2006.02.28
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

地域、学校、PTA、そして自分で身を守る!/新宿区立戸塚第三小学校

子どもの安全が脅かされている。学校への不法侵入、登下校時の略取誘拐......。学校で防犯教室を開いたり、自治体が小学生全員に防犯ブザーを配布したり、地域ボランティアがパトロールを実施するなどの動きも盛んになってきている。文部科学省でも年明け早々「学校安全緊急アピール-子どもの安全を守るために-」を発表した。しかし、それでも親たちの不安は払拭できない。いったい他に何をすればいいのだろうか。

「今までは、大人が子どもを守る、という発想で活動してきた。次の段階で必要なのは、子どもたちが自分で自分を守る力を身につけるということ」
そう語るのは、新宿区立戸塚第三小学校校長の高田美代子先生。

「本校は全国に先駆けてセーフティ教室を実施してきました。年に1回実施して身につくものではないので、頻繁に行っています」
取材当日も、学びの場.comの連載でもお馴染みの浅利眞氏(クライシスインテリジェンス代表)をゲスト講師とし、防犯ワークショップが実施されていた。

 

 

 

 

 


図書室には「身を守る」ための本のコーナーが

●答えは子どもたちから引き出す 

浅利氏の防犯ワークショップは、以前も学びの場.comで取り上げたので(こちらを参照)ご存知の方もいるかもしれない。このワークショップは、第1部で、小学校5、6年生に、防犯について、自分たちで考えてもらう。第2部で考えたことを、模造紙にまとめて発表用のポスターを作成。第3部で、5、6年生たちがインストラクターとなって、小学校低学年の子どもたちに防犯について教える、というものである。今回は、浅利氏のほか、数名のスタッフがアシスタントとして参加したが、大人たちはいっさい答えを言わず、子どもたちに考えさせる、というのが本ワークショップの最大の特徴だ。

「みんな、去年の11月の事件って知ってる?」
浅利氏は広島県の小学1年女児殺害事件の例について訪ねる。図書室に集まった、5、6年生48名全員が手をあげる。

「そのことについてどう思う?」
「こわい」
「自分だけでなく、友だちに起こるかもと思っても怖い」
口々に答える子どもたち。

「この学校の1年生や2年生が狙われるかも知れないよね。後輩が怖い思いをしないように、どうすればいいと思う?」

子どもたちに考えてもらうことは大きく4つ。
(1)こわい思いってどんなこと?
(2)こわい思いをしているときはどうしたらいい?
(3)こわい思いをした後はどうしたらいい?
そして一番大切なこと、
(4)こわい思いをしないためにはどうすればいい? 

これらについて子どもたちは自分のことばで考え、1年生にわかるように伝えるにはどうすればいいか、自分たちで考えるのである。


左から保延千恵さん、
原田英明さん、
高田美代子先生

 

●地域とPTAが学校と連携

ところで、今回のワークショップが行われた経緯を、高田校長、PTA副会長の保延千恵さん、「子どもを守る学校と地域の会」会長の原田英明さんにうかがった。

「本校の学区はもともと地域の防犯意識が高いところなんです。子どもたちは毎日集団下校をしていますが、これは本校の伝統にもなっています」(高田校長先生)
「平成9年、酒鬼薔薇事件をきっかけに、地域で子どもを守ろうという機運が高まり平成10年に『子どもを守る学校と地域の会』(以下地域の会)を発足しました。近隣の町内会合同で60名が年間計画を立て、パトロールを行っています」(原田さん)
「PTAでも保護者全員が交代で週2、3回パトロールを実施しています。また集団下校の時には、地域の方と保護者の有志が付き添い、遠くの子が最後に一人になることがないように、気を配っています」(保延さん)

こうした活動によって、成果は出ているのだろうか。
「強いていえば、近隣の学区よりは不審者情報が少ないようですが、もともと事件が多かったわけでもないので、事件が減った、というような目に見える成果はありません。でも事件があるからやる、ないからやらない、ということではなく続けるものだと思っています。」(原田さん)


 

●自分の身は自分で守るんだよ!

さて、いよいよ、5、6年生による防犯教室がスタート。各グループは、1年から4年生までの教室に向かい、ポスターを示しながら、下級生たちに「自分で自分の身を守る方法」を伝える。
「こわい思いをしないためには、なるべく一人にならない。なぜなら、二人以上いたら、もし襲われても友達が助けを呼んでくれるからです」
このように、子どもたちは、「なぜそうしなければならないか」も含めて説明をしていく。

「結局、自分の身は自分で守らなければならないから、今日行ったこと以外にもほかにないか、いつも考えて工夫してみてください」
大人たちが教えたわけではないのにこのような言葉が子どもから出たことに驚いた。「自分で考える」まさにそれこそが今回のワークショップのねらいなのである。

  図解入りでこわい思いをしない方法を説明 前に習った、いかのおすし(行かない、乗らない、大声を出す、すぐ逃げる、知らせる)を再度強調


浅利眞氏

 

 

●完璧な防犯などない

浅利氏は言う。
「完璧な防犯などない。でも、常に自分で考える力を身につけていれば、臨機応変に行動し被害に遭う可能性を低くすることはできる。家庭でも、こうしなさい、ではなく、どうすればいい?と常に聞く姿勢を忘れないで欲しい」

また、特に気をつけたいのは、子どもがなにか被害に遭ったときに、たとえそれがほんの小さなものであっても「それがどうしたの?」「あなたがヘンなことしたんじゃないの?」などといわず、真剣に聞いて欲しいと強調する。

「不審者に遭うなどこわい思いをした子は今回でも半数近くが手を上げました。でも親に言う子はほとんどいない。叱られるから、大事になるのがいやだから、信じてくれないから、というのがその理由です。大きな事件の陰には30の小さな事故があり、小さな事故の陰には300のささいな事故がある、といわれています。事件の予兆を見落とさないためには、子どもが何でも話しやすい家庭づくりがとても大切なのです」

1日がかりの防犯教室が終わり、子どもたちは集団で帰っていく。防犯カメラもICチップも、スクールバスもない。しかし地域の人やPTAの人たちがしっかりと子どもたちに付き添っている。これ以上子どもたちにとって安心なことがあるだろうか。今後もぜひ継続して欲しいし、このような動きが全国に広がることを願わずにはいられない。


(取材・文/学びの場.com 高篠栄子)

 

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop