2013.07.23
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小規模特認校が実践する外国語活動(vol.1) 地域と連携し、少人数の良さを活かした特色ある教育 ― 小田原市立片浦小学校 ― 前編

小規模特認校制度を取り入れる自治体が増えている。少子高齢化により児童数が減り、廃校を迫られる一方、「学校は地域社会のシンボル、存続してほしい」という地域の熱い思いに応えての取り組みだ。神奈川県の小田原市立片浦小学校もその一つ。平成24年4月から小規模特認校となり、1学年15名を上限に市内全域から児童の受け入れを開始。同時に、少人数の良さを活かした教育も実践し始めた。保護者間で良い評判が広がり、今年度は学年によって定員を上回る応募があったという同校の特色ある教育活動とは? まずは1年生と5年生の外国語活動の授業をリポートする。

少人数だから出番が何度も回ってくる。だから鍛えられる!

授業を拝見!①

わずか2か月でたくましく育った1年生

学年・教科:1年生(児童15人) 外国語活動
単元:かずにしたしむ
ねらい:数を表す英語に触れ、親しみ、使ってみようとする。数を表す英語を言ったり、歌ったりする活動を楽しむ。
指導者:國見徳子 教諭(学級担任)、Arvin Insorioさん(ALT)
使用教材・教具:フラッシュカード、チャンツ等を収録したCD

15名でも、声と活気は通常学級以上

JRと私鉄が乗り入れ、新幹線も停車する小田原駅から、東海道線に揺られること約7分。トンネルを抜けると、車窓の風景が一変した。視界いっぱいに広がる、紺碧の相模湾。海の間近まで迫った山々は目にも鮮やかな新緑に彩られ、レモンやミカン畑が広がっていた。

海と山に囲まれたここ小田原市立片浦小学校は、全校児童69人。最も児童が多い学年でも15人で、わずか5人の学年もある。昨年度から小規模特認校として再スタートした同校は、少人数の良さを活かして「確かな学力」の育成にも取り組み始めた。特に力を入れているのが外国語活動。5・6年生だけでなく全学年で英語を学んでいるという。少人数の良さを活かした外国語活動とは、一体どんなものなのか。まずは1年生の授業から拝見した。

元気いっぱいに授業スタート(左:学級担任の國見徳子教諭、右:ALTのArvin Insorioさん)

教室のドアを開けると、子どもたちの元気な声が耳に飛び込んで来た。
「How are you?」
とのALTのArvin先生の呼びかけに、ある子は
「I'm fine!」
と胸を張り、ある子は
「I'm hungry!」
と笑顔をほころばせる。中には「私にも質問して!」と言わんばかりに勢いよく挙手し、
「Nice to meet you!」
と握手を求める子どもさえいる。その声量と活気のすごさは、わずか15名とは思えないほどだ。

今日の学習は、「数字の読み方」。Arvin先生が「1」から「7」の数字が書かれたフラッシュカードを掲げると、子どもたちは声を揃えて
「One!」
「Seven!」
と自信を持って答えていく。1年生のまだ6月だというのに、子どもたちはすっかり覚えているようだ。

物怖じせず、英語でコミュニケーション

次に、一人ずつフラッシュカードを答える活動に移った。大人数のクラスでもよく見る光景だが、時間の都合で指名された数名の子どもだけ答えることが多い。だが、片浦小学校は違う。15名全員が一人ずつ答えるのだ。全員が答えても、所要時間はわずか2分程度。少人数ならではの良さだ。

続いて、今度は子どもが先生役になって、フラッシュカードを使って出題する活動に。全員が「やりたい!」と勢いよく手を上げ、先生役を嬉しそうに務めていた。とにかく笑顔が絶えることがない。

最後に、みんなで“good-bye”のチャンツを元気よく歌って終了となったのだが、授業が終わっても子どもたちはArvin先生を取り巻いて帰そうとしない。「good-bye!」とていねいにあいさつする子もいれば、握手を求めたり、抱きついて離れない子も。皆、外国人に対して全く物怖じしていない。わずかな英語しか話せなくても、身振りや身体的接触などによって、コミュニケーションをとっていた。そのたくましさに、脱帽である。

授業を拝見!②

積極的に英語でコミュニケーションを取る5年生

学年・教科:5年生(児童15人) 外国語活動
単元:時刻と曜日
ねらい:時刻や曜日を表す英語に触れ、親しみ、使ってみようとする。英語の質問や指示を理解し、積極的に言葉を発するなどして応じる。
指導者:山本礼子 教諭(学級担任)、Arvin Insorioさん(ALT)
使用教材・教具:フラッシュカード、インタビューゲーム用カード、大型テレビとノートPC

