2003.06.17
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新科目「情報」から学ぶもの 田園調布雙葉中学高等学校

新科目「情報」の担当になった、あるいは来年度から担当になる予定で「何をどのように教えればいいのか」迷っている先生もいるだろう。そんな中、日々の情報収集を欠かさず、積極的に企業からの協力を得て授業を展開している先生がいる。今回は、東京都の私立田園調布雙葉中学高等学校の「選択情報」の公開授業と、東京ファッションタウンビルで開催された「New Education Expo 2003」でのセミナーの模様をレポートする。

 









 
 
やってみ店長にトライ






 


 
悩める店長たち?











 
大人チームも検討中











 
 









「牛丼を配達してみたら」
堂々と発表














付箋メモを手に




 
 
わかりやすいCMかな?












 
 
 

 セミナー中の小林先生
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

■ミッション発表!プログラムのスタート

 いつもと違う雰囲気に少しぎこちない生徒たち。周囲をぐるっと大人たちに囲まれている。授
業を受ける高校3年生の生徒9名に対して見学者およそ30名。注目度の高さがうかがえる公開授業となった。

「それでは、授業をはじめます」
 田園調布雙葉中学高等学校情報科担当の小林潤一郎先生が声をかけ、普段どおりに授業を開始す
る。この選択情報の授業は2時間続きだ。

「まず、今日のこのいつもと違う雰囲気にどう対応したらいいのか、回避方法を考えてみよう」
 この教室内の状態を利用したアイスブレーキングである。小林先生は生徒たちをひとりひとりに
聞いてみる。
---気にしない、いないものとする、木だと思う、自分の世界に入る、フレンドリーにする、いつ
もどおり、先生に任せる・・・など、すでにさまざまな切り口での回答が返ってきた。

 早速、本題の「企業研究プロジェクト」のスケジュールの確認を行う。生徒たちはこの1学期前半を使って2種類のプレゼンテーションを学んできた。ひとつは「自己紹介プレゼン」これはパワーポイントを使用してプレゼンを作成し、「大きな声で発表しているか」「対象者の方をきちんと見ているか」など16のチェック項目を学んだ。次に「図解表現プレゼン」だ。目で見てわかりやすいプレゼンができるようスライドの作成などを学んだ。
 そして、次のステップとなったのが
今回の「企業研究プロジェクト」である。これは企業からあるミッションを受け取り、それを達成するために、チームでアイデアを出し合いながら提案書を作成。最後には実際に企業へ出向いてプレゼン発表を行うというもの。9名の生徒たちはあらかじめ自動車メーカー「日産自動車」と牛丼チェーン「吉野家」の2チームに分かれている。

「それでは、今回使用するテキストを配ります」

 小林先生が、生徒たちに新しいテキストを配布する。新しいピカピカのテキストに興味津々の生徒たち。テキストの表紙写真はみんな違うデザインになっている。こんなテキストは今までに見たことがない。

 これは、日本経済新聞社が発行した「日経エデュケーションプログラム コーポレートアクセスコース」のテキストである。このプログラムは、同社が蓄積してきた様々な情報資産やネットワークを活かし、「総合的な学習の時間」や、情報、進路指導などでの活用を主眼とした学習教材。生徒用ワークブック、教師用指導ガイド、ブロードバンド配信の映像素材も充実している。今回取り組む「企業探求プログラム」や「進路探究プログラム」、「経済探求プログラム(2003年9月~開始予定)」が用意されており、実社会から「生きる力」を学ぶことができる。テキストの表紙写真が数十通り用意されているところから「ひとりひとりの個性を伸ばしたい」、そんな同社の願いが感じられる。

 まず、小林先生が企業とはどんなものなのか、企業(日産)と、学校(同校)を例に比較して説明し、企業は利益追求が目的であることについて考えたあと、実際に企業が生み出す「利益」を体感してみようと、株式会社創育のコンビニ経営シミュレーションソフト「やってみ店長」を使ってみる。これはコンビニの出店から日々の営業までをシミュレーションできるソフトだ。(詳しくは「教材大研究」を参照)生徒たちは、ここで「利益=売上-(売上原価+費用)」を引いたものであり、ただ売上をあげれば儲かるのではないことを実感したようだ。
 
 次に、「日産でキムタクをCMに使ったら、利益はどうなるのか?」や「吉野家で、お客さんが
みんな“ツユだく”、“ネギだく”を注文したら、利益はどうなるのか?」といった例題を生徒たちに考えさせた。生徒たちは、「キムタクがCMに出たら売れるだろう」「でも、契約料が高かったら利益が出ないかも」「まだ売れていない俳優を使ったら、少ない契約金で済む」「みんながツユもネギも多めにしたら、原価が高くなっちゃう」と口々に考えを述べた。

 さて、ここでいよいよ各社のミッションが発表されて、ひとまず1時間目は終了となる。

 

日産自動車
(180プランに基づき)クルマを100万台売る為の施策を提案する。
 条件1 地域の販売店のプロモーション活動は必ず含めること
 条件2 あとは新しい車のコンセプトとデザインの提案など自由

吉野家
来店客数を増やすための施策を提案する。
 条件1 現在の中心顧客である30、40代のビジネスマンの来店客
      数を伸ばす
 条件2 条件1を減らすことなく、現在比較的少ない女性、シニアの
      来店客数を伸ばす

