家族にとってのよろこびを考える(前編) 「道徳:ブラッドレーのせいきゅう書」授業リポート
2026年2月27日、昭島市立小学校の3年生が、特別の教科 道徳の授業で「家族にとってのよろこび」をテーマにした学習に取り組んだ。授業であつかわれた教材は「ブラッドレーのせいきゅう書」(文部科学省『わたしたちの道徳 小学校 3・4 年』)。日本の道徳の授業で長く取り上げられてきた、家族愛を考えさせる物語である。前編では、柿原健吾主任教諭が行った授業の様子をリポートする。
授業を拝見
【授業概要】
学年・教科:小学校3年生・特別の教科 道徳
授業者:柿原健吾 主任教諭
主題:明るく楽しい家族 C「家族愛、家庭生活の充実」
使用教材:大型モニター、キーワードカード、ワークシート
〈「ブラッドレーのせいきゅう書」のあらすじ〉
ある朝、家の手伝いをしたブラッドレーが、母に対してその代金などを記した「せいきゅう書」を書いて渡す場面から物語が始まる。そこには、お使い賃や掃除をした代、習い事に行ったご褒美が並び、それぞれに金額が記されていた。それを読んだ母は、昼に、ブラッドレーの請求額のお金とともに、自分が書いた請求書も渡す。そこには、ブラッドレーに親切にしてあげた代や、病気をしたときの看病代、服やくつ、おもちゃ代や食事代などが並んでいた。しかし、それらの金額はすべて「0ドル」と書かれていた。それを読んだブラッドレーは、母がこれまで無償の愛情で自分を育ててくれていたことに気付くのである。
家でお手伝いをしていますか?
アンケートから「家族」を考える導入
柿原主任教諭
授業は、児童たちに事前に行ったアンケート結果の紹介から始まった。アンケートは1月中に実施したもので、質問は「家でお手伝いをしていますか」というもの。28人の児童の回答は、「毎日する」が7人、「たまにする」が14人、「たのまれたらする」が5人、「とくにしない」が2人だった。
お手伝いをしている理由としては、「お母さんを少しでも楽にさせてあげたい」「家族みんなのためになる」といった声が挙がった。一方で、「お金がもらえる」という率直な意見もあった。お手伝いをしていない児童からは、「たいへんなことだとわかっている」「何をすればよいかわからない」「手伝おうかと声をかけても、『大丈夫だよ』と言われる」といった意見が出た。
さらに、「どんなときに、家族がいてよかったと思うか」への回答として、「かんびょうしてくれた」「元気がないときになぐさめてくれた」などの回答が並んだ。
結果を聞いた児童からは、「なるほど」「気持ちがわかる」「家族でもお金はもらった方がいいよね」といった声が挙がり、教室には共感の雰囲気が広がった。
アンケート結果の紹介を終えた柿原主任教諭は、「このアンケートから、今日のテーマが何かわかりますか」と児童に問いかけた。すると、児童から「家族」という声が上がった。その言葉を受けて、今回の授業では、「ブラッドレーのせいきゅう書」を通して家族について考えていくことを伝えた。
児童の一人が「せいきゅう書ってお金のこと?」と質問すると、柿原主任教諭は請求書の意味や、物語に登場する通貨単位「ドル」について説明し、本時の授業のテーマとして「家族にとってのよろこび」を提示した。
ブラッドレーについて、どんなことを感じましたか?
教材を視聴し、感想を語り合う
「ブラッドレーのせいきゅう書」の読み聞かせでは、大型モニターに挿絵と本文のポイントを表示しながら、柿原主任教諭が物語を読み進めた。読み聞かせの後、柿原主任教諭が「物語を聞いて、どんなことを感じましたか」と問いかけると、児童たちは次々と手を挙げて意見を発表した。
「ブラッドレーには、お母さんへのやさしさがあったと思う。」
「どうしてお母さんのせいきゅう書は0ドルだったのかな。」
「お母さんは、ブラッドレーが幸せなら0ドルでいいと思ったんじゃないかな。」
さらに、「4ドルをもらったとき、ブラッドレーはどんな気持ちだったと思う?」という発問には、
「冗談のつもりだったのに、本当に4ドルをもらってびっくりしたと思う。」
「お手伝いのごほうびだから『やったー』と思った。」
といった意見が出た。児童の考えを整理すると、「うれしい」という気持ちだけでなく、「本当にもらっていいのかな」という驚きもあったのではないかという見方が共有された。
どうしてお母さんは0ドルにしたのかな?
