばれるストレスへのよりよい対応の仕方を学ぶ学習を行う場合もあります。

(3)AD/高機能自閉症・アスペルガー症候群

高機能自閉症とは、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいいます。また、アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものです。対人関係のスキルアップ(適切な会話や適切な距離感の練習、物語の登場人物の気持ちを考える等)や、感情などの自己コントロールの方法を指導します。
進級して急に問題が目立つようになった場合は、新しい学級のルールが原因である可能性もあります。例えば担任の先生が給食の前に「正しい手洗いの方法」で手を洗うように指導した結果、その子がルールを守ろうとしてずっと手を洗い続けてしまい、給食を食べ始められないなどです。「適度な速さで」という暗黙のルールもあることを伝え、このルールの掲示や注意喚起をやめるだけで改善します。

■まとめ

以前は障害があって標準的な発達から大きく逸脱している場合は、トレーニング等によって標準的発達に戻すべきだと考えられていましたが、その子の特性に合わないトレーニングを続けると、かえってその子には必要なスキルが身につかなかったり、自信を失ってしまったりすることが分かってきました。教師は、何か指導して発達を促したいという気持ちから、標準的な手段で教え込みたくなりますが、現在は、良い環境を用意して見守り、苦手なことを補う方法を考案したり、ツールを工夫するサポートをするに留め、その子が見つけたその子なりの克服方法を伸ばすべきだという考え方になっています。すべての子どもが特性に合った方法で能力を伸ばして行ける社会にしたいですね。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子

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