 

■奇抜はOK、批判はNG---アイデアを出そう

「では、次に“モノの値段”について考えてもらいます」

 ここで小林先生は5つの商品を掲示する。1.旧型のデジタルビデオカメラ、2.バイオリニスト諏訪内晶子の直筆サイン、3.キャスター久米宏の煙草の吸殻、4.巨人軍在籍時の松井選手のトレードカードコレクション、5.昔の牧瀬里穂のテレホンカード。そして、それぞれがどんなものであるのか説明する。

「では、これらをオークションにかけたときの値段の高い順に並べ替えてください」
「ええーっ」
 困惑する生徒たち。チームごとに話し合いが始まる。ここでは、見学者たちもいくつかのチー
ムに分かれて同じように考えることとなる。

「松井のカードはたくさん出回ってるけど、煙草の吸殻はひとつしかないよ」
「私、吸殻なんていらないな」

 各チームそれぞれ意見を出し合って、その中から順序を決めていくが、小林先生から発表され
た正解の順番に「えーっ」と驚きの声が上がる。正解したチームはなし。煙草の吸殻が意外に高値であったり、テレホンカードが安かったり。人によってモノの価値観が違うことが理解できたようだ。
「もしかしたら、1万円の牛丼や数千万円のクルマが売れるかもしれないね」と小林先生。

 次に、ブレーンストーミングのトレーニングを行う。ある課題について、各自が考えを付箋メモに書き込んだものを同じようなテーマごとにグルーピングしていく。ここでは、実現できないと思われるような奇抜なアイデアでも、「くだらないかも」と思うようなことでも構わない。また、人の考えに対して、批判や否定は厳禁。とにかく考えを次々と出していくのだ。

 1つ目のテーマ「携帯電話をもっと便利にするためには」で練習をした後、先ほど掲示された2つのミッションについて行った。付箋メモと鉛筆を手に固まってしまう大人を横目に、ポンポン書き出す生徒たち。発表においても、例えば吉野家のミッションに対して、「女性向けの“ゴハン少な目、野菜多目な”メニューがあれば」「ガラス張りの店は恥ずかしい」「CMでスーツ姿をやめる」「ゆっくりできるテーブル席の設置」「サラダバーが欲しい」「配達サービス」「牛をつくる」や、日産のミッションに対して、「デザインや色を自由に選べる」「わかりやすいCMづくり」「ペットも乗れるようにする」「学生でも買える値段設定」「充電できる」など、今までありそうでなかったアイデアが続出した。

 小林先生は、ここで大人の考えた知識や概念、方法論を覆すような「若さと澄んだ心と勢いのあるプレゼンテーション」を期待していると話して授業は終了。今後、生徒たちは3回の授業でプレゼンテーションを完成させ、各社で発表となるのである。

 

■パソコンスキルだけではない科目「情報」

 公開授業から2日後の5月29日、東京の臨海副都心にある「東京ファッションタウンビル」にて
開催されたイベント「New Education Expo 2003」では、小林先生のセミナー「科目『情報』~必須科目、選択科目、それぞれのアプローチ方法」が行われた。会場には今年から「情報」担当になった、もしくは来年度から「情報」の担当になる、そんな先生を中心に多くの受講者が詰め掛けた。

 科目「情報」の目指すところについて、小林先生はこう話す。
「ただパソコンのスキルだけを教えるのではなく、表現方法や考え方を教える、それが『情報』
という科目だと思います」---内に留まらず、外に出て、明確に他者に伝える、そんな「詰め込み」ではない「引き出す」教育。自ら行動を起こして、能動的に学ぶ、実践的知性を育むことが科目「情報」だという。

 選択科目の「情報」と必須科目での「情報」については、人数や生徒たちのモチベーション、生徒へのケア、評価方法などから比較。選択では少人数でやる気のある生徒が集まるため、発言しやすい雰囲気で、生徒の発表も個人単位で行うことができるため、生徒個人を掌握しやすく、カリキュラムの自由度も高い。先に行われた公開授業での「企業研究プロジェクト」がその例えである。だが、必須科目となるとそうはいかない。必須科目においては、センター試験やMOUS、シスアドといった資格試験に関連した知識伝達型授業の導入も考えられるという。本来の伝えたい目的ではないが、やる気の低い生徒たちを乗らせるために、部分的に取り入れることが必要かもしれない。

 また、かつて企業に勤めていた経験のある小林先生は、積極的に企業を巻き込むことを薦めている。特に選択科目での「情報」において、カリキュラムやソフトウエア、企業見学の面で企業との連携は欠かせないと言う。「企業を巻き込む」と聞くと、アプローチの仕方がわからない、予算確保が難しい、企業と取り組んでもいいものかと悩む先生もいるだろう。しかし、日々の小まめな情報収集や様々なイベントへの参加がきっかけで人脈形成は可能であるし、予算は各種団体が行っている公募・助成事業へ応募して得ることができる。双方にメリットがあるとして、学校との連携を希望している企業も増えている。普段からの自分の心がけひとつで、実現できるのである。小林先生のような姿勢や授業の進め方は「情報」という教科に限らず、参考になるに違いない。

(取材・構成:学びの場.com)


 

 

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