2023.06.12
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英語の学習指導法「5ラウンドシステム」を活用した授業づくり(後編) 自分の言葉で語れる生徒を育てる英語教育とは

前編では、横浜市立本牧中学校で2023512日に行われた英語の授業をリポートした。後編では授業者の山本丁友教諭に、授業のベースにある5ラウンドシステムの効能や、システムを活用した授業づくりのポイントなどを伺った。

本牧中学校の「+α」と5ラウンドシステムの年間計画

――本牧中学校では、5ラウンドシステムをベースに教師が各校の実態に合わせてラウンドの回数設定や授業デザインの工夫改善を行う「5ラウンドシステム+α」の横浜ラウンド制が導入されていますね。本牧中学校の「+α」とはどんな内容でしょうか?

山本 2〜3年生の授業では、5ラウンドのひとつである「音と文字の一致」を省き、4ラウンド制にしています。2年生になると、音と文字はすでに一致している生徒が大半だからです。 また、英語を用いて課題を解決する力を身に付けるため、年度末に行う「ファイナルプロジェクト」を学年ごとに設定しています。さらに、ラウンドが終わるごとに「ミニプロジェクト」を行い、各ラウンドで培ったスキルを活用する場を設けながら、ファイナルプロジェクトへのステップにしています。

――本年度の第3学年ではどんなファイナルプロジェクトやミニプロジェクトを設定していますか?

山本 最終目標として「自分の英語で、社会的な話題について考えを伝えあい、よりよい社会のあり方や生き方を考えることができる」を掲げています。1〜2年生の間は、身の回りのことについて、なんでもいいからとにかく話すという点を重視してきました。それができるようになった今、「3年生では、根拠をもって論理的に話せるレベルまで行きたいね」とオリエンテーションで生徒に話しています。

山本教諭が作成したオリエンテーションの資料

ファイナルプロジェクトとしては「社会的な話題でディスカッションする」という課題を設定しています。その目標に向け、日々の帯活動で少しずつ “I think〜”“I agree〜”といったディスカッションで使える言い回しを取り入れている最中です。また、ラウンドが終わるごとに教科書に関連する社会的な話題で簡単なディスカッションをするというミニプロジェクトも予定しています。

5ラウンドシステムのメリットとデメリット

――山本教諭は前任校から数えると、10年ほど5ラウンドシステムを中心とした授業を行ってきたそうですね。5ラウンドシステムにはどんなメリットがあると感じますか?

山本 一番大きいメリットとして、教科書の表現が生きた知識として定着しやすいという点があげられます。従来のやり方だと、年度末の頃にはユニット1の内容を忘れている生徒がほとんどでした。ですが4〜5回教科書を繰り返していると、教科書のストーリーと結びついた表現が染み込んでいるので、場面を見ただけで表現が出てくるようになります。それもただの暗記ではなく、場面に合う表現を自分で考えて使えるようになるのです。

また、ラウンドごとに求められるハードルが低い点も、5ラウンドシステムのメリットです。たとえば、今日の授業ではラウンド1のリスニング活動として、音声を聞いて絵を並べ替えました。こういったハードルの低い活動を一定期間続けながら、最終ラウンドのリテリングに向けて準備をじっくり進められるため、英語に苦手意識のある生徒にとっても取り組みやすいシステムではないかと思います。

――反対にデメリットはありますか?

山本 デメリットはあまり思いつかないのですが、5ラウンドシステムをただ取り入れるだけではうまくいかないと思います。もしかすると先生方の中にも、かたちだけ真似て失敗したという方もいるかもしれません。私も初年度は先輩の真似だけしていて、壁にぶち当たりました。

よく「リスニングは何回聞かせればいいのですか?」といった質問を受けることがあります。しかし、大事なのはマニュアルに従うことではなく、ラウンドごとの目的を理解し、どんな姿を目指してやっていくのかということだと思います。

――山本教諭はどんな姿を目指して授業を行っていますか? また、そのためにどのような工夫をしていますか?

