2011.04.19
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「実感を伴った理解」を目指す理科授業 日常に根差した気づきを与え、生きる力を育む ―朝霞市立朝霞第十小学校・北川誠 教諭―

「実感を伴った理解」を図ることが小学校学習指導要領の理科の目標に新たに盛り込まれた。朝霞市立朝霞第十小学校の理科主任(専科)、北川誠教諭は、子どもたちの日常生活に根差した理科授業を行っている。それは自身の研究課題「いのちの教育」まで視野に入れた実践であり、子どもたちに「生きる力」を身につけさせたいという思いから発している。北川教諭の授業実践とインタビューを紹介する。

「実感を伴った理解」を目指す理科授業 ~日常に根差した気づきを与え、生きる力を育む ―朝霞市立朝霞第十小学校・北川誠 教諭―

授業を拝見!

実感を伴った「電気エネルギーの熱・光変換」授業

学年・教科: 6年生理科(児童39名)
単元: 電気エネルギーの熱・光変換(全8時間)
本時の学習: (1)発泡スチロールカッターを使用した発熱現象の実験。(2)シャープペンシルの芯を使った発光現象の演示。
ねらい: (1)電気が熱に変わることの実感を伴った理解。(2)電球の原理を基にした科学的思考力の育成。
指導者: 北川誠教諭(理科主任=専科)
使用教材・教具: 発泡スチロールカッター、発泡スチロール片、直流電源装置、手回し発電機、教材提示装置、モニター、シャープペンシルの芯(0.5ミリHB)

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熱エネルギーで発泡スチロールを切ってみる――実感する

「実感を伴った理解」を目指す理科授業  

 「みんなが普段使っている電気は、どんなものに変わるのでしたっけ?」
「光」
「熱」
「音」
「運動・回転」
――北川教諭が前時までの学習を振り返った発問をすると、子どもたちから次々と回答が挙がる。次に、
「今日は、電気エネルギーの熱エネルギーへの変換について学習したいと思います。みんなの生活の中で、電気を熱に変えるものは、具体的にどんなものがあるかな?」
と聞くと、子どもたちは
「電気ストーブ」
「アイロン」
「IHクッキングヒーター」
「ポット」
「こたつ」
回答があるごとに北川教諭は「お、いいねぇ」「他には?」などと相づちを打ちながら、ホットプレートや炊飯器など答えの日用品の画像をモニターにどんどん映し出していく。

「実感を伴った理解」を目指す理科授業

 ここで発泡スチロールカッターの登場だ。子どもたちは、あらかじめ好きなイラストを描いておいた発泡スチロール片を持っている。
「(直流電源装置は)6ボルトぐらいで十分切れます。9ボルトまで上げても大丈夫。手回し発電機を使っても結構です」
などと実験の手順を説明する。子どもたちは4、5人のグループに分かれて、発泡スチロールカッターを電源装置につなぎ、イラスト片を実際に切ってみる。
「よし、切れている!」
「湯気が出ているー」
「くっさーい」
「(切った後の発泡スチロールを触って)めちゃめちゃ熱いよ」
「楽しいね、これ!」
素直な反応が子どもたちからいろいろと出てくる。
北川教諭は切り終えた作品を提出させてモニターに映しながら、
「みんな、立派な作品ができたね! ニクロム線に電気を通しただけのこんな簡単な装置でも、熱を発することがわかりました。では、ここでみなさんに考えてほしいのです」
と、次の実験の導入へとつないだ。

カッターの電源は手回し発電機(手前)と直流電源装置(後方)
カッターの電源は手回し発電機(手前)と直流電源装置(後方)
手回し発電機は電力が低くなかなか切れない
手回し発電機は電力が低くなかなか切れない
直流電源装置はよく切れる。熱や臭いも実感
直流電源装置はよく切れる。熱や臭いも実感
できあがり。複雑なラインも見事にカット
できあがり。複雑なラインも見事にカット

シャープペンシルの芯に電気を通したら? ――予想を立てる

「実感を伴った理解」を目指す理科授業  

 北川教諭が取り出したのは、何の変哲もない シャープペンシルの芯。
「これに電気を通します」
と言うと、子どもたちから
「え!?」
と驚きの声。不思議そうな顔で、一斉に北川教諭を見る。
「どのようになると思いますか? 予想を立てて書いてください」
と言って、一人に1枚ずつ用紙を配る。子どもたちは隣の友達とも相談しながら頭をひねる。
北川教諭は子どもたちの回答用紙を集めながら、予想内容を「熱くなる」「赤くなる」などに分類し、黒板にその回答数を“正の字”でカウントしていく。結果、「熱くなる」が最も多く、次いで「とける」「赤くなる」「光る」「折れる」といった順。「こなごなになる」も3票あった。

