「犯罪防止インストラクター」にチャレンジ! 新宿区立落合第一小学校PTA
「こわい思い」ってどんなこと?「こわい思い」を体験したらどうすればいいの?「こわい思い」をしないためにどうすればいいの?自分の経験や知識を出し合ってみんなで考えることによって安全確保に必要な「生きた知識」を身につけよう。新宿区立落合第一小学校PTAが主催し、同校6年生に防犯ワークショップを行った。
打ち合わせする講師の皆さん 白熱したジェスチャーゲーム
「こわいことは・・・」 講師の皆さんは話の引き出し役 1年生にわかるように・・・ 女の子チームドキドキの発表 みんなでまとめたよ ひとりひとりに認定証が交付された 落合第一小PTA会長の加藤さん |
■防犯対策ワークショップの新しいカタチ ワークショップの始まる前の打ち合わせ、緊張した雰囲気。小学生を対象としたワークショップは初めて。どうすれば子どもたちが理解できるだろうか?どうすれば防犯について考えてもらえるだろうか?・・・今回、ワークショップを担当する講師たちは本業である仕事の後や休日を利用して準備を行ってきたそうだ。 これは特定非営利活動法人学習学協会事務局長である本間直人さんの助言のもと、クライシスインテリジェンス社の浅利眞さんが企画した防犯対策のワークショップである。講師を務めるのは浅利さん、本間さんのほか、佐藤良太さん、山本圭一さんの4人。彼らは「日本危機管理学総研」に所属するメンバーで、学校に限らず、幅広い分野の危機管理研究を行っている。近年、子どもが被害者となる痛ましい事件が多発していることから、現在は学校や保護者(PTA)あるいは地域社会が事件に対してどのように予防、対応したらよいのかを研究テーマとしている。 「ただ、危険なことに遭遇した時の逃げ方のような安全確保の知識を教えるということではなく、なぜ危険な場所に近づいてはいけないか、なぜこわい思いをした後、周りの大人に話した方がいいのか、子どもたち自身にきちんと納得してもらわないと教えた意味がありません。私たちは、その“なぜ”という部分を子ども自身が考える機会を与えようとしているのです」と浅利さん。 ワークショップを行うにあたり、主催する落合第一小PTA、新宿区教育委員会生涯学習振興課とも幾度かの打ち合わせを重ね、その結果考え出されたのが、『犯罪防止インストラクターになろう』というワークショップ。これは、「『犯罪防止インストラクター』の研修を受け、来春入学する新1年生に防犯対策を教えてあげる」という設定でグループディスカッションを行うのだ。
落合第一小PTA会長の加藤茂行さんが子どもたちを前にして簡単に挨拶。「今日は特別な授業をします。早速、先生を紹介します」何が始まるのかと盛り上がる室内。ワークショップ会場となった落合第一小の「おちあいルーム」には、今年卒業予定の6年生40名が自由参加で集まった。紹介された浅利さんは「今日、皆さんにしてもらうのは『防犯のプログラム』です。自分だけではなく、周りの人にも気をつけてもらうために、インストラクターになる研修をします」 「研修???」目を丸くする子どもたち。 同じく講師の佐藤さんと山本さんも自己紹介、早速、くじ引きでグループ分けを行い、子どもたちはグループで協力してテーブルを並べる。 まずは、「ジェスチャーゲーム」でアイスブレーキング。山本さんが出題した問題をグループの代表がジェスチャー。答えを他のメンバーが当てるというもの。ただ、ワーワーキャーキャーと騒いでいるように見えるが、ジェスチャーから得られる答えはいくつでも有りうることから、後のディスカッションにおいても答えはいくつもあることを示唆していた。互いのコミュニケーションの重要性も伝わったようだ。 すっかり場が暖まったところで本題であるグループディスカッションに入る。進行は佐藤さん。まずは白紙が配られる。 「この紙に、今まで体験した、もしくは人から聞いた“こわいこと・こわかったこと”を書いてみて。何でもいいよ」 ---殺人 テレビに出るような大きな事件に混じって、子どもたちが実際に経験したと思われる事柄が書き込まれている。