18歳が考える人生の幸せとは? 田園調布雙葉中学高等学校
少し前、「自分探し」という言葉がはやったことがあった。就職はしてみたけれど、自分の思っていたのとは違う、他にもっと自分にあった仕事があるのではないか、自分が本当に好きなことって何だろう。多くは、何年か社会人経験を積んだのち、そんな壁にぶちあたり、「自分探し」&「キャリアプランの立て直し」を企てる。もっと早く、学生時代にこういうこと考えていたら、有意義な大学生活を送れたのではないか。こんなに遠回りしなかったのではないか、とホゾをかんだのは私だけではあるまい...。
さて、今回取材した田園調布雙葉の高校3年生の選択科目「情報」の授業のタイトルは、ズバリ「マネー&ライフプロジェクト」。8年後、2012年のありたい自分を具体的にイメージし、最終的には卒業制作として、パワーポイント、ビデオなどの表現ツールで制作し、プレゼンテーションを行う。 コンピュータ室に集まった我々社会人と生徒たちは6つの班に分かれる。ひとつの班に生徒1、2名、社会人5、6名という構成だ。高校生が、人生の先輩たち(つまり私たち社会人)に、就職、結婚、転職などについて具体的に質問し、自分の将来像を具体的化していく主旨である。こちらも、いまどきの高校生はどんな人生の夢を描いているのか、聞いてみたくてわくわくする。
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■人生を2軸で考えよう! 「まず最初に、人生を二軸で考えましょう」と小林先生。 「お金になる←→お金にならない」 この二つの軸によって、「お金になりにくい、やりたくない仕事(A)」「お金になる、やりたくない仕事(B)」「お金になりにくい、やりたい仕事(C)」、「お金になる、やりたい仕事(D)」という4つの象限ができる。ここに、小林先生の提唱(?)する幸せの公式 「お金-拘束時間-疲労度=幸せ」 をあてはめると下図のようになる。 お金がたくさんもらえても、拘束時間が長かったり、疲労度が高いと幸福度は下がる。逆に、お金が少なくても、拘束時間が短く、疲労度が少なければ相対的に幸福度は高くなる。今まで、就職、転職、リストラ、起業、など人生の荒波を乗り越えてきた社会人にとっては、なかなかシビアな図ではないか。
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さて、ここからは作業タイム。社会人の人は、今までの人生を振り返って、自分がこれまで携わってきた仕事を4つの象限にプロットする。高校生たちは、これから自分が歩むであろう道をプロットする。 ■社会人たちはどんな道を歩んできたのか? たとえば、社会人たちがたどった足跡は… 「最初は収入はすくなかった(A)。これが本当にやりたい仕事かどうかわからなかったけど、とにかく頑張っているうちにだんだん面白くなってきた。収入も上がってきたけど今度は忙しくなりすぎて、ちょっと嫌になってきて(B)転職。収入は減。でも、時間に余裕ができて、家族との関係が深まった(C)。幸福度は今のほうが高いと思う」 「大手起業に就職。収入もよかった(B)。でも、他にやりたいことがある気がしてベンチャーに転職。収入はかなり落ちた(C)。そこでもやりたいことと違う気がしてまた転職。収入は下がる一方だったけど、だんだんやりたい仕事には近づいていった。好きな仕事をしていればお金はそれについていく(D)。よっぽど困らない限りは、お金より好きなことのほうを優先したほうがいい」 「最初、秘書として最初の会社に勤務。お金も結構もらえていたけど(B)、3年目くらいで、もっと他の仕事がしたくなった。一時的に収入は落ちたけれど、今の会社に転職(C)。実績を積むうちにだんだん収入もあがってきて、今では、収入も、仕事内容もそこそこ満足(D)」 社会人たちの発表を聞き、高校生たちは 「みんな一度は"お金になる仕事"に就いているのにやりたい仕事のために転職しているんだね」 「よっぽど困らない限り、お金よりやりたいことを優先したほうがいい、というアドバイズが印象に残った」 「女性の場合、"やりたいこと"だけでなく、結婚後、出産後も働けるか、ということも念頭において仕事選びを考えないといけない、と気づいた」 「自分の人生プランを考えると、どうも一生"お金にならない仕事"にとどまっていそう。ちょっと考えなおさないと、まずい気がしてきた」 などの感想を漏らしていた。また、参加者の多くが転職を繰り返していることについて、 「何か目的があっての転職なら、なんとかなるんじゃないかな。やりたいこともないのに、今の現状がいやだから、といって転職したのでは、転職した先でも、嫌なことはついて回るよ」
