2026.07.25
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高校生がAIと挑んだ、 サステナビリティ探究の1日 AI Sustainability Camp 2026リポート

答えを速く出すことよりも、何を問うかを自分で決める――。2026年7月4日、立命館大学 大阪いばらきキャンパスで開かれた高校生向けイベント「AI Sustainability Camp 2026」は、AIとともに歩む時代に若者が磨くべき力の輪郭を、鮮やかに描き出す一日となった。主催は株式会社セールスフォース・ジャパン(Salesforce)と未来教育株式会社(MIRAIE)。立命館大学バイオ炭研究センターが共催に加わり、AIとサステナビリティ(持続可能性)というテーマについて、高校生たちが講演・ワークショップ・発表を通じて学ぶ1日となった。

なぜ今、高校生が「AI×サステナビリティ」を学ぶのか

社会課題を発掘し、解決のアイデアを練り上げる会場の参加者

高校生にとって、AIも気候変動も"遠い話"ではない。サイバーエージェントが2026年に発表した調査結果によると、AIの利用経験率は高校生の83.5%となっており、またモバイル社会研究所の調査では、AIについて「積極的に調べた」割合や認知率は、高校生が最も高い水準で38%という回答だった。

高校生は気候変動への関心も高い。旭硝子財団の環境危機意識調査は、探究学習を通じて環境を学ぶ機会が増えたことを受け、2020年の開始以来はじめて高校生世代を調査対象に加えた。同調査で「危機的だと思う問題」の1位は6年連続で気候変動。熱中症アラートで部活動が中止になるなど、肌感覚として温暖化を感じる世代であることが、意識を行動へと結びつけていると分析されている。

さらに国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力需要が2030年までに2倍超に膨らみ、その規模は現在の日本一国の総電力消費量に匹敵すると予測する。とりわけAIに最適化されたデータセンターの需要は、今後4倍以上に増える見通しだ。

AIを当たり前に使う世代が、その便利さの裏にあるエネルギーや水の消費を知り、「質の高い問いかけ」で無駄を減らすことは、高校生が今後生きる社会の課題そのものといえる。

企業と大学が連携してこうした場をつくる意味は大きい。Salesforceは1999年の創業以来、「ビジネスは社会を変えるための最良プラットフォーム」という信念のもと、社会貢献の「1-1-1モデル」を通じて、製品の1%、株式の1%、従業員の就業時間の1%を社会に還元して社会貢献や環境への貢献を重んじてきた。今回のAI Sustainability Campには2025年度の「SDGs QUESTみらい甲子園関西エリア大会」で「Salesforce賞」を受賞した滋賀県立虎姫高等学校と、会場・オンライン合わせて計18チームの高校生が集まり、AIの社会普及と気候変動という2つのテーマに向き合うこととなった。

AI時代と未来を理解するための特別講演

セールスフォース・ジャパン 取締役 副社長 公共事業統括 兼 ビジネスオペレーション統括の伊藤 孝

冒頭、セールスフォース・ジャパン 取締役副社長 公共事業統括 兼 ビジネスオペレーション統括の伊藤孝氏が挨拶に立ち、AIの進化の速さに触れた。「ここ1年の技術の進化はすさまじく、3年後、5年後には今の私たちが想像できないことが起きている可能性があります。スマートフォンの登場を誰も予想できなかったように、AIはさらに速く社会を変えていくでしょう。AIは、ITに必ずしも詳しくない人でも、有効活用することで『こういうことをやりたい』という思いを形にできます。その変革の真っ只中にいる高校生は、まさに無限の可能性があります」と高校生にエールを送った。

立命館大学教授の依田祐一氏(経営学部長/日本バイオ炭研究センター長)

続く特別講演「カーボン・マイナスのビジネスエコシステムが創る循環型社会」では、共催校である立命館大学の依田祐一氏(経営学部長/日本バイオ炭研究センター長)が「カーボンマイナス」という考え方を解説した。

依田氏が強調したのは、CO2の「削減」と「除去」の違いだ。「CO2排出の性能を半分にしても、残り50%は排出され続け、地球は温まり続ける。そうではなく、地球そのものを冷やしていかなければならない。それがカーボンマイナスです」と話す。

依田氏は、植物由来のバイオマスを炭化した「バイオ炭」を農地などに埋めて炭素を長期間閉じ込め、その削減量を「カーボンクレジット」として企業がオフセット購入するという脱炭素の新しいエコシステムを提唱している。このバイオ炭で育てたお米や山梨のワインも開発されており、これまでは「おいしい」が価値だった農作物に、「環境にも良い」という新たな付加価値を作っていく取組を進めている。

