AI活用の前に、教師の仕事をどう見直すか~働き方改革の視点で、「先生のため」のAI活用を考える New Education Expo 2026 リポート vol.7

教員不足や業務の多忙化が深刻化する中、校務にAIをどう活用するかへの関心が高まっている。しかし、AIに何ができるかを考える前に、まず教師の仕事そのものを見直す必要があるのではないか。 本セミナーでは、校務分掌、学校文化、教師のAI活用意識を手がかりに、教師の仕事をどう見直し、何をAIに委ねるべきかが議論された。
これからの教師の働き方を考える~校務の見直しとAI活用の整理~
名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 教授 内田 良 氏
北陸大学 高等教育推進センター 特任助教 東岡 達也 氏
鹿屋体育大学 スポーツ人文・応用社会科学系 講師 菊地原 守 氏
【コーディネータ】
北陸大学 国際コミュニケーション学部 教授 和嶋 雄一郎 氏
AIができることではなく、教師の困りごとから考える

北陸大学 国際コミュニケーション学部 教授 和嶋 雄一郎 氏
生成AIの活用では、まず「AIに何ができるか」を考え、次に「それを校務のどこに使えるか」を考える流れになりがちだ。しかし本セミナーでは、「まず教師が何に困っているのか、学校の業務はどうなっているのかを見つめ直し、そのうえでAIに何ができるのか、何のために使うのかを考えたい」と、コーディネータを務める北陸大学教授の和嶋雄一郎氏は冒頭で示した。
つまり本セミナーは、AI活用の実践紹介や導入案内ではなく、教師の働き方そのものを問い直すのが目的という意味だ。
少子化で子供も先生も減っているのに、校務は減ってない

鹿屋体育大学 スポーツ人文・応用社会科学系 講師 菊地原 守 氏
最初に登壇した鹿屋体育大学講師の菊地原守氏は、少子化社会における教師の働き方改革を、データに基づいて考察した。
週60時間以上働く教員の割合は増加傾向にあり、2017年には約3割に達していた。これは、厚生労働省が定める過労死ラインを超える水準であり、深刻な状況だと菊地原氏は指摘した。
では、忙しい教師は何に時間を取られているのか。中学校教員を対象にした分析では、忙しい教師もそうでない教師も、授業に割く時間は大きく変わらなかった。
一方で、多忙な教師ほど、生徒指導や部活動、校務分掌、事務作業に多くの時間を取られていた。教師の多忙は、授業そのものよりも、授業外の業務に起因しているのだ。

さらに菊地原氏は、ある公立工業高校の学校要覧をもとに、1995年と2025年の校務分掌の変化を比較した。生徒数は724人から361人へ、教員数は60人から38人へとほぼ半減しているにもかかわらず、学校組織や部活動、校務分掌の枠組みは大きく変わっていない。その結果、部活動顧問・副顧問の割合は68.3%から100%へ上昇し、1人あたりの平均分掌数も1.25から2.32へと増えていたという。
「この30年、学校の変わらなさが、先生たちを忙しくさせている要因ではないか。大規模な業務精選や組織改革が不可欠だ」と、菊地原氏は問題提起した。
「子供のため」という建前が 教師の負担を見えにくくする

名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 教授 内田 良 氏
続いて登壇した名古屋大学大学院教授の内田良氏は、教師の働き方改革を研究する立場から、匿名性とAIの可能性を語った。
内田氏が注目したのは、2016年頃からSNS上で広がった部活動改革の動きである。学校内で「部活動がつらい」と訴えても変わらない。ならば世論を変えようと、教員が匿名で声を上げた。その投稿がSNS上で広がり、マスコミが報じ、行政が動き、部活動改革が端緒についた。
内田氏は、学校現場には「建前」を使って問題の本質から目を背ける傾向があると指摘する。運動会を午前だけの開催にする動きも今、広がっているが、「熱中症対策」という建前で語られがちで、「教師の負担を軽減するため」とは語られにくい。「教師が苦しんでいるのにそこには触れず、”子供のため”という建前で覆い隠していたのでは、正しい対策を立てることはできない」と、内田氏は訴えた。
同様の構造は、対教師暴力やいじめ対応にもある。いじめ加害者への出席停止はほとんど行われていないが、匿名調査では中学校教員の約半数、小学校教員の約3割が、いじめ加害者を出席停止にすべきだと答えたという。「教師の立場で、教師のために発言していかなくては、社会は変わらない」と、内田氏は強調した。
その代弁者になり得るものとして、内田氏はAIに期待を寄せる。AIは空気を読まない。体面を気にせず、教師のために、時には組織が言いにくい正解を発することができる。学校のリスクや教師の負担を可視化するうえで、AIが新たな役割を持ち得るのではないかと語った。
教師はAIに何を任せたいのか

