英語で自分の意見を発信できる人材を育てる(前編) さいたま市立浦和高校「英語ディベート」授業リポート
今回、取材へ伺ったのはさいたま市立浦和高等学校(以下、市立浦和高校)。国際交流活動や奉仕活動を行う同校のインターアクト部は、これまでに全国高校生英語ディベート大会で6度優勝し、世界大会に出場してきた。市立浦和高校では2018年度から通常の英語授業でも2年生の全クラスで週1時間をディベートにあて(2024年度からは2年生~3年生1学期)、普通科ながら、海外の大学に留学しても困らずにディスカッションできる英語力を育成している。
2024年6月26日に行われた、バクロス サラ教諭(以下、バクロス教諭)と瀬戸山 敏教諭(以下、瀬戸山教諭)による高校2年生英語のディベート授業をリポートする。
授業を拝見
学年:高校2年生(内進生Advanced)
※「高入生」「内進生(Advanced)」「内進生(Standard)」の3つのグループが展開されている。
教科・科目:英語「論理と表現Ⅱ」(ディベート)
単元名:Politics – Compulsory Voting
授業者:バクロス サラ教諭・瀬戸山 敏教諭
使用教材・教具:ワークシート・1人1台タブレット・プロジェクター
ディベート授業について
市立浦和高校では、併設のさいたま市立浦和中学校からの内部進学生(以下、内進生)は中学3年生の終わり頃から、高校から入学した生徒(以下、高入生)は1年生の3学期から、初めは好きな季節などの簡単なトピックでディベートに必要なスキルの基礎を学び、2年生から3年生の1学期までは英語で毎週ディベートを行う。
今回取材した内進生Advancedでは、週6時間の英語授業のうち「英語コミュニケーションⅡ(3時間)」で『CROWN English Communication II』『Pathways』を、「論理と表現Ⅱ(3時間)」で『Vision Quest』、CNNニュースなどのリスニング、ディベートを扱っている。
ディベートには、事前に論題が発表される「準備型(Prepared)」と、大会の会場で1時間前などに論題が発表される「即興型(Impromptu)」があるのに倣い、授業でも、授業の1時間目をテーマのリサーチにあて、翌週の2時間目をディベートにあてる「プレパレーション形式(Prepared)」と、授業開始時に論題が発表され、10分間の準備で即興ディベート行う「インプロンプト形式(Impromptu)」の2パターンを行っている。今回の授業では、インプロンプト形式でディベートが行われた。
導入:論題発表と、義務投票制度の基礎知識確認
本日のトピックは「Japan should introduce compulsory voting.(日本は義務投票制度を導入すべきである)」。このトピックに対して、生徒たちは4人グループを作り、「Affirmative(肯定側)」と「Negative(否定側)」に分かれて、主張を展開していく。ディベートは1対1で行われ、残りの2人は「ジャッジ」として、ディベートの勝敗を判定する。
準備に入る前に、バクロス教諭から「Compulsory Voting(義務投票制度)」に関する教材が提示された。Compulsory Votingとはどのような制度なのか、どの国が導入し、その割合はどれくらいなのか、英語で説明を聞く。
ディベートの準備:リサーチ~主張文作成
いくつかの資料がタブレット端末に配布され、それをもとに生徒たちは自分たちの主張を考える。Compulsory Votingの肯定側の理由と否定側の理由が3つずつ日本語で記載された資料や、数値やグラフが記載された英語の資料などをもとに、自分の主張をAERA(主張Assertion・理由Reason・具体例Example・主張Assertion)のフォーマットに沿って、10分間で作成する。
多くの生徒たちはタブレット端末上のフォーマットをもとに、自分たちの立場の理由や具体例を書いていくが、中にはタブレットではなく、配布された紙の資料の裏紙に書いている生徒もいた。生徒たち自身の工夫でもあるようだ。
なお、主なディベートの流れは以下のとおりである。12分間の1フローが終わると、次はジャッジがディベート側に回り、同じフローを繰り返す。
0:00-1:00 | 1分 | Affirmative:Constructive Speech(立論) |
---|---|---|
1:00-2:00 | 1分 | Negative:Constructive Speech |
2:00-4:00 | 2分 | [Preparation Time](準備時間) |
4:00-5:00 | 1分 | Affirmative:Attack Speech(反論) |
5:00-6:00 | 1分 | Negative:Attack Speech |
6:00-8:00 | 2分 | [Preparation Time] |
8:00-9:00 | 1分 | Affirmative:Summary Speech(総括) |
9:00-10:00 | 1分 | Negative:Summary Speech |
10:00-11:00 | 1分 | [Preparation Time] |