山本 目指したい最終ゴールとして、「自分の言葉で語れる生徒」を育てたいということに加え、「自律的な学習者」を育てたいという思いがあります。そのためには、生徒が自ら学習を振り返り、学びを自己調整していけるような力を育てる必要があります。

自ら学習を振り返ってもらう仕掛けとして、ラウンドごとに振り返りシートを書いてもらっています。以前はラウンドの最初と最後しか行っていませんでしたが、ラウンドの最後に振り返ったところで次のラウンドに行ってしまうことに気づき、中間にも取り入れるようになりました。また、すべての振り返りシートを冊子にすることで、ラウンド2の振り返りをする時にラウンド1の振り返りシートを見ながら自らの成長を実感できるようにするなど、工夫をこらしました。

山本教諭が作成した振り返りシート

振り返りシートを見ると、ほとんどの生徒が「こういうことができるようになった」と書いてくれています。これは生徒が自らの成長を自覚できていることの証でしょう。

いまは変動の激しい時代で、教えた知識が数年後には役に立たなくなっているかもしれません。だからこそ、知識だけでなく学び方を知り、学校を卒業しても自分で学習していってもらえるような力をつけていってもらいたいです。

今後の課題や展望

――今後の課題や展望があれば教えてください。

山本 地域の小学校とつながり、小中接続を意識してさらに効果的な英語教育を行っていきたいです。近年の生徒は耳がよく、聞く力がついていると感じます。これは小学校の先生方ががんばってくださっているおかげでしょう。だからこそ、小中で「9年間でこういう姿を目指していきましょう」という目標を共有できれば、もっといい英語教育ができるのではないかと思います。そのためにもまずはお互いを知るところから始めていきたいです。

小学校だけでなく、地域の人たちとの交流ももっと増やしていきたいです。2022年から横浜市中区の公立中学校5校で横浜ラウンド制が取り入れられました。せっかくなら横浜ラウンド制で育った生徒たちと地域で交流できたら面白いですよね。また、中区は横浜区内で外国人が一番多い地域でもあるので、地域の外国人ともっと英語を使ってつながっていける場をつくっていきたいです。最終的には、こちらが場を設定しなくても、自分たちの力で地域の人と英語でつながることができるようになれば、中区の生徒にとっては本当に意味のある取り組みになると思っています。

ーー最後に、5ラウンドシステムを取り入れたいと考える先生方にメッセージやアドバイスをお願いします。

山本 5ラウンドシステムの根底には「自分の言葉で語れる生徒を育てたい」という思いがあり、結果こういうかたちになっています。絶対的な手法ではありませんが、大事な要素はたくさん入っていると思います。

もし取り入れたいという方がいたら、いきなりすべてを真似するのは難しいと思うので、大事なエッセンスを取り入れながら改善されていくことをおすすめします。「どんな姿に育てたいのか」という視点をもった上で、システムの軸にある「生徒とのやりとりを大事にする」「何度も繰り返す」「まずはじっくり聞き、徐々にアウトプットにつなげていく」といった大事な要素は押さえながら、各校やクラスの実態に合わせて授業に取り入れられるとよいのではないでしょうか。

ーーありがとうございました。

記者の目

授業を取材してまず、本牧中学校の生徒たちが驚くほど活発にオールイングリッシュでコミュニケーションをとっている姿に驚いた。英語でコミュニケーションする力が育まれた一因に、5ラウンドシステムという画期的な英語学習指導法があるのは確かだろう。しかしその裏には、生徒の発話を引き出すためにさまざまな仕掛けを施す山本教諭の姿があることを忘れてはならない。どんな指導法であっても、目的や目指すべき姿を明確にし、試行錯誤を重ねることでようやく威力が発揮される。そんなことに気付かされた取材だった。

山本 丁友(やまもと ていゆう)

1991年神奈川県横浜市生まれ。横浜市立南高等学校附属中学校で「5ラウンドシステム」の英語授業を7年間実践し、現在横浜市立本牧中学校に勤務。毎年多数の授業視察を受け入れ、5ラウンドシステムを取り入れる自治体に向けて研修の講師なども務める。現在の関心は「ファシリテーション」や「自律的学習者の育成」、「非認知能力」など。著書に『英語運用力が伸びる5ラウンドシステムの英語授業』(共著、大修館書店)。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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