2012.12.18
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グローバルキャリア教育を支援する ICT動画教材『世界ビト図鑑』実践リポート ― 東京都中野区立第七中学校 ―

キャリア教育を学校教育で取り組むよう求められて久しいが、導入に当たり体制づくりや教材確保などの課題を抱え、「どうすれば充実したキャリア教育を行えるか?」という悩みを持つ学校もまだまだ多い。さらに昨今は、社会のグローバル化に対応した人材育成も求められている。このグローバルキャリア教育を目的としたICT動画教材『世界ビト図鑑』を用いてのワークショップが11月、東京都中野区立第七中学校にて行われた。その実践模様をリポートする。

「国際的な環境で働くこと」をテーマに

ICT動画教材の『世界ビト図鑑』

11月、グローバルキャリア推進を目的としたICT動画教材『世界ビト図鑑』を用いて、東京都中野区立第七中学校にて「国際的な環境で働くこと」をテーマにワークショップが開催された。キャリア教育の教育現場への導入は、産学連携・地域社会の協力などから広く浸透しつつある昨今だが、「グローバル人材」育成という点では未だ情報が不足している。そこで、本教材を用いて、中学生にもわかりやすく多様な職業観を学んでもらおうというのが今回のねらいだ。

『世界ビト図鑑』は、国内外の国際的な職業の日本人を取材してインタビューと働く姿を撮影し制作されたもの。彼らの生い立ち、現在の仕事に至る経緯、仕事のやりがい・苦労、将来への夢や子どもたちへのメッセージなどが収録され、視聴者の中学生たちにより身近に感じてもらえる内容となっている。今回のワークショップでは、第七中学校生徒会の7名の生徒に授業時間と同じ50分間で、動画の視聴とワーク(異文化の説明、ディスカッション、ワークシート記入)が実施された。

進行役のリエゾン・デートル代表 酒井由紀子氏と生徒たち

最初に、今回のワークショップの四つのテーマを参加者全員で確認した。
(1) 世界観を広げる。
(2) 多様な価値観に気づく。
(3) 環境の変化への対応。
(4) 個性を活かした職業観の育成。

生徒たちは皆、どんな話が始まるのだろうかと、少し緊張の面持ちで臨んでいた。

ベトナムで働く日本人保育士のインタビュー動画を視聴

まず、ベトナムで日本人を対象とした幼稚園の保育士をしている五十嵐真弓さんを取り上げた動画(約12分)を視聴した。五十嵐さんは、小学生の時に外国にペンフレンドができたことがきっかけで海外に興味を持ち始め、海外で働くことを意識して育ち、現在の仕事に就いたとのこと。学生の頃から保育の海外研修を経験し、現在までに数か国で日本人保育士として働いたキャリアがある。ベトナム人スタッフとの協業の苦労や、子どもたちと接する時の楽しさなど数々のエピソードを語っている五十嵐さんの姿を、生徒たちは真剣に視聴していた。

異文化について写真や説明で理解を深める

酒井氏の話に聞き入る生徒たち。右端はアシスタントの菱山千春氏

動画を視聴した後「国際的な環境で働くこととは」をテーマに、五十嵐さんの勤務地であるベトナムを例として取り上げ、実際に海外で働いたり暮らしたりする場合に知っておくべき基本的な情報(物価、文化、生活習慣の違い等)について、具体的な事例を用いながらの説明があった。ベトナムでどのような物がいくらで買えるのか、日本製のオートバイに乗った現地の人々の交通渋滞の様子や民族衣装など、写真を交えて紹介すると、生徒たちは驚きながらも関心を示していた。

海外の人々との協業に必要な能力を知る

また、実際に海外の人々と協業するために必要な能力として一人一人の個性を生かした職業観、異文化への理解、語学力、コミュニケーション能力などについて、その意義と重要性が説明された。英語が全世界人口の58%によって話されている(公用語、準公用語、外国語として)データが紹介され、国際共通語としての英語の役割、そして英語を学ぶ際には中学校で学ぶ英語が基礎としてとても重要であることも強調。最後に、語学力は「道具」であり、その道具を使って伝える「中身を養う」ことが英語を学ぶことと並行して必要になることも付け加えられた。

海外への興味関心、仕事への思いをディスカッション

その後、生徒会担当の石田教諭、アシスタントの菱山千春氏を含め参加者全員でディスカッションが行われた。

まず、外国に対する興味について、「興味のある国、行ったことのある国は?」「どうしてその国に興味があるの?」「行ってみたらどんな印象を持った?」などの質問に対し、
「ヨーロッパに家族旅行で行ってみたら、想像していたよりも汚い場所があって少しびっくりした。けれども、想像と違うことがあるのだと気がついたことが楽しかった」
「アジアの国では、同じ国の中でとても発展している所とリゾート地のように何にもない所があってその違いに驚いた。観光船の操縦が、生まれて初めて見たような方法でとても面白かった」
「グリム童話が好きだから、ドイツに行ってみたい」
「動物が好きだから、オーストラリアに行って動物と身近に過ごしてみたい」
 等々と生徒たち。なかなか活発に意見が交わされた。中には、
「外国はどんな所かわからないから怖くて行ってみたくない」
 と述べる生徒も。中学生らしい素直な発言が出揃った。