11:00-12:00 | 1分 | Judge’s Comments(判定) |
ディベート開始~反論
10分間の準備を経て、いよいよ生徒たちのディベートが始まる。まずは肯定側が主張(Constructive Speech)を1分間で発表し、続けて否定側も1分間で発表する。生徒たちはフォーマットを参考にしながら、資料の数値やグラフを具体的な例として取り上げ、それぞれの立場で主張を展開していた。その間にジャッジは「Judging Sheet for Debate」というシートを活用して、勝敗を決めるために、それぞれの立場の意見のポイントを整理していく。
<肯定側立論の例>
導入:Today, we have the proposition that Japan should introduce compulsory voting. I agree with this idea. I have one reason.
主張:Compulsory voting should be introduced.
理由:Because the number of people voting is decreasing in Japan.
具体例:For example, Japan's voter turnout is lower than that of other countries. Especially, it is low among the younger generation.
主張:Therefore, Japan should introduce compulsory voting to improve voter turnout.
最初の主張が終わると、2分間の準備時間が与えられた。その時間は相手の主張に反論(Attack Speech)するための準備を進めていく。多くの生徒たちがタブレットや紙にびっしりと英文を書いていた。
<肯定側アタック(反論)の例>
You said it's meaningless for people who are not interested in elections to vote.
But it is not true, because I think compulsory voting is the first step to get people interested in elections. If you want to make Japan better, it is necessary to create a society where people are interested in. Japan's voter turnout will continue to decline in this situation.
So compulsory voting is necessary to improve Japanese politics.
総括~ジャッジ
その後、準備時間を取ってから、それぞれの立場で総括(Summary Speech)していく。
<肯定側総括(サマリー)の例>
導入:Hello, everyone. We have the proposition that Japan should introduce compulsory voting. I agree with this idea.
相手の主張のまとめ:He said it's meaningless for people who are not interested in elections to vote.
自分の主張のまとめ:However, I said compulsory voting is the first step to get people interested in elections. If you want to make Japan better, it is necessary to create a society where people are interested in.
自分の議論が勝っている理由・比較:In conclusion, my argument is more important, because...
総括後の準備時間でジャッジ2名が肯定側と否定側の勝敗を相談して決め、その理由を「Judge’s Comments」として説明する。
<Judge’s Commentsの例>
挨拶:Thank you, debaters, for the wonderful debate.
コメント:The affirmative-side speaker said it is necessary to create a society where people are interested in voting. And the negative-side speaker said it's meaningless for people who are not interested in elections to vote.
判定:Because I think..., the winner is the Negative side. Congratulations!