家族への無償の愛について考える
続いて、お母さんの請求書を見たときのブラッドレーの気持ちについて考えていく。
「お母さんを不安にさせちゃったと思ったかもしれない。」
「どうして、お母さんのせいきゅう書は0ドルなんだろう。」
児童の意見は次第に、「お金」という点に注目していった。柿原主任教諭はそこで改めて「どうして、お母さんは0ドルにしたのかな」と問いかける。
「子どもからお金を取るのはかわいそうだから。」
「家族だから、お金は関係ないと言いたかった。」
「愛とお金はちがうということを伝えたかった。」
このとき、児童からは「家族愛」に関連した意見が出た。
ここで授業は、最初に掲げたテーマ「家族にとってのよろこび」に立ち返る。これまでの児童の発言を振り返る中で、「お金のためではない」という考えが教室の中で共有されていった。
さらに柿原主任教諭は「お手伝いをして、お金をもらうことはダメなことなのかな」と問いかける。児童からは「もらってもいいと思う」「ダメではない」という意見が出る。続けて、「お金をもらっても、もらわなくても、何が大事だと思う?」と問いかけると、
「家族の役に立ちたいと思うこと。」
「自分から動くこと。」
「お金よりも気持ちが大事。」
といった考えが挙がった。
家族からの手紙を通して感じる「家族のよろこび」
保護者からのメッセージを読む
家族のよろこびが何なのかを少しずつ言葉にしていった児童たちに、授業の終盤であらかじめ保護者にお願いしていた、「子どもたちへの手紙」が配られた。封筒に入った手紙を取り出し、児童たちは静かに手紙を読み始める。
真剣な表情で読み進める姿が見られ、中には涙ぐむ児童もいた。その後、児童たちはワークシートに、自分が感じた「家族のよろこび」について書き込み、発表した。
「いつも大切にしてくれているとわかって、とてもいいお母さんだと思いました。」
「手紙を読んで、こんなことを考えてくれているんだとわかり、心が温かくなりました。」
「これからは、お母さんを助けるために自分からお手伝いをしようと思いました。」
「家族のために自分から行動なんて、どうしてもできなそう」と行動に移す自信はないという正直な意見もあったが、多くの児童が、家族への感謝の気持ちを発表していた。
児童の感想(振り返りから抜粋)
- 家族って、いろいろな自分の行動を見ているんだと思いました。自分の成長が、家族のよろこびにつながるのかなと思いました。お家の人が「手伝って」と言う前に、自分から行動しようと思いました。
- 詩になっていたけど、全て私のためのことで、「自分は大切にされているんだな」と思いました。今まで言われていなかったことが、全てこの手紙に入っていました。そして、私は手伝いや相談にものりたいと思い、この2つが私にはできるんじゃないかと思いました。
- 手紙を読んで、「家族は助かっているんだ」と思いました。本当にうれしいなと思っています。夜ご飯のじゅんびの手伝いが助かっていることが手紙に書いてあったから、やる気が出ました。いつも家族はやさしくていいなと思いました。
- 手紙を読んで、お父さんとお母さんの思いが分かって一日一日をもっとがんばろうと思いました。日頃から「大好きだよ」と言われていたけど、手紙を読んで「大好きだよ」という言葉の深さが重いなあと思いました。
- お母さんは、いつもいろいろと考えて行動していてすごいと思います。手紙を読んで、お母さんの本当の気持ちが分かりました。私はお手伝いをたまにするだけなのですが、日頃言われないことが書いてあってうれしかったです。そして、生きているだけでもよろこびになるんだなと感じました。
- よい手紙すぎて書きたくないんですけど、とにかく一言、この手紙を読んで感動しました。そして、すごく自分が大切にされていることが分かりました。
気持ちが大事
先生の体験談でクロージング
児童たちの発表後、柿原主任教諭は自身の体験も紹介した。兄から時計をプレゼントされたときのことを振り返り、時計の値段ではなく、自分のために時間をかけて選んでくれたことが何よりうれしかったと語った。
最後に、家族にとってのよろこびとは何かを児童と改めて確認し、それを大切にしていくことの意味を伝えて授業を締めくくった。
授業者インタビュー
自分にとって「家族」とは何か
——本時の道徳の授業について教えてください。
柿原 健吾 主任教諭(敬称略 以下、柿原) 今年度、「家族」を扱う授業は2回予定しており、今回はその1回目です。教材には、教科書ではなく、文部科学省作成の道徳教材集から「ブラッドレーのせいきゅう書」を取り上げました。この教材であれば、子どもたちが「自分にとって家族とは何か」ということを考えやすく、家族とともに過ごすことの喜びにも目を向けやすいのではないかと考えたためです。
授業の準備として、まず子どもたちにお手伝いに関するアンケートを実施しました。あわせて保護者の方には、授業の約2週間前に連絡し、子どもたちへの手紙を書いていただくようお願いしました。ただし、今回は「家族」という配慮が必要な題材でもあります。そのため、事前に子どもたちの家族構成などを把握したうえで、手紙の取組を実施しました。
——保護者からの手紙を取り入れた今回の実践を通して、何か気づきはありましたか。
