「学びの多様化学校」は、これからの学校教育をどう変えるのか。 New Education Expo 2026 リポート vol.5

不登校児童生徒数が過去最多を更新する中、令和5年度に「不登校特例校」から名称変更された「学びの多様化学校」への関心が高まっている。学びの多様化学校とは、不登校児童生徒の実態に配慮し、特別の教育課程を編成して実施できる学校のことだ。本セミナーでは、国の政策動向、学びの多様化学校の意義、公立校・民間校の実践レポート、そしてこれからの学校教育像が語られた。
学びの多様化学校の現在と不登校児童生徒支援の取り組み
文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課 生徒指導室 室長 総崎由希氏
基礎教育保障学会 会長/文部科学省 学びの多様化マイスター 岡田敏之氏
三重県立みえ四葉ヶ咲中学校校長 前田亜弓氏
学校法人国際学園(星槎グループ)理事/文部科学省学びの多様化マイスター 蓮田亮大氏
不登校支援は「登校させること」のみを目標としない

文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課 生徒指導室 室長 総崎由希氏
最初に登壇した文部科学省初等中等教育局児童生徒課生徒指導室室長の総崎由希氏は、不登校児童生徒支援をめぐる現状を報告した。令和6年度の小・中学校における不登校児童生徒数は約35万4千人と過去最多を更新した一方で、対前年度の増加率は鈍化し、小・中学校合計の新規不登校児童生徒数は9年ぶりに減少したという。
総崎氏は、不登校支援の国の基本姿勢として、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、「児童生徒が自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立することを目指す」のだと強調した。
文部科学省は令和5年3月、不登校により学びにアクセスできない子供をゼロにすることを目指して「COCOLOプラン」を策定した。そして、プランの3本の柱として、学びたいと思った時に学べる環境を整えること、心の小さなSOSを見逃さず「チーム学校」で支援すること、学校の風土を見える化して、みんなが安心して学べる場所にすることを挙げている。
学びたいと思ったときに学べるように、国は多様な学びの場の整備を進めている。その一つが、本セミナーのテーマである「学びの多様化学校」だ。令和8年度には全国84校に広がっており、総崎氏は「文部科学省は令和9年度末までに全都道府県・政令指定都市への設置を目指している」と説明した。
さらに総崎氏は、「学びの多様化学校での取組やノウハウを、通常の学校にも広げていくことを、国も後押ししていきたい」と語った。その上で、不登校の子供一人一人に合わせた特別な教育課程を編成できる新しい仕組みの議論が進んでいることを紹介したほか、次期学習指導要領において「発達支持的生徒指導」(すべての児童生徒が自発的・主体的に自らを成長・発達させていく過程を教職員が支援するとの考え方)を明記することが検討されていると説明した。
何のために「学びの多様化学校」を創るのか

基礎教育保障学会 会長/文部科学省 学びの多様化マイスター 岡田敏之氏
続いて、基礎教育保障学会会長で、文部科学省学びの多様化マイスターを務める岡田敏之氏が登壇した。岡田氏は、各自治体から学びの多様化学校の設置に関する相談を受ける中で、まず「何のために学びの多様化学校を創るのか」と問いかけているという。
学びの多様化学校の役割について、岡田氏は、「これまでの学校の枠組みでは学びづらさを抱えていた子供たちに、学び直しと成長の機会を保障することだ」と説明し、「登校させることを目的にするのではなく、どうすれば学べるかを考えてほしい」と求めた。
「学びの多様化学校という箱物をつくって、不登校の子供をそこに移して学ばせればよいのか」とも、岡田氏は問いかけた。学びの多様化学校は、通常の学校になじめない子供を切り分けるための場ではない。むしろ、学校教育そのもののあり方を問い直す場である。
岡田氏は、現在の学校教育が、一斉授業、共通教材、同質性の高い学年・学級制、与えられた問いの答えを学ぶ形になりがちであることを指摘し、こうした効率性を重視した仕組みが、結果として同調圧力を生み、子供たちの居場所を狭めてきた面もあるのではないかと指摘した。居場所づくりの目的は、子供を社会に適応させることではなく、「そのままでいい、と子供のありのままの姿を受け止め、自己肯定感と意欲を育てることが、学びの原動力になっていく」と呼びかけた。
そのためには、学ぶ場所、時間、方法、評価を多様化する必要がある。学校の仕組みに子供を合わせるのではなく、子供の学びに学校を合わせる。教員の役割も、教える人から伴走する人へと変わっていく必要があると岡田氏は述べ、その好例として三重県立みえ四葉ヶ咲中学校を紹介した。
「生徒に学校を合わせてみた」
学びの多様化学校の現場から

