2013.08.27
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小規模特認校が実践する外国語活動(vol.2) 地域と連携し、少人数の良さを活かした特色ある教育 ― 小田原市立片浦小学校 ― 後編

昨春より小規模特認校となった神奈川県の小田原市立片浦小学校。前編では、少人数の良さを活かした外国語活動の実践をリポートしたが、同校の特色ある教育はこれだけではない。後編では小規模特認校ならではの学校づくりやその工夫、スタートから1年を経ての現状や教育効果等について、同校の沖津芳賢校長、小田原市教育委員会の石井美佐子指導主事、同教育委員会の石田恭世氏に伺った。

実践者に聞く

地域・保護者・学校が一体となって支え合う教育

地元からの要望で小規模特認校として存続

小田原市教育委員会 教育部 教育指導課 石井美佐子 指導主事

 「この片浦地区は年々過疎化が進み、数年前には片浦中学校が統廃合により閉校になりました。小学校は何とか残してほしい、という地元の方々の強い要望を受け、小規模特認校として存続させる方法を探り始めたのです」
 とは、小田原市教育委員会の石井美佐子指導主事。そこで、小田原市教育委員会、片浦小学校の教員やPTA、そして地元の自治会長らが集まって話し合いを重ね、準備開始からわずか1年余りで小規模特認校として児童の募集を開始するまでにこぎつけた。全員の「片浦小学校を残したい」との“一体感”が、追い風となったのだ。

小田原市立片浦小学校 沖津芳賢 校長

 それでも
「初年度は人が集まるかどうか不安だった」
 と、同校の沖津芳賢校長も同教育委員会も口を揃える。しかし、ふたを開けてみれば予想をはるかに上回る11名が初年度に入・転学。2年目となった今年度は、希望者が多く抽選になるほどだった。どんな子どもたちが同校に来たのだろうか。
「片浦小学校を選んだ理由は一人ひとり異なりますが、新入生の家庭は少人数での学力向上を期待し、転入生は学校生活の充実を求めて、本校に来る傾向があります」(沖津校長)。
 そんな子どもたちと保護者の期待に、片浦小は見事に応えた。子どもたちは皆、生き生きと勉強に励み、健やかに学校生活を送っている。その学校づくりの特色を詳しく聞いてみよう。

学校づくりの指針、四つの約束とは

 「小規模特認校として特色を出さなければ、保護者には選んでもらえません。そこで小田原市教育委員会、片浦小学校関係者、そして地域の方々とで何度も話し合い、学校づくりの『4つの約束』を立てました」(石井指導主事)。

 第1の約束は、「少人数を活かし、『確かな学力』を育成」することだ。

「外国語活動の授業でわかるように、少人数だと児童一人ひとりの出番が増え、学習の密度が濃くなります。自分がやらなければ! という場面を多く経験することで、子どもは鍛えられ育っていくのです」(沖津校長)
 これは外国語活動に限らない。算数では、担任の他に校長や教頭、教務主任が交代で授業に入り、マンツーマンに近い個別指導を実施している。理科では児童一人ひとりに実験器具が与えられ、自分一人で実験を進め学習させている。
「少人数だと、一人ひとりの学習進度や課題がよく見えます。だから、その子に合った細やかな指導ができる。本校では、一人ひとりの学習進度に合わせて個別に宿題を出すこともあります」(沖津校長)。

第2の約束は、「自然と伝統を活かし『豊かな心』を育む」こと。この地域はレモンやミカンが名産。片浦小学校にも学校農園があり、地元農家の方の指導を受けながら野菜や果物を育てている。もちろん、収穫物は給食や調理実習で使われる。また、同校は金管バンド活動が昔から盛んで、小田原市の大きな祭りには毎年出演している。小規模特認校となった今でも、この伝統を絶やさないために、4年生以上は全員がバンド活動に参加することになっている。
「金管バンド活動は、上級生が下級生に教えることも伝統の一つです。お祭りの前には卒業生もやって来て練習を指導しています。学校主導ではなく、子どもたちが自然と縦割りになっているのです。遊ぶ時も同じ。少人数のため学年を超えて皆一緒に遊んでいます。すると、上級生はいつも下級生の面倒をよく見ていますね」(沖津校長)。