質疑応答では、生徒から「環境価値と品質のバランスはどう取るのか」という問いが投げかけられた。依田氏は「どちらかに偏ってもいけない。生活者には感じ取りにくいところを、バランスを取りながら工夫していくのが面白い」と応答。大学でのAI活用については、学びの本質を損なわないためにAIの推奨利用レベルを4段階に分けている取組を紹介し、「わかりにくい論文はAIに高校生向けに要約してもらうといい」と、実践的な使い方も助言した。

AIが人手不足を解消する未来に人間が備えるべきスキルとは

フューチャリスト(未来予測士)の友村晋氏

講演の後半には、フューチャリスト(未来予測士)の友村晋氏が「未来のビジネススキル」をテーマに登壇した。信条は「現地主義」。「メディアの情報を信じていない。だから自分で時間とお金を使って、現地へ体験しに行く」と語る友村氏は、米テキサスの3Dプリンター住宅や、中国の人型ロボット、ハンドルもブレーキもないテスラの自動運転車など、自ら見てきた変化を次々と紹介。「AIと物理的なロボットが、皆さんが社会に出る頃には人手不足を一気に解消する」と予測している。

その一方、友村氏は日本への危機感もにじませる。日本の社会人の継続学習がアジア主要国と比べて際立って低い現状に触れ、「大学までは必死に勉強するのに、社会人になると新しい学びを止めてしまう」と指摘。「変化の早い時代は常に勉強する姿勢が大切」という点を強調しつつ、高校生がこれからの時代を生き抜くために必要な2つの力を示す。

1つは「自分の意見を持つこと」。AIの普及で人も"コモディティ化"していくなか、「あなたは何が違うのか」を示せる人が選ばれる。

もう1つは「レジリエンス(失敗から立ち直る力)」だ。「AIが何でも答えてくれる時代に、人間に残されるのは、現地に行って泥臭く情報を集めること。だから今のうちに、できるだけ苦労して、失敗して、恥をかいておいてほしい」と友村氏は言う。「AIに仕事を奪われそうで、まだ将来の夢を決められない」と悩む高校2年生には、「『社会から求められる』からではなく、『好き』と『得意』から入ってほしい」と答え、行動と挑戦を促した。

AIの「環境負荷」を知る——エシカルなAIの使い方

左からSalesforceのサステナビリティプログラム マネージャー磯杏奈、一般社団法人未来共創イノベーション代表理事の松谷真弓氏

後半からは、参加したチーム単位でAIを活用して社会課題の発掘と解決のアイデアを練り上げるワークショップがスタート。ワークショップ開始に当たり、セールスフォース・ジャパンのサステナビリティプログラム マネージャー磯杏奈氏が、地球温暖化の観点からAIそのものが抱える「隠れた環境コスト」を解説した。

まず示されたのは「SDGsウェディングケーキモデル」だ。SDGsの17の目標が土台にしているのは、「生物圏(自然環境)」だ。「豊かな自然環境があってはじめて、豊かな社会も持続可能な経済も成り立つ」ということを解説した。

続いて磯氏は、20世紀の気温の急上昇を表す「ホッケースティック曲線」を提示。産業革命以降の急上昇は、自然要因だけでは説明できず、「化石燃料の燃焼など人為的な要因を加えて初めて説明がつきます」(磯氏)と述べる。そして日本人の1人当たり温室効果ガス排出量は世界平均の約2倍で、アフリカ50カ国の合計とほぼ同水準にあたるというデータも紹介。地産地消や地元での購入といった身近な行動に触れつつ、「エシカル=倫理的」な視点の大切さを伝えた。

実はAIも、利用に当たっては膨大な電力を要することが懸念されている。磯氏によると、平均的な画像AIモデルで画像を1枚作成するのに必要な電力は、スマートフォン充電のおよそ50〜80%分の電力だという。これには多くの生徒が、便利なAIの裏にある電力や水の消費を実感した様子だった。

最後に磯氏は持続可能なAI活用の2つのコツを紹介。1つは、目的や背景を添えて具体的に依頼する「質の高い問いかけ」をすること。もう1つは、AIが答えに迷ってぐるぐると回り続けているときに停止して依頼し直す「質の悪い応答の中断」だ。AIを"答えを出す道具"ではなく"探究を深める相棒"として使う。

そんな前提を共有した上で、高校生たちは、MIRAIEが開発した探究学習を支援するAIプラットフォーム「FUTURE COMPASS」を使い、「いま最も気になる社会課題」を探しはじめた。

正解のない問いを立て、アイデアを練り上げるという挑戦に挑む高校生たち

ワークショップで発表する会場の参加者

ワークショップは、会場・オンライン合わせて計18チームが、 メインファシリテーターの松谷真弓氏(一般社団法人未来共創イノベーション代表理事)や立命館大学の学生ファシリテーターらのサポートのもとで参加。FUTURE COMPASSを活用して課題の探究と解決アイデアのブラッシュアップを行い、それぞれ約1分でその成果を披露した。

