2011.08.16
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学校図書館を活用した調べる学習(vol.1) どう情報を読み取りまとめるか、児童・教員共に学ぶ―東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員―

学校図書館の活用がこれまで以上に高まりそうだ。新学習指導要領では、知識・技能の「習得」はもとより「活用」や「探究」の学習活動をバランスよく実施することが求められている。そのためにも、学校図書館に対する期待はますます大きい。学校図書館の充実と活用支援に力を入れている東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室の主任学校図書館指導員、藤田利江先生に取材した。

学校図書館を活用した調べる学習~どう情報を読み取りまとめるか、児童・教員共に学ぶ―東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員―

授業を拝見!

ワークシートを効果的に活用した調べ方の学習

学校・学年・教科: 荒川区立第三峡田(はけた)小学校 4年生総合的な学習の時間(児童26名)
単元: チャレンジ調べる学習(全2時間連続)
本時の学習: 調べる学習の進め方を知り、調べる学習にチャレンジしよう。
ねらい: (1)調べる学習の進め方を理解させる。(2)「そのままカード」や「まとめカード」に適切な内容を書かせる。
指導者: 藤田利江(荒川区教育委員会学校図書館支援室主任学校図書館指導員)、頓所和代(学級担任)ほか計5人
使用教材・教具: パソコン、プロジェクター、ホワイトボード、ワークシート(4種類)、図書資料(コピー)、画用紙、サインペン、色鉛筆、はさみ、のり、定規

読書欲をそそる図書館で7つの「ミッション」

学校図書館を活用した調べる学習  

「学校図書館へ行こう」「みんなのおすすめ」「教科書に出てくる本」――第三峡田小学校の「学校図書館エリア」は、カラフルな張り紙や展示で雰囲気いっぱい。居るだけで本が読みたくなってくる。週1回の朝の開放日(曜日により学年指定)には、多くの子が登校すると教室ではなく図書館に直行し、時間ギリギリまで本をむさぼるように読む。
「あー、図書館の先生だ!」
しばしば学校を訪問する藤田先生に低学年の子どもたちが声をかける。子どもたちは藤田先生とすっかり顔なじみだ。

学校図書館を活用した調べる学習

8時45分、1校時目の始まり。4年生が担任の先生に引率されてやって来る。藤田先生の、2時間続きの授業の始まりだ。藤田先生は自己紹介をしながら、
「調べる学習といっても、やり方があります。7つのミッションをクリアすると、うまくいきます」
と話す。7つのミッションとは、(1)ふしぎを見つけよう、(2)解決方法を考えよう、(3)そのままカードに書こう、(4)まとめカードを書こう、(5)テーマを決めよう、(6)カードをまとめよう、(7)まとめかたを工夫しよう――だ。

ワークシートに記入しながら方法を身につける

学校図書館を活用した調べる学習  

まず、藤田先生のパワーポイントによる説明を聞きながら、「アリ」を例にみんなで疑問を考えてみる。
「アリは何で小さいの?」
「何で女王アリがいるの?」
「どうして雄アリは結婚すると飛ばないの?」
児童からは次々と疑問が湧いてくる。それを「太陽チャート」(ワークシート)に教科に関連づけながら書き込んでいく。

学校図書館を活用した調べる学習

「解決方法は?」
藤田先生の問いかけに、「本」「パソコン」「図鑑」などの答えが挙がる。ただし、今日はあくまで「調べ方」の学習なので、資料のコピーもあらかじめ用意されている。自分の疑問に対する答えを、「そのままカード」(緑色のシート)に写していく。「出典」欄に引用文献を明記させるのも重要なポイントだ。「そのままカード」が数枚書けたら、「まとめカード」(青色のシート)に、わかったことを自分の言葉でまとめていく。さらに、「感想カード」(黄色のシート)に、思ったことを記入する。活動を通して引用、まとめ、感想が区別できるようにする工夫だ。

学校図書館を活用した調べる学習

ミッション4までの練習が終わると、いよいよ本番。砂糖、カタツムリ、太陽など6つのテーマから調べたいものを選ぶ。練習同様、資料はコピーが用意されているが、そこに書かれた出典名はしっかりチェックして記入する。カードがなかなか埋まらない子も少なくないので、各班についた先生が個別に指導していく。
ある程度できたら、「インタビューゲーム」に入る。「何について調べていますか」「どんなことがわかりましたか」「もっと調べたいことは何ですか」と質問し合うことで学習を確認するだけでなく、聞き方、答え方の技法も学ぶ。

「思考・判断・表現」を1枚の紙に

学校図書館を活用した調べる学習  

ミッション5からは、まとめ方の技法に入る。まず、「ぎゅうにゅうのおいしいひみつ」「生きものの出す光ってある?」「雨雲が教えてくれたこと」など、調べたテーマを自分なりのキャッチーな文章で表現する。
その文章を見た人にアピールするよう、文字の大きさや色を工夫しながら、八つ切り画用紙に表記する。同時に、これまでに作成した「まとめカード」や「感想カード」、写真・図・イラスト(資料コピーの切り抜き)なども総動員して、レイアウトしながら学習したことを1枚の紙にまとめる。「思考・判断・表現」の学習過程が一目瞭然だ。

学校図書館を活用した調べる学習

「本を読んだだけでもわかることはわかるけど、(自分でまとめると)達成感がある」
「いろいろなことが覚えられ、わからないことがわかって面白かった」
――子どもたちは、調べる学習に手ごたえを感じていたようだ。

