2004.12.07
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学校・地域・家庭連携で、食のあり方を考える 新座市立東野小学校・第二中学校

ファーストフードやコンビニ弁当を常食したり、無理なダイエットや偏食など、現代人の食生活が荒れている。こうした生活は、成長期にある子どもたちにとって、身体の発達の妨げになるばかりでなく、気力を損ない心の豊かさをも蝕んでいく。子どもたちがもっと食について関心を持ち、身体や心のためによい食のあり方とは何か自ら考える力を養うために、「食」をテーマに研究活動を行う2校を取材した。

 


4年生「おやつを見直そう」の授業


5年生「お米から世界が広がる」の授業


1年生「どうしてやさいはだいじなの?」の授業

 

 


見学者の中に、テレビでもおなじみの料理研究家、小林カツ代さんの姿も

 新座市は、埼玉県の南西部に位置し、中心地から東京都内まで電車でわずか20分ほどの距離であるにもかかわらず、武蔵野の面影を残す数少ない都市。ここ数年マンションや新築住宅が急増しているものの、まだまだ雑木林や畑の豊かな緑が広がっている。 
 市内17の小学校が教育農園を持ち、野菜や米を栽培するなどの体験学習を行っている。また、雑木林を教育林として持つ学校も少なくなく、昆虫の飼育やしいたけ栽培など、自然体験の場となっている。このような恵まれた環境を生かし、新座市立東野小学校と同第二中学校は、埼玉県教育委員会、新座市教育委員会、そして日本スポーツ振興センターの研究委嘱を受け、共同で15年度から「食」をテーマとした研究活動を行ってきた。

 取材した11月26日は、2年間の成果を発表する公開研究発表会の日。保護者、新座市教育委員会の職員の方々のほか、山形県や新潟県など遠方からも、総勢500人を超える見学者がつめかけた。

 東野小学校の谷俊和校長は語る。
 「食に関する研究といっても、さまざまなアプローチがある。たとえば、安全な食をテーマとしたアプローチ、偏食・孤食といった問題からのアプローチなど。何をテーマにすればいいのか、手探りでのスタートでした」
 研究に弾みをつけたのが、15年度に実施した、生徒の食生活の実態調査。この結果から、野菜嫌いの子が多いことや、スナック菓子の摂取率の高さなど、気になる問題が浮かび上がったが、特に次の3つのことが問題となった。1つは、子どもたちの大好きな給食だが、なぜ好きかというと、おいしいからというだけでなく、友達と一緒に食事ができる楽しみの場となっているから、ということ。裏を返せば、孤食が増えるなど、本来家庭で得られるはずの食事の楽しみを学校でしか得られない子も増えているという現実が浮かび上がってくる。2つめは、朝食の欠食状況が全国平均よりも高く、その割合は、学年が進むことに高くなっているということ。そして3つめは、朝食の欠食と、「だるい」「やる気がおきない」などの体の不調との間に相関関係があった、ということ。
 「これらの結果から、"食"が、子どもの身体ばかりか心に及ぼす影響についても考えざるを得なくなったのです」

 子どもの成長にとって大切な小中学校時代に、望ましい食のあり方を考えようと、小中連携での研究活動に踏み切った。しかし、学校だけで学習しても、家庭での食が改善されなければ意味がない。また、実際に食物を生産している農家の方々が身近にいるという利点を生かしたい。そこで、保護者や地域の方々と教職員からなる研究推進協議会を結成し、ともに研究の構想が練られていった。

 家庭との連携では、親子クッキングコンテスト(特派員レポート参照)、地域との連携では、地域のお年寄りによる、新座市の伝統料理手打ちうどん作りの講習会などが行われた。この手打ちうどん作りで使われた小麦は、学校の教育農園で子どもたちが栽培し、製粉した小麦である。
 こうして、総合的な学習の時間を中心に、教科学習、給食、学級活動など、すべての時間にわたって、食に対する関心を高め、「心と体の健康にいい食生活とは何か」を学習してきた。