勝敗が発表されると、勝って喜ぶ生徒もおり、楽しそうにディベートに取り組む姿が印象的だった。
しかし勝敗の「理由」に関して、バクロス教諭から”It was good because it was great.”とはならないように、きちんと根拠を説明するように念押しされていた。この点は、その後のインタビューでも指摘されているが、まだなかなか勝敗の理由を説明できない生徒が多くいるようだった。
その後、すぐにディベートとジャッジが入れ替わり、同じフローを繰り返して、ディベートの授業は終了した。最初の主張からジャッジまではたった12分間。その時間で生徒たちは主張や反論、準備、ジャッジなどのタスクをすべてこなしていた。また、発表者は日本語を使うことなく、つまりながらも英語を話し続けていた。インターアクト部部員は34名中2名だけとのことだったが、英語で話すことに抵抗を感じる生徒たちは少ない印象で、終始、積極的にディベートに取り組んでいた。
授業者インタビュー
2年生のゴール:論理的なジャッジができる
——本日の授業はいかがでしたか。
バクロス教諭(以下、バクロス) 今回は「インプロンプト形式(Impromptu)」という、10分間の準備のみの即興ディベートを行いました。これまでは、授業の1時間目をテーマのリサーチにあて、翌週の2時間目をディベートにあてる「プレパレーション形式(Prepared)」を主にやってきて、インプロンプト形式はまだ2回目ということもあり、資料を配布してから10分間の準備で足りるのかと不安でしたが、生徒たちは資料をもとに時間内で原稿を作成できていたので、その点は良かったと感じています。
瀬戸山教諭(以下、瀬戸山)「コンビニエンスストアは深夜営業をやめるべきだ」をテーマにした1回目のインプロンプト形式授業の振り返りシートで、生徒たちから「データを使いたい」という意欲的な意見がありました。今回は複数のグラフを含む資料を準備したので、生徒たちの発表でも、配布した資料のグラフや文章を活用した主張が聞こえてきて、非常に良い傾向だと感じました。
——ディベート授業における課題はありますか。
バクロス ディベートは4人グループで、Affirmative Side(肯定側)とNegative Side(否定側)に分かれて、1分間ずつ自分の立場の意見を発表します。ディベート後は、それを聞いていた残りの2人が「Judge’s Comments」として、勝敗を決めます。そのとき、勝敗の理由を説明する必要もあるのですが、その根拠がまだ不明確だと感じています。時間が足りないことも理由の一つだと思いますが、それは慣れるしかないですね。
瀬戸山 発表者は相手の発表をきちんと聞き、反論を準備しなければなりませんが、ジャッジもPreparation Timeを有効活用して、発表者の主張の弱点を考え、次の発表でカバ―されたか確認するように指導しています。しかし、生徒たちは何を根拠に勝敗を決めるべきなのか、まだ理解が不十分なようです。配布した「Judging Sheet for Debate」というシートに勝敗を決めるコメントが記載されているのですが、because(理由)だけはうまく説明できない。論理的にジャッジしたいという気持ちはあるけれど、まだ難しく、そこには到達していません。2年生の目標は、論理的なジャッジを言えるようになることですね。とはいえ、お互いに学び合う環境が整っているので、その目標が達成できるとよいと思います。
——ディベート中に、生徒たちへ具体的なアドバイスをすることはありますか。
瀬戸山 プレパレーション形式では、バクロス先生と私でディベートの例をやって見せることはありますが、発表者に対して、個別に具体的なアドバイスをすることはありません。確かに現状はジャッジによる勝敗がきちんとした根拠に基づいていないため、発表者は自分の意見が核心をつくものだったかどうか、いまひとつわかっていません。その点について、何かアドバイスをすることも可能ですが、彼らはディベートを楽しんでいるので、その中で少しずつ形ができてくると考えています。
——ディベート授業の成績評価について教えてください。
バクロス ディベートで取り上げたテーマに関するエッセイ(100語程度の作文)を、中間テストや期末テストに出題し、Grammar(文法上の誤り)、Vocabulary(語彙の誤り)、Structure(理由や具体例の有無)、Content(一貫性・テーマとの関連性など内容)の観点で評価しています。
また、パフォーマンステストも実施しています。教師のConstructive Speech(立論)ビデオを見て、それに対するAttack Speech(反論)を生徒たち自身でビデオに撮って提出します。原稿をただ読んでいるだけでなくアイコンタクトが取れているのか、反論が教師のスピーチの内容を踏まえているか、具体例を挙げているか、などを評価します。その他、授業後に提出された「Judging Sheet」からテーマの理解度などを評価しています。
後編では、ディベート授業で身に付いてきた力や、テーマ選び、英語があまり得意でない学校で取り組む方法などについてのインタビューをリポートする。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
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