参加者全員でディスカッション

次に、国際的な環境で仕事をすることについて話が進み、
「海外と関わりのある仕事でやってみたいことはある?」
 という質問に対しては、先ほどまでの反応とは異なり、生徒たちは一瞬静まりかえってしまった。その後少し時間をおいて
「正直言ってどんな仕事があるのかわからない」
「まだ想像がつかない」
「考えたことがない」
 といった答え。どうやら中学生に対する質問としてはいささか唐突だったようだ。現代の中学生は海外に対して興味や関心は十分にあるが、海外へ向かう興味が将来の仕事までには結びついていないという状態なのだろう。グローバル人材育成が急がれる日本において、このようなワークショップを行うことの意義を感じた。

そこで進行役の酒井氏より、『世界ビト図鑑』では10種類の国際的な職業を紹介しているので参考資料となること、また自ら興味を持っている国に関してどのような仕事があるのかを調べてみることなどを各人でしてみようという提案がされた。

ディスカッションの締めくくりとして、アシスタントの菱山氏から
「友人が中学時代から憧れていた職業に就くことができた」
 というエピソードが披露され、中学時代から夢を持ち一つ一つその夢を叶える行動を起こせば実際に叶えることができるというメッセージが伝えられた。静かに聞き入る生徒たちの表情がとても印象的だった。

ワークシートに今日の学習のまとめを記入

ディスカッション終了後、生徒たちは今回のワークショップ全体をまとめる意味でワークシートに記入した。
 ワークシートには「もし自分が海外で働くとしたらどんなことがしたいですか?」という質問もあり、下記のようなディスカッション時には答えることができなかった回答も得ることができた。

■国際的な看護師
■雑貨店
■ホテルで働く
■お店を持つ
■日本のことを知ってもらえる仕事
■童話の研究

「海外と関わりのある仕事をするには、中学生である今からできることはどのようなことだと思いますか?」という質問には、次のような答えが記されていた。

■ALTの先生などに海外の生活について教えてもらう。
■親に海外について質問をしてみる。
■英語の授業をしっかり聞く。
■外国の人とコミュニケーションがとれるようにする。
■今は外国に出ていくのが怖いけれども、海外の良い所も知っていつかは海外に自分から行ってみたいと思えるようにしたい。
■自分の好きなことを好きと言えるようになること。そしてそのことを伝えられるようになる。

ワークシートに記入する生徒たち

生徒たちから以上のような回答を得られたことにより、50分というやや駆け足のワークショップではあったが、最初に掲げた四つのテーマへの到達はほぼ果たせたことがうかがえる。

最後に、進行役の酒井氏より、日本は国際化が進み今の中学生が就職する頃には「国際的な環境で働くこと」は当たり前となっているであろうこと、今から意識を少し広げることにより国際化という環境の変化を楽しく受け止められることができること等が説明され、ワークショップは終了した。

ワークショップを振り返って

多教科に柔軟に使える教材

――中野区立第七中学校 生徒会担当 石田順一 教諭(教科:社会科)

今回は『世界ビト図鑑』という教材を用いて50分という授業と同じ時間でワークショップをしていただきましたが、授業への展開がしやすい教材であるという印象を持ちました。キャリア教育だけでなく、国際社会を学ぶ「公民」や多文化や異なる価値観への理解という意味では「道徳」、国に関心を持ち各国への理解を進める「地理」などの授業にも利用が可能だと思います。今回は10分程度の動画をはじめから通して視聴しましたが、途中で止めて間にディスカッションを入れる等、柔軟に使える教材だと思いました。

現在、授業ではICT教材を積極的に活用しており、授業ではパソコンを必ず使っています。机上だけで理解しにくい内容は、映像を用いると実感を持って学ぶことができると感じています。このような教材を用いることにより、生徒が視聴した内容に関心を持ち具体的な行動に結びつけることができるなど活用する効果が高いと思います。

様々な人々と交流しながら学ぶことが大切

――中野区立第七中学校 池田俊一 副校長

中野区立第七中学校としては、生徒たちに世界へ目を向けて行ってほしいと願っています。それは働くという視点のみならず、近隣の諸国への理解を深め仲良く手を繋ぎ地球規模で生きていくという視点です。そのためには何をするべきかというきっかけに今回のようなワークショップがなればと思います。『世界ビト図鑑』は教材として様々なカリキュラムで利用可能であることから、生徒たちへも視聴する機会を与えていきたいと考えます。グローバルな人材を育成するという視点では今回のように校外から講師を迎えてワークショップを開催するという形式も大いに賛成です。様々な方たちと交流しながら学んでいくことが大切と思います。

主催者の総括

今回、「国際的な環境で働くこと」というテーマでICT動画教材『世界ビト図鑑』を用いてワークショップを行いましたが、参加された先生方のご意見にもあるように当教材は総合学習のキャリア教育のみならず、英語科、社会科(外国の歴史や地理)、国際社会、進学への動機づけ、スポーツ(部活)の成果としての海外進出など多岐にわたる教科教育や学校活動への関連づけが可能であると感じました。

キャリア教育において、産業界に期待されている役割である「知的好奇心の醸成」「学習意欲を高めること」「就きたい仕事への憧れを強くさせていくこと」「仕事に必要な資質や能力などを知らせる契機」を実践し、産業界と学校教育の連携で期待される効果である「社会で必要な知識や技術を学ぶ」「学校の学習と職業との関連について理解を深めること」を促す一つの方法として導入をご検討頂ければと思います。

主催・進行:リエゾン・デートル 代表 酒井由紀子/アシスタント:東洋大学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程 菱山千春/撮影:川島保彦

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