2022.11.21
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「教える・教わる」から「気づく」外国語科指導へ (後編) パフォーマンス課題で伝える力を伸ばす授業づくり

西宮市立甲陽園小学校の英語教育では、パフォーマンス課題を軸にした授業づくりで、自分自身を英語で伝える力の育成に注力している。前編での授業レポートに続き、後編では外国語科指導における授業づくりのポイントについて、羽渕弘毅教諭にインタビューを行った。

パフォーマンス課題の取り入れ方

西宮市立甲陽園小学校 羽渕 弘毅 教諭

―今日の授業で工夫された点について教えてください。児童の反応は予想通りでしたか?

羽渕弘毅(敬称略 以下、羽渕) 課題をみんなで共有した後に個人の発表に戻していくというところに力を入れました。子どもたちの反応はほぼ予想通りでしたが、取材が入って少し緊張していたようです。ピースしたり、浮足立っていましたね。

―2学期のパフォーマンス課題を「小学校の思い出を伝える」にしたのはなぜですか?

羽渕 2学期で必要な言語材料は、中学校の文法の「過去形」です。小学校における外国語科の指導は、中学校の前倒しではないので、「goの過去形はwentだよ」という表現や過去形という言葉を授業中に使うことはありません。私やALT、教科書のモデルをもとに自己表現する活動を通して、気づきを促すことを目指しています。「We went to~」「I saw〜」など感想を伝える表現を使って、小学校の思い出を中心に学校の魅力を伝えることができるようになれたらと思いました。

―中間発表と最終発表には、どのような違いがあるのですか?

羽渕 中間発表は指導に活かすためで、最終発表は記録に残すためですね。

中間発表は最終発表の1ヶ月前に行い、このままだと最終発表で「がんばろう」がついてしまう子どもを見つけてフォローするようにしています。どう指導するか分析するためですが、子ども自身も自分がパフォーマンス課題をクリアするために何が必要か知るためでもあります。

―以前からパフォーマンス課題を設定して、年間指導計画を作られているのですか?

羽渕 どの学年でも、4月の最初の授業でゴールを3つ伝えるようにしています。学期のゴールになるのですが、3学期のゴールが学年のゴールになり、パフォーマンス課題にもなります。

―1学期、3学期はどのようなパフォーマンス課題にしていますか?

羽渕 6年生の1学期のパフォーマンス課題は「甲陽園のおすすめを伝えられるようになる」でした。3学期は「英語で自分を伝える」で、今までに習った英語を使って将来の夢をベースにしながら自分を伝えることを目標にしています。過去には英語で紙芝居をした子や、英語で歌を歌った子もいましたよ。

評価について

―授業計画に、指導に活かす評価方法:行動観察、記録に残す評価方法:ペーパーテスト、ビデオなどとありますが、詳しく教えてください。

羽渕 「指導に活かす評価方法:行動観察」は料理に例えると味見です。行動観察によって料理が出来上がる前にパフォーマンスの味見をして、「ここをこうしたほうがいいよ」と授業で子どもに声をかけたらいい。味見をして指導に活かすことが大切です。

「記録に残す評価方法:ペーパーテスト、ビデオなど」のペーパーテストはリスニングや書き写しなどです。ペーパーテストも個々の力をチェックするために大切にしていますが、話すことを中心とした各学期のパフォーマンス課題を重視しています。

ALTの先生との連携

―ALTの先生との連携で、意識していることはありますか?

羽渕 ALTのカイル先生と私の合言葉は「次はさらに良くしていこう!」なんですよ。授業後にすぐに二人で振り返りをし、うまくいけば「めっちゃよかった!」と褒め合っています。

カイル先生は常駐ではなく、学期の半分しか授業に参加できないので、一緒に授業をするときは雑談の時間を多くとるようにしています。

―ALTの先生も児童の評価をされていますか?

羽渕 ALTのカイル先生は常駐ではなく、子どもたちの学びの過程をずっと見ているわけではないので、評価はしてもらっていません。

その代わり、子どもたちの原稿をチェックしてもらったり、音声を聴いてアドバイスをもらったりしています。カイル先生はネイティブなので、アドバイスを出してくれるときも見ている視点が違うんですよね。「カイル先生からこんなアドバイスをもらったよ!」と子どもたちも喜んでくれています。

大学院への挑戦と研究

―3年間、働きながら大学院に通われていたとのことですが、進学されたきっかけは?