北陸大学 高等教育推進センター 特任助教 東岡 達也 氏
北陸大学特任助教の東岡達也氏は、教師が生成AIに何を任せたいと考えているのかを、業務の性質に着目して調査した。
東岡氏らは、教員32名を対象に、AI活用に関する調査を行った。44項目の業務一つひとつについて、AIに「代わりに行ってほしい」「サポートしてほしい」「自身で行いたい」かを尋ねたのだ。
その結果はとても興味深いものになった。全体としては、「どこかでAIを使いたい」という回答が多かったのだが、業務別に見ると傾向がハッキリ分かれたのだ。
サポートしてほしい業務として多かったのは、運動会・文化祭の準備、校内研修の準備、授業準備などだった。AIに代替してほしい業務では、職員会議の議事録作成、費用処理、調査・統計への回答、業務日誌など、記録・処理・報告に関わる業務が上位に並んだ。一方で、自身で行いたい業務として突出していたのが授業実施であった。保護者対応や生活指導・生徒指導など、人と人が直接関わる業務にも、AIに任せることへの慎重さが見られた。

さらに東岡氏が教員への聞き取り調査を行ったところ、必ずしも「より良い教育」のためだけにAIを使いたいわけではなく、「人手が足りず、仕事量が多すぎるから、AIに助けてほしい」という切実な声が浮かび上がった。ところが「多忙だからAIを使いたいのに、多忙すぎてAIの使い方を学ぶ時間がないというジレンマも起きている」と、東岡氏は指摘した。
一方で東岡氏は、AIが公平性や正確性を高める可能性も言及した。進路指導や採点など、教師個人の経験や感情によって判断が揺れやすい場面でも、AIならば一定の基準に基づいて客観的に公平に対応できるのではないかと、東岡氏は期待を寄せた。
東岡氏は最後に、「どの業務の、どの部分に、何のためにAIを使うのかという視点が大事だ」と強調した。
AIは「先生のため」に使うべき

後半のパネルディスカッションでは、教師の仕事は本当に教師が担うべきなのか、そしてAIは何のために使うべきなのかが議論された。
まず話題になったのは、保護者対応についてだ。東岡氏は、保護者対応は言葉選びや安心感が重要で、現時点ではAIに任せにくい側面があると述べた。
一方、内田氏は、むしろ保護者対応こそAIに任せるべきではないかと語った。教師も校長も教育委員会も、保護者に率直な意見を言いにくい。だからこそ、空気を読まないAIが担える役割があるのではないかと、指摘した。
それに対し、菊地原氏は「保護者対応にも種類がある」と整理した。子供同士のトラブルを共有し、再発を防ぐための対応は教師の仕事だろう。一方で、クレーム対応が教師を追い詰めている現実もある。その場合はAIだけでなく、スクールロイヤーなど外部人材の活用も含めて考える必要があると述べた。
和嶋氏は、保護者対応一つとってもその中に多様な業務が含まれていることからわかるように、学校の業務は十分に整理されていないと指摘し、「まずは多様な業務を分解して可視化してから、どこをAIに任せるかを考えるべき」と語った。
議論はやがて、「何のためにAIを使うのか」という問いへ移った。
菊地原氏は、生成AIは教師の専門性を奪うものではなく、教師が専門性を発揮するためのエージェントであるべきだと述べた。主体はあくまで教師であり、AIはその支援者であるという位置づけだ。
内田氏は、「企業が働き方改革をするのは、顧客のためではなく従業員のため。そこをずらしてはいけない」と強調した。教育の質を高めるためにAIを使うことはもちろん重要だ。しかし、それだけではなく、教師を苦しめる負担やリスク、マイナスを減らし、教師を助けるためにAIを使うという視点が必要だと内田氏は訴えた。
和嶋氏も、「子供のため」と建前を唱えて、教師自身のためだと胸を張って言えないのは、「認知的不協和」の状態だと指摘。これでは、本質的な問題を解決できないと危機感を示し、「先生のためにAIを使う、という発想が必要だ」と述べた。
菊地原氏は、「学校も教師も、働き方改革のためにすでに多くの努力をしてきた。それでもなお忙しさが残っている以上、教育委員会、国、研究者、企業など、改革の担い手を広げる必要がある」と訴えかけた。
最後に和嶋氏は、学校現場、自治体、研究者が連携しながら、学校や自治体の特性に応じたAI活用を考える必要性を訴えた。「評判の良いAI活用法をそのまま真似るのではなく、それぞれの現場に合った『個別最適化』された活用をしてこそ、AIは効果を発揮する。そのためのお手伝いをしていきたい」と、このセミナーを締めくくった。
記者の目
校務でAIを活用するには、どのAIを使い、どの校務に当てはめればよいのか。そんな実践的な事例が語られるものと想像していたが、本セミナーの議論はもっと根本的な、「働き方改革」に迫る内容だった。
AIを導入する前に、まずは教師の仕事を細かく整理し、何をAIに任せ、何を人の手に残すのかを考えなければならない。そのうえで、困っている先生を助けるために、AIを使う。その真っ直ぐな訴えは、聴講していた先生方の共感を呼んだようで、時には大きくうなずき、時には大きくどよめきながら、聞き入っていた。
取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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