2026.08.24
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生徒が作る道徳の授業(後編) 週一回「未来は自分で変えられる」とポジティブになれる時間

前編では、生徒が進行する「橋の上のおおかみ」の授業をリポートした。後編では、引き続き、瀬戸山 千穂先生に、道徳教育推進教師としての取組、道徳の研究を始めたきっかけや教材づくり、また学年主任としての「中1ギャップ」対策などについて、お話をうかがった。

道徳のカリキュラムづくり

瀬戸山 千穂 教諭

——道徳教育推進教師としての取組について、お聞かせください。

瀬戸山 35時間の年間指導計画は、⽬指す⽣徒像と、その中で道徳教育をどう位置づけるかを踏まえ、多くの先⽣⽅がやりやすいように、教科書の順番は変えずに作っています。東京書籍の教科書は39の教材が掲載されているので、その中から35を選定します。管理職の先⽣とも相談して、厳密にこの通りでなく、少し変えても構わないという形にしています。私が所属する1年生の1学期は、次のテーマで進めています。

  • 新しい自分と出会うために大切なこと(1)
  • 日々の生活の中で自分を創るために大切にしたいこと(2)
  • いじめのない世界を実現するために必要なことは何か(3)
  • 未来の自分のためにできることは何か(※本時はこの2/2)
  • なぜきまりがあるのか(2)
  • 人と人は何でつながっているのか(2)

また、粕川中学校の共有ドライブに「道徳教材バンク」を作り、先⽣⽅が実践した教材や資料、授業の最後に見せると効果的な動画クリップなどをアップして、活用できるようにしています。昨年と⼀昨年は校内研究が道徳だったこともあり、顧問だった水泳部の活動のない秋以降、月1回30分の授業づくりワークショップも開いていました。若手の先生3~4人に教材と質問を持ち寄ってもらい、意見を出し合いながら授業を組み⽴てていきました。

——道徳の授業は、学級担任が担当されているのでしょうか。

瀬戸山 本校は、教材ごとに分担を決めて、同じ教材は1組も2組も同じ教員が授業しています。今の学年は学年主任の私と、学級担任の1年⽬の先⽣、3年⽬の先⽣の3人でローテーションしています。今回、私の授業で生徒に司会をしてもらいましたが、「他の先⽣の授業でもやってみない?」と声をかけたら、「やりたい」と言っていました。生徒の要望に応えようということで、若い先⽣方も巻き込む形で授業について考える機会を作ろうと思っています。学年会では、こういう⼒を付けるためにこんな活動をしたらどうかとか、単に活動だけ伝えるのではなく、生徒にどのような力をつけるための活動なのかを意識できるように声をかけています。

道徳の魅力

ちょっといい未来をイメージする時間

研究ノート

——道徳の研究を始めたきっかけについて教えてください。

瀬戸山 私は初任校の⼩学校で3年間、中学校で4年間、その後に群馬大学共同教育学部附属小学校に赴任しました。私は理科が専門だったのですが、附属小学校では道徳部に入ることになりました。6月に公開研究会があり、どうにかしなければという外的な要因が直接のきっかけです。筑波大学附属小学校に加藤宣行先生の授業を見に行ったりして、研究を始めました。附属小学校に赴任するまでは、実のところ副読本はあまり使っておらず、『とっておきの道徳授業』(佐藤 幸司 編著・日本標準)の追試やインターネットニュースのリメイクなどで教材を開発することに道徳の楽しさを見出していました。

——教科化による変化についてはいかがでしょうか。

瀬戸山 教科化されたことにより教科書ができたため、教材選択の幅は少し狭くなってしまいましたが、週に一度道徳の授業時間を確実に確保できるようになったのは大きな成果だと思います。 以前は、学年会で、道徳の授業時間を使って、アンケート調査をしたり、音楽会や体育大会の練習をするように決まってしまうこともありました。生徒たちも練習したいし、私のクラスだけ道徳をやりたいとは言いにくい雰囲気がありました。

——道徳の魅力について教えてください。

瀬戸山 2つあります。1つは、授業の中で⽣徒⾃⾝が新しい発⾒をしたり、考え方が変わったり、未来に向けてやる気を起こしたり、生徒の意識が変わる可能性を秘めた授業だということです。道徳の授業は週に1時間ですが、継続して取り組むことで、⽣徒⾃⾝が未来の⾃分、他者への⾒⽅など世界を広げることができると思っています。道徳の時間は、⾃分の⾄らなさを反省する時間ではありません。苦手な教科の勉強や思春期の悩みなど、⾟いことや⼤変なことがたくさんある中で、ちょっといい未来をイメージできる時間にしたいですね。