学校の立地からホームレスに関することが書かれていたり、なかには「ボブ・サップ」などと人気格闘家の名前まで挙がっている。 「では、今考えた“こわいこと・こわかったこと”について、次のことを考えてみよう」 「どんなこわいことがあったかな?」 講師たちは子どもたちが経験した“こわいこと”についてその時思ったことや、これからどうしたらよいかをどんどん聞き出して行く。子どもたちからいくつもの答えを引き出して、その中から有効だと思われる答えがどれかを子どもたち自身に考えてもらうのだ。 「では、今考えたことをグループで、大きな紙にまとめてみよう。最後にグループごとに発表をしてもらいます。また、これは君たちの後輩、小学校1年生にわかってもらえるように書いてね」テーブルに大きな模造紙とマジックが配られた。 グループのメンバーで額を寄せて話し始める。始めのうちは、ふざけてばかりだった子どもたちも、講師の皆さんがグループの間を回りながら意見を聞いていくうちに真剣な表情に変わっていく。また、いきなりペンを取って書き始めた子に横から「漢字じゃ1年生は読めないよ」と指摘され、ふりがなをつけたり、始めからひらがなの大きな字で書く、絵を入れてわかりやすくするなど、小学校1年生を意識したプレゼンに仕上げていった。 6グループを2つのチームに分け、チームごとにレクチャーを行い、各グループごとに発表を行った。こわい思いをしないためには、「暗い道を歩かない」「ひとりで行動しない」、もしも、こわい思いをしたら「警察に言う」、「親や先生に言う」などの考えが発表された。中には質疑応答するグループや、大人が思いつかなかった考えも飛び出し、講師たちをうならせる場面も。 「こわい思いをしないためにどうする?」 2チーム全てのグループの発表が終わると、浅利さんより「犯罪防止インストラクター認定証」をひとりひとりに手渡され、ワークショップは終了した。 「何かこわい思いをした時は、親や先生に話しましょう。大人たちは話を聞いてくれます。話すことによって、大人たちは防ぐ対策を考えることができるので、自分だけではなく、大切なお友だちや兄弟、他の学校のみんなもこわい思いをしなくて済むようになるね。今日わかったことを、小さい子に教えてあげてください。そうすれば、みんな安全になります」と浅利さん。
このワークショップは、集合の中で他者の意見を聞きながら自分の意見を引き出していくことによって、考え方の選択肢がより拡がることが期待できる「コレクティブラーニング」という手法を用いて行われた。この手法は日米で注目され始めた手法で、子どもたちの自発性を尊重し、子どもたちの視点による観察や問題解決能力を信じることで多様な考えを引き出し、紋切り型ではない解決力を育み、子ども自身による危機管理能力を向上させるのだという。 本間さんは、「ここでは直接、こわいことに関係ないことも含めて、『何でも聞いてあげる』という雰囲気を作り出すことが大切です。『何だ、くだらない』『今、忙しいから』と言わないで“何でも話していい状況”を作り出してあげるんです。すると、子どもたちからいろいろな話(情報)を引き出すことができます」 忙しいからといって子どもに耳を傾けないと、危険な目に遭っても子どもは黙り込んでしまうかもしれない。「変な人を見た」「知らない人に話しかけられた」というような事件のきっかけになるような不安要因をも聞き逃してしまうかもしれず、対処ができなかったために悲劇が起こってしまっては手遅れだ。 浅利さんはワークショップ終了後、「進行面などまだまだ見直す点もありましたが、今日一日で子どもたちは様々なことを考えることができたと思いますので、ひとまず成功だと言えるでしょう」と話した。 この成功を受けて、新宿区教育委員会はこれから大人向けワークショップを行い、親が子どもから話(情報)をどのように聞きだせばいいのか身につけて欲しいと考えている。また、他小学校でも同じようなワークショップを実施する予定だ。 (取材・構成:学びの場.com) ■講師を務めた浅利眞さんのコラム「学校の危機管理」 |
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