2026.07.17
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きゅうしょくがみんなのおなかにとどくまで 【食と感謝】[小学1年生・学級活動(2)]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第231回目の単元は「きゅうしょくがみんなのおなかにとどくまで」です。兵庫県加古川市立尾上小学校の1年生が、毎日の給食を支える人たちの思いを知り、自分たちにできることを考えました。

授業情報 

テーマ:食と感謝
教科:学級活動(2)
学年:小学校1年生

実践の概要

兵庫県加古川市立尾上小学校の1年生を対象に、原田雅子栄養教諭(子どもたちからは「もりもり先生」の愛称で親しまれています)と、担任の吉川やよい教諭が行った学級活動(2)の実践を紹介します。食育ドキュメンテーションの制作は、武庫川女子大学教育学部4年生小松未來さん(現兵庫県公立小学校教諭)が担当しました。

子どもたちは事前に、教室前の廊下に1週間掲示された食育ドキュメンテーションを眺めながら、給食を作る人の存在にふれたり、仕掛けをめくったり、付箋を貼ったりしながら、授業への期待感を膨らませてきました。

今回は、毎日当たり前のように食べている給食が、実はたくさんの人の思いに支えられていることに気づき、感謝の気持ちを自分の言葉で伝えることを目標としました。

この授業の目標

給食に関わる人の存在に気付き、あいさつの意味を知ることで、自分たちができることを考えることができる。

食育の視点

〈感謝の心〉食べ物を大切にし、食事を作ってくれている身近な人々へ感謝する心を持つ。

給食にかかわる人をみつける

 

廊下に貼られたドキュメンテーション

授業が始まる前、教室前の廊下には「きゅうしょくがみんなのおなかにとどくまで」と大きく書かれた食育ドキュメンテーションが、すでに1週間掲示されていました。

給食を作っている人の数を考えるクイズや、調理員と栄養教諭の写真、めくると「いただきます」の文字が1字ずつ出てくる仕掛け、そして「おいしくなるまほうの言葉の木」のコーナーがあります。

子どもたちは登校するたびに足を止め、仕掛けをめくったり、友達と「これ見た?」と話したりしながら、授業を待つ時間を過ごしていました。

授業の初め、原田栄養教諭と吉川教諭が「ドキュメンテーションを見ましたか」「どんな人がいましたか」と問いかけます。

子どもたちからは「調理員さん!」「もりもり先生!」という声のほか、「農家の人!」「牛を育てている人!」という言葉も次々に飛び出しました。給食ができるまでにたくさんの人が関わっていることを、子どもたちはすでに廊下のドキュメンテーションを通して感じ取っていたのです。

給食を作る人の思いや願いを知る

 

授業の様子

「調理員さんや栄養教諭は、どんなときにうれしいと思う?」という問いかけに、子どもたちが予想します。調理員さんについては「大きい声でおいしかったと言ってくれたとき」「食器を返すときに、ごちそうさまと言ってくれたとき」「たくさん作るのは大変そう」という声が上がりました。もりもり先生については「ぜんぶ食べてくれたとき」「残さないで食べてくれたとき」「元気もりもりになってくれたとき」という声が出ました。

原田栄養教諭が「もっとたくさん食べてもらえるように、味つけや料理の仕方を工夫しているんだよ」と話します。さらに、調理員の「もっとおいしく食べてもらえるように」という思いもあわせて紹介しました。

子どもたちから出た「ありがとう」「おいしかったよ」「またつくってね」という言葉を、先生は「まほうの言葉」と位置づけ、後半の意思決定へとつなげていきます。

「まほうのことば」のひみつをみつける

「いただきますって、どういう意味かな」「ごちそうさまってどんな意味?」
先生の問いかけに、子どもたちは「給食の食べ物をいただいているんだ」と気づいていきます。さらに、調理員も料理をするときに「きゅうしょくおいしくなーれ」と言葉をかけていることが紹介されると、教室に小さな驚きの声が広がりました。

ふだん何気なく口にしている「いただきます」「ごちそうさま」が、実は感謝の気持ちが込められた「まほうの言葉」であることを、子どもたちは自分たちの言葉で確かめていきました。

食育ドキュメンテーションをめくると言葉が出てくる仕掛けも、この気づきを後押ししました。1枚めくるごとに「い」「た」「だ」「き」「ま」「す」と文字が現れます。子どもたちが自分のタイミングで繰り返しめくり、言葉を身近に感じられるように工夫されたものです。

自分たちにできることを決める

 

