2022.01.17
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導入後半年で、9割以上の教員が1人1台端末をほぼ毎日活用(後編) 船橋市立葛飾小学校 校内授業研究会リポート

1892年に開校し、来年度130周年を迎える船橋市立葛飾小学校。全校児童数1,103名、35学級の大規模校だ。2013年度から船橋市教育委員会より10年間の「国際理解教育」の研究指定を受けており、9年目となる2021年度は、研究主題を「国際性豊かな児童の育成」とし、そのために必要な力の1つ:情報活用能力の育成に注力している。
1217日(金)に放送大学の中川一史教授を招いて実施された、校内授業研究会を取材した。今年度3回目となる今回は、教職3~10年目の3名の教諭が研究授業を行った。後編では4年生の理科の授業・事後研究会・講評、授業者と秋元大輔校長へのインタビューをリポートする。

研究授業③ 4年理科

「水は、どのようにあたたまるのだろうか。」

単元名:物のあたたまり方
情報活用活用プロセス:1課題の設定
授業者:佐藤 慧教諭

冒頭では、サーモテープを貼った金属を熱する実験をしたときに撮影した動画と、NHK for Schoolのあたためられた空気の動きを緑色のレーザー光線を当てた煙で可視化した動画を見せ、前時までの学習内容を確認した。金属は一端、中央部分どちらから熱しても、熱した部分から順に温まっていく。空気は熱すると上方に移動し、天井にぶつかってから部屋全体が温まっていく。これを踏まえて「水はどのようにあたたまるのか」をロイロノートで考えさせていく。

まずは個人で予想をかく。佐藤教諭の「予想なので結果と違っても大丈夫。習ったことや家での生活習慣も思い出して考えて」という言葉により、児童も自由に予想できていた。続いてグループで予想を話し合い、一部の児童は予想を変更した。

全体発表時には、ロイロノートの背景色を次のように色分けして提出。金属と同じあたたまり方と予想した児童が比較的多いことが明確になった。

 金属と同じあたたまり方:ピンク
 空気と同じあたたまり方:水色
 金属とも空気とも異なるあたたまり方:黄色

児童からは「水は金属と同じで触れられる」「水は空気と同じで透明」など性質に関するもののほか、「家のポットでお湯を沸かす時、上のほうが最初に熱くなり始める」「お風呂は下のほうがぬるくて上のほうが温かい」など生活経験から導き出された発表が目立った。

その後、タブレット端末をしまい、全体発表を受けての最終的な予想とその理由を紙のプリントに書く。授業の終わりには、次時に向けて、理科実験のルール“たちつてと”(立って実験、中央で、机の整頓、ていねいな記録、友達と協力して)や、髪留めを忘れずになど注意事項の確認があった。

事後研究会

参観した教員からは次のような意見が出た。

<良かった点>
・全体発表の前にグループで話し合う時間が与えられたのが良かった。
・予想を提出する際の色分けが良かった。
・児童の発表は経験や既習事項が意識されていた。

<課題点>
・児童の発表後の話のふくらませ方が物足りなかった。別の体験談も聞いたりして深堀りできると良かった。
・ビーカーの底に炎が当たっていない部分は「あたたまらない」と予想した児童には、根拠をもう少し突っ込んで聞くべきだったのではないか。
・「空気のあたたまり方」を紹介する動画については児童の反応が鈍かった。

全体会・中川一史教授からの講評

情報活用能力ベーシックの5つのプロセスの「整理・分析」「まとめ・表現」が多くなってしまうものですが、「課題の設定」に挑戦したのが素晴らしい。ロイロノートでの提出では色分けの工夫によって、他の児童の考察が一目瞭然になったのも優れたポイントです。色分けが正確にできていなくても、一度俯瞰して、どんなバリエーションがあるのかを知るのは、児童にとって非常に重要。

一方、グループでの話し合い後に意見を変えたと挙手した児童には、「誰の考えに」「どう納得したのか」を共有させると良かったです。もちろん45分という時間では限界がありますが、どちらか一つでも共有すると授業がより深まったのかなと思います。

インタビュー

GIGAスクール開き

全学級共通の使い方を決めて、毎日活用する

秋元大輔校長(後日Zoomで取材)

―GIGAスクール構想を受け、どのような準備をしたのでしょうか?

秋元大輔校長 GIGAスクール構想の前倒しに伴い、昨年夏から準備を始めました。理論研修として、まず初めにこの分野の第一人者である放送大学の中川教授を招き、教育の情報化や1人1台端末があると何ができるのかなどについて講演していただきました。電子黒板は2月に導入されたのですが、公的な研修を待っていると教員の関心も薄れてしまうので、早めに業者を呼び、1教室と廊下に6台並べて研修してもらいました。企業が提供するオンライン研修を含めて、昨年4月から今年5月までに17回の研修を実施しました。操作研修を繰り返したことで、先生方の不安も払拭できたのではと思います。今年度も放送大学客員教授の佐藤幸江先生や、茨城大学准教授の小林祐紀先生、市内のICT活用をリードする先生方を招いた研修を行いました。
ロイロノートのオンライン研修は1時間で本当に使えるようになるので、今年度本校に来た先生方にも4/10までに受講するようにと期限を設けて、まず受講してもらいました。
3月に端末が届いてから、朝の会は日直のタブレットを電子黒板に映して1分間スピーチを行う、月曜日の朝学習は必ずタイピング練習をするなど、全学級共通の日常的な使い方を始めました。

―1人1台端末導入後、すぐに授業で効果を発揮するようになりましたか?

