理系転換・拡充に向けた国の支援と大学の取組 New Education Expo 2026 リポート vol.9

未来の教育を考えるNew Education Expo 2026東京。最終回となるvol.9では、理系転換・拡充を成功させる大学経営について考えるセミナーの模様をリポートする。AIの進展や脱炭素の潮流、労働人口の減少などを背景に理系人材の育成は重要性を増し、18歳人口の減少で経営の岐路に立つ大学にとっても理系分野への転換・拡充は急務となっている。本セミナーでは最近の政策動向や、それを踏まえた大学の取組が紹介された。
理系転換・拡充を成功させる大学経営 〜政策動向から逆算する改革ロードマップ〜
文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官 星 幹崇 氏
中央大学 学長 河合 久 氏
学校法人立命館 副総長 高山 茂 氏
成長分野転換基金(大学・高専機能強化支援事業)とは?

文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官 星 幹崇 氏
まず文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官の星幹崇氏が、同省による理系人材育成の取組について説明した。
デジタル・グリーンなどの成長分野を担うのは理系人材だが、日本は諸外国に比べて理系を専攻する学生の割合が少ない。そこで、文部科学省は「理系分野を専攻する学生の割合を50%程度に増やす」という政府目標を踏まえ、デジタル・グリーンなどの成長分野で活躍する高度専門人材の育成に向けて「成長分野転換基金」を創設。大学・高専の学部転換などの取組を支援する「大学・高専機能強化支援事業」を2023年に開始した。
2026年に4回目の公募を迎えた本事業は、第3回までに計261件を選定、約2.2万人の理系定員増に貢献してきたが、星氏はさらなる課題を口にする。
「この間にも人口減少は進み、2040年には18歳人口が現在の3割減の74万人になると試算されています。大学進学者の減少で大学の経営状況は厳しさを増すとともに、生産年齢人口減による働き手不足により、社会や産業の構造にも大きな変化が見込まれます。一方、理系人材を輩出する理系学部の定員は未だ少なく、このままでは、理工・デジタル系人材が不足する一方で事務職の余剰が生じる『職業間・学歴間のミスマッチ』が拡大するとともに、地域から都市への学生の流出が続けば、これまで以上に地域社会・産業を支える人材確保が困難になる可能性があります。」
この事業には以下の2つの支援がある。
支援1 :学部再編等による特定成長分野(デジタル・グリーン等)への転換等
公立・私立の大学の学部・学科(理工農の学位分野)を対象に学部再編などにかかる経費を補助。
2026年度に従来の「成長分野転換枠」に加えて、大都市を含む大学の理系分野への学部再編などを対象にした「大規模文理横断転換枠」を新設。
支援2 :高度情報専門人材の確保に向けた機能強化
国公私立の大学(情報系分野。大学院段階の取組を必須)・高専を対象とし、大学の学部・研究科の定員増などに伴う体制強化や高専の学科・コースの新設・拡充にかかる経費を補助。
2026年度に従来の「高度情報専門人材育成枠」に加えて、AI、半導体、量子などの重点分野を支援する「重点分野支援枠」を新設。
新設された「大規模文理横断転換枠」に注目すると、1つの大学・学部で2つの専攻を同時に学ぶダブルメジャーなどの高度な文理融合教育の実施も支援対象となる。従来枠に比べて支援の上限額が20億円から40億円に引き上げられるとともに、新設学部の教員人件費など支援対象経費の追加も行われている。ただし、支援を受けるには理系学部の定員増と同数以上の文系学部の定員減を行うなど一定の要件を満たすことが求められる。このほか、文部科学省に設置する「成長分野転換支援委員会」が申請の前段階から各大学の構想の熟度と実現可能性を高める目的で伴走支援をするという新たな試みも取り入れられている。
「大規模文理横断転換枠と重点分野支援枠については、2026年度内に改めて公募選定を行う予定です。ぜひこの基金の活用をご検討ください。」と星氏は呼びかけた。
中央大学
理工学部を3学部に改組、スポーツ情報学部と情報農学部を開設予定

