2018.08.01
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研究主任、実践者に聞く「コア」授業の現在とこれから 意欲にあふれ、自ら学び行動できる「アクティブラーナー」を育てる、立命館宇治の取り組みとは―立命館宇治高等学校(後編)―

今年度から、新たに日本版コア科目「総合的な探究の時間」(以下「コア」)を創設した立命館宇治中学校・高等学校。同一法人に大学をもつ強みを生かし、受験ではなく、自らのキャリアと結びついた課題研究とその発信をゴールとした、学びを体現する科目として設計されている。狙うは、意欲にあふれ、自ら学び行動できる「アクティブラーナー」の育成。今回は、研究主任である酒井淳平先生と、今回の「マシュマロ・チャレンジ」の授業を提案・設計した片上直人先生、高校1年担任として授業を実施した稲垣桃子先生にお話を伺った。

研究主任の語る「コア」科目の構想

未来を見据えた新しい学びを形にする

研究主任・酒井先生

―― 立命館学園にはいくつかの中学校・高等学校がありますね。その中でも、立命館宇治中学校・高等学校の特色はどのようなものでしょうか。

酒井淳平(敬称略 以下、酒井) この学校は、1994年に学校法人宇治学園と立命館が合併してできた学校です。立命館の中でも2番目にできた高等学校で、設立当初から国際化をコンセプトとして帰国生を多数受け入れていました。実際に、生徒の約2割は帰国生です。加えて、クラブ活動も盛んで全国レベルの大会で活躍するクラブも多いです。

また、「CSL(キャリア・サービス・ラーニング/キャリア教育授業)」をはじめとしたキャリア教育にも力を入れています。2013年度から2015年度は「キャリア教育」の枠で文部科学省の指定を受けました。「CSL」は、生徒が実際に社会貢献をしながら将来を考えるという授業で、今年度からスタートした「コア」もこの流れを引き継いでいます。キャリアと探究を柱に、未来を見据えた新しい学びを3年間のカリキュラムとして形にしていきたいと考えています。

「キャリア教育のゴールは、『生き方』を考えさせることです」

―― 生徒が実際に社会貢献ですか。一般的なキャリア教育とは違った雰囲気ですね。

酒井 キャリアというものを考えたときに、どこの大学に入るとか、どこの学部に入るといった話ではないと思うんですね。最終的には「どういう生き方をするか?」という問題だと考えています。

そうはいっても、子どもたちにいきなり「生き方」を考えさせるのが難しいのも事実です。そこで「コア」では、最終的には「生き方」を考えてもらうことを前提に、少しずつ考える力をつけていけるようなカリキュラムを組んでいます。

―― なるほど。では、より具体的に「コア」の構想について伺えますか。

酒井 「コア」は、校内のカリキュラム委員会の議論から生まれました。委員の教員が集まって話したとき、「生徒はすでに、教科学習、クラブ、自主活動を頑張っている。そこへ新たに何かを加える形では、生徒が抱えきれないのでは?」という意見が出てきたんです。

そうであれば、新たに加えるのではなく、全ての教科の根っことなる核(コア)を育てた方がいいのではないかと。

最終的には「アクティブラーナーの育成」というゴールを見据えつつ、そういった資質・能力を育てるべきではないか。それが、我々教員の共通認識としてあったんです。高校1年「コア」では、これまで取り組んできた「CSL」に加えて、勉強の仕方、議論できるチーム作り、問いを立てる力の育成などを目標にカリキュラムを構築しています。

子どもたちの反応を誘う、高クオリティなオリジナル教材

――「コア」を実施するにあたり、これまでの「CSL」とは体制がどのように変わったのでしょうか。

酒井 CSL」は3~4人の教員が1学年の授業を担当します。しかし「コア」を育てるとなると、やはり普段接している学級担任こそ生徒を知っておく方がいい。また、「コア」を担任が指導することで教科指導などとも結びつき、その内容がより生徒に伝わる。そう考え、現在は担任が「コア」を担当しています。

授業内容や教材は、同じ学年の担任の教員7~8人と研究主任がチームで検討します。このとき「プロにしか扱えないものにはしない」を意識していて、担当者が変わったり、別の学年に引き継いだりしても、授業のクオリティが保たれるような工夫をしています。提示する教材をパワーポイントに統一しているのも、授業のクオリティを保つことや引き継ぎのしやすさを意識してのことなのです。

また、「コア」自体が新しい取り組みですから、若手だけでなく、ベテランの先生にもこの科目の指導経験はありません。ですので多少、経験のない教員であっても子どもたちの反応を誘いやすい、力のある教材をコンテンツとして準備することが大切だと感じています。同時に「コア」をチームで指導することで、世代を超えて教員が高め合えるようになってきていることも実感しています。