指示や発問はすべて英語。でもわかる

1年生でこのたくましさなら、高学年は一体どこまで成長しているのか。続いて、5年生の外国語活動を取材させてもらった。今日の内容は、「時刻や曜日、教科」を表す英語の学習だ。
ここで驚かされたのが、子どもたちの理解力の高さだ。ALTのArvin先生の発問や指示はすべて英語。それでも子どもたちはとまどうことなく、反応していた。

授業はまずフラッシュカードで曜日や教科名の英単語を練習することからスタート。Arvin先生が
「How do you say Japanese in Japanese?」
と質問すると、子どもたちは
「国語!」
と自信を持って答えた。さらに、実際の時間割表をArvin先生が指さしながら
「What day is social studies?」
「What time will the second start?」
と難解な質問をしても、子どもたちはスラスラと答えたのだ。

圧巻は、この日のメイン活動であるインタビューゲーム。一人ひとりに色々な外国の人の役が割り当てられ(それぞれ異なるプロフィールカードが渡される)、英語でインタビューし合うというやや複雑な活動だ。そのやり方はすべて英語で説明されたが、子どもたちはしっかり理解し、指示通りに活動を進めたのだ。
「Arvin先生が話す英語が全部わかるわけじゃないけど、こういうことを言っているんだろうなって、何となくわかるんです」
と授業後、子どもたちから話を聞いて納得。このたくましさこそ外国語を話す時、外国人とコミュニケーションを取る時に必要な力だろう。

もちろん、理解力の高さだけでなく、声の大きさや積極性は1年生以上だった。授業を終えたArvin先生に話を聞いてみたところ、
「片浦小学校の子どもたちの英語を理解しようとする姿勢や、何とか英語で表現しようとする姿勢にはすばらしいものがあります。何よりもすばらしいのは、英語を楽しんでいることですね」
との答えが返ってきた。

多くの“機会”が引っ込み思案だった子を成長させた

片浦小学校で行われている外国語活動の内容一つひとつは、他の学校でもよく目にするごく普通の活動だ。しかしなぜ、子どもたちはこれほど成長しているのだろうか。そんな疑問に、同校の沖津芳賢校長は明快に答えてくれた。
「機会をたくさん与えれば、子どもは育つのです」
少人数だから、答えたり発表したりする場面は何度も回ってくる。ALTと直接話す機会も多い。高学年では年間30数回、低・中学年は年間15回前後、ALTが授業に入っているという。
「元々は人見知りしやすい、引っ込み思案な子が多いのですが、少人数のため自分がやらなければならない場面が何度も回ってくる。誰かがやってくれるだろうと、人任せにできない。その機会の多さが、子どもたちを鍛えているのです」。

また同校では、外国語活動以外でも英語に触れる機会を設けている。「EET(Enjoy English Time)」と呼ばれる10分程度の活動を毎日実施し、担任の指導でチャンツ等を行って英語に慣れ親しませている。また放送委員が行う昼休みの放送では、給食メニューを英語で紹介しているという。
「英語を学ぶだけでなく、英語を使う機会も増やそうと考えています。近くにある外資系ホテルの支配人が外国の方なので、地域探検等で訪問し、英語で交流しています。この夏には、オーストラリアからの交換留学生(中学・高校生)を本校に招待し、交流を深める予定です」。

片浦小学校が外国語活動に本格的に取り組み始めて、まだ今年で3年目。「1年生から外国語活動に取り組んだ子たちが高学年になった時、どこまで成長しているかが楽しみ」と沖津校長は目を細めるが、その成果はすでに現れ始めているようだ。

記者の目

外国語を話せるようになるために最も大事なのは、物怖じしない姿勢。わからなくてもコミュニケーションを取ろうと努力する姿勢だ。片浦小学校では、その姿勢が見事に育まれていた。ALTと直接受け答えしたり、発表したり、英語に触れる機会がとても多いからだ。大人数のクラスなら傍観を決め込むこともできるが、少人数クラスでは自分の出番が必ずたくさん回ってくる。添乗員付きツアーで外国旅行をしても英語を覚えられないが、一人旅なら英語を使わざるをえないので自然と鍛えられるのと原理は同じ。機会の多さが、人見知りだった子どもたちを変え、積極的にコミュニケーションを取るまでに成長させている。

取材・文:長井 寛/写真:赤石 仁

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