新科目「情報」から学ぶもの 田園調布雙葉中学高等学校
新科目「情報」の担当になった、あるいは来年度から担当になる予定で「何をどのように教えればいいのか」迷っている先生もいるだろう。そんな中、日々の情報収集を欠かさず、積極的に企業からの協力を得て授業を展開している先生がいる。今回は、東京都の私立田園調布雙葉中学高等学校の「選択情報」の公開授業と、東京ファッションタウンビルで開催された「New Education Expo 2003」でのセミナーの模様をレポートする。
やってみ店長にトライ
悩める店長たち?
大人チームも検討中
「牛丼を配達してみたら」 堂々と発表 付箋メモを手に
わかりやすいCMかな?
セミナー中の小林先生 |
■ミッション発表!プログラムのスタート 「まず、今日のこのいつもと違う雰囲気にどう対応したらいいのか、回避方法を考えてみよう」 早速、本題の「企業研究プロジェクト」のスケジュールの確認を行う。生徒たちはこの1学期前半を使って2種類のプレゼンテーションを学んできた。ひとつは「自己紹介プレゼン」これはパワーポイントを使用してプレゼンを作成し、「大きな声で発表しているか」「対象者の方をきちんと見ているか」など16のチェック項目を学んだ。次に「図解表現プレゼン」だ。目で見てわかりやすいプレゼンができるようスライドの作成などを学んだ。 「それでは、今回使用するテキストを配ります」 小林先生が、生徒たちに新しいテキストを配布する。新しいピカピカのテキストに興味津々の生徒たち。テキストの表紙写真はみんな違うデザインになっている。こんなテキストは今までに見たことがない。 これは、日本経済新聞社が発行した「日経エデュケーションプログラム コーポレートアクセスコース」のテキストである。このプログラムは、同社が蓄積してきた様々な情報資産やネットワークを活かし、「総合的な学習の時間」や、情報、進路指導などでの活用を主眼とした学習教材。生徒用ワークブック、教師用指導ガイド、ブロードバンド配信の映像素材も充実している。今回取り組む「企業探求プログラム」や「進路探究プログラム」、「経済探求プログラム(2003年9月~開始予定)」が用意されており、実社会から「生きる力」を学ぶことができる。テキストの表紙写真が数十通り用意されているところから「ひとりひとりの個性を伸ばしたい」、そんな同社の願いが感じられる。 まず、小林先生が企業とはどんなものなのか、企業(日産)と、学校(同校)を例に比較して説明し、企業は利益追求が目的であることについて考えたあと、実際に企業が生み出す「利益」を体感してみようと、株式会社創育のコンビニ経営シミュレーションソフト「やってみ店長」を使ってみる。これはコンビニの出店から日々の営業までをシミュレーションできるソフトだ。(詳しくは「教材大研究」を参照)生徒たちは、ここで「利益=売上-(売上原価+費用)」を引いたものであり、ただ売上をあげれば儲かるのではないことを実感したようだ。 さて、ここでいよいよ各社のミッションが発表されて、ひとまず1時間目は終了となる。
日産自動車 吉野家
■奇抜はOK、批判はNG---アイデアを出そう ここで小林先生は5つの商品を掲示する。1.旧型のデジタルビデオカメラ、2.バイオリニスト諏訪内晶子の直筆サイン、3.キャスター久米宏の煙草の吸殻、4.巨人軍在籍時の松井選手のトレードカードコレクション、5.昔の牧瀬里穂のテレホンカード。そして、それぞれがどんなものであるのか説明する。 「松井のカードはたくさん出回ってるけど、煙草の吸殻はひとつしかないよ」 次に、ブレーンストーミングのトレーニングを行う。ある課題について、各自が考えを付箋メモに書き込んだものを同じようなテーマごとにグルーピングしていく。ここでは、実現できないと思われるような奇抜なアイデアでも、「くだらないかも」と思うようなことでも構わない。また、人の考えに対して、批判や否定は厳禁。とにかく考えを次々と出していくのだ。 1つ目のテーマ「携帯電話をもっと便利にするためには」で練習をした後、先ほど掲示された2つのミッションについて行った。付箋メモと鉛筆を手に固まってしまう大人を横目に、ポンポン書き出す生徒たち。発表においても、例えば吉野家のミッションに対して、「女性向けの“ゴハン少な目、野菜多目な”メニューがあれば」「ガラス張りの店は恥ずかしい」「CMでスーツ姿をやめる」「ゆっくりできるテーブル席の設置」「サラダバーが欲しい」「配達サービス」「牛をつくる」や、日産のミッションに対して、「デザインや色を自由に選べる」「わかりやすいCMづくり」「ペットも乗れるようにする」「学生でも買える値段設定」「充電できる」など、今までありそうでなかったアイデアが続出した。 小林先生は、ここで大人の考えた知識や概念、方法論を覆すような「若さと澄んだ心と勢いのあるプレゼンテーション」を期待していると話して授業は終了。今後、生徒たちは3回の授業でプレゼンテーションを完成させ、各社で発表となるのである。
■パソコンスキルだけではない科目「情報」 科目「情報」の目指すところについて、小林先生はこう話す。 選択科目の「情報」と必須科目での「情報」については、人数や生徒たちのモチベーション、生徒へのケア、評価方法などから比較。選択では少人数でやる気のある生徒が集まるため、発言しやすい雰囲気で、生徒の発表も個人単位で行うことができるため、生徒個人を掌握しやすく、カリキュラムの自由度も高い。先に行われた公開授業での「企業研究プロジェクト」がその例えである。だが、必須科目となるとそうはいかない。必須科目においては、センター試験やMOUS、シスアドといった資格試験に関連した知識伝達型授業の導入も考えられるという。本来の伝えたい目的ではないが、やる気の低い生徒たちを乗らせるために、部分的に取り入れることが必要かもしれない。 また、かつて企業に勤めていた経験のある小林先生は、積極的に企業を巻き込むことを薦めている。特に選択科目での「情報」において、カリキュラムやソフトウエア、企業見学の面で企業との連携は欠かせないと言う。「企業を巻き込む」と聞くと、アプローチの仕方がわからない、予算確保が難しい、企業と取り組んでもいいものかと悩む先生もいるだろう。しかし、日々の小まめな情報収集や様々なイベントへの参加がきっかけで人脈形成は可能であるし、予算は各種団体が行っている公募・助成事業へ応募して得ることができる。双方にメリットがあるとして、学校との連携を希望している企業も増えている。普段からの自分の心がけひとつで、実現できるのである。小林先生のような姿勢や授業の進め方は「情報」という教科に限らず、参考になるに違いない。 (取材・構成:学びの場.com)
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