柿原 恥ずかしさもあってか、少し読みづらそうにしている様子も見られました。ただ、実際には手紙を読んで涙を流している子もいて、やはり家族からの言葉は子どもたちにとって大きな支えになっているのだと感じました。
授業を振り返ると、手紙だけでも、家族愛という価値を十分に感じ取ることができたのではないかと思うほど、保護者の方々がとても心のこもった内容を書いてくださっていました。そう考えると、もう少し早い段階で手紙を配付して、子どもたちがその思いに浸る時間を多く取ってあげてもよかったのかもしれないとも感じましたね。
理解しやすい教材で、議論の時間を確保する
——本時の授業で工夫した点を教えてください。
柿原 道徳の授業では、教材を画面に映して提示する方法をとっています。以前は教科書を使って授業を進めていたのですが、学年に関わらず、子どもたちが気になって別のページをめくってしまい、集中しづらくなる様子が見られたためです。
この提示方法は、昨年度まで通っていた「東京教師道場」という研修の場で教わりました。教材を画面で示し、紙芝居のような形式で進めると、子どもたちがより内容に見入ってくれることを実感しています。
*東京教師道場:東京都教職員研修センターが主催する、4~10年目の教員を対象とした研修。授業研究を通して、2年間継続的に指導・助言を受け、教科等の専門性を一層高めるとともに、他の教員の指導的役割を担うことができる資質・能力を磨く。——児童たちからは積極的に意見が出ていました。その点は、どのように感じましたか。
柿原 ブラッドレーのせいきゅう書は、3年生向けの道徳教材として見ると、ほかの教材に比べて物語が比較的短く、展開もやや急に感じられる部分があります。そのため、子どもたちが戸惑うのではないかという不安もありました。しかし実際には、子どもたちは自分なりにしっかりと意見を出しながら考えることができていたように思います。
発問が子どもたちに合っていなかったり、教材が少し古くて場面をイメージしにくかったりすると、挙手がかなり少なくなることもありますが、今日はそのような様子は見られませんでした。そう考えると、子どもたちなりに内容を理解しながら、主体的に考えることができていたのだと思います。
——本時の授業を通して、次につながりそうな手応えは何かありましたか。
柿原 教材の内容は比較的早い段階で理解させ、そのうえで子どもたちが自分のことについて考える時間を、15分程度は落ち着いて確保してあげたいと感じました。道徳の学びを、いかに子どもたち自身の日常に結びつけていくか、そして自分の弱さを安心して語れる時間にしていけるかという点は、これからも大切にしていきたいと思います。
ねらいを絞った発問を投げかける
——道徳が教科化されて以降、子どもたちが考える時間をより長く確保するために、何か工夫していることはありますか。
柿原 教師が話す時間はできる限り少なくし、ねらいを絞った発問を投げかけることが大切だと思います。そのため、発問の数もできるだけ絞るよう意識しています。今回であれば、教材に関する発問として「ブラッドレーが涙を流したとき、どのような気持ちだったのか」といった問いを設定しました。それに加えて、子どもたち自身の実感につながる発問として、「家族からの手紙を読んで、どのように感じましたか」という問いも設けました。
あとは、教師からの余計な説明はできるだけ減らすことや、発言したい人は一度立って、同じ意見の場合には座ってもらうよう促し、できるだけ多くの子どもが発言できるよう、発言の機会を調整する工夫も心がけています。
——授業の最後には、柿原先生ご自身の体験についてもお話しされていました。先生ご自身の実体験や、現実の生活と結びつくようなお話は、毎回意識して取り入れているのでしょうか。
柿原 子どもたちが、その時間の価値を十分に捉えきれていないと感じたときや、別の視点に気づいてほしいときには、自分の話を少し入れるようにしています。逆に、表面的な話になってしまいそうだと感じる場合には、あえて教師の話で締めくくらず、子どもたちの発言で終わらせることもあります。
本日の授業であれば、子どもたちは「家族のためには自分から動くことが大切」や「気持ちがあることが大事」といった点は、ある程度理解できている様子でした。それを踏まえると、あの場面で私があえてクロージングとして話さなくてもよかったのかもしれませんね。
後編では、柿原主任教諭に道徳の授業の変化や評価、道徳を専門にするようになったきっかけなどについて伺います。
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柿原 健吾(かきはら けんご)
初任校であった東京都青梅市の小学校で道徳科の専門性を高めたいと考え、東京教師道場で道徳を専門的に学ぶ。2022年4月には大島町の小学校へ赴任。2025年に東京本土へ戻り、現在は昭島市の小学校に勤務する。道徳科の授業づくりに継続して取り組んでいる。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
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