「上級生は、『自分たちが下級生の面倒を見なくては』と自覚し、責任を持って行動しているのでしょう。その姿に下級生は憧れ、お手本にしているようです。子ども同士で学び合い、育み合うのが、本校の特色と言えます」(石井指導主事)。
 その姿は、保護者にも感動を与えている。同校の説明会に親子で訪れたある保護者は、我が子が上級生たちにやさしく面倒を見てもらっている光景に感激して、「ぜひ片浦小学校に入れたい!」とその場で決定。子ども自身も「やさしいお兄さんお姉さんがいる、片浦小学校に行きたい!」と賛成したという。

第3の約束は、「地域が一体となって学校を支える」こと。農園指導や学習ボランティアをはじめ、地域の方々は様々な形で学校に協力してくれている。また、学校の運動会と地元行事を同日開催し盛り上げるなど、学校と地域との一体感がここにはある。小規模特認校の準備段階から一緒に学校を創り上げてきた信頼関係が、子どもたちの良い教育環境づくりに結びついているのだろう。

第4の約束は、「放課後の時間の充実」だ。
「片浦地区以外から通学している子どもたちは、帰宅してから学校の友だちと遊ぶことができません。そこで『放課後子ども教室』を新設し、放課後も友だちと一緒に学び、遊べるようにしたのです」
 と小田原市教育委員会の石田恭世氏。放課後子ども教室では、授業の予習復習教室や、茶道教室、タケノコ掘り、編み物教室、土壁塗り、乗馬教室……等々、地域の方々や片浦小学校OBの協力を得て、様々なプログラムを用意。親子で参加できるように、土曜日にも開催されている。

「今の子どもは体験不足と言われますが、実は最近の若いお父さん・お母さんも体験不足です。タケノコ掘りを土曜日に開催した時は、23名の児童と23名の保護者の参加がありました。保護者の方は色々な地区から来ているので、このような機会が交流の場にもなっているようです。あと特徴的なのは、ゲーム機を持ち込む子がいないという点です」(石田氏)。
 それだけリアル体験が面白いということなのだろう。これからも子どもの(大人も!)興味を刺激し、成長を促すようなプログラムを企画していきたいとのことだ。

卒業後もここを故郷と思ってほしい

片浦小学校では、保護者ととても良い関係を築いている。タケノコ掘り等のイベントだけでなく、普段の授業でも保護者が参観・参加することが多い。PTA等の活動にも、とても協力的だという。
「保護者の方々が子どもの様子を見られる機会をたくさん作り、ホームページ等で活動の報告もまめに行なっています。説明責任をしっかり果たしているから、保護者の方々は学校を信頼し、協力してくれるのでしょう。保護者の間では、本校の良い評判が広がっているようです。今年度の入学希望者が増えたのも、そのおかげかもしれません」(石井指導主事)。

最後に、今後の課題と展望を伺った。
「わずか2年で、全児童の約半分が片浦地区以外の子どもになりました。今後も、その割合は増加するでしょう。卒業した後も、片浦小学校と片浦地区を愛し続けてほしい。ここを故郷と思って、大人になってもかかわり続けてほしい。そのための仕組み作りが、今後の課題です」(沖津校長)。
 小田原市としては、同校で培ったノウハウを、他の小学校に還元したいと考えているそう。
「片浦小学校の教育や学校経営の成功例は、小規模校でなくても参考にできる点が多々あります。他の市立小学校にもこの成功の秘訣を広めるのが、今後の本教育委員会の役割だと考えています」(石井指導主事)。

記者の目

今回の取材では、心温まる光景をたくさん目にした。1年生の外国語活動では、グループ作りゲームに失敗してべそをかいてしまった児童に数名の級友が駆け寄り、一生懸命慰めていた。また、昼休みに校庭で遊んでいた低学年の児童が転んで泣き始めたところ、校庭にいた皆がワッと集まって「大丈夫?」「保健室行く?」と介抱していた。このすばらしい環境の下、子どもたちは学力だけでなく、豊かな心をすくすくと育んでいる。片浦小学校での学びは、社会に出てからも必ず役立つだろう。

取材・文:長井 寛/写真:赤石 仁

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