 中でも、農家の人の指導のもと、人参、ジャガイモ、米などを栽培し、収穫して、家庭に持ち帰って食べる、という経験は、スーパーでパックになった野菜しか見たことがない子どもも多い昨今、大変貴重なものとなったに違いない。

 余談だが、今回の研究の成果で一番目立ったことは、「給食の残菜が減ったこと」だそう。しかしそれだけではなく、小中の9年間を通して食を軸とした教育が実践されたなら、子どもの身体の成長、心の成長に計り知れない効果をもたらすに違いない。また生涯にわたって健康な生活に心がける習慣も身につくことだろう。

 

 

住宅地の中に学校の教育農園が にんじんを収穫する子どもたち 米を収穫した後のわらで縄を編む

 

小林カツ代さん

■食を中心にした子育てに間違いはなかった

 午前中は、授業や、子どもたちの発表を見学させていただき、さて、午後の部。市長、教育長、ならびに各研究指定校からのプレゼンテーションの後、料理研究家の小林カツ代さんを招いての講演会が開催された。

 開口一番、
 「すばらしい実践を見せていただきました。子どもたちの顔が輝いていたのが印象的でした。こういう活動は、ぜひ全国に広げて欲しい」

と小林さんから激励の言葉。つづいて

 「今日1日見学して、一度も食育という言葉を聞かなかったことに感心しました。食育という言葉を使ったとたん、上からのお達しのようで、もう、食について自分で考えることをやめてしまう。食育は大事だ、というだけで実際に何もしなくなるのが怖いのです。その点、東野小学校と第二中学校は独自の言葉で食について考えておられるところが大変いい」

とお褒めの言葉も。

 また、壇上に掲げられた「豊かな心と健康な体をもち、自ら進んで活動する子どもを目指して」という研究テーマを読み、「この"子ども"というところを"大人"と置き換えたらどうでしょうか。すべての大人たちが、自分で自分の食べているものについて語れるでしょうか。自分で食べるものを作れるでしょうか。大人がきちんと家庭で実践し子どもに伝えていかなければ、学校でいくら教えても、本当の力になりません」

と問題提起。家庭での子育てについて語っていただいた。

 「食べることは、生きていく上で一番大切なこと。我が家では、食を中心に据えた子育てをしてきました。自分の手で自分が食べるものを作れる、男でも女でも、身の回りのことが自分でできる。そういう自立した人間に育てるのが、家庭の役目」

と小林さん。一女一男を、小さいころから料理も裁縫も自分でできるように育ててきたという。

 「それでも、これで正しいのか、と不安を感じながらの子育てでした。特に思春期の頃、息子はあまり話をしなくなり、大変不安でした」

しかし、ある日、家でお弁当を作ってもらえない友人のために早朝からおにぎりをつくっている息子さんの姿を見て実感したという。

 「息子は、自分で自分のごはんを作れて、作れない人のために作ってあげる心までも育っている。私の子育ては間違っていなかった」

と。この息子さん、実は、最近テレビでも活躍中の料理家、ケンタロウさん。親が勧めたわけでもないのに、と小林さん。きっと、しっかり親の背中を見て育ったのだろう。
小林さんの親らしい一面を見せるエピソードが会場の共感を呼んだ。

最後に、学校での教育について、貴重なご助言もいただいた。

 「学校では栄養について教えてくれるけれど、おいしく料理する方法は教えてくれない。野菜嫌いの子が多いというけれど、野菜はみんなおいしく生まれてくる。それをまずく料理するから食べられない。おいしいものを食べると免疫力も高まると最近の調査でも出ています。学校でも、もっと調理を重視するべきです」

 「料理力は人の人生を変えるほど大切」という小林さん。確かに、おいしいご飯が食べられれば、子どもたちも、コンビニやファーストフィード店で道草を食わずに家路を急ぐだろう(飲み屋通いのお父さんも)。おいしい料理は明るい家庭につながる。東野小学校・第二中学校の食の研究、次のステップはぜひ料理力アップもテーマにして欲しい。

(取材・構成/学びの場.com 高篠栄子)


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