ゴールが「受験」になってしまわないのが大学併設校の強み

―― 最終的には「生き方」につなげたいとおっしゃっていましたが、このような見通しが立てられるのは、大学併設校という強みがあってのことですね。

酒井 確かに、本校は立命館学園に設置ということで、多くの生徒が立命館大学へ進学します。それは大きいかもしれません。しかしキャリア教育やコアの重要性はすべての高校に共通したことだと思います。教員がチームになることもそうでしょう。文部科学省の研究開発学校として、「コア」をしっかり形にしていきたいと考えています。

個人的には、併設校の良さが本当に出るのは高3の後期だと考えています。この時期はクラブ活動を引退して受験に向けた毎日になります。けれども本校では、卒業する直前までしっかりと授業ができ、生徒たちがいろいろなことに挑戦できる。その結果、「生き方」をしっかり考えて大学に進学できる。これが大きなメリットではないかと思うのです。

授業者に聞く、「マシュマロ・チャレンジ」の感触と課題

「否が応にもコミュニケーション」それがマシュマロ・チャレンジ」

今回の授業を提案・設計した片上先生

――「マシュマロ・チャレンジ」をアクティビティとして提案したのは先生だそうですね。どういったきっかけで採用されたのでしょうか。

片上直人(敬称略 以下、片上) 「マシュマロ・チャレンジ」はもともと、私が中学生を指導していたときに、海外の提携校の生徒たちと一緒にできるゲームとして実施したアクティビティでした。

短い時間でタワーを立てようとすると、否が応にもコミュニケーションを取らなければいけません。人の意見を聞いたり、逆にこっちも主張したり。仮に「それはあかん」と言うにしても、言い方を工夫しなければ衝突につながります。そういったことを実地で学べる点で、すぐれたコンテンツかなと。

また、教員の側から見てみると、子どもの性格がよく見えるアクティビティだと思います。「低くてもいいから、確実に」という子もいれば、「1位を狙おうや!」という子もいる。

ゲーム中、切羽詰まってくると「あと3分やし、行こ!」と決断を下す子が出てくる。子どものことがよく把握できるので、クラスを運営するにあたって「誰に、どんなことをさせてみるとよいのか」の参考になるんです。

ゲームを通して見えてくる、学年の課題、子どもの課題

―― 実際にゲームをしてみて、どのような課題が明らかになりましたか?

片上 この学年で「マシュマロ・チャレンジ」を行ったのは初めてでしたが、見えてきた課題としては「時間配分が苦手だな」という点でした。これは他の教科にも言えることなのですが、この学年の生徒たちは、目の前のことに一生懸命取り組めるという良さがありつつ、先を見通す力はちょっと足りていない。

また、これは1回目だったのもありますが、計画を立てるのも苦手そうでした。「私はこっちをやっておくから、あなたはそっちをやっておいて」と分業ができない。みんなで同じことをやってしまっているな、というシーンも見えました。

稲垣先生

稲垣桃子(敬称略) 「コア」を通して、普段の国語科の授業では気付かなかった、学級での課題も見えてきました。人懐っこく、素直な子が多い反面、説明を聞くべき時間に聞けない、作業を中断する指示が守れない、すぐに大人を頼って先生に質問してしまうなどです。

また、学級での生徒同士のコミュニケーションがどうなっているか観察するための手法としても有効だと感じました。4月・5月はまだクラスが出来上がっていなかったけれど、6月(授業実施時)になってやっとお互いの性格が見えてきて親しくなってきたかな、と思っていましたが、実際にマシュマロ・チャレンジを行うことで、その予測が正しかったことを確信できました。

生徒間でリーダー格の子がどの子なのか、教員側からも把握できました。できる子が指示をして、指示された子は何も分からずポキポキとパスタを折っていたシーンもあり、「これは協力とは言えないな、良くなかったな」というポイントを具体的に振り返れることができたのも、教材として良かったと思います。

具体的なモノがあるから腑に落ちる。実感を与える「コア」授業

―― これまで、このような活動は「総合的な学習の時間」で行われることが多かったように思います。「コア」授業の独自性はどこにあるとお考えでしょうか。

片上 そうですね、教師の側からは生徒の弱点が見えるのですが、生徒が自覚するのはなかなか難しいことです。特に、これまでの「総合的な学習の時間」のスタイルではなかなか生徒に実感させられなかったのではないかと思われます。

自分の身近な生活、目の前の現実に落とし込んで行かないと、生徒はなかなか腑に落ちません。その点、「マシュマロ・チャレンジ」のように、目の前にタワーという具体的なモノがあると、結果がハッキリするので良かった。「コア」授業はまだまだ試行錯誤の段階ですが、今後も色々と工夫はしていきたいですね。

  • 校庭。上空から見ると立命館のシンボル「R」が見えるようになっている。

  • 廊下に設けられた多目的スペース。

  • 学校の敷地内にあるバス停。宇治駅や大久保駅から直通のバスがある。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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