もう1つは、⼤⼈も生徒から学べるという点です。生徒たちの純粋さや真摯さから、私⾃⾝が学ぶことが⼤きいというのは本当に⼤きな魅力です。平成29年の立志式(コロナ禍前には行われることが多かった、元服の年齢である中学2年生が自分の夢や決意を発表する行事)で、クラス代表の生徒が読んだ作文に「人は自分を必要とされる嬉しさのために働くこと、自分はたくさんの人に支えられていることなど、毎週の道徳の授業で学んだことが自分を成長させた」という話があり、とても感動しました。

——文部科学省「私たちの道徳」や教科書編集委員の経験は、日々の授業づくりに役立っていますか。

瀬戸山 教科書って、こうやって作られるんだとか、教材って、こう選ばれるんだという、その過程を知ることで、教材への理解が深まりました。それまで漠然と「使やすいい」「使いにくい」と感じていた理由を言語化することができるようになったと感じています。また、同じ素材でも教科書会社によって切り取り方が異なるところに、教科書会社の意図があることがわかるようになりました。例えば、⼤⾕翔平選⼿を取り上げるとしても、目標設定や努力の大切さ、誠実さや思いやりなどスポットの当て方は様々です。

執筆者としては、分かりやすく書くことが大事だと思っています。⽂学的であったり、⼼情描写が巧み過ぎると、生徒によっては読み取りの時点でつまずいてしまい、本来のねらいが達成できません。

——第 32 回上廣道徳教育賞 最優秀賞を受賞した研究についてお聞かせください。

瀬戸山 『一人一人を育てる「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現する道徳科ユニット学習の展開~「この子」の学びに焦点を当てて~』というタイトルで、総合的な学習の時間と連携して、「地域や社会の課題を見据え、自分事として捉えてその解決に向けて主体的に動こうとする生徒」を育てる実践研究をまとめました。令和5年11月に函館で全日本中学校道徳教育研究大会があり、私は関東ブロックの代表で出たのですが、そこで応募を勧められました。育休中に出会った様々な文献をもとに自分なりに仮説を立て、試行錯誤しながら実践を積み重ねていた最中でした。これらの実践は何らかの形でまとめたいと思っていたので、素材は十分揃っていました。1か月ほどで一気に書き上げました。

附属⼩学校にいたとき、道徳の時間に話し合ったことをきっかけに、じゃあ⾃分たちも何かやろうと「学校清掃⼤作戦」というプロジェクトが⽴ち上がったことがあります。中庭が草だらけだったことに課題を感じた子どもがいて、みんなで草むしりをしました。そのうち親にも⾒てほしいと⼦どもたちが言い出して、保護者参観の時間にそのプロジェクトについて話し合いをしたんですよね。そうしたら保護者も早めの登校に協⼒しますとなって、希望者は朝も活動するようになり、6年生にも褒められたり、子どもからの働きかけをきっかけに、活動がどんどん展開されていきました。中学校は教科担任制なので、ダイナミックな展開は難しさがありますが、道徳の学びが教科や総合的な学習の時間につながることはたくさんあります。

——専門の理科とは、授業づくりに違いがありますか。

瀬戸山 理科は、実験や観察という活動を通して科学的なものの見方や考え方を獲得していくというのが大きな目的です。例えば、紙、プラスチック、金属の3種類のコップを提示して、熱いココアを入れるならどのコップが最も適していると思うか、と生徒に投げかけます。生徒は自分の経験をもとに思い思いの発言をしますが、その発言をもとに物質には特有の性質があることや、日常生活では用途に適した性質をもとに物体を使い分けていることを意識できるようにします。

しかし、道徳の場合は、教材の中から道徳的な問題を見出して、みんなが過ごしやすい世界、自分も相手も幸せになれる未来の姿について考えていきます。教材上での疑似体験を通して、新しい考えを獲得していくというのが⼤きな違いだと思っています。クラスでいじめが起こっている最中に同じような状況の教材を取り上げるなど、教材の内容が身近すぎると逆に考えにくくなることがあるので、そのあたりは気を配る必要があります。

中1ギャップを防ぐには

春に積極的に発言・相談する文化を作る

——昨年『中1担任の学級経営 中1ギャップを防ぎ、心理的安全性を高める戦略・戦術』を出版されました。 中1ギャップについて教えてください。

瀬戸山 ⼤きく3つあると思っています。1つは学習⾯でのギャップですね。特に最近は、英語はある程度会話ができ、⽂法も分かる前提で始まるので、付いていけない生徒が出てきやすいです。