授業者に聞く

学校司書は「情報センター」の役割を担い、
教員の指導力向上を支えてほしい。

授業支援を通して、担任にも学んでもらう

東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員 プロフィール

学びの場.com(以下、学びの場) 今日の授業は、ワークシートの活用など「PISA型学力」を身につける授業としても相当工夫されたものに思えました。

藤田利江 先生(以下、藤田) 子どもたちは「調べましょう」「自分の言葉で書きなさい」と指示するだけで調べたり書いたりできるようになるわけではありません。調べる学習は、きちんと手立てを示して指導することが必要です。

藤東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員

今日の授業で最終的に1枚の紙にまとめる活動は、子どもの表現だけでなく、指導者の評価にも役立つようになっています。「文字数が多い」とか、「見た目のレイアウトがきれいだ」といった表面的な評価をするのではなく、子どもが学習した内容を評価するのです。このように、子どもに調べ方やまとめ方を学ばせるだけでなく、先生方にも指導のしかたを学んでいただけるよう工夫しました。

全校に学校司書を常駐、利用を指導計画に位置づけ

学びの場 これだけ学校図書館の充実と活用に力を入れている自治体は珍しいと思います。経緯を教えてください。

学校図書館支援室が作成した冊子
学校図書館支援室が作成した冊子。左:図書館を活用した授業案や年間指導計画を網羅した冊子「あらかわモデルプラン」。右:学校図書館を使った学習のためのワークシート集「図書館マナブック」

藤田 現区長が就任され、学校図書館に図書の予算がついたのが始まりです。06年度には図書購入費だけで1億7千万円を掛け、区内小・中学校全33校で学校図書館図書標準を達成しました。そうなると誰が本を整理するのかが課題になり、07年度には2校に1人の学校図書館指導員を配置しました(週2日勤務)。並行して文部科学省の「学校図書館支援センター推進事業」の指定も受けました(08年度まで)。以前から学校図書館支援に関心をもっていた私は、この事業に関わらせていただくことになりました。

09年度には荒川区独自で「学校図書館支援事業」が始まり、全校に学校図書館指導員を常駐化して(週5日間6時間勤務)、教育センター内に学校図書館支援室も設置しました。指導員は全員、司書または司書教諭の有資格者ですので、今年度からは「学校司書」と呼んでいます。支援室では、年23回の研修を行うなど学校司書への支援のほか、要請のあった学校に出向いて学校図書館研修会や、今日のような授業支援を行っています。

東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員

全国的に読書指導が盛んになりましたが、担任が子どもたちを学校図書館に連れて行き、読み聞かせやブックトークなど、全て学校司書や図書館ボランティアにお任せしているという話を聞いたことがあります。このような状況は授業と言えるのか、どこに指導があるのか、私は疑問を感じます。授業はやはり教員が主体になって行うべきです。

新聞記事を切り抜きカード化した資料
新聞記事を切り抜きカード化した資料

一方、学校司書は「学習・情報センター」としての学校図書館を担う専門家として、教員に資料を提供したり、子どもたちが使いやすい資料を準備したりする(=教材化する)などが求められます。本区では学校司書が、地域資料や新聞記事をカード化して授業や調べる学習に利用できるようにしているので、教員に使いやすいと喜ばれています。「使える資料がないから授業ができない」と言われないように、学校図書館の環境整備、充実を図りたいと思っています。

学校と教職員のやる気を高める役割

学びの場 荒川区の学校図書館の充実には、藤田先生個人の活躍に負うところも大きいようですね。

藤田 荒川区では、教育委員会、校長先生をはじめとして、どの学校でも図書館に注目してくださっています。私は教員時代から図書館に興味を持ち、通信教育で司書教諭資格を取り、様々な研究会に入って調べる学習にも取り組んできました。司書教諭に発令された03年度には、6年生の担任をしながら司書教諭として年間137時間の授業も展開しました。そんな経験から、学校図書館については、どなたから尋ねられても応えられるようにしたいとは思っています。

東京都荒川区教育委員会 学校図書館支援室・藤田利江 主任学校図書館指導員

学校図書館の充実には予算や教育委員会の支援が必要ですが、やはり一番には人のやる気だと思います。「本と人があれば学校図書館は充実する」と一概には言えないでしょう。逆に「本と人がいないから充実できない」というものでもありません。まず学校長が学校図書館の活用を経営計画に位置づけ、教員も各教科の指導計画に位置づけることが必要です。

学習指導要領には学校図書館の利用が盛り込まれているのですから、取り組むのは当たり前。子どものために学びをどう構築するかを真剣に考えれば、必然的に学校図書館は活性化させられるはずです。私の役割は、学校現場の皆さんが図書館(情報を含む)を活用した授業を行いたいという気持ちをいかに高めるかだと思います。

全国学力・学習状況調査の影響もあって、いま全国の学校では「PISA型学力」の育成に力が入っているが、今回の荒川区の取り組みは、本当の意味での思考力・判断力・表現力や学習意欲を育てる上で、非常に有効なものではないだろうか。
荒川区は東京都内でも、あまり学習環境が恵まれている地域とは言えないかもしれない。しかし、そのような中で、具体的に手厚い手立てを講じながら学校図書館の活用を図っている荒川区教育委員会や藤田先生の努力は、学力向上という点においてもきっと実を結ぶに違いない。その成果は、確かに表れつつある。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩 ※写真の無断使用を禁じます。

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[ミニ知識]

【司書】
司書とは、「図書館法 第4条」より、図書館に置かれる専門的職員を「司書」および「司書補」と称する、とのことです。

【司書教諭】
司書教諭は、「学校図書館法 第5条」より、学校には、学校図書館の専門的職務を掌らせるため、「司書教諭」を置かなければならない、とあります。

【学校司書】
学校司書とは、法令上で規定された言葉ではありません。荒川区では、学校図書館指導員を「学校司書」と呼んでいます。

 

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