「実感を伴った理解」を目指す理科授業

 いよいよ本番。やや危険を伴うため、北川教諭が実験して見せる。子どもたちは興味津々といった目で教壇に集まる。椅子の上に立ってのぞき込む子も。
「予想に『こなごなになる』とあったので、前の人は(安全用の)眼鏡をかけてください」
と注意を呼びかける。北川教諭の手元を、みんな息をのんで見つめる。
 「あー、(芯が)折れた!」
芯がワニ口クリップにうまく挟まらない。それでも期待は高まる。
室内の照明を消して、
「みんな、実験は失敗することもあるんだ(笑)。じゃ、行くよ」
電源が入る。芯が光った。
「おお!」
「わあ、きれい!」
「すごーい!」
と拍手と歓声が上がる。

 その後、北川教諭はエジソンの写真を示し、彼が電球を実用化するために6,000種類もの物質を今回の実験と同じような方法で試したこと、最終的に京都八幡市の竹炭にたどり着き炭素電球を造ったことを、子どもたちと対話しながら説明。ここでちょうど時間となり、感動を抱えたまま授業は終わった。

実験セット完了。電気を通す前の芯
実験セット完了。電気を通す前の芯
室内を暗くし、電流を流すと光り始める
室内を暗くし、電流を流すと光り始める
電流を9ボルトまで上げるとさらに明るく
電流を9ボルトまで上げるとさらに明るく
授業者に聞く

自分の五感で判断できる力を身につけ
「生きる力」「いのちの実感」を持てる子に。

ライブ感あふれる参加型授業で、日常の現象と直結させたい

北川誠 教諭プロフィール

学びの場.com(以下、学びの場) 今日の授業は、何をねらいとしていたのですか。

北川誠 教諭(以下、北川) 電気の発熱現象を実際に体感すると共に、毎日の暮らしの中にも使われているものだと気づくことが一つ。発光現象については、エジソンの電球の原理をテレビや本で知識としては知っていても、その実験を経験した子はいません。そこで予想と理由を考え、ナマの驚きを持って観察し、結果を確認しました。そして、それぞれ、我々の生活の身近な所にもある現象なのだと実感してもらいたかったのです。(臭いとか熱いとかいった反応も)発泡スチロールという石油製品ならではの反応で、よかったと思います。

北川誠 教諭

学びの場 観察・実験は、これまでの学習指導要領でも重視されてきたはずですが、なかなか充実できないという話をよく聞きます。なぜでしょう。

北川 教員一人では準備が大変で、時間的な限界があることですね。理科支援員も仕分けされてしまいましたし(笑)。ハード面では、やはり電子黒板が欲しいところです。本校の理科室には小さいサイズのモニターしかありませんし、プロジェクターの映像も鮮明さに欠け臨場感がありません。やはりソフト、ハードの両面にお金を掛けることが、理科教育の充実には不可欠だと思います。

科学面、精神面の両アプローチで“いのち”を教えたい

北川誠 教諭

学びの場 先生は「子どもといのちの教育研究会」に所属していらっしゃいます。「実感を伴った理解」を目指す理科の授業と、つながりはあるのでしょうか。

北川 理科は、私の研究テーマである「いのちの教育」と一番つながる教科だと思います。今は核家族化で身近な人の死に直面することも少ないため、いのちの実感を持てず、成績の良い子さえ映画などに影響を受けて、“黄泉(よみ)がえり”を信じていることがあります。

 やはり、物理的な生と死、心理面でのいのち、この両方を教えていかなければと思います。たとえば、飼育動物が死んだら理科の時間にその死がいを観察する、そしてお墓に埋葬し、お参りする。そのようにしていのちを実感させたいですね。子どもたち自身が生きる実感を持てなければ、自己肯定感も持ちづらいですから。

学びの場 確かに各種調査を見ても、日本の子どもたちは自己肯定感が低いようですね。

北川誠 教諭

北川 保護者の方々も自分のことで精一杯なのか、あるいは世の中全般に自己実現欲求が高まっているせいなのか、なかなか子どもを褒めることが少なくなっているようです。マラソンで10位から8位に順位を上げても、「それじゃだめだ。1位になれ」ってね。これでは成績が良い子でも自信を持てないでしょう。

 褒めることを通して自己肯定感を育てる。さらに言うと、自己肯定感を支えるものは“上質な笑い”。苦境に立たされた時、心理的な回復に“笑い”は大きな効力を発揮します。私のモットーは「花には水を、人にはユーモアを」です(笑)。子どもたちの自己肯定感を高めて、生きることを実感させる「いのちの教育」を実践していきたいと思っています。

学びの場 今は「学力向上」第一の風潮があります。

北川 たとえば最近の子どもたちは賞味期限という「知識」に過剰なほど敏感ですが、自分の鼻や舌といった五感で判断できることが、「生きる力」でしょう。だからこそ、実感を伴った理解が重要だと思うのです。実感が伴って初めて、本当の知識になり、自分の糧となり、そして生きる力になるのだと、私は信じています。

 新学習指導要領は「ゆとり教育から学力向上に転換したものだ」という表面的な理解が根強いが、そんな単純なものではない。あくまで「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の調和によって「生きる力」の育成を目指しており、そこには知識・理解も体験を通してこそ確かなものになる、という考え方がある。一教科にとどまらない深みと広がりを持った北川教諭の実践は、まさにそうした新学習指導要領の趣旨を体現するものだろう。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩 ※写真の無断使用を禁じます。

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