ドキュメンテーションを見て考える

最後に、「自分たちにできることは何だろう」と話し合います。意思決定をする参考に、食育ドキュメンテーションに友達が貼った付箋紙を参考にする子もいます。

子どもたちからは「心を込めてあいさつする」「大きな声で調理員さんにあいさつする」という考えが出されました。そこから一人ひとりが「こころをこめてあいさつする」「両手をあわせてあいさつする」「大きな声で調理員さんにあいさつする」など、自分なりのめあてを決めていきました。

子どもたちは、これからの1週間、食事の後にどのような言葉で感謝を伝えるかを一人ひとり決めて、クラス全体で共有しました。1週間後には、自分のめあてをどれだけ達成できたか、自己評価を行うことにしました。

多くの子どもが食育ドキュメンテーションに関心を示しました。導入段階での反応や、最後の意思決定の場面では、普段は書くことが苦手な子どもも、積極的に自分の考えを記入できていたと担任教諭は振り返ります。

栄養教諭という、感謝を伝える明確な対象者がいることで、子どもたちは「いただきます」という言葉の意味を具体的に理解し、主体的に意思決定できたと考えられます。

その後の1週間――子どもたちの姿

 

板書

自分で決めた「まほうの言葉」は、あいさつの場面だけでなく、子どもたちの毎日の給食時間にも小さな変化をもたらしました。

「いつもおいしい給食を作ってくれてありがとう。おいしかったよ。また作ってね」とめあてを決めたAさんは、1週間を通して「よくできた」の二重丸をつけました。振り返りには「まほうのことばをつかうと、にがてなものも食べられました」と書きました。白い食べ物が苦手で、白ご飯や牛乳にも抵抗があったAさんですが、授業の後は時間をかけながらも、自ら飲もうとする姿が見られるようになったといいます。

「給食おいしいなあ」をめあてにしたBさんは、食べる量そのものよりも、片付けの場面に変化が表れました。食器の分類に気付き、「わたし直してるねん」と自ら食器を整えたり、調理員に「いつも作ってくれてありがとう」と自発的に声をかけたりする姿が見られるようになりました。

「おいしい給食を作ってくれてありがとう」を目標にしたCさんは、6日間すべて二重丸をつけ、「当たり前にごちそうさまができるようになった」と振り返っています。人前での発言に照れがあったCさんですが、授業後は「いただきます」「ごちそうさま」の声が明らかに大きくなったと担任は感じています。

「今日も全部食べるぞ」を目標にしたDさんは、以前は食事量が少なく時間もかかっていましたが、実践後はおかわりをする姿も見られ、「本当に全部食べられました」と達成感のある振り返りを書きました。

「まほうの言葉」は、単なる標語ではなく、子ども自身が自分の生活を見つめ直すきっかけとして働きました。感謝の気持ちだけでなく、主体的な行動や自信の獲得にもつながったと考えられます。

食育ドキュメンテーション制作者の振り返り

 

めくる仕掛け

食育ドキュメンテーションを担当した小松未來さんは、この実践についてこう振り返っています。
「タイトルを『給食が私たちの手元に届くまで』ではなく『きゅうしょくがみんなのおなかにとどくまで』とするなど、工夫を込めました」

「手元に届くまで」は少し客観的な響きがありますが、「おなかに届くまで」と表現することで、より子どもに寄り添った言葉になりました。学習者を主語にする考え方は、こうした言葉の選び方にも表れています。

栄養教諭は「これまで自分になかった言葉」だと喜び、ほかのクラスでもこの食育ドキュメンテーションを使って授業を行いました。さらに、授業の1週間前からドキュメンテーションを廊下に掲示したことで、授業の導入を自然に行うことができました。

子どもたちが事前の情報を読み違えていたり、理解が十分でなかったりしても、授業という「協同の場」での対話を通して改善していくことができたといいます。

今回の実践では、1年生ということもあり、授業で取り上げたのは調理員や栄養教諭が中心でした。ここから生産者や、輸送・配送などの流通に視野を広げることで、小学校3・4年生の社会科や、5年生の食料生産の学習とも関連付けることができます。

給食を教科などの学習につなげることは、社会的な認識を広げるとともに、感謝の心の対象を広げていくことにも重なります。

授業の展開例

〇中学年であれば、地域の農業や産業に関わる人を取り上げることで、感謝する相手を広げることができる。

〇生産者、トラック輸送や配送など「流通」に視野を広げ、5年生の食料生産の学習と関連づけて指導を行うことができる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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