羽渕 以前勤務していた兵庫県朝来市の小学校が文部科学省の英語教育強化事業の研究開発校に指定されていて、英語の教科化の前段階の取組をしており、他府県や教育委員会からの視察が多くありました。全国発表もあったのですが、発表後にベテランの先生から「羽渕先生だからできるんだ」と言われたことがあります。忘れられない一言でしたね。

高校で英語教師を経験し、その後、ご縁があって小学校で勤務することになったのですが、小学校の先生はスーパーマンのように一人で全教科教えないといけないことにびっくりしました。「羽渕先生だからできるんだ」という一言で、そのときのことを思い出しました。自分にできることを探した結果、関西大学大学院外国語教育学研究科への進学を決めました。現場の先生を助けたいという気持ちがすべてのスタートです。

―大学院での研究、その成果として作成された『小学校外国語教育 学習評価ハンドブック』について簡単にご紹介いただけますか?

羽渕 西宮市内の先生に学習評価について詳しいアンケートをとり、どの項目や事例で困っていても対応できるハンドブックを目指して作成しました。国が発表している文章も掲載し、外国語科だけではなく、全教科に関する評価の基本もしっかりカバーすることを目指しました。データ版としてオープンソースで共有し、いろんな人に見てもらって、職員室での話のタネにしていただきたいです。学びの場.comでもダウンロードできます。出版のお話もあったのですが、売れへんやろうなと。(笑)

英語の教科化による変化

―以前から小学校の英語専科だったのですか?

羽渕 英語専科になったのは英語の教科化後です。大学院に進学したときは専科ではなく、担任をしながらの通学でした。

―英語が教科になって、何が変わりましたか?

羽渕 文字が使えるようになったことですね。今までの英語教育では音声中心の授業でしたが、英語の音声だけを聴いて真似をするのは児童には負荷が高い学習方法です。今は教科化して原稿や台本があり、文字も使えるようになったので、丁寧に指導する必要はありますが、教える側は助かっています。

デジタル化で変わる今後の英語教育

―1人1台端末が配布されて、英語の学び方は変わりましたか?

羽渕 教える・教わるという行為が端末によって減り、子どもたちの気づきを引き出す機会が増えました。今日のカイル先生の動画も、子どもたちが自分の端末で見ないと気づかなかったことがあったはずです。

今までは授業中に子どもたちのプリントを一人ずつ見て回る必要があったのですが、今はMicrosoft Teamsの共同編集で答えを一ヶ所に集約しているのでかなり便利になりました。

―デジタル教科書はどのように活用されていますか?

羽渕 子どもたちは家でデジタル教科書をあまり閲覧しないそうなので、いかにして便利な道具だと気づかせて活用を促すかが課題ですね。デジタル教科書単体での授業はまだまだ難しく、WordやMicrosoft Teams、アナログとの組み合わせなど、何かとうまく融合させる使い方をしています。

英語はデジタル教科書を使っていくと決まっているのですが、デジタル教科書では基本的な機能に加えてオプションが選べるようになるそうです。どんなオプションがあるのか、他とどう組み合わせるかが、現場の課題になると思います。

―今後、英語の授業はどのように変わっていくと思われますか?

羽渕 英語を教える・教わるという関係性がなくなり、英語の学習者ではなく使用者を育てている感覚があります。教えることよりも“気づくためのしかけを作る”ことが指導者の役割になるのではないでしょうか。英語のルールを教え、ルールがわかってから英語を使うという今までの学習方法ではなく、英語を使いながら正確性を高めていく、流暢性を高めていく。そのように流れに変化していくのではと考えています。

記者の目

授業は全体的にテンポがよく、スピード感に驚かされた。ペアやグループでのワークでは元気に意見を出し合い、英語を楽しんでいる印象を受けた。「過去形」という言葉は授業中に一度も使われていなかったが、パフォーマンス課題の原稿ではそれぞれが過去形の英文を使いこなしていたのが印象的だった。文法というルールに縛られず、英語の使用者として自由に育っていく子どもが増えていくのは楽しみである。

関連情報

『小学校外国語教育 学習評価ハンドブック』

こちらからダウンロードできます。是非ご活用ください。

※外国語科だけではなく、全教科に共通する評価の基本もカバーしています。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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