中央大学 学長 河合 久 氏
続いて、中央大学学長の河合久氏が同大における理系転換・拡充の取組や課題について語った。
1885年に創立した中央大学は1920年に大学令認可により法学部、経済学部、商学部を開設して以降、 理工学部、文学部、総合政策学部、国際経営学部、国際情報学部と、文系分野を中軸に学部を増やし、理系分野、文理融合分野の教育組織を併設した総合大学として発展してきた。
2026年度には理工学部を改組し、基幹理工学部、社会理工学部、先進理工学部の3学部を開設。2027年度は文理横断・融合型カリキュラムを特徴とするスポーツ情報学部(仮称)の開設を予定し、2028年度の情報農学部(仮称)開設も構想中だ。
こうした理系転換・拡充は、2015年度策定の中長期事業計画に基づいて行われている。法学部のキャンパス移転による空きスペースを新学部設置に活用するという方針を2022年度に定め、スポーツ情報学部と情報農学部の構想がまとめられた。両学部は先述の大学・高専機能強化支援事業(支援1)に選定され、2027年度の開設を目指したが、情報農学部は実習用の農地の確保などで想定外の課題にぶつかり、開設の1年延期という計画変更を余儀なくされた。
「情報農学部の開設には、教育課程や担当教員などの無形有形の教育リソース、教育研究の実施運営に必要な財源や施設設備などの有形リソースに加えて、農地の取得が必要です。そこで学内の関連部署が準備を進めましたが、研究教育上の理想と学内資源上の制約との調整、農地の取得に必要な対外折衝、教室・実験施設を新築するか改修するかの判断といった複合的な難しい問題に直面しました。さらに工期の長期化やコスト増などの外部要因も加わり、 設置予定年度を延期しましたが、現在は2026年度中の認可申請を目指しています。」と抱負を述べた。
スポーツ情報学部と情報農学部が順当に新設されると、中央大学の理系学部学生数比率は現在の19%から26%に増大する。2026年度からの中長期事業計画にも理系転換・拡充に向けた計画が盛り込まれている。
「本学が仮に大規模文理横断転換枠の適用を望む場合、申請時期から逆算すると、事前検討から開設までの準備に1〜4年を要します。理系転換・拡充にあたり文系学部の定員削減が必須となるため複数の学部での検討が必要ですし、新たな学部を設置するキャンパスの選定や、東京23区の大学の定員増を抑制する国の規制など、乗り越えなければならないハードルは多々あります。成功の鍵は設置計画の精度を短期間でいかに高められるかだと考えています。」との認識を示した。
立命館大学
宇宙地球フロンティア研究科(仮称)などを開設し、「次世代研究大学」への転換を目指す

学校法人立命館 副総長 高山 茂 氏
立命館大学は、小中高大院の一貫教育に取り組む立命館学園の中核を担う私立総合大学。学校法人立命館 副総長の高山茂氏が登壇し、同学の理系転換・拡充について説明した。
立命館大学は2020年度までの中長期計画において、グローバル化を基軸として新学部・研究科の新設や研究の学際化などに取り組んできた。その実績と大学を取り巻く社会環境の変化を踏まえ、2030年度までの中長期計画では、従来の教育重視型大学から研究力向上と社会的価値創出を両輪とする「次世代研究大学」への転換を標榜。グローバルな研究ネットワークの拡大、学部研究科の連携、大学以外の多彩なアクターとの協働に向けたオープンイノベーションのプラットフォーム構築などに取り組んでいる。この次世代研究大学への転換を図るにあたっては、「教職員から学生・大学院生までの全員がその必要性とゴールに至るプロセスや課題を共有すること、各学部・部局が創意工夫して自主的に取り組めるような仕組みをつくること」を徹底したという。
近年の政策動向との関連をみると、立命館大学が目指す次世代研究大学は、政府が第7期科学技術・イノベーション(STI)基本計画に示した「研究大学群の形成」につながる。また、成長分野の人材育成に関する国の政策とも連動し、小中高大院一貫教育による縦の連携や文理横断教育、STEAM教育の推進にも力を入れている。
なお、2015年度から2025年度までの同学の学部入学定員数は、1,000名ほど増えて約8,000名となり、在籍者数は1500名ほど増えて約35,000名となっている。 このうち理工系4学部の定員は2000名程度で、 2025年度では4分の1を占める。また、2030年に向けて大学院の規模拡大を目標としており、 2028年度に開設予定の宇宙地球フロンティア研究科(仮称)がその多くを担う。宇宙と地球を横断し、探査・開発・データ活用を通じて社会課題の解決に挑む大学院で、宇宙関係の大学院では国内最大規模だという。
「日本の課題は、社会価値を創出するイノベーションを巻き起こすプロセスでの要素が不足していること。 文理の知見や技術を個別の要素として扱うのではなく、双方を融合させ学際化することが必要です」と高山氏。「今後は総合大学の強みを生かし、文系への理系的な素養の追加だけでなく理系への文系的な素養の追加も行っていきます。また、トランスファラブルスキル(全学教育)の強化、社会共創の仕組みによる学生・院生への社会課題の多様な接点と観点の提供のほか、大学・高専機能強化支援事業ではダブルメジャーの検討に取り組んでいきます」と抱負を述べた。
記者の目
大学・高専機能強化支援事業は、理系転換を考える大学にとって大きな後押しとなる。とはいえ、中央大学の事例からわかるように、大学が支援を受けるまでに乗り越えるべき課題は少なくない。今回、新設された大規模文理横断転換枠では構想段階からの伴走支援が受けられるとのことで、大学の構想の熟度や実現可能性の向上が期待される。
取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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