トップバッターの大阪府立富田林高等学校のチームは、建設ラッシュで出た廃棄材をバイオ炭に変え、その芯を持つ鉛筆をつくって途上国の学校へ届ける案を提案。「環境保護」と「教育支援」を1本の鉛筆に込めた。兵庫県立明石南高校のチームは、飲食店のアルバイトで見た食品ロスに着目し、データを活用して需要に合わせ提供量を調整する仕組みを描いた。別のチームは、少年漫画を「アクション漫画」、少女漫画を「ロマンス漫画」と呼び替えてエンタメジャンルの名称を見直し、少年漫画家=男性、少女漫画家=女性という職業における性別の偏見に切り込んだ。

テクノロジーに踏み込んだ提案もあった。金沢大学人間社会学域学校教育学付属高等学校のチームは、AIそのものの消費電力に注目し、短く簡単な応答なら小型のLLMを活用するなど、用途に応じてAIのモデルを使い分けることで大幅に電力を抑えられる可能性を示した。ワークショップで学んだ「AIの環境負荷」を、そのまま自分たちのテーマに昇華させた形だ。

さいたま市立大宮国際中等教育学校のチームは学校給食の食べ残しに着目し、余りを牛の飼料に回す案を提示。また、埼玉県の私立昌平高等学校・HIY sin’チームは、平時も災害時も使える「事前復興アプリ」を、サレジアン国際学園の複数チームはAIによる個別最適化学習で教育格差の解消を提案するなど、視線は社会の隅々にまで及んだ。

表彰式——評価軸はAIにない「熱量」

Salesforceが贈る「AIキャンプグランプリ」賞を受賞した地元・滋賀県立虎姫高等学校 新聞部Aチーム

締めくくりの表彰式では、3つの賞が贈られた。「サステナビリティ賞」は、事前復興を支えるアプリのアイデアを示した昌平高校のHIY sin’チームへ贈られた。選考した依田氏は、「平時にアプリを共有して地域のデータを集め、いざという有事にみんなで災害に耐える。その"平時と有事の連携"がサステナブルだと感じた」と理由を語った。

友村氏が選ぶ「フューチャリスト賞」は、日本の自然環境に脅威をもたらす外来種の繁殖防止に向け、ペットの安易な遺棄を防ぐことを提案したオンライン参加の駒場学園高等学校のMedia clashチームへ。審査員は「アイデアも解決策も課題の発見も、どれもすごい。だから途中で判断基準を変えた」と明かし、AIで解決策づくりがうまくできる時代だからこそ、話すときの"熱量"を評価したと述べた。

そしてSalesforceが選ぶ「AIキャンプグランプリ賞」に輝いたのは、滋賀県立虎姫高等学校 新聞部Aチーム。担い手不足に悩む林業にAIロボットを活用し、森林保全と林業活性化を解決するというテーマが、社会実装への期待とともに評価された。

AIに任せられない、「クエスチョンデザイン」という力

表彰式後の記念撮影

講評に当たっては、MIRAIE 代表取締役 水野雅弘氏から「正解を出すのは、これからますますAIが得意になっていく。だからこそ人間に求められるのは、正解のない問題に自分で問いを立て、その解決に向かっていく力です」という一言があった。今回、参加者が活用したFUTURE COMPASSは、課題の発見に時間がかかる生徒たちを数多く見てきた経験から生まれたもので、「調べて終わりにするのではなく、自分で課題を見つけ、現場で確かめ、行動し、思いを込めて人に伝えるという一連の"クエスチョンデザイン"こそが、これからの必須スキルになる」という思いから開発したという。

講演で未来を知り、ワークショップで問いを立て、発表で言葉にする。参加した高校生たちからは「自分では思い付かないようなアイデアの糸口が見つかった」という手応えや、「難しい社会課題であっても、AIをうまく組み合わせることでスピード感を持って解決策を見出していくプロセスにワクワクした」という感動の声が寄せられた。さらに、単なる作業の効率化やアイデア出しのツールにとどまらず、これからの人間とテクノロジーの関わり方に一歩踏み込んだ頼もしい意見も見られた。

「AIは既存の情報を編集してくれる。これからの社会問題はAIを用いながら、人間が賢く活用して考え、人間が行動を起こすことが大切だと考えた。」
「AIに頼り切るのではなく、提示されたヒントをもとに自分たちの手で具体的な行動を起こしていくことこそが、本当の解決につながると感じました。」

高校生たちがAIとともに過ごした一日は、答えを出す速さではなく、"何を問うか"を自分で決める力こそが次の時代の武器になることを、静かに指し示していた。AIを「答えを出す道具」ではなく「探究を深める伴走者」として使いこなす――その学びは、これからの探究学習のあり方そのものを問い直している。

取材・文・写真:セールスフォース・ジャパン提供

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