山﨑教諭(1年担任) 画面上に漢字が多いので、最初は戸惑いがあったようです。お絵かきソフトの活用から始め、次に指で画面に直接文字を書き、徐々に慣れさせました。その後にタイピング練習を始め、今ではローマ字入力ができている児童もいます。写真を撮って、声を吹き込むこともあります。タブレット端末は考えを整理しやすいうえ、友達との情報共有や発表もしやすいので、情報活用能力の育成には非常に有効です。

長田教諭(3年担任) しっかり慣れるということで、導入直後から現在まで、朝学習の時間(20分)や雨の日の休み時間、テストが早く終わった時などにタイピング練習をしています。友達がスマートに操作する姿に刺激されるようで、子供たちも積極的に使いたい、使えるようになりたいという姿勢で、学級活動の話し合いなども「タブレット端末でやってもいいですか?」と聞いてきますし、係活動でも、ロイロノートでポスターを作ったり、エクセルのチェックリストを使って活動を記録したりしていますね。「今月の歌」の歌詞もローマ字入力して電子黒板に映しています。
低学年だからこそ、逆に慣れるのは早いという印象で、今では教員が知らない機能も見つけて教えてくれることもあるほどです。教員に聞いてくるのはトラブル時だけですね。紙の提出物ではあまり意欲がわかない児童でも、タブレット端末では見栄えのいい新聞を作っていて、驚かされたこともあります。

佐藤教諭(4年担任) 成績上位の子でも、操作に慣れるまでは苦労していました。ロイロノートの他に、Google Classroomや Google Jamboardも活用しています。

「ほぼ毎日活用する」教員が100%に

情報活用能力、情報モラルの育成

―一番大きな変化は何ですか?

秋元校長 これまでの授業では先生が「何か意見ある人?」と質問しても、時間的に数人しか答えられませんでした。ですが、タブレット端末を活用すればすべての児童が意見を提出できるので、全員の考えを共有できるようになったことが大きな変化ですね。ICT活用に抵抗のあった先生にも、まとめの2分だけでも有効に使えると好評です。
5月のアンケートで、タブレット端末を「ほぼ毎日活用している」と回答した教員は7割でした(市内の他の学校では1割程度)が、9月末には1年生も加わって、9割を超え、12月にはほぼ100%になりました。

―情報活用能力育成における効果はいかがですか?

秋元校長 効果は全体的に上がっています。7月に18項目の児童アンケートを実施しましたが、同じアンケートを2月にも実施して、伸びを見たいと考えています。学級による差はもちろんありますが、どの学級もほぼ毎日使ってるので、大きな差はないでしょう。
昨年度末に、学校全体で「情報活用能力を育成するために、1人1台端末を使う」という意識を共有し、中川教授らが開発した「情報活用能力ベーシック」という情報活用能力を5つの学習プロセス:「1課題の設定」「2情報の収集」「3整理・分析」「4まとめ・表現」「5振り返り・改善」に整理したものをもとに、各教科・単元で、特に意識して情報活用能力を育成できそうな単元をリストアップしてもらいました。それを各月に各教科で1単元、各教科で各学期(船橋市は2学期制)に1~5のプロセスが入るように絞り、年間指導計画を作成しました。各単元のどの場面で、どのプロセスの情報活用能力を、どのように育成するのかを設定しています。タブレット端末があると効果的な活動も多いので、1人1台端末は確実に活かされているといえるでしょう。

―授業づくりでは、どのように情報活用能力の育成を意識されていますか?

佐藤教諭(4年担任) 子供たちが調べたいと思えるように導入を意識しています。例えば「水」をテーマとするならば、水道水や川の水など数種類を見せて、「水はどこから来るの?」「水道水はなんで飲めるの?」という疑問を抱かせます。疑問を持つことで、道筋を辿って情報を得られることになり、能力の育成につながると考えます。1人1台端末があることで、インターネットで調べる活動もしやすくなりました。

―1人1台端末から得られる教育データによって、児童の様子は把握しやすくなりましたか?

秋元校長 毎朝の検温結果がロイロノートで送られてくるので、児童の健康状態の把握が容易になりました。写真を撮るなど、毎日絵日記を提出している学級もあるようです。
また、この冬休みから端末の持ち帰りを始めます。デジタルドリルのeライブラリなどを宿題にする予定ですが、先生が児童の学習状況を把握しやすくなるのではと考えています。

―端末活用は外国人児童の支援にもなっているのでしょうか?

秋元校長 書き順の動画が閲覧できるので漢字の学習などに役立っています。音声入力で変換したり、翻訳アプリを使ったり、コミュニケーションの道具として活用している子供もいます。これも1人1台ならではの魅力ですね。

―今後の課題をお聞かせください。

秋元校長 導入後に分かったのは、端末を使う時間を確保すれば子供たちは喜んで使うということです。一方で、前にいる教員からは画面が見えないので、授業中に端末で遊ぶ子供もいたり、子供たち同士のいざこざを止めずに、その様子の動画を撮影するなど、使わなくていい場面でも使ってしまったり、情報モラルに欠ける活用も目立ちはじめています。
SNSへのアクセスは制限していますが、いたちごっこの部分もあります。市内の各学校で、児童生徒が無断で開設した掲示板を教員が見つけては教育委員会に報告し、教育委員会がそれにアクセスできないようにしています。端末の持ち帰りにおいても、この情報モラルを徹底するよう注力していきたいと考えています。

―ありがとうございました。

記者の目

現在ではほぼ毎日、端末が活用されているという葛飾小学校。高学年のみならず、低学年においても大人顔負けにタイピングする姿には驚かされた。一方で、紙での学びの際には端末をきちんと閉じている光景も印象的だった。デジタルとアナログ双方の良さが活かされることにより、優れた相乗効果が得られることだろう。今後始まる端末の持ち帰りが、情報活用能力の育成にどう寄与するのか注目していきたい。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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