2つ目は⽣活⾯、環境⾯でのギャップです。教科担任制になるので、先生ごとに異なるノートや評価、宿題、テストなどのやり⽅に慣れる必要があります。

3つ目は、友達関係でのギャップですね。 中学生になって考え方が成熟してきた生徒は、⼩学生が抜けきれない生徒と会話が噛み合わなくなります。「小学生の時は仲が良かったのに、自分のことをわかってくれない」と⼈間関係で悩むようになる⽣徒は少なからずいますね。授業が5分長くなり、中休みがなくなり、放課後は部活がある。友達とたわいもない会話をする時間が小学校より少なくなりがちです。成績が落ち込んでしまうと、自尊感情が低下してしまう場合もあります。授業の中で生徒同士の関わりを増やすことが鍵ですが、学習内容が多く、そこまでできていない先生がほとんどだと思います。

——中学校1年生の学級経営の進め方のポイントについてお聞かせください。

瀬戸山 小学生から中学生に進級することは、生徒にとって「変われるかも」という期待をもてる大きな変化です。そのときにもっているエネルギーを持続できるように、薪をくべて、灯⽕を⼤きくしていくことが⼀番⼤事かなと思っています。4月に発言しなくても授業が進んでいく文化を作ってしまうと、それを後から変えるのは困難です。 中学校は、校則が増えたり、制服もできて、⼩学校よりも⽣徒の活動範囲が制限されることが多いですよね。活動が制限されたことによって、「流れに乗っていけばいいや」と、受け⾝になる⽣徒が増える印象があるんです。さらに思春期も重なって、⾃分が出しづらいというのもあります。

——学年主任としての取組について教えてください。

瀬戸山 昼休みの過ごし⽅が大きく変わりましたね。昼休みは、⽣徒の普段の様⼦や人間関係を⾒る絶好のチャンスなので、仕事をせずに生徒を知る時間として使っています。学級担任していたときは、基本的に教室にいて、クラスの⼦たちと話をしたり、校庭で誰と誰が遊んでるかのかを眺めることが多かったのですが、今は「声をかけられる余裕があるよ」という感じで、廊下をフラフラするようにしています。理科室で生徒の話を聴くこともあります。

1年生の生徒たちがよく⾔うのが、「先⽣との距離が遠くなった」ということなんです。廊下ですれ違うときは、私から「元気?」などと声をかけます。悩みを相談されたら、じっくり聴くようにしています。友達関係だけでなく、親とうまくいかないという悩みや、恋愛相談もあります。学級担任の時よりも悩み相談が増えた印象です。解決に向けて学級担任に働きかけるときは、その生徒の意思を確認しています。

——道徳の授業で、ギャップ解消への働きかけをすることもありますか。

瀬戸山 他人の価値観が理解しきれないまま⾃分の価値観を当てはめようとすると、ズレが⽣まれて摩擦が起きます。価値観は⼀⼈ひとり違って、ズレて当たり前なんだなとか、同じ事象を⾒ても感じ⽅は⼈それぞれなんだ、という感覚を道徳の時間に養うことができれば、そのギャップは緩和すると思っています。特に⼈間関係のギャップについては有効です。仲がいい⼦ほど、ズレたときに歪みが⽣じやすくなりますからね。

仕事と育児の両立、大人の学びの場づくり

——育児との両立について教えてください。

瀬戸山 ⼩2と、年中(5歳)の2人の子どもがいます。両立の苦労はたくさんありますが、夫が在宅勤務が可能な仕事なので、夫に頼っている部分は⼤きいです。部活がある⽇の帰宅は6時頃になりますが、部活がない⽇は5時半には帰り、夫が夕食を準備している間に、子どもの宿題を見たり、持ち物を用意したりします。睡眠時間を確保しないとイライラしたり、いい仕事はできないので、夜は9時頃に、寝かしつけしながら子どもと一緒に寝てしまい、早朝4時頃に起きて仕事をしていますね。隙間時間など時間の使い⽅をすごく意識するようになりました。

——今後、挑戦してみたいことなどを教えてください。

瀬戸山 道徳の授業づくりは、いずれはカリキュラムづくりまで子どもたちに考えて欲しいですね。また、現在も上廣倫理財団の助成を受けて、オンラインコミュニティ「道徳の窓」を立ち上げ、定期的にセミナーを開催したりしていますが、 ⼦どもたちが独立して出ていった後、自宅の空き部屋を使って、みんなで教育のことや道徳の授業づくり、⼈間とは何かなどを語り合うような場を作りたいという夢はあります。自分も育てていただいたので、恩返ししたいですね。

記者の目

生徒が進行役を務めることで他の生徒も発言しやすくなり、みんなで考える姿を見て、これが「授業」本来のあり方ではないかと強く考えさせられた。「道徳」という教科は、生徒の誰もが日常的に直面する身近なテーマを扱うということも理由としてあるだろう。中学生になったばかりの1年生が抱える不安やストレス、思春期特有の悩みを「道徳」の授業を通して自信と希望に変えることができるのか。瀬戸山教諭は、そこにチャレンジしている。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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