三重県立みえ四葉ヶ咲中学校 校長 前田亜弓氏
「教室に入れなくて、ごめんなさい」。三重県立みえ四葉ヶ咲中学校校長の前田亜弓氏は、生徒たちが口にするこの言葉から、学校の当たり前を問い直したと振り返った。なぜ、教室に入れないことを謝らなければならないのか。前田氏はそのたびに、「謝らなくていいよ」と伝えてきたという。
同校は、夜間中学と学びの多様化学校を併設した、開校2年目の公立中学校だ。前田氏は「生徒を学校に合わせるのではなく、学校が生徒に合わせる」ことに挑戦していると説明した。学校が「生徒のため」と考えてきた仕組みの中にも、実は大人が運営しやすいように作られてきたものがあるのではないか。そこを問い直すことから、同校の学校づくりは始まった。
「子供たちは誰もが、学びたいと強く願っている。でも、これまでの学校教育への不信や不安も強い」と、前田氏は語った。学校に行きたい、友達がほしい、勉強ができるようになりたいと願う一方で、画一的な授業の息苦しさが頭から離れず、また休んでしまうのではないか、家族を悲しませるのではないかという不安を抱えている。
そこで同校では、子供たちが「安心感」を持てることを重視している。「まず、この大人は大丈夫と思ってもらわないと、何も始まらない」と前田氏は話す。心理的安全性は、学びの土台なのだ。
そのために同校では、校則や制服を設けず、いつ、どこで、誰と学ぶかは、担任などと相談しながら生徒自身が計画する。教育課程にも特徴がある。学ぶ教科や場所を自分で決めて複数の担任に支援されながら学ぶ「ベーシックアワー」や、全校生徒が協働しながらテーマ別に探究する「ワールドスタディタイム」などが設けられている。
夜間中学を併設しているのも大きな特徴だ。ここでは13歳から89歳までの生徒が学び、外国籍の生徒も通っている。夜間中学の生徒と、学びの多様化学校の生徒がともに学ぶカリキュラムで「多様な人たちと交流し、ともに学ぶことで、多様な価値観や人生観にふれ、子供たちの社会性が育まれていく」と、前田氏は述べた。
生徒たちも「ここに来てよかった」「自信がついてきた」と喜んでおり、実に97.1%の生徒が「ここでもっと学び続けたい」と答えているという。
他者と比較せず、自分の「変化値」を見る
歴史ある学びの多様化学校の現在地

学校法人国際学園(星槎グループ)理事/文部科学省 学びの多様化マイスター 蓮田亮大氏
学校法人国際学園(星槎グループ)理事で、文部科学省学びの多様化マイスターの蓮田亮大氏は、個に寄り添う星槎の教育を紹介した。
星槎中学校の前身は、2000年に開設された小さなフリースクールである。その後、文部科学省の不登校特例校を経て、現在は学びの多様化学校として運営されている。横浜にある星槎中学校は、実に448名の生徒が在籍する、大規模な学びの多様化学校だ。
蓮田氏は、同校に在籍する子供たちの言葉として、「自分らしくと言いながら、みんな同じ自分らしさを求められている」「学校に行くと、少しずつ蓋をされている感じがする」という切実な声を紹介した。
そこで星槎が重視しているのが、「変化値」だ。これは、他者と比較する「偏差値」と異なり、過去の自分と比べて成長や変化を測る指標だ。学びにくさを抱えてきた子供にとって、まず必要なのは、他者と比べることではなく、自分の中でどれだけ前に進んだかを実感することだと、蓮田氏は説明した。
星槎では、すべての生徒に個別の指導計画であるIEP(Individualized Education Program)を作成している。帰りの会では生徒自身がリフレクションを行い、先生や級友との対話を通して、自分の変化を見つめている。また、学校での小さな変化や成長は、すぐに保護者へ連絡し、共有している。不登校の子供を支えるには、保護者の自信回復も大切だからだ。
「大人の中にある『普通はこうだ』という固定観念が、子供の自己効力感を失わせているのではないか。この蓋を外すことが大切だ」と、蓮田氏は発表を締めくくった。
学びの多様化学校の実践を、すべての学校へ

最後に、パネルディスカッションが行われた。総崎氏は、次期学習指導要領の重要なキーワードの一つが「多様性の包摂」だと紹介し、「不登校の子供だけでなく、すべての子供が学びやすいように、学校を柔らかくしていこうと議論されている」と語った。
蓮田氏は、「子供たちはかわいそうな存在ではなく、ただ蓋をされていただけ」と指摘し、「蓋を取ることができれば、子供たちが自力で漕ぎ出すきっかけになる」と訴えかけた。
前田氏は、「これまでの学校は多様性が大事だと言いながら、多様性を十分に大事にしてこなかったのではないか」と振り返り、学校教育を見直す必要性を示した。
最後に岡田氏は、「学びの多様化学校は、一部の子供のための特別な学校ではない。すべての学校がよくなるための実践拠点なのだ」と、議論を締めくくった。
記者の目
会場はほぼ満席で、学びの多様化学校への関心の高さがうかがえた。印象的だったのは、学びの多様化学校の実践が、一部の子供のための「特別な場」の話にとどまらず、通常の学校の在り方を問い直す視点として語られていたことだ。
次期学習指導要領で「多様性の包摂」が重要になる中、子供一人ひとりをどう受け止め、どう伸ばすか。学びの多様化学校の理念や実践は、今後、すべての学校に求められる視点になるだろう。
取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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