2023.02.06
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人生100年時代に求められる「金融教育」とは?(後編) 2022年度 先生のための金融教育ワークショップリポート

高等学校家庭科で必修化され、関心が高まる金融教育。しかし、学校段階に応じてどのように授業で取り上げていくべきか、現場では試行錯誤が続いている。そこで今回は、2022年12月にハイブリッド形式で開催された、金融広報中央委員会主催の「先生のための金融教育セミナー」を取材した。金融教育の専門家を招いての対談、教材紹介、ワークショップでの指導計画づくりを通して、人生100年時代に求められる金融教育のヒントが示された。
後編では、午後に行われたワークショップ「第3部 金融教育の指導計画を作ろう」の高校家庭科の部屋の模様をリポートする。

第3部 金融教育の指導計画を作ろう(ワークショップ)

第3部では、小学校、中学校、高校家庭科、高校公民科の4つに分かれ、金融教育の研究活動1年目の学校が作成した指導計画案をよりよいものに高めていくワークショップが行われた。ここでは、2022年度から金融教育研究校として金融教育に取り組む埼玉県立和光高等学校の相生詠子教諭が登壇し、伊東純子主任教諭が講師を務めた、高校家庭科の模様をお伝えする。

1年目の実践報告と次年度指導計画案

埼玉県立和光高等学校 相生 詠子 教諭

まず相生教諭から、2年生の家庭総合の授業(4時間)と総合的な探究の時間(2時間)で実施した1年目の実践報告が行われた。消費生活分野と家計管理は1年生で学んでおり、2年生では高齢者分野、社会保障制度を学んだ後に、資産形成を中心とした金融教育を行う学習指導計画を立てている。

学習テーマは「人生100年時代における生活設計」とし、授業では3つの課題を設定した。1つ目の課題は、老後の生活費の準備をイメージしながら、持続可能な社会保障制度を形成していくための自助、共助、公助の組み合わせについて生徒同士で話し合うというもの。併せて第一生命が提供するすごろく形式の金融教育教材「ライフサイクルゲームIII」に取り組むことで、リスクに備えて行動することの大切さに気づかせ、社会保険を補完する民間保険にも興味・関心をもたせている。ゲームの後には、自分の選択がどのような結果につながったかを振り返りシートに書き込ませた。

2つ目の課題では、金融庁の「ライフプランシミュレーター」を活用して生涯賃金だけでは生活設計に不安があることを確認し、3つ目の課題である資産形成につなげていった。資産形成については、「自分で働き、お金にも働いてもらう」という視点から、投機と投資の違いやリスクとリターンの関係性を理解させ、金融商品の選び方や金融トラブルについても理解を深めた。

その後の総合的な探究の時間では、ファイナンシャルプランナーの方々を講師として招き、合同会社FPalの金融教育カードゲーム「はらぺこオオカミ」に取り組んで、授業で扱わなかった複利と長期運用の効果を学ばせた。

次に、相生教諭は2年目に向けての指導計画案を説明した。実施するのは、2年生の家庭総合の授業(4時間)。単元の目標、授業の課題設定や進め方は1年目をほぼ踏襲したものとなっているが、2年目では資産形成の学びのあとに日本証券業協会の資産形成シミュレーター「とうしくんとタイムトラベル!」に取り組み、長期・積立・分散投資について学ぶことを検討している。

この指導計画案について、伊東主任教諭は「ゲームを使う場合は『何を学ばせたいのか』を明確に意識し、楽しいだけで終わらせないような工夫が必要だと思います」とコメント。加えて、「自助・共助・公助の適切な組み合わせをどんな風に生徒に考えさせるか」「金融商品の何を取り上げ、どこまで教えるのか」「リスクとリターンの関係性をもう少し自分事として捉えられるようなアイデアはないか」といった疑問点や改善点を指摘した。

意見交換と内容共有

続いて、2つのグループに分かれての意見交換のあと、全体での内容共有が行われた。

一方のグループは、「お小遣い帳すらつけていない、お金の出入りに無頓着な生徒が多く、 生活設計について考えさせることもままならないのが現状。資産形成を教えるにあたり、どうアプローチをかけていけばよいのか」と問題を提起。相生教諭は、「収入、支出などの言葉の意味から理解させ、1ヶ月の生活設計を消費経済の分野で時間をかけて行った」という自身の経験をアドバイスとした。

もう一方のグループは、2単位の家庭基礎を選択している学校の教員が多かったことから、いかに短時間で効果的な授業をするかを話し合い、解決策として「生徒に人生すごろくを作らせ、それを保険会社のライフサイクルゲームと比較して考えさせる」「事例を紹介する」という教え方の工夫や、公民科との棲み分け・連携を提案した。公民科との棲み分け・連携については、オンラインの参加者から「家庭科と公民科の教員が互いの授業に出向くなどして情報交換している。公民科で習ったかどうかを生徒に問いかけてみるのも一つの手」という意見が寄せられた。

また、このグループからは「裕福でない家庭の生徒に資産形成の話をしても響かないのでは?」との声も上がったが、「買い物などで貯まったポイントを使って投資をするポイント投資がすでに高校生の間で広がっている」との報告から、トラブル防止のためにも正しい資産形成の知識を教えることの必要性が改めて確認された。

記者の目

本セミナーは、学校で金融教育を行う意義から、効果的な教材やその活用の仕方、指導計画案の立て方まで、金融教育を進める上でのさまざまな疑問や迷いに答える内容となっている。中でも、金融経済の知識を自分事として捉えさせるための工夫の数々は、大いに参考になると感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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