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(ある社会人の人生の足跡) |
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■高校生の人生プランとは
さて、高校生たちの人生プランはというと、
「こんなの全然わからないよ」 「まずは大学に入らなきゃってことで頭がいっぱい」 「結婚とか出産とか全然イメージがわかない」 という生徒が大半。それでも、しっかりと夢を持っている子もいた。 「教育から社会を変えたいんです。だから、若いうちは教師になって、現場でしっかり実績を積む。その後、その経験を活かし、教育委員会に入って、指導する側に。年をとって引退したとしても、何らかの形で、教育にはかかわり続けたい」
「医学部に進んで医療の仕事に携わりたい。40歳くらいまでは地道に実績を積んで、技術を身につける。その後は、アフリカなど医者のいないところで仕事を続けたい」
彼女たちの純粋なやる気、正義感がまぶしい。
(ある生徒の人生プラン)
■人生にはさまざまな決断を迫られる局面がある
その後、後半の授業に向けて息抜き。「マネー・スマート」というゲームを始める。このゲームには、「800万円貯めて、イタリア留学!」を目指すA子さんというキャラクターが登場。彼女の目の前に、次々と表れる投資案件に対し、瞬時に判断し、売買を繰り返してお金を貯めていく、というゲーム。これは単なる息抜きのようでいて、「人生にはさまざまな決断を迫られる局面がある」ということを実感してもらう、後半の授業への導入になっているのだ。
後半の授業は、就職、結婚、出産、子どもの進学、単身赴任、老人ホームの入所、尊厳死などこれから起こり得る人生の大転機で、自分はどのような決断をするか、25項目にもわたる質問に答えるというアンケートを実施。
たとえば、「結婚することになったが相手の親が同居を求めている」という設定に対し「同居は絶対嫌」「しばらく別居してから同居」「最初から同居」。「夫が海外赴任をすることになった。子どもは小学生と中学生」という状況に対し、「夫だけ単身赴任させる」「子どもだけおいて夫婦で行く」「家族みんなで行く」…こんな設問と選択肢が時系列でズラリと並ぶ。
当然、既にいくつかの転機を実際に経ている社会人と、まったく白紙状態の高校生では違う回答が選ばれるに違いない。そこで、もっとも意見がわかれた項目について、なぜそう思うのか、互いに語り合うのである。
高校生たちがなんとかイメージできるのは、せいぜい「結婚したら夫婦別姓?」あたりまでだろう。子どもの進学、退職後、老後の話になると、全然イメージできないに違いない。しかし、社会人にとっては、どれも身につまされる話ばかりで、選択肢をにらむ表情は真剣そのもの。この時間、最も熱かったのは大人たちであったようだ。
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さて、これらの授業を経て、生徒たちはこれから、卒業制作としてバラ色の人生の設計図を描く。
(昨年度の生徒が描いた人生の設計図。今年はどんな作品はできあがるのでしょうか!?) |
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「若いんだから、D(=お金になるやりたい仕事)を目指そうよ!」と小林先生からの熱いメッセージ。 将来像を描くにも、身近なモデルとしては親や教師しかいない、という高校生がほとんどではないだろうか。こんな機会を得られた彼女たちはラッキーである。社会人になってからあわてて「自分探し」をすることのないよう、しっかりとした人生プランを立てて欲しい。
(取材・構成/高篠栄子)
■田園調布雙葉中学高等学校のHPはこちら ■小林潤